エンジニアリング リポート 1 XバンドMPレーダ情報の下水道 における利活用に関する共同研究 の概要 研究第二部 研究員 松岡 遼 後,XバンドMPレーダ情報の利活用が広く普及して はじめに いくための課題であると考えられる。 近年,集中豪雨や局所的豪雨が増加し,都市型浸水 被害のリスクが増加している。国土交通省では,これ らの水害や土砂災害等に備えた適切な河川管理や防災 研究目的 活動等に役立てるため,局所的な雨量をほぼリアル 本研究では,下水道事業におけるXバンドMPレー タイムに観測可能なXバンドMPレーダネットワーク ダ情報の利活用を促進するため,XバンドMPレーダ “XRAIN”の整備を進めている。XRAINから得られ の技術的特徴,情報の受信・保管方法を示すととも る降雨情報は,Webサイト上で画像データとして一 に,下水道計画・設計や施設管理など,XバンドMP 般公開されるとともに,数値データとしても,平成24 レーダ情報の主な活用方法についての基本的な考え方 年度の雨量データ提供社会実験を経て,平成25年11月 などについて整理することを目的とした。 より有償での一般配信が開始されている。 XバンドMPレーダの数値データについては,可視 化のための画像化以外にも様々な活用方法が考えら れ,その利用価値の高さから自治体や企業などによる 独自のXバンドMPレーダの設置も進められているが, 一方でその活用手法や効果,導入にあたる留意点など について整理された指針は未確立である。これらは今 研究成果 3.1 XバンドMPレーダの特徴 一般的なCバンドのレーダはデータの空間分解能が 図-1 CバンドレーダとXバンドレーダの解像度の違い 10 —— 下水道機構情報 Vol.8 No.19 エンジニアリング・リポート ■■ ■■ ■■ ■■ 1kmメッシュ程度であるのに対して,XバンドMPレー わせて,データの保管方法と保管体系を検討すること ダは250mメッシュとなっており,高い分解能での観測 が必要である。 ができる。また配信に要する時間も短いため,局地的 な降雨についての詳細な観測が可能である(図-1) 。 3.2 情報の受信・保管方法 ⑸ 補足データの保管 データを保管するにあたっては,当該対象データと 同期間における管渠内の流量データや,ポンプ運転デ データ受信手法には「専用線方式」と「インターネ ータ等,必要に応じて補足データを保管しておくこと ット方式」の2種類がある(図-2)。前者は通信の が望ましい。 安定性,即時性が必要な場合に選択し,後者は一般の インターネット回線を経由してデータを受信する。な お,インターネット回線が混雑していなければ,ほぼ リアルタイムでの受信は可能である。 3.3 XバンドMPレーダ情報の利活用 ⑴ 計画・設計における活用方法 計画・設計業務では,浸水対策,合流改善対策,雨 天時浸入水対策などに活用できる。 浸水対策における活用としては,現況および計画施 設の有効性の検証,局所的集中豪雨を想定した偏在性 のある計画降雨の設定やハザードマップの作成のほか, 既存施設の能力をネットワーク管など最大限に活かす 効率的なハード計画・設計(図-3)が可能となる。 合流改善対策における活用としては,改善目標の達 成状況確認および対策施設の有効性検証,浸水施設と の併用などの効率的な施設計画(図-4)などに活用 できる。 図-2 専用線経由とインターネット経由のデータ提供 またデータの保管方法にあたって,留意すべき事項 を以下に示す。 ⑴ データの提供単位と量の目安 提供されるデータは,地域ごとにデータ量が異なる ことに留意する。 図-3 効率的なハード計画・設計イメージ ⑵ 受信先における保管の範囲 必要とする場が含まれる地域や,期間等データを保管 する範囲をあらかじめ確定させておくことが望ましい。 ⑶ データ量の概算 必要な地域・期間におけるデータ量について,その 概算量を,あらかじめ算定しておくことが望ましい。 ⑷ データの保管方法と保管体系 保管するデータ容量や,データを使用する目的に合 図-4 貯留施設の併用利用イメージ 下水道機構情報 Vol.8 No.19 —— 11 エンジニアリング・リポート ■■ ■■ ■■ ■■ 雨天時浸入水対策における活用としては,事例ベー スモデリングへの利用,雨天時浸入水対策効果の検 ⑷ 防災・減災活動における活用方法 証,シミュレーションによる雨天時浸入水状況の再 防災活動としては,防災活動等の判断,リアルタイ 現,雨天時浸入水対策効果の検証などに活用できる。 ムハザードマップの配信(図-7),アラート配信な ⑵ 施設運転・工事管理における活用方法 どに活用できる。 施設運転・工事管理においては,浸水対策および合 流改善対策に対する降雨画像情報の活用やリアルタイ ムシナリオ解析などといった雨水流出解析シミュレー ションへの活用,既存施設の能力を最大限に活用でき るリアルタイム雨水流出解析結果を用いた施設運転 (図-5)などに活用できる。 図-7 リアルタイムハザードマップ配信イメージ ⑸ 情報連携,情報公開に関する活用方法 情報連携,情報公開に関する活用方法としては,河 川や防災など他部局との情報連携(図-8)や一般住 民に対する情報公開などが挙げられる。 図-5 排水ポンプ運用のイメージ その他にも,ナレッジデータ解析,操作規則の見直 しなどへの活用が可能となる。 ⑶ 管路の維持管理・工事の安全管理における 活用方法 管路の維持管理・工事の安全管理における活用方法 としては,点検・工事の中止判断などをするためのア ラート配信(図-6),事故の検証などがある。 図-8 情報連携のイメージ 3.4 XバンドMPレーダ情報の活用クラスと導 入効果 XバンドMPレーダ情報の活用方法について,導入 する自治体に応じて柔軟に検討できるように,数段階 にクラス分けをした。また各々の活用クラスに対し て,異なる導入効果が得られる(表-1)。 図-6 アラート配信のイメージ 12 —— 下水道機構情報 Vol.8 No.19 エンジニアリング・リポート ■■ ■■ ■■ ■■ 表-1 XバンドMPレーダ情報の活用クラス別・目的別の導入効果(例) まとめ を生かした利活用方法,留意点について技術資料とし て取りまとめた。本技術資料を活用していただき,効 率的な浸水対策,合流改善対策,雨天時浸入水対策な 本機構では平成24年4月から11社との共同研究とし どが推進され,安全で安心な社会環境の整備に貢献で て,XバンドMPレーダの技術的特徴,情報の受信・ きれば幸いである。 保管方法を示すとともに,XバンドMPレーダの特質 下水道機構情報 Vol.8 No.19 —— 13
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