症例②
60歳台 女性

既往歴
特になし

現病歴
深夜入浴中に浴槽内に沈んでいるところを家族が発見、
救急隊により病院へ搬送された。
頭部CTにてくも膜下出血と診断。麻痺なし。
心電図および心エコーにて急性心筋梗塞が疑われ、
ドクターヘリで他院へ移動。
来院時、意識レベル JCS 3、麻痺・頭痛なし。
心電図:発症時
V2~V6でST上昇
生化学・血液検査所見
WBC
16490 /µL
K
3.4 mmol/L
ALP
184 U/L
RBC
488 万/µL
Cl
97 mmol/L
LDH
274 U/L
Hb
14.1 g/dL
Ca
9.2 mg/dL
T-Bil
1.4 mg/dL
Ht
41.4 %
IP
2.5 mg/dL
γ-GTP
63 U/L
PLT
23.5 万/µL
UA
5.0 mg/dL
CRP
2.704 mg/dL
TCho
241 mg/dL
CHE
402 U/L
TP
6.8 g/dL
HDL-Cho
70.6 mg/dL
CK
149 U/L
Alb
3.8 g/dL
LDL-Cho
153 mg/dL
CK-MB
8 U/L
BUN
13 mg/dL
TG
85 mg/dL
CKMB%
5.4 %
CRE
0.48 mg/dL
AST
40 U/L
553 pg/mL
Na
142 mmol/L
ALT
49 U/L
BNP
心筋トロ
ポニンT
0.262 ng/mL
心エコー:発症時
心電図:発症後2日目
V2~V6に巨大な陰性T波
現時点で考えられる病態は…
急性心筋梗塞(前下行枝領域)?
or
たこつぼ型心筋症?
冠動脈CT結果
 冠動脈狭窄(-)
この心電図はたこつぼ型心筋症と考えたいが・・・
たこつぼ型心筋症とは?

好発年齢 閉経後の高齢女性

誘因 感情的・肉体的なストレス、呼吸器疾患・くも膜下出血などの極期(続発性)

病因 交感神経緊張によるカテコラミンの関与?

心電図 たこつぼ型心筋症の心電図所見はAMIと類似する点が多く、
特に前下行枝♯7を責任病変とするAMIとの鑑別が治療方針
を決定する際に非常に重要!!(詳細は後述)

治療 保存的治療

予後 良好
たこつぼ型心筋症の心電図の特徴①(発症時)
広範囲な誘導でST上昇を示す( V4~V6で、より著明)
鏡像変化を認めることが少ない(Ⅱ、Ⅲ、aVFといった対側誘導のST低下が少ない)
たこつぼ型心筋症
AMI(LAD♯7)
たこつぼ型心筋症の心電図の特徴②(発症後数日)
経時的にT波が陰転化し、ときに巨大陰性T波となりQT延長を示す(しばしば二相性の変化をする)
異常Q波の出現は少なく、壁運動異常も回復する
たこつぼ型心筋症
AMI(LAD♯7)
たこつぼ型心筋症とAMI(前下行枝♯7)の心エコー
たこつぼ型心筋症
AMI(前下行枝♯7)
たこつぼ型心筋症の生化学検査所見の変動

たこつぼ型心筋症は発症時の生化学の検査所見もAMIと類似しており、
急性期にはCK、心筋トロポニンTなどが陽性になることがあるが、最
大CK値は通常1,000IU/L以下であり、AMIの上昇とは明らかに異なる。
発症直後
発症後数日
心筋トロポニンT
CK
心筋トロポニンT
CK
たこつぼ型心筋症
+
±
+
→ or↑
AMI
+
+
+
↑↑
まとめ

たこつぼ型心筋症はAMIとの鑑別が重要であり、AMIを診断する際には
常に念頭においておくべき疾患である。

鑑別のポイントは病歴、心電図、心エコー、検査所見にあるが急性期
では類似する所見が多く、確定診断には冠動脈造影や冠動脈CTを要す
ることが多い。

しかし、腎障害などで造影剤が使用できない症例やカテーテル検査な
どの侵襲的検査が行えない場合は、今回提示したポイントが鑑別に有
用である。
ご静聴 ありがとうございました。