ベルヌーイ数と冪乗和公式 ShibaKen 2014 年 11 月 6 日 1 ベルヌーイ数 ベルヌーイ数とは次の方程式によって帰納的に定義される数列 {Bn }n≥0 のことである。 ) n ( ∑ n+1 j j=0 この方程式を変形すると Bj = n + 1 (1) n−1 ∑ (n + 1) 1 n+1− Bj Bn = j n+1 j=0 となる。 ベルヌーイ数の具体的な値は次のようになる: B0 = 1 B1 = 1/2 B2 = 1/6 B3 = 0 B4 = −1/30 ··· 方程式 (??) を覚えるための有名な方法がある。まず B0 = 1 は覚えておく。そして、n ≥ 1 については方 程式 (b + 1)n+1 − bn+1 = n + 1 を考えて、左辺において bj = Bj と置き換えるのである。この置き換えの操作は b を不定元とする有理数 係数の多項式環 Q[b] から有理数体 Q への線型写像として理解できる。すなわち線型写像 T : Q[b] → Q を T (bk ) = Bk で定めれば、方程式 (??) は T ((b + 1)n+1 − bn+1 ) = n + 1 と書ける。 一方で、無限級数の係数を使ってベルヌーイ数を定義することもできる。すなわち、ベルヌーイ数 {Bn } は 次の等式を満たすような数列である: ∞ ∑ Bj x = xj −x 1−e j! j=0 1 この場合 ϕ(x) = x/(1 − e−x ) と書くことにすれば Bj = ϕ(j) (0) である。この ϕ(x) をベルヌーイ数の生成関数という。生成関数を利用すればベルヌーイ数の性質がよく分 かってくる。 定理 1.1 任意の整数 k > 0 に対して B2k+1 = 0 が成り立つ。 (証明)B1 = 1/2 なので、 f (x) = x x − 1 − e−x 2 が偶関数であることを証明すれば十分である。実際、f (x) が偶関数ならば、k > 0 に対して f (2k+1) (0) = 0 であり、ベルヌーイ数の生成関数 ϕ(x) = x/(1 − e−x ) に対して B2k+1 = ϕ(2k+1) (0) = f (2k+1) (0) = 0 となる。 f (−x) = f (x) であることを示す。 −x x + x 1−e 2 −2x + x(1 − ex ) = 2(1 − ex ) −x(1 + ex ) = 2(1 − ex ) x(1 + e−x ) = 2(1 − e−x ) x x = − 1 − e−x 2 = f (x) f (−x) = □ より成り立つ。 2 冪乗和公式 このセクションでは Sm (n) = n ∑ k m = 1m + 2m + 3m + · · · + nm k=0 のベルヌーイ数を用いた公式を導く。 ここでのポイントは、m を定めるごとに多項式 pm (x) ∈ Q[x] で Sm (n) = pm (n), deg pm (x) = m + 1 を満たすものが存在することである。 2 定理 2.1 任意の正整数 m, n に対して、 ( ) m−1 ∑ 1 m+1 Sj (n) Sm (n) = (n + 1)m+1 − 1 − m+1 j j=0 が成り立つ。 (証明)任意の整数 k ≥ 0 に対して (k + 1) より、 n ∑ m+1 −k m+1 {(k + 1)m+1 − k m+1 } = k=1 が成り立つ。ここで ) m ( ∑ m+1 j = k j j=0 n ∑ ) n ∑ m ( ∑ m+1 j k j j=0 k=1 {(k + 1)m+1 − k m+1 } = (n + 1)m+1 − 1 k=1 n ∑ m ( ∑ k=1 j=0 なので、 (n + 1) m+1 ) ) n ) m ( m ( m+1 j ∑ m+1 ∑ j ∑ m+1 k = k = Sj (n) j j j j=0 j=0 k=1 ) ) m ( m ( ∑ ∑ m+1 m+1 −1= Sj (n) = Sj (n) + (m + 1)Sm (n) j j j=0 j=0 が成り立つ。よって、 m−1 ∑ (m + 1) 1 (n + 1)m+1 − 1 − Sj (n) Sm (n) = m+1 j j=0 □ を得る。 系 2.1 任意の整数 m ≥ 0 に対して、pm (x) ∈ Q[x] で次の条件を満たすものが存在する: • Sm (n) = pm (n) • deg pm (x) = m + 1 • pm (0) = 0 (証明)整数 m についての数学的帰納法で証明する。m = 0 のとき、S0 (n) = n なので、 p0 (x) = x とすれば主張が成り立つ。k > 0 として、0 ≤ m < k を満たす任意の m に対して主張が成り立つと仮定する。 このとき ( ) k−1 ∑ k+1 1 (x + 1)k+1 − 1 − pj (x) pk (x) = k+1 j j=0 3 □ とすれば m = k のときも主張が成り立つ。 任意の実数 x に対して、関数 Sm : R → R を Sm (x) = pm (x) で定義する。このとき、任意の m > 0 に対して m−1 ∑ (m + 1) 1 Sm (x) = (x + 1)m+1 − 1 − Sj (x) m+1 j j=0 (2) が成り立つ。 任意の整数 k ≥ 0 に対して写像 ak : Q[x] → Q を ak (f (x)) = f (k) (0) k! で定める。つまり、ak (f (x)) は f (x) の xk の係数である。定義から、写像 ak が線型写像であることが簡単に 確認される。 定理 2.2 am+1 (Sm (x)) = 1/(m + 1) (証明)方程式 (??) と deg Sj (x) = j + 1 より ( am+1 (Sm (x)) = am+1 1 (x + 1)m+1 m+1 ) = 1 m+1 が成り立つ。 定理 2.3 am (Sm (x)) = 1/2 (証明)方程式 (??) より ( { ( ) }) 1 m+1 m+1 am (Sm (x)) = am (x + 1) − Sm−1 (x) m+1 m−1 m = 1 − am (Sm−1 (x)) 2 が成り立つ。定理??より am (Sm−1 (x)) = 1/m なので、am (Sm (x)) = 1/2 である。 自然数 k を任意に選んで固定する。このとき次が成り立つ: 定理 2.4 任意の自然数 N に対して (k) SN +k−1 (0) = (N + k − 1)! BN N! が成り立つ。 (証明)自然数 N についての数学的帰納法で証明する。N = 1 のときは、 (k) Sk (0) = 4 k! 2 であることを証明すればよいが、方程式 (??) から Sk (x) における xk の係数が 1/2 であることが分かるので、 (k) 確かに Sk (0) = k!/2 が成り立つ。任意の自然数 M で 0 < M < N を満たすものに対して主張が成り立つと 仮定する。このとき、方程式 (??) より、 (k) SN +k−1 (0) = = = = = = ) N∑ +k−2 ( 1 N + k (k) (N + k)! − Sj (0) j N + k N! j=0 ) N∑ +k−2 ( 1 N + k (k) (N + k)! − Sj (0) j N + k N! j=k−1 { } ) N −1 ( 1 (N + k)! ∑ N +k (k) − S (0) i + k − 1 i+k−1 N +k N! i=0 ( ) N −1 1 (N + k)! ∑ (N + k)! N + 1 − Bi N + k N! (N + 1)! i j=0 ) N −1 ( ∑ (N + k − 1)! 1 N +1 × N +1− Bi N! N +1 i j=0 (N + k − 1)! BN N! が成り立つ。ここで、3つ目の等号ではインデックスを j から i = j − k + 1 に変えており、4つ目の等号で は帰納法の仮定を使っている。 系 2.2 自然数 k を固定するとき、任意の自然数 m で m ≥ k − 1 を満たすものに対して、 ( ) 1 m+1 ak (Sm (x)) = Bm−k+1 m+1 k が成り立つ。 (k) (証明)定理より Sm (0) = (m!/(m − k + 1)!)Bm−k+1 が成り立つ。したがって (k) Sm (0) k! m! = Bm−k+1 k!(m − k + 1)! ( ) m+1 1 Bm−k+1 = m+1 k ak (Sm (x)) = を得る。 定理 2.5(関孝和、ヤコブ・ベルヌーイ) 任意の自然数 m に対して Sm (x) = ) m ( 1 ∑ m+1 Bk xm−k+1 m+1 k k=0 が成り立つ。 5 (証明)Sm (0) = 0 であるから Sm (x) = m+1 ∑ ak (Sm (x))xk k=0 = m+1 ∑ ak (Sm (x))xk k=1 = m ∑ am−k+1 (Sm (x))xm−k+1 k=0 m ∑ ( ) 1 m+1 Bk xm−k+1 m+1 k k=0 ) m ( 1 ∑ m+1 = Bk xm−k+1 m+1 k = k=0 が成り立つ。 系 2.3 任意の自然数 m, n に対して [m/2] ( ∑ m + 1) 1 nm + B2k nm−2k+1 Sm (n) = 2 m+1 2k k=0 が成り立つ。ここで [m/2] は m/2 以下で最大の整数を表す。 3 定理??の別証明 このセクションでは定理??を生成関数の代わりに冪乗和公式を使って証明する。 定理 3.1 任意の整数 m > 0 に対して、Sm (−1) = 0 が成り立つ。 (証明)m についての数学的帰納法で証明する。m = 1 のとき S1 (x) = x(x + 1)/2 なので S1 (−1) = 0 が成 り立つ。k を 2 以上の整数とし、0 < m < k を満たす任意の m に対して主張が成り立つと仮定する。このと き方程式 (??) より、 Sk (−1) = 1 {−1 − S0 (−1)} k+1 となるが S0 (x) = x なので Sk (−1) = 0 を得るので m = k でも主張が成り立つ。 定理 3.2 任意の整数 m > 0 に対して ) m ( ∑ 2m + 2 B2k+1 = 0 2k + 1 k=1 が成り立つ。 (証明)ベルヌーイ数の定義と定理??より、 S2m+1 (1) + S2m+1 (−1) = 1 6 □ が成り立つ。ここで S2m+1 (1) + S2m+1 (−1) = ) m ( ∑ 2m + 2 2 B2k 2m + 2 2k k=0 なので ) m ( ∑ 2m + 2 2m + 2 B2k = 2k 2 k=0 を得る。よって 2m+2 ∑ ( ) 2m + 2 Bk k k=0 ) ) m ( m ( ∑ ∑ 2m + 2 2m + 2 = B2k + (2m + 2)B1 + B2k+1 2k 2k + 1 k=0 k=1 ) m ( ∑ 2m + 2 = (2m + 2) + B2k+1 2k + 1 2m + 2 = k=1 □ であるから、結論を得る。 (定理??の別証明)k についての数学的帰納法で証明する。k = 1 のときは、直接計算によって B3 = 0 と分 かるので、主張が成り立つ。m > 1 として、0 < k < 2m + 1 を満たす任意の k に対して主張が成り立つと仮 定する。このとき、定理??より B2k+1 = ) k ( ∑ 1 2k + 2 B2m+1 = 0 2k + 2 m=1 2m + 1 □ が成り立つので m = k のときにも主張が成り立つ。 7
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