加熱分離法による標準岩石及び蛇紋岩中の Cl,Br,I の分析

加熱分離法による標準岩石及び蛇紋岩中の Cl,Br,I の分析
村松研究室
10-042-019
川嶋浩海
【序論】ハロゲン元素は揮発性に富み、水に溶けやすい性質を持つ。そのため、岩石
の生成や風化の過程を調べる上でハロゲン元素は、有効なトレーサーとなる。岩石や
海底堆積物中の微量なハロゲン元素の分析が困難なことから、分析データはあまり多
くなく、分析機関によって測定値のばらつきも大きい。そこで本研究では、標準岩石
である JB-2(玄武岩)、JR-2(流紋岩)、JP-1(橄欖岩)等の比較的良い精度の測定値が出
ている試料を用いて、ハロゲン元素の分析法を検討した。実験操作の過程で生じる
blank や誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)測定時の同重体の妨害除去の検討
を行った。その後、未知試料として沈み込み帯で採取された蛇紋岩の分析を行った。
蛇紋岩は、マントル起源の岩石(橄欖岩・火成岩)と水(海水起源)とが作用し生成した
岩石である。ハロゲン元素が海水や海底堆積物中に多量に含まれることから、蛇紋岩
中のハロゲン元素濃度を調べることは、沈み込み帯におけるハロゲン元素の地球化学
的な挙動を考える上で重要な手がかりになる可能性がある。
【実験方法】岩石粉末試料をアルミナボートに量り取り、試料の上に溶融剤として
V2O5 を被せた。それを石英管中にて 1100℃以上で加熱し、揮発したハロゲン元素を
水蒸気と酸素を流入することでトラップ溶液(超純水、TMAH、Na2SO3 混合溶液)に
捕集した。その溶液を ICP-MS を用いて測定した。
なお、各岩石試料において 3 回以上測定を繰り返し、測定の再現性を確認した。
【結果・考察】標準岩石の測定結果は JB-2[Cl:299±22ppm、Br:0.64±0.06ppm、
I:0.059±0.005ppm]、JR-2[Cl:706±18ppm、Br:1.60±0.05ppm、I:0.062±0.004ppm]
であった。おおむね文献値と良い一致を示した。他の標準岩石も測定を試みたが同様
に再現性のある良い結果が得られた。当研究室ではこれまで、Cl は Br や I とは別に
イオンクロマトグラフィーを用いて測定していた。しかし、本研究ではコリジョンガ
ス(H2)を用いることで ICP-MS 測定時の同重体の妨害を除去し、Cl を精度良く測定
することが可能となった。加熱分離の操作過程で生じる blank の影響についても検討
を行った。標準岩石の測定の検討によって、実験操作の正確性を確認できた。従って、
応用実験として蛇紋岩(ドミニカ共和国産 12 個、ヒマラヤ産 4 個の計 16 個:オタワ大
学の服部恵子教授より提供された)の測定を行った。各地域の結果はドミニカ共和国
産が[Cl:432~951ppm、Br:0.93~1.82ppm、I:0.160~0.259ppm]、ヒマラヤ産が[Cl:11
~172ppm、Br:0.08~0.55ppm、I:0.056~0.140ppm]の範囲であった。ドミニカ産の
ハロゲン元素の濃度は代表的な橄欖岩(超塩基性岩)と比較して高濃度であり、ヒマラ
ヤ産は代表的な橄欖岩(超塩基性岩)に似た濃度を持つことがわかった。従って、ドミ
ニカ共和国産は生成過程において、よりハロゲン元素を濃縮しているか取り込んでい
ると考えられる。各産地における試料中の Br-I、Cl-I、Cl-Br 比についてはヒマラヤ
産の Cl-Br 比のみ良い相関が得られたが、それ以外では有意な相関はみられなかった。