第 回日本ホスピス・在宅ケア研究会 全国大会 in 長崎 そいでよかさ、長崎∼あるがままに生きるための地域連携ネットワーク∼ 長崎県医師会理事 (はじめに) 年 月 ㈯、 日㈰の 日間、長崎ブリッ クホールにて、第 回日本ホスピス・在宅ケア 研究会全国大会 in 長崎が開催された(写真 ) 。 その内容につき報告し、ホスピス・在宅ケアの今 後の目指すべき方向性について言及する。 (写真 ) (背景) 年に設立された日本ホスピス・在宅ケア 研究会は、終末期医療とケア、在宅サービスや医 療の問題を、医療・介護・福祉従事者に加え、市 民、患者さんが対等な立場で話し合い、そして学 ぶ場を提供してきた。これまで、患者およびその 家族を全人的に捉えてあらゆる問題に対応する 「ホスピスマインド」を、緩和ケア病棟だけでな く、一般病棟や在宅まで浸透させるべく活動し、 さらに、在宅ケアの支援を行ってきた。私は、 年の高知大会の際にシンポジストとして初めて大 会に参加し、大変自由で楽しい学びの場に触れて 感銘した。その際に理事長の大頭先生に、長崎で 開催しないかと打診され、楽しい会なので、二つ 返事で了承した。 年 月に実行委員会を組織して、 名の 委員皆で準備を重ねて来た。実行委員会のンバー は、主たる医師達は長崎在宅 Dr. ネットのメン バーであった。Dr. ネットは、 年の立ち上げ 以来、丁度 年目の節目にあたった。Dr. ネッ トの立ち上げを契機として、長崎市では、薬剤師 のネットワークである長崎薬剤師在宅医療研究会 長崎県医師会報 第 白髭 豊 (P−ネット) 、看護師のナースネット長崎、な がさき栄養ケアステーション、ながさき地域医療 連携部門連絡協議会など専門職種の連携が進んで きた。また、IT を用いた連携としてあじさいネッ トもスタートし大きく成長してきた。更に、緩和 ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM) を 年から 年間、長崎市で実施することで、 専門職種同士の顔の見える関係(すなわち、ネッ トワークの構築)が大きく進んでいた。このよう な状況で、我々長崎の多職種の仲間達で実行委員 会を組織し、 年近くにわたって準備してきた。 そして、 年の長崎大会は、 回目の大会と なった。 はじめての大きな全国大会で、かなりの緊張が あった。赤字を出さないためにどうするかという 議論からはじめて、必ず健全に乗り切ることを念 頭に置いた。 今回の大会が、専門職種のみならず、市民の皆 様が、一人ひとりがその人らしく生きそして死ん でいくために、今後どうすべきかを考えるきっか けになるように願い、そしてそのメッセージを全 国に届けたいと願った。 (大会報告) 今回、 「そいでよかさ、長崎∼あるがままに生 きるための地域連携ネットワーク∼」をテーマと した。人生の最後が近い人やその家族の決心に対 し、オーストラリアのホスピス三角形(図 )の ように、療養場所の選択は自由であり、どのよう な選択でも構わないという意味で「そいでよか さ」という言葉を選んだ(図 ) 。その際に患者 さん・家族を支えるのが専門職種の役目であり、 そのための連携こそが大切である。そこで、ネッ トワーク、連携のあり方をメインテーマとしてシ ンポジウムを企画した。さらに、一般公募演題で もネットワーク関連演題を募集し、全国各地より 約 の演題をいただいた。さらに、 名弱の実 行委員がひとつとなり面白味に満ちたプログラム を作りあげていった。 ホスピスマインドのシンポジウム、いのちの授 号 平成 年 月 業、療養相談・退院支援、医療用麻薬の施設・在 宅での使用、口腔ケア、聞き書き、オレ流在宅医 療、認知症の市民公開講座等である。 (図 ) (参加者内訳) ・事前参加登録 一般 (会員 非会員 )学生 ・当日参加 / ㈯ 一般 学生 / ㈰ 一般 学生 ・合計 一般 学生 合計 名 ・延べ人数 ( (事前登録人数+ 日目当日 参加人数)× + 日目参加人数) ・無料招待 名 ・市民公開講座無料参加者 約 名 ・総計 名 ・総演題数 146(口演 題、ポスター 95 題) ・懇親会参加登録数(有料参加者) 名 (図 ) 長崎県医師会報 第 号 平成 年 月 周知の段階ではさまざまな関連職種に声がけを 学科や長崎市医師会看護専門学校の授業の一環と して、そこから市民や報道関係に連鎖が広がり、 して取り上げていただいたことが大きかった。各 多くの市民の皆様に参加していただくことが出来 先生のご配慮に心より感謝するとともに、学生の きた。全国各地から 日間延べ約 皆様に必ずやホスピスケア、在宅医療のマインド 名のご参 加をいただき、盛会のうちに無事終了することが で き た。特 に、こ の 中 に は、 名(延 べ 名)の学生が含まれている。長崎大学医学部保健 長崎県医師会報 第 を伝えられたものと思っている。 以下、一部のプログラム内容を解説する(解説 は各末尾に示すプログラム担当者による) 。 号 平成 年 月 . ・在宅医療を担うネットワーク組織」 (大会長講 演) ・シンポジウム 在宅医療・福祉を担うネット ワーク∼長崎から全国へ∼ ・シンポジウム 在宅医療・福祉を担うネット ワーク∼先進事例より学ぶ∼ 大会長から、在宅医療を担うネットワーク組織 について一般演題で寄せられた内容を含めて総論 的な講演を行い、その後、シンポジウム では、 長崎ならではの地域連携ネットワークの取り組み を紹介した。Dr. ネット、あじさいネット、ナー スネット長崎、P−ネット、ながさき地域医療連 携部門連絡協議会が登壇した。シンポジウム で は、全国各地での連携に関する代表的な取り組み を紹介した。川越正平先生が医師の立場から地域 包括ケアにおける医療と介護の連携の必然性につ いて述べ、榊原千秋さんは自ら展開する金沢での NPO 法人での活動、市原美穂さんはかあさんの 家での取り組み、岡本峰子さんはジャーナリスト の立場で取材して来た認知症介護を通した連携の あり方をお話しいただいた。柳田邦男(写真 ) さんが、示唆に富む珠玉の言葉(人はそれぞれの 物語を生きていて、ひとりひとりの人生の文脈に 意味をうかびあがらせることができるようにする ことが大切である、というような意味)でまとめ てくださった。 (白髭豊) (写真 ) .これからのエンゼルケアのために考えておき たいこと(写真 ) おたんこナースの原作者である小林光恵さんに 長崎県医師会報 第 エンゼルケアについてお話をしていただいたあと、 鳥取にある野の花診療所で行われている、患者さ まが旅立たれたあと、ご家族と一緒に行う「抱き かかえ」を考案された看護師さんにもお話をして いただきました。 その後、大会長である白髭豊さんをモデルにエ ンゼルケアを実践していただきました。お部屋に 入りきれないほどの参加者の皆さんが周りを囲む 中、暖かいタオルでお顔を拭くところから丁寧に 説明してくださり、みなさんカメラや携帯電話で 動画を撮りながら真剣に聞かれていました。 明日からのケアにすぐに実践できる内容でみな さん興味深々で聞かれていました。時間の関係で 質疑応答ができなかったのが残念でしたが、また お話を聞けることを楽しみにしています。 (黒田敬子) (写真 ) .地域の相談窓口・退院支援 大会 日目( 月 日)にブリックホール・大 ホールにて、 「地域の相談窓口・退院支援」のシ ンポジウムを、神戸の関本クリニック関本雅子先 生とわたくしが座長で行いました。患者さんが、 病院から自宅・地域に帰る退院支援においていろ いろなことを相談できる相談窓口が大事です。今 回様々な立場で相談窓口を行っているシンポジス トに発表してもらい、何が大事で、今後何が必要 かをともに考えるシンポジウムにしました。 病院からの立場で、東札幌病院 MSW 田村里 子さん、在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子さ ん 地域の立場で長崎市包括ケアまちんなかラウ ンジ 小川富美子さん 株式会社ファーマダイワ 益永佳予子さん 長崎の上五島という離島(高齢 化率 .%)での立場から、NPO 法人オハナ 前田真由美さん の 名からそれぞれお話してい ただきました。どの演者の方も退院支援における 号 平成 年 月 色があるのが、在宅ホスピスケアです。今回、地 元長崎で特に色がある在宅を行っている、行成壽 家さん 詫摩和彦さんと私の三人で、それぞれの 在宅ホスピスマインドを語る講演を行いました。 語るだけでは物足りないと、三人それぞれ写真を 枚ほど持ち寄りそれを見ながらの、トークセッ ション(与太話・・・)を行いました。 もちろん、どのような写真がどの順番で出るか はお互い知らずに行いました。 訪問診療の道すがらのユニークな写真や、患者 さん自宅の面白いもの、家族写真、患者さんとの ツーショットや療養の場面、お別れとその後の遺 .徳永進&細谷亮太のとことんいのちを語り合 族とのかかわりなど、笑いあり涙ありのトークで う(写真 ) した。三人共に、 「患者さん・家族・地域が大好 鳥取の野の花診療所院長徳永進氏と聖路加国際 きで、在宅ホスピスケアは大変とは思わない。む 病院小児総合医療センター長の細谷亮太氏のトー クセッション。各々がそれぞれの立場で話を進め、 しろ楽しい!」という言葉がありました。 新しい形のトークセッションでしたので、ドキ 後半には二人で、いのちというものについて語り ドキでしたが、会場から大笑いが聞こえ、後で、 合った。 「与太話でどきどきしたけれど、だんだん在宅マ 年間 人 の 子 供 が 死 ん で い く、そ の う ち インド・ホスピスマインドに引き込まれたよ」と 人は 才までで死んでいく。そんな子供達 の言葉もあり、もちろん三人ともに楽しいセッ と 年以上ふれ合ってきた細谷氏は、医師を父 ションでした。 (中尾勘一郎) に持ち子供の頃から死というものに関して、周囲 の友達よりも早熟だった。死んでしまったら、二 度と目の前に姿を現さない。だから自分が死ぬこ とがすごく怖かった。細谷氏の子供達に対する愛 情が感じられた。 「そいでよかさ」等の言葉や絵本のフレーズを 使い、生きるということを話してくれた徳永氏。 内科医として、死と向き合い、それをわかりやす く説明してくれた。 最後に会場全員でシャボン玉を熱唱し終了した。 聴講していて本当に胸が熱くなるような内容だっ た。 (七嶋和孝) (写真 ) 情報提供不足や認識のずれなど、コミュニケー ション不足が問題と述べられました。そして、共 に 考える 価値観という言葉が共通して述べら れ、やはりそばにいてともに考えるというスキル が大事と認識させられ、今後このスキルをあらゆ る立場の医療者・介護者が持つことが大事である と感じました。 時間 分とたっぷり時間を確 保していましたが、会場からの質問や、座長も含 めた討論も盛り上がりあっという間のシンポジウ ムでした。 (中尾勘一郎) (写真 ) .オレ流在宅医療(写真 ) 在宅医・在宅チームによりそれぞれの味があり 長崎県医師会報 第 .長崎在宅 Dr. ネット市民公開講座「ペコロス の母に会いに行く」岡野雄一講演会(写真 、 ) 岡野雄一さんは、長崎市在住の漫画家で、 月に公開される映画「ペコロスの母に会いに行 く」の原作者。先日、日本漫画家協会賞優秀賞を 受賞され、 月から週刊朝日にて「ペコロスの母 の玉手箱」の連載も始まっている。出口雅浩先生 とのトーク、そしてオリジナル曲の歌と演奏で大 いに盛り上がった。 号 平成 年 月 (写真 ) (写真 ) (ホスピス・在宅ケアの今後の目指すべき方向性) 高齢多死の時代が目前である。病院死には限り があるので、自宅や施設での看取りを増やしてい く必要がある。そのためには、医療者への啓発が 必要で、病院医師、 病院看護師に在宅の視点を持っ ていただくこと、まだ在宅医療を手がけていない 診療所の先生に一人でも多くの在宅患者を担って いただくことを強力に推し進める必要がある。そ して、高齢者人口千人当たり訪問看護利用者数と 長崎県医師会報 第 自宅死率を都道府県別に見ると正の相関があるこ とからも、訪問看護の利用を促進していくことが 最も大きなカギを握っている。強化型在宅療養支 援診療所に倣って、 「強化型訪問看護ステーショ ン」 として、単独で機能を強化した訪問看護ステー ションや複数が連携することで同等の評価を与え る(連携型)のような制度改革が望まれる。 医療側の啓発に加えて、市民(患者・家族)へ の情報発信が必要である。 年に病院死率が 自宅死率を越して以来、在宅医療ができる、家で 最期を迎えるということが脳裏に浮かばないよう な状況が一般的になっているようだ。謂わば、病 院内に死が囲い込まれてきた面があるかもしれな い。このような状況を打破するためには、看取り 体験者の講話、児童・学生に対するいのちの授業、 在宅医療に関する市民公開講座など地道な取り組 みが必要だろう。看取り文化の再構築に向けて注 力し、死を日常に取り戻していかなければならな い。 以上の内容を含んだ長崎大会アピールを宣言し た。 (表 ) 今回の研究会開催は、地元の多職種の連携を更 に推し進める上で、大きく貢献したと思われる。 そして、市民に対する看取り文化の再構築に、微 力でも貢献できたなら嬉しいかぎりである。 (謝辞) 今大会を開催するにあたり、さまざまに応援し てくださった皆様、広告、協賛、企業展示、名義 後援を賜った長崎県医師会、長崎市医師会はじめ 各団体の皆様、そして実際に足を運んでくださっ た皆様に心より感謝と御礼を申し上げます。誠に 有難うございました。 号 平成 年 月 (表 ) <第 回日本ホスピス・在宅ケア研究会 全国大会 in 長崎 長崎大会アピール> 大会長 白髭 豊 年に設立された日本ホスピス・在宅ケア研究会は、終末期医療とケア、在宅サービスや医 療の問題を、医療・介護・福祉従事者、市民、患者さんが対等な立場で話し合い、そして学ぶ場で す。これまで、患者およびその家族を全人的に捉えてあらゆる問題に対応する 「ホスピスマインド」 を、緩和ケア病棟だけでなく、一般病棟や在宅まで浸透させるべく活動し、さらに、在宅ケアの支 援を行ってきました。 長崎大会では、 「そいでよかさ、長崎∼あるがままに生きるための地域連携ネットワーク∼」を テーマとして、療養場所の選択は自由であり、その際に患者さん・家族を支えるのが専門職種の役 目であり、そのための連携が大切であることを訴えました。また、ホスピスマインド、いのちの授 業、療養相談・退院支援、医療用麻薬の施設・在宅での使用、口腔ケア、患者さんからの聞き書き、 認知症の市民公開講座等を行いました。長崎大会は、一人ひとりがその人らしく生きそして死んで いくために、専門職・市民が今後どうすべきかを示すため、下記アピールを発信します。 .療養場所決定の支援 病院―在宅―施設など療養場所の選択・希望は変わっていき、本人と家族で意向が異なること すらあります。医療・介護・福祉従事者は、すべての選択を患者さん・家族が納得できるよう に、意思決定、療養場所の決定の支援を多職種と市民の協働のもとで行なっていきます。 .看取り文化の再構築 医療・介護・福祉従事者など終末期の医療およびケアに携わる者は、死の教育ならびに終末期 医療およびケアについての実践的な教育を受けるべきです。 さらに、市民、患者さんは、いのちの授業、看取り体験談など啓発活動を広く受け入れ、病院 で囲い込んでいた死やそこにいたる療養の過程を、日常生活のなかへ取り戻していくようにし ます。 .緩和ケアの普及 がん診療連携拠点病院のみならず、一般病院、在宅・施設で広く緩和ケアが実践されるように 期待します。また、緩和医療およびケア(ホスピスプログラム)の非がん患者への適応拡大を 期待します。 .居住系施設で看取りが出来る体制の構築 多死の時代を迎えるにあたり、自宅死の増加には限りがあります。特養・老健、その他の居住 系施設で、最期の瞬間まで優しい手を差し伸べる看取りができるような施設職員の教育や、医 療の参入を在宅療養の場合と同様にできる制度への改善を期待します。 以上 年 月 日 長崎県医師会報 第 号 平成 年 月
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