Kwansei Gakuin University Repository

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Title
E2F活性におけるE2FパートーナーDPの要求性の解析
Author(s)
後藤, 泰子
Citation
関西学院大学
Issue Date
URL
http://hdl.handle.net/10236/12375
Right
http://kgur.kawansei.ac.jp/dspace
2013 年度修士論文要旨
E2F 活 性 に お け る E2F パ ー ト ナ ー DP の 要 求 性 の 解 析
関西学院大学大学院理工学研究科
生命科学専攻 大谷研究室 後藤 泰子
【 研 究 目 的 】転写因子 E2F は、がん抑制遺伝子産物 pRB が結合することで不活性化されてい
る。細胞が増殖刺激を受けると pRB はリン酸化されて E2F から遊離し、このように生理的に
活性化された E2F は増殖関連遺伝子の発現を誘導して細胞増殖を促進する。一方、がん性変化
による pRB の機能不全により pRB の制御を外れて活性化された E2F は、アポトーシスや細胞
周期の停止に関わる遺伝子の発現を誘導することでがん化を抑制する。制御を外れた E2F によ
るアポトーシス関連遺伝子の活性化は、遊離 E2F の量がある閾値を超すと増殖関連遺伝子だけ
でなくアポト−シス関連遺伝子も活性化するという閾値モデルで説明されている。しかし、当研
究室では、pRB の制御を外れた E2F が生理的な E2F には活性化されないがん抑制遺伝子 ARF
や TAp73 を活性化することを見出した。従って、生理的な E2F と pRB の制御を外れた E2F
は機能的に異なると考えられるが、どのような機構で機能的に異なる E2F 活性が生じているの
かは明らかにされていない。増殖関連遺伝子の E2F 反応性エレメントは T stretch および GC
repeat からなり、E2F がこの配列に高親和性で結合するためには DP と複合体を形成する必要
があるとされている。一方、pRB の制御を外れた E2F に反応するエレメントとして、T stretch
を欠く GC repeat 配列が先行研究において同定されている。以上から、pRB の制御を外れた
E2F は生理的な E2F とは異なる結合様式を持つ、すなわち DP の要求性が異なる可能性が考
えられる。本研究は、E2F のがん化抑制に関わる特異な転写制御機構を探るために、E2F によ
る増殖関連およびがん抑制遺伝子の活性化における DP の必要性を明らかにすることを目的と
する。
【 実 験 方 法 】 細胞にはヒト正常細胞 WI-38 および HFF を用いた。生理的な E2F 活性を生じ
させるには血清刺激を、制御を外れた E2F 活性を生じさせるには E2F1 の過剰発現を用いた。
DP 発現のノックダウンには、shRNA を用いた。内在性遺伝子発現は qRT-PCR によって、E2F
活性はルシフェラーゼアッセイによって調べた。遺伝子導入は、内在性遺伝子発現を調べるに
は組換えアデノウイルスによる感染を、レポーターアッセイにはリポフェクション法を用いた。
【 実 験 結 果 と 考 察 】 WI-38 および HFF において、DP ファミリー分子のうち DP1 が主に発
現している。そこで、WI-38 において DP1 に対する shRNA(shDP1)を 2 種類用いて DP1
の発現をノックダウンし、E2F1 による増殖関連遺伝子 Cdc6 およびがん抑制遺伝子 ARF の発
現誘導における DP1 の必要性を qRT-PCR で調べた。血清刺激によって生理的な E2F 活性を
生じさせた場合、shDP1 の有無にかかわらず ARF 遺伝子の発現量はほとんど変化しなかった。
一方 Cdc6 遺伝子は血清刺激によって発現誘導されたが、shDP1 により発現誘導が抑制された。
この際、ノックダウン効率が低い shDP1 では発現量が低いまま血清に反応しなくなったのに
対し、ノックダウン効率が高い shDP1 では血清の有無にかかわらず発現が亢進した。この原
因として、DP を失ったことで RB の抑制型 E2F を介した制御も働かなくなったことが考えら
れる。また、ノックダウン効果の高い shDP1 を低濃度で使用しノックダウン効果の低い shDP1
と同程度に DP1 をノックダウンした場合は、発現は低く保たれた上で活性化が抑制された。同
じ条件下で E2F1 を過剰発現させて制御を外れた E2F1 活性を生じさせると ARF 遺伝子の発
現量が顕著に増加し、その活性化は shDP1 によって抑制されなかった。以上から、pRB の制
御を外れた E2F が ARF 遺伝子を活性化する際の DP1 の要求性は、生理的な E2F が Cdc6 遺
伝子を活性化する際の要求性より低い可能性が考えられる。