下水道管路施設へのフラッシュ ゲートの適用に関する研究

エンジニアリング
リポート 1
下水道管路施設へのフラッシュ
ゲートの適用に関する研究
研究第2部 研究員
亀田 瞬
はじめに
下水道管きょにおいて,適正な流速が確保できない
フラ ッ シ ュ ゲ ー トを 設 置 す る こと で、
晴 天 時 に お い ても流 量 ( 流 速 ) ピ ー クが
晴
流天
速時
流
量
上の問題が生じている。また,合流式下水道では雨天
時越流水による汚濁負荷の原因となっている。これら
晴
流天
速時
流
量
掃 流 に 必 要 な流 量 ( 流 速 )
区間では,管きょ内に汚濁物(スカムを含む)や土砂
等が堆積しやすく,悪臭の発生や詰まり等の維持管理
対策後
対策前
出現
掃 流 に 必 要 な流 量 ( 流 速 )
流 量 ( 流 速 ) ピ ー クが 小 さ く
掃流力不足
0
6
12
18
24
時刻
0
6
12
18
24
時刻
図2 フラッシュゲートによる流量の変化
適正な流速が確保できない区間としては,管路の構造
下させる装置であり,以下の特徴を有している。
上の問題箇所(伏越し,たるみ等)に加えて,震災の
①無電源かつ自動で開閉動作
影響による管きょ勾配が異常となった箇所等が挙げら
②内径90cm以上の既設マンホールに設置可能
れる。さらに今後,人口減少等の社会情勢の変化によ
③流下下水を利用した定期的なフラッシング
る汚水量減少が想定される。これらの問題を解決する
ための方策の一つとしてフラッシュゲートの研究を行
⑵ フラッシュゲートの動作原理
うこととした。
フラッシュゲートは,貯留水の水圧とばねの復元力
本研究では,実際に問題が発生している下水道管路
のみが動力として動作する。また,フロートによりゲ
で実証検証を行うことで,フラッシュゲートが問題箇
ートの動作タイミングが決定される仕組みであり,無
所の機能強化(正常機能の確保)や維持管理の軽減に
電源かつ自動で動作する。
寄与するか検証を行った。
①貯留状態:弁体が起立しているため上流側から流下
してくる下水が管内に貯留される。
研究内容
②転倒状態(フラッシング):貯留が一定水位になる
と,フロートの動作により弁体を起立保持させてい
たラッチが外れ転倒する。これにより,貯留されてい
2.1 技術概要
た下水が一気に下流に流出する(この水勢により,
⑴ フラッシュゲートの特徴
汚濁物を堆積することなく,下流側へ流出する)。
フラッシュゲートは,問題箇所の上流側のマンホー
③復帰状態:貯留されていた下水が流出し水位が低下
ル内に設置し,定期的にフラッシングをすることで,
すると,装置内に装着されたばねの動作により,弁
管きょ内に汚濁物を堆積させることなく,下流側に流
体が復帰する。以降,①からの動作を繰り返す。
① 貯留
③ 復帰
図1 フラッシュゲートによる管内清掃のイメージ
6 —— 下水道機構情報
Vol.11 No.24
② 転倒
図3 フラッシュゲートの基本動作
エンジニアリング・リポート ■■
■■
■■
■■
⑶ フラッシュゲートの種類
ュゲートを設置した場合,たるみ部の汚濁物は減少す
フラッシュゲートには,大きさの異なる2種類の機
る傾向が見られた。
種(標準機,小型機)があり,適用する管きょ施設の
② No.3マンホール(たるみ区間最深部)内の停滞
条件に合わせて,機種を選択可能である。
水の汚濁物量(SS)
たるみ部の採水を行い,水質分析を実施した。図5
2.2 現場実証検証
に示す通り,フラッシュゲートを設置した場合とフラ
⑴ 概要
ッシュゲートを設置しない場合を比較すると,SSが
本研究では,現場実証検証を通じて,フラッシュゲ
66%~83%削減された。また,フラッシュゲートの貯
ートの動作の安定性や効果等の検証を行い,各種技術
留水位を低くし,貯留量を低下させても,SSの削減
的事項について検討を行った。また,本研究では,管
量は低下していなかった。
路の特性が異なることから合流式および分流式下水道
表1 たるみ部の状況と採水資料の外観
の2方式,また,装置の違いから,フラッシュゲート
の小型機と標準機のそれぞれを対象とした。なお本研
フラッシュゲートなし
フラッシュゲートあり
貯留水位22cm
貯留水位24cm
採水日
究では,既往研究実績のある合流式下水道の標準機設
2月14日
6月1日
2月9日
6月23日
7月6日
経過日数
FGなし※
5日目
FGなし※
20日目
FGあり
9日目
FGあり
23日目
水位変更後
5日目
置ケースを除いた3ケースを実施した。
No.3人孔
内の状況
⑵ I市(分流式下水道,FG小型機)の結果
採水試料
の外観
1)流域概要
流域内の管きょは,震災の影響によりたるみが発生
し,特に最深部となるNo.3マンホール部では汚濁物が
※図中の日数はフラッシュゲートを撤去した後の経過日
2000
堆積し,清掃の重点個所となっている。この汚濁物が
1800
堆積箇所の上流側のマンホールにフラッシュゲート
た。なお,フラッシュゲートは,たるみ部の最深部と
1400
SS(mg/l)
(小型機)を設置し,汚濁物の堆積抑制効果を検証し
1600
1200
66.3%
削減
1000
800
1396
600
なるNo.3マンホールの1スパン上流のマンホールが曲
1020
400
がり部であるため,2スパン上流となるNo.5マンホー
82.8%
削減
1772
200
435
505
470
FGあり
9日目
FGあり
23日目
FGあり
平均
240
0
ルに設置した。
FGなし
5日目
FGなし
20日目
FGなし
平均
フラッシュゲートなし
水位変更後
5日目
フラッシュゲートあり
図5 たるみ部停滞水中のSSの比較
3)フラッシュゲートによる効果
図6に示す通り,たるみ区間最深部(No.3マンホー
1.40
①標準(24cm)_現場計測
②貯留水位低下(22cm)_現場計測
①標準(24cm)_シミュレーション
②貯留水位低下(22cm)_シミュレーション
③FGなし_シミュレーション
図4 対象管きょ(I市)の縦断面図
ピーク流速(m/s)
1.20
1.00
0.80
0.60
0.40
0.295
0.258
0.20
2)たるみ部の堆積物抑制効果
① No.3マンホール(たるみ区間最深部)内の状況
と採水試料の外観
フラッシュゲートを設置後,たるみ部で採水を行
い,その外観を整理した結果を表1に示す。フラッシ
0.00
-100
0.020
-50
0
50
フラッシュゲートからの距離(m)
100
150
た るみ区間
No7MH No6MH
No5MH
FG設置
マンホール
No4MH No3MH No2MH
90°曲部 た るみ
最深部
No1MH
※シミュレーションは,XP-SWMMによる。
図6 地点別のフラッシング流速の比較
下水道機構情報 Vol.11 No.24 ——
7
エンジニアリング・リポート ■■
■■
■■
■■
ル部)のピーク流速は約0.3m/sであり,フラッシュゲ
3)伏越し内の汚濁物掃流効果
ートを設置しない場合の流速0.020m/sを大きく上回っ
フラッシュゲートのフラッシングにより上流側伏越
ていた。フラッシュゲートを設置した結果,沈砂池の
し室に流入した汚濁負荷量が伏越し室および伏越し管
設計流速である3.0m/sに近いピーク流速が発生したた
内に堆積することなく,下流側伏越し室から流出する
め,このフラッシングによる掃流力によって,たるみ
ことを確認するために,上流側伏越し室の流入管口部
部に堆積が生じなかったと考えられる。
と下流側伏越し室の流出管口において水量と水質を計
測した。調査結果を図9と図10に示す。1回のフラ
ッシングで移動した水量は約8.0m3であり,下流側伏
1)流域概要
0.035
対象流域内には,伏越し管があり,伏越し室(上流
0.030
側)にスカム堆積が確認された。そこで,伏越し室の
ート(標準機)を設置し効果を検証した。
200
0.025
流量(m3/s)
スカム抑制のため,上流のマンホールにフラッシュゲ
250
150
0.020
ss(mg/l)
⑶ S市(分流式下水道,FG標準機)の結果
0.015
100
0.010
50
0.000
15:30:30
15:30:45
15:31:00
15:31:15
15:31:30
15:31:45
15:32:00
15:32:15
15:32:30
15:32:45
15:33:00
15:33:15
15:33:30
15:33:45
15:34:00
15:34:15
15:34:30
15:34:45
15:35:00
15:35:15
15:35:30
15:35:45
15:36:00
15:36:15
15:36:30
15:36:45
15:37:00
15:37:15
15:37:30
15:37:45
15:38:00
15:38:15
15:38:30
15:38:45
15:39:00
15:39:15
15:39:30
15:39:45
15:40:00
0.005
No3マンホール(上流側伏越し室)の流量
No3マンホール(上流側伏越し室)のSS
0
No4マンホール(下流側伏越し室)の流量
No4マンホール(下流側伏越し室)のSS
図9 伏越しの水量と水質(SS)の経時変化
7.0
No3マンホール
(上流側伏越し室)
6.0
No4マンホール
(下流側伏越し室)
4.0
の負荷量:82g
*棒グラフの合計値
3.0
2.0
ゲートが正常に動作して以降,伏越しマンホールのス
1.0
カムの堆積は認められなかった。
0.0
15:30:30
15:30:45
15:31:00
15:31:15
15:31:30
15:31:45
15:32:00
15:32:15
15:32:30
15:32:45
15:33:00
15:33:15
15:33:30
15:33:45
15:34:00
15:34:15
15:34:30
15:34:45
15:35:00
15:35:15
15:35:30
15:35:45
15:36:00
15:36:15
15:36:30
15:36:45
15:37:00
15:37:15
15:37:30
15:37:45
15:38:00
15:38:15
15:38:30
15:38:45
15:39:00
15:39:15
15:39:30
15:39:45
15:40:00
カムを清掃したところ,図8に示す通り,フラッシュ
5.0
SS負荷量(g/s)
フラッシュゲートを設置し,伏越しマンホールのス
No4マンホール(下流側伏越し室)のSS負荷量
の負荷量:79g
*棒グラフの合計値
図7 対象管きょ(S市)の縦断面図
2)伏越しマンホールのスカム抑制効果
No3マンホール(上流側伏越し室)のSS負荷量
図10 伏越しのSS負荷量の経時変化
(FG設置前)
(伏越し清掃,FG設置後)
(FG設置後162日目)
フラッシュゲート設置ならびに伏越し清掃以降,伏越し室(上流側)内にスカム,白色固形物の堆積は認められない。
図8 伏越し上流マンホール内の状況
8 —— 下水道機構情報
Vol.11 No.24
エンジニアリング・リポート ■■
■■
■■
■■
越し室から流出する水量とおおむね一致した。また,
上流側伏越しに流入したSS負荷量,下流側伏越し室
から流出したSS負荷量はそれぞれ79g,82gであった。
このことから,上流側伏越し室に流入した負荷量は伏
越し室ならびに伏越し管内に堆積することなく,下流
側伏越し室から流出したと考えられる。
伏越しの上流にフラッシュゲートを設置した場合
は,フラッシュゲートを設置しない場合と比較して,
伏越し室(上流側)へ流入する流速が増加するため,
図12 I市(分流式下水道,FG小型機)のフラッシュゲー
ト動作状況
(雨天時)
0.5
0
水位
5
0.4
降雨
10
る。そのため,伏越し室の水面上においてスカムや白
0.35
15
0.3
20
0.25
25
0.2
30
0.15
35
色固形物が一定の大きさ以上に成長せず,スカムの発
生が抑制される。また,伏越し室内では,フラッシン
グによる水流によって撹拌・混合された状態となり,
堆積することなく下流側へ流出しやすくなると推察さ
れる。
水深(m)
伏越し室(上流側)の水面が定期的に乱れる流況とな
0.45
0.1
降雨(mm/hr)
4)フラッシュゲートによる効果
40
0.05
雨天時における流量増加(降雨による)によるゲート転倒状態
0
45
50
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
時刻
図13 S市(合流式下水道,FG小型機)のフラッシュゲー
ト動作状況
⑷ S市(合流式下水道,FG小型機)の結果
1)流域概要
合流式下水道におけるフラッシュゲート小型機の安
定動作を検証するため,S市にフラッシュゲートを設
置し,動作検証を行った。
まとめ
本研究では,フラッシュゲートにおける現場実証実
験により下記の結果を得た。
◦たるみにより汚濁物の堆積が生じている箇所にフラ
ッシュゲートを設置することで,汚濁物の堆積を防
止することを確認した。
◦スカムが堆積する伏越し箇所にフラッシュゲートを
設置することで,スカムの堆積を防止することを確
認した。
◦合流式下水道の雨天時においてもフラッシュゲート
図11 対象管きょ(S市)の縦断面図
は正常に動作することを確認した。
下水道管きょの維持管理に際し,フラッシュゲート
2)安定動作
が下水道関係者に広く活用され,下水道事業の促進に
フラッシュゲートを設置し,機器の調整を行った結
寄与できれば幸いである。
果,フラッシュゲートが安定して動作することが確認
された。また,降雨時,管内水量が増加した場合は,
フラッシュゲートが転倒状態を保持し,流路の阻害に
ならないことを確認した。
下水道機構情報 Vol.11 No.24 ——
9