最近の創薬におけるパラダイムシフトと シフトに対応した産官学連携 アステラス製薬株式会社 代表取締役会⻑ 野⽊森 雅郁 第2回 医療科学研究所 産官学シンポジウム 2014年05⽉24⽇ 1. 創薬環境におけるパラダイムシフト 2. 従来型創薬ビジネスモデルの限界 3. 創薬の新たな展開 4. パラダイムシフトに対応した産官学連携 1 1. 創薬環境におけるパラダイムシフト パラダイムシフトの到来 2 超⾼齢社会の到来 主要国における⾼齢者(65歳以上)⽐率の推移 実績値 推計値 (%) 国⺠医療費の年次推移 (%) % 12.0 (兆円) 兆円 40 40 12 0 12.0 35 40 10.0 10.0 国⺠医療費 30 国 民 医 療 費 20 8.0 8.0 25 対国⺠所得(NI)⽐率 対国民所得(NI)比率 対国民所得 20 20 6.0 6.0 15 4.0 4.0 10 10 10 0 対国内総⽣産(GDP)⽐率 対国内総生産(GDP)比率 0 1950 1970 1990 2010 2030 出所:内閣府「平成25年⾼齢社会⽩書」 2050 (年) 0 0 30 35 30 昭和・・年度 (昭和 年度) 40 40 45 50 50 2.0 2.0 国民医療費 国民医療 国⺠医療費 5 55 60 2 7 12 60 2 12 平成・年度 (平成 年度) 17 23 23 対内 国内 総⽣ 生産 率・ 得⺠ 比率 対国 総 産比⽐ 率対国民 対所国 所得⽐率 30 30 0.0 0.0 出所:厚⽣労働省「平成23年度国⺠医療費の概況」 • 世界最速で「超⾼齢社会」が到来 界最 齢社会」 来 • ⾼齢者⼈⼝増加による医療費の増⼤(医療費抑制の必要性) ⇒⾰新的な医薬品が必要(有効性の⾼い薬、副作⽤の無い薬、低コストの薬) 3 2.従来型創薬ビジネスモデルの限界 R&D効率の下降トレンド 開発費10億ドルあたりの新薬創出数の推移 新薬上市にかかる期間および費⽤⽐率 100 10 1.0 0.1 1950 1960 1970 1980 1990 2000 出典:Nat. Rev. Drug Discov. 2012; 11; 191-200 191 200 2010 p(TS):the possibility of successful transition from one stage to the next 出典:Nat. Rev. Drug Discov. 2010, 9, 203-214 203 214 • 研究開発費あたりの新薬創出数は減少し続けており、およそ9年毎に半減 • 現在、1製品の創出に10億ドル以上のコストと10年以上の期間が必要 4 創薬アプローチの多様化 医療ニーズ 感染症 寿命延伸 ⽣活習慣病 寿命延伸 がん 予防医療・超⾼齢化 寿命延伸 1970 1980 1990 2000 2010 2020 低分⼦ 創薬アプローチ ワクチン 抗体 タンパク質⼯学の進展 核酸 核酸⼯学の進展 がん分⼦標的薬 バイオマーカーの概念 コンパニオン診断 ンパ オン診断 細胞⼯学の進展 細胞 iPS細胞 細胞 ES細胞・ 様々な医療ニーズを満たす為に創薬アプローチが多様化 ⇒創薬アプローチに対応する為に、創薬の難度が上昇 再⽣医療 5 個別化医療 疾患分野別にみた世界の個別化医療市場予測 (億ドル) 効果⾼い 副作⽤⾼い 効果低い 効果低い 副作⽤低い 副作⽤⾼い 効果⾼い 副作⽤低い 出所:Jain PharmaBiotech 出所 h h Report 医薬産業政策研究所リサーチペーパー・シリーズ No.56 個別化医療によって、⾼い有効性 安全性ニ ズの充⾜が期待される 個別化医療によって、⾼い有効性・安全性ニーズの充⾜が期待される ⇒⾼い診断精度と臨床的有⽤性を持つバイオマーカーの探索が課題 6 ⼩括 ⾃前主義の限界 • 従来型創薬ビジネスモデルでは、創薬環境におけるパラダイムシフトに対応できない 変⾰のマインドセット • オープンイノベーションは製薬企業の⾄上命題である なぜ、オープンイノベーションが必要なのか • 創薬研究の効率化をはかり、競合優位性を確保するため • 社外のアイデアや技術、研究成果、⼈材などのリソースを幅広く活⽤するため • 世の中に存在する創薬応⽤が可能、かつ魅⼒的な先端技術を活⽤するため 世の中に存在する創薬応⽤が可能 かつ魅⼒的な先端技術を活⽤するため • 新薬開発のスピードアップ、コスト削減だけではなく、⾃社の強みに⽴脚し、研究開発・ビジ ネスモデルの再構築や社内と社外の健全な競争による⽣産性向上(切磋琢磨・⾃⼰研 鑽)が可能であるため が 製薬業界としてもオープンイノベーションの重要性を実感しており、各企業も積極的に⾏っている 7 3.創薬の新たな展開 産官学が三位⼀体となったオープンイノベーション ⾃前主義 理想的な オープンイノベーション 他製薬 共同開発 他製薬 導出 官 製薬企業 導⼊ 開発 製薬企業 開発 シーズ シーズ シーズ シーズ アライアンス 買収 共同研究 ⼈的資源 臨床試験 アカデミア カデ アカデミア 技術 シーズ シ ズ アイデア スピン アウト ベンチャー 技術 シーズ シ ズ シーズ 創薬環境のパラダイムシフトへの対応には、⾃前主義脱却と国の⽀援が必須 ⇒産官学が三位⼀体となったオープンイノベーションが理想 8 オープンイノベーションへの第⼀歩 2009年⽇⽶欧主要製薬企業各10社の開発品⽬数(前臨床から承認まで) 100% 80% 60% 導⼊品(BV) 99 223 247 46 93 53 90 45 49 40% 206 499 526 買収BV起源 導⼊品(Non-BV) ⾃社起源 BV Non-BV ⾃社起源 創薬ベンチャー 創薬 創薬ベンチャー以外(主に製薬企業) 買収企業(BVは除く)及びアカデミア からの導⼊品も含む 20% 0% 出所:医薬産業政策研究所リサーチペーパー・シリーズ No.48 ⽇本企業 ⽶国企業 欧州企業 製薬企業はオ フ ンイノヘ ションの第 歩として、製品導⼊を進めてきた 製薬企業はオープンイノベーションの第⼀歩として 製品導⼊を進めてきた ⇒今後、産官学が三位⼀体となった連携へのシフトが必要 9 産官学連携の事例(1) スーパーコンピュータによる⼤規模科学技術計算 iPS実⽤化に向けた産官学連携 iPS細胞 提供: 京都⼤学教授 ⼭中伸弥 提供:理化学研究所 SACLA SPring-8 スーパー コンピ タ コンピュータ 「京」 放射光施設を活⽤したタンパク質構造解析 ゲノム解析 iPS細胞 提供:FIRM オミックス技術 トランスクリプトームデータを⽤いたトキシコゲノミクス研究 SPring-8 SACLA 提供:理化学研究所 国家基幹技術(SACLAや「京」)、iPS細胞研究、オミックス技術分野におい て産官学連携が進み、今後の創薬を志向したより緊密な連携が期待される 10 産官学連携の事例(2) アステラス製薬HPより アステラス製薬HPより アステラス製薬 第⼀三共 a-cube TaNeDS エーキューブ タネデス 塩野義製薬 GSK FINDS PiP シオノギ創薬インキュ ベーションコンペ GSKʼs Pharma in Partnership Eli Lilly PD2&TargetD2 Phenotype Drug Discovery & Target Drug Discovery 製薬企業は潜在的パートナーを求め、公募システムを活⽤ ⇒真に産官学が三位⼀体となれる連携に向け、新たな仕組み作りが必要 11 個別化医療に向けた次世代オープンイノベーション 他産業との共同 新ビジネス領域の 拡⼤ 患 者 健 康 健康⽀援 診察、検査、 健康診断 少⼦⾼齢化社会 創薬⽀援 予防医学 バイオマーカー探索 F113 W108 N97* ⽣物情報 ⽣活環境 医療情報 I64 Y95* Y36 P1 K32 P33 O O 疾患の 詳細な定義 再分類 O O OH 創薬標的探索 データ収集 実臨床情報 ゲノム情報 マルチオミックス情報 解読 解析 推論 “個”のBig Data 健康医療情報基盤の構築 Big Data創薬の産官学連携は、新たな仕組み作りに向けた試⾦⽯ ⇒成功の必要条件:複数の製薬企業及び異業種(IT企業)との連携、アカデミアの技術、国の⽀援 12 4.パラダイムシフトに対応した産官学連携 産官学連携推進のため「産」がすべきこと 更なるオ 更なるオープンイノベーションの推進 プンイノベ ションの推進 • プレコンペティティブ領域での連携拡⼤ • 先端技術 先端技術の進歩に対応した、異分野・ 歩 対 異分野 異業種への連携拡⼤ • 「産」が保有する独⾃基盤技術の共同利⽤ • 実⽤化に向けた出⼝戦略のノウハウ共有 知の 共創 リスクへの 挑戦 ⽣産性の 向上 コンソ シアム コンソーシアム 「産」が特にすべきことは 「新しい枠組み」の提案 「ボーダレス連携」の実⾏ 「ボ ダレス連携」の実⾏ A社 B社 C省 D省 E⼤学 F⼤学 プレコンペティティブ 領域での協働 13 オープンイノベーション推進へのお願い アカデミアに期待したい事項 • ヒトの⽣体機能の基礎研究 ・ 疾患メカニズムの解明 • ⽇本独⾃の⾰新的創薬ターゲットの探索 • ユニークなブレークスルー技術の確⽴ • 知的財産マネジメント ・ 将来を担う⼈材育成 • 企業との積極的なコミュニケーションと協働 • 医療現場に直結した患者 医療現場に直結した患者ニーズの把握 ズ 把握 国に期待したい事項 • ライフサイエンス予算規模の拡⼤ ・ 税制優遇 • パーソナルデータ利活⽤の推進等の規制緩和 • 「 「All Japan体制」への創薬⽀援 体制 創薬⽀援 • 創薬⽀援ネットワークの運営強化と機能の充実化 • ICT基盤技術構築と普及 • ベンチャーの育成 ・ ⼈材育成⽀援 連携の 更なる加速 「官」 国策による 創薬⽀援 「学」 ターゲット探索 技術⾰新 「産」 新しい枠組みの提案 ボーダレス連携の実⾏ 14 パラダイムシフトに対応した産官学連携 産官学連携推進のためのポイント 次世代オープンイノベーション 官 疾病の克服 健康寿命の延伸 ライフサイエンス 規制緩和 予算拡⼤ ユニークなブレーク スルー技術 学 ⾰新的な創薬 ターゲットの探索 官 出⼝戦略 異分野・異業種連携 独⾃基盤技術 の共同利⽤ 連携拡⼤ 産 新しい枠組み (例:業界横断の⼤規模連携) 学 産 疾病の克服、健康寿命の延伸という社会的な要請に答えるために、 ⾰新的な新薬創製に向けたさらなる産学官連携の推進が不可⽋ 新たな枠組みを導⼊により”次世代オープンイノベーション”を推進 15 ご清聴ありがとうございました 16
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