D-Case を用いたレビューを見える化する方法の導入事例 An

D-Case を用いたレビューを見える化する方法の導入事例
小林 展英†
An experience of Introducing D-Case based Review method
KOBAYASHI Nobuhide
ねらい 本報告では、D-Case を用いることでレビューにおける説明を見える化し、その内容に基づいてレビ
ュー対象成果の妥当性を判断する仕組みを導入した事例を紹介する。
キーワード D-Case、GSN、レビュー、説明、合意形成
Target: This report is to introduce an experience of introducing D-Case based review method.
Keywrds: D-Case, GSN, review, explain, consensus
1.想定する読者・聴衆
本報告はソフトウェア開発のレビューにおいて対象
成果の妥当性を説明する担当者、およびその説明に基
づいて対象成果の妥当性を判断する顧客、あるいは上
位者を想定している。
2.背景
昨今、米国におけるトヨタ自動車の大規模リコール
問題のように欠陥のない製品であっても訴訟に発展し、
見 え る 化 す る 手 段 と し て 文 献 [3] で 提 唱 さ れ て い る
D-Case を採用し、D-Case を用いたレビューの方法をソ
フトウェア開発のレビューに導入した事例について紹
介する。
依頼側・開発側ともに理解していること(世の中の常識)
開発側の背景(組織の常識)
依頼側の背景(組織の常識)
受け取る情報の前提(議論毎の常識)
受け取る情報
伝える情報の前提(議論毎の常識)
文書
伝える情報
和解金の支払い等の損害を受ける可能性がある。この
背景には、文献[1]にも述べられている通り第三者が納
得できる形で製品の妥当性を説明できていない実態が
考え方
考え方
語彙
語彙
相手
あると予想される。こうした状況を踏まえて自動車業
自分
図 1 説明モデル
界では説明責任を果たすための取り組みが重要視され
つつある。本論文ではその取り組みの一つとして、ソ
フトウェア開発におけるレビューに着目し、レビュー
の説明内容を見える化して自分と相手が正しく議論で
きる方法を導入した事例について紹介する。
3.課題
上位者の指示通りに成果物を作成してもレビューで
承認されないと感じる担当者、あるいは何度同じ指示
をしても担当者が意図通りに成果物を作成してくれな
背景で紹介した問題と同様に相手が納得できる形で自
分の伝えたいことを説明できていないことに起因する
と考えられる。文献[2]にも述べられている通り、自分
の伝えたいことを相手に正しく説明するためには、図
1 に示した自分の使う語彙や常識といった議論の前提、
および説明に用いる考え方が相手と共有できている必
要がある。このため、このモデルに基づく説明の構造
を見える化してレビューに臨めば先に述べた問題を解
方に相当する情報を D-Case の戦略ノード、文書に相当
する情報を D-Case の証拠ノードに対応づける表記規約
とした。また、従来の方法との変化点として図 2 に示
す 4 つの手順を定義している。
手順1:前提となる文書を揃える
・相手と合意形成でき
ている文書を揃える
・不足する場合は右記
の4状態を念頭に
新規に用意する
相手
フトウェア開発の現場で耳にするこのような事例は、
今回の取り組みでは、図 1 の説明モデルに示した語
彙や常識に相当する情報を D-Case の前提ノード、考え
知らない 知っている
いと感じる上位者は少なからず存在すると考える。ソ
4.提案・実験
③文書化
④一緒に
して理解を
文書化する
得る
②教えて
①合意形成
もらって
できている
文書化
知っている 知らない
自分
手順4:D-Caseで説明する
・"構造に関する文書"に基づいて説明したい
ことを手頃な大きさに分解して説明する
・説明の妥当性は、"条件に関する文書"を
成果物が満足していることで納得を得る
・上記流れで相手の納得を得られなければ
手順1から再チャレンジ!
手順2:説明の構造を設計する
・手順1で揃えた文書を前提として説明の
"説明したいこと"
構造を設計する
ゴール
前提
構造に関する
文書
前提
条件に関する
文書
は妥当である
前提に従って
説明する
構造の構成要素
は妥当である
戦略
・・・
手順3:成果物を証拠に紐づける
・説明の妥当性を最終的に支える証拠として
条件を満足できる成果物を紐付ける
条件に関する
文書
構造の構成要素
は妥当である
条件を満足
できる成果物
図 2 D-Case を用いたレビュー方法の手順
消できる可能性が高い。次章以降では、説明の構造を
1
従来のレビュー方法と D-Case を用いたレビュー方法
説明対象の構造や合格基準との関係を明確に表現でき、
を比較するため、同じ事例に対して両者の方法に従っ
議事録に従った説明では見落としてしまっていた不備
てレビューを実施した結果を以降に記す。
を検出できたと考える。
図 3 は従来のレビュー方法に従った説明内容を示し
また、体系的な導出には至っていないが、D-Case の
ており、担当者は図中左下に記載した表形式の議事録
描き方と成果物の品質の相関関係から以下のアンチパ
に従って ConvMsec()に仕様追加された変換規則②に対
ターンを導出することができている。
するテスト実施結果の妥当性を説明している。
・ 複数のゴールが一つの証拠に集約している場合、
一方、図 4 は承認する立場にある上位者の考える合
複数の視点が一カ所に混在した文書になってい
格基準を D-Case の前提ノードとして見える化し、それ
る場合が多い(文書品質が低い可能性が高い)。
に基づいて分解されたゴールを支える証拠として担当
・ 戦略にレビュー対象の構造や属性を示した前提
者が作成した成果物を紐付けた結果である。D-Case 中
が関連づけられていない場合、分解されたゴール
の G4 の合格基準を示す C3 を満足できていない成果物
が網羅的でない場合が多い(納得感が薄い)。
Sn4〜Sn6 の存在が検出できており、D-Case を用いたレ
・ ゴールに証拠の判断基準となる前提が関連づけ
ビュー方法の有効性が確認できたと考える(本事例で
られていない場合、証拠のレビュー基準がレビュ
は G7 の証拠となるテストを実施した結果、処理の流れ
ーアの感覚の場合が多い(客観的な根拠がない)。
上述したアンチパターンに合致する D-Case は、担当
中の欠陥を発見できた)。
者の作成した成果物の内容や構造が上位者の考える合
① secを1000倍した値を*msecに格納し、E_OKを戻り値とする。
② secが255より大きい場合は*msecに255000を格納し、
E_OVERを戻り値とする。: Ver.1.01改訂
テスト項目数は
十分であるか?
:
仕様を満足する
ことが確認され
ているか?
妥当性
証拠
判断
OK
テスト
仕様書
:
OK
:
テスト
報告書
sec>255
⑦
⑥
sec = MAX; ②
妥当性判断の根拠
既存処理をコードレビューで
押さえ、追加処理の境界値に
関するテスト項目を抽出。
:
テスト仕様書の該当項目がす
べて合格している
事前に担当者とアンチパターンを共有しておくことで、
ret = E_OK; ①
※
<設計品質レビューの報告内容>
確認事項
格基準を満たしていない場合に出現する。このため、
成果物の品質向上につながることが期待できる。
それ以外
ret = ConvMsec(unsigned short sec, unsigned long *msec);
<変換規則>
<処理の流れ>
6.まとめ(今後の課題・謝辞等)
本報告では、D-Case を用いて上位者の考える合格基
tmp = sec×1000;③
sec==MAX ⑧
⑨
ret = E_OVER ④
準と担当者が作成した成果物を紐付け、レビュー時に
それ以外
<インタフェース仕様>
*msec = tmp; ⑤
※MAX=255
図 3 従来のレビュー方法に従った報告内容
議論すべき内容を見える化することで、表形式の説明
では見落としがちな成果物の不備を検出できることを
確認できた。また、構造化された図解表現の特性から
成果物の不備を視覚的に推測できるアンチパターンも
いくつか導出することができた。今後は、D-Case 中の
前提ノードに記述された判断基準や上述したアンチパ
ターンを上位者の経験として資産化し、次の開発時に
再利用できる開発サイクルの確立に取り組んでいきた
いと考えている。
最後に、D-Case に関する体系的な知識をご教授頂い
た名古屋大学山本修一郎先生、および本取り組みの導
入に協力頂いた全社員の皆様に感謝します。
7.文献
[1] 保証ケース議論分解パターン[応用編], 月刊ビジネスコミュ
ニケーションズ 2013 年 5 月号
http://www.bcm.co.jp/site/youkyu/youkyu100.html
[2] プロジェクトコミュニケーション管理 プロセスの適用評価,
SEC Journal 32 第 9 巻
図 4 D-Case を用いて報告内容の構造を見える化した結果
https://www.ipa.go.jp/files/000028900.pdf
[3] 実践 D-Case ディペンダビリティケースを活用しよう!
5.効果
http://www.dcase.jp/pdf/JissenDCase.pdf
[4] 「レビューの質モデル」による品質向上について
D-Case を用いたレビュー方法を導入したプロジェク
http://www.ipa.go.jp/files/000005324.pdf
トは、文献[4]で述べられているように議事録の確認事
項に従った手順中心の説明に陥り、本来議論すべき成
果物そのものの品質に関する議論が薄くなってしまう
傾向にあった。今回、D-Case を説明に用いたことで、
†
Denso Create Inc., 3-1-1, Sakae, Naka-ku, Nagoya, Aichi, Japan
E-mail: [email protected]
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