HAXPESによる有機半導体デバイスの評価 - SPring-8;pdf

HAXPESによる有機半導体
デバイスの評価
高輝度光科学研究センター
渡辺剛
背景
有機デバイス
•有機トランジスタ
•有機太陽電池
•有機発光素子
•有機熱伝変換素子
利点
小規模の設備で簡単にデバイス作製ができる
機械的にフレキシブルなデバイスの作製が容易
炭素を主成分としているために、材料資源が豊富
有機薄膜トランジスタ(OTFT)
課題点
•
•
•
•
キャリア移動度の向上
電極からのキャリア注入障壁の低減
しきい電圧の変動やヒステリシスの低減
大気中での安定性
発現している現象を電子状態の観点から
理解し、制御することが重要
電圧印加硬X線光電子分光
HAXPES:
励起X線エネルギー 6 keV 以上
試料深部からの光電子を検出
SiO2 (10 nm)
測定例
a-IGZO (100 nm)
電圧印加硬X線光電子分光 (BA HAXPES)
Bias Applied Hard X-ray photoelectron spectroscopy
MIS 構造試料の金属と半導体間に電圧を印加
光電子運動エネルギーの印加電圧応答を測定
Si substrate
半導体/絶縁体接合の界面準位密度がわかる
50.0
Intensity
40.0 TOA=80°
8 keV励起
O 1s
80.0
70.0
30.0
60.0
20.0
50.0
10.0
40.0
0.0
30.0
TOA=30° 20.0
10.0
例 Ru/SiO2/Si のSiO2/Si 界面準位密度
Y. Yamashita et al., J. Appl. Phys. 113, 163707 (2013).
eRu (10 nm)
SiO2 (3 nm)
Si substrate
0.0
7400
7405
7410
Kinetic energy (eV)
7415
有機トランジスタにも応用できる?
目的
有機薄膜トランジスタの各界面近傍で形成されている
電子状態を電圧印加硬X線光電子分光法により観察する
(1)金属/有機接合界面の電位分布の観察
(2)有機トランジスタ駆動中の電位観察
研究結果
(1)金属/有機接合界面の電位分布の観察
(2)有機トランジスタ駆動中の電位観察
有機TFT
電極材料の種類がTFTの特性に影響する
(例:S-D電流値にあらわれるゲート電圧の履歴が電極金属種で異なる)
電圧印加時における金属/有機半導体界面近傍の状態を理解したい
目的
金属/有機半導体界面電位の印加電圧応答
測定法の検討
硬X線光電子分光(Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy :HAXPES)
による金属/Pentacene界面近傍電位の印加電圧応答測定を検討する
実験
試料と測定条件
試料
基板: 熱酸化膜( 300 nm)つきSi 基板
Analyzer
X-ray
Photoelectron
ペンタセン膜 (30 nm)
4×10-4 Pa 25°C 堆積速度 0.005 nm/s
TOA
metal
Pentacene (30 nm)
Si substrate
SiO2
300 nm
Si substrate
金属 Au 及び Ag (10 nm)
2×10-4 Pa 25°C 堆積速度 0.1 nm/s
測定条件
C励起X線エネルギー
7940.16 eV
R-4000 (pass energy
200 eV)
0.27 eV
30°(浅)
実効エネルギー分解能
TOA
80°(深)、
印加電圧
(V)
+15 → +10 → +5 → 0→ -5 → -10 → -15 →
→ -10 → -5 → 0→ +5 → +10 → +15
測定結果
電極金属の応答
Au 4f, Ag 3d の印加電圧応答
Au 4f 光電子スペクトル
200
0V
+5 V
+10 V
+15 V
100
0
7840
7860
Kinetic energy (eV)
7880
Ag Au
7870
降圧
昇圧
7580
7860
7570
7850
Ag
Au
7560
7840
7830
–20
7550
–10
0
10
20
7540
Applied baias (V)
Au : E = 7851.40 −V
Ag : E = 7564.84 −V
光電子運動エネルギーは印加電圧に完全に応答
Kinetic energy (eV) Ag
–15 V –10 V
–5 V
Kinetic energy (eV) Au
Intensity of signal (arb. unit)
7590
測定結果
C1s/pentacene 印加電圧応答
C 1s TOA 30° Au電極の例
60
50
50
40
0V
–5 V
40
30
20
7650 7655 7660 7665
Kinetic energy (eV)
Intensity (arb. unit)
Intensity (arb. unit)
50
40
30
20
15 V 2nd
15 V 1st
7635
7640
7645
Kinetic energy (eV)
Pentacene C 1sも印加電圧に応答
ヒステリシスは観測されない
30
20
10
C 1s の応答 全測定
測定結果
7680
7680
7670
降圧
昇圧
7660
7660
7650
7650
7640
C 1s TOA 80°
–15 –10 –5 0 5 10 15
Applied bias (V)
Ag Au
7670
7640
Kinetic energy (eV)
Kinetic energy (eV)
Ag Au
7670
7670
7660
7660
7650
7650
7640
7630
降圧
昇圧
C 1s TOA 30°
–15 –10 –5 0 5 10 15
Applied bias (V)
7640
7630
Au : E = 7654.50 −0.9945V (降圧)
E = 7654.50 −0.9957V (昇圧)
Au : E = 7654.40 −0.9992V (降圧)
E = 7654.40 −0.9986V (昇圧)
Ag : E = 7654.20 −0.9883V (降圧)
E = 7654.20 −0.9879V (昇圧)
Ag : E = 7654.10 −0.9973V (降圧)
E = 7654.10 −0.9980V (昇圧)
C 1sの印加電圧応答にヒステリシスは観測されない
測定結果
C1s 電極金属、TOAの比較
無印加(0 V)
Au
50
110
40
70
TOA 30
60
50
30
20
40
90 Ag
80
40
Ag
100
30
20
TOA 80
10
7650
7655
7660
Kinetic energy (eV)
Intensity (arb. unit)
100 Au
90
Intensity (arb. unit)
無印加(0 V)
80
70
30
60
50
TOA 30
20
40
30
20
10
TOA 80
7650
7655
7660
Kinetic energy (eV)
10
0
TOAによりC 1s光電子運動エネルギーが異なる
pentacene膜は金属界面近傍と深部とで電位が異なる
差はAgの方が大きい
測定結果
C1s 電圧印加応答 TOA比較
100
Ag
0 V 40
80
30
70
60
TOA 30 20
50
40
30 TOA 80
20
10
10
0
Kinetic energy (eV)
60
Intensity (arb. unit)
Intensity (arb. unit)
90
Ag
–10 V
40
30
50
40
TOA 30
20
30
20
TOA 80
10
7662 7664 7666 7668
Kinetic energy (eV)
界面近傍と深部の電位差は印加電圧により変化
Ag電極では-10V 印加により電位差の符号が逆転
0.1
C 1s エネルギー差の電圧応答
Kinetic energy difference (eV)
Kinetic energy difference (eV)
測定結果
降圧
昇圧
Au
0
–0.1
–0.2
–20
–10
0
10
Applied bias (V)
20
0.1
降圧
昇圧
Ag
0
–0.1
–0.2
–20
–10
0
10
Applied bias (V)
界面近傍と深部の電位差は印加電圧により変化
変化量はAgの方が大きい
+印加の方がーよりも電位差が大きい
20
測定結果 (Si 1S)
120
30
Au
25
TOA 30
80
60
20
15
Peak 1
TOA 80
Peak 2
10
20
5
6085 6090 6095 6100 6105
Kinetic energy (eV)
Intensity (arb. unit)
Intensity (arb. unit)
100
40
50
0V
–15 V 30
Au
TOA 30
40
Peak 1
20
Peak 2
30
10
TOA 80
20
0
6100 6105 6110 6115 6120
Kinetic energy (eV)
Siには複数の状態あり
Binding energy が大きい成分がSiO2膜深部
測定結果(Si 1s)
降圧
昇圧
3
6110
6100
4
6115
6105
Peak 1
Peak 2
6095
6090
6080
–20
Width (eV)
Kinetic energy (eV)
6120
5
4
2
3
Peak 1
1
2
降圧
昇圧
–10
0
10
Applied bias (V)
6085
20
Peak 2
0
1
–20
–10
0
10
Applied bias (V)
印加電圧の符号で応答が異なる
20
まとめ
• 硬X線光電子分光でPentacene膜の
金属電極界面近傍と膜深部の電位差を観測
• Pentacene膜内の電位差は電圧印加で変化
• Agの方がAuよりも印加電圧変化が大きい
• SiO2膜はpentacene界面近傍に膜深部
とは異なる状態が存在
• SiO2膜の印加電圧応答は符号により異なる
研究結果
(1)金属/有機接合界面の電位分布の観察
(2)有機トランジスタ駆動中の電位観察
有機薄膜トランジスタの劣化・・・例・しきい電圧の変動、ISD値のヒステリシスの発生
→デバイス動作中に発生している
実際にトランジスタが駆動している最中の電子状態を明らかにしたい
HAXPES測定と同時にソース・ゲート電圧、
ゲート電圧を印加できる機構を整備
目的
トランジスタ駆動中における有機半導体内部
および有機/絶縁膜近傍の電位を観察する
実験(薄膜の作製と測定条件)
有機薄膜
電極
X線
試料作製
基板 :
熱酸化膜(300 nm)つきSiウエハー
有機半導体
Pentacene (33 nm) 6.4×10-4 Pa
25 ℃
ソース・ドレイン電極
Au (34 nm)
4.0×10-4 Pa
25 ℃
チャネル長: 0.5 mm
チャネル幅: 5 mm
電圧印加測定用試料ホルダー
BA-HAXPES測定
励起X線エネルギー 7940.16 eV
R-4000 (pass energy 200 eV)
実効エネルギー分解能 0.24 eV
掃引回数 1回
TOA 80˚(深)
印加電圧
VSD = -20~20 V , VG= -20~20 V (5 V step)
ビームダメージを回避するために入射X線の強度を
1/16に減衰させて測定している。
測定結果
Pentacene TFTの電気特性
Vth =-0.78 V
HAXPES測定に用いた試料はトランジスタを実現
電界効果移動度:µh = 0.17 cm2 V-1 s-1
測定結果
PEN C 1s のVG VSD依存性
負のVgを印加するとピークシフトはVgに比例しなくなる
PEN層中に正孔が移動し始めたことを反映
測定結果
Si 1s のVG VSD依存性
• Si 1sでは複数のピークが観察された
⇒SiO2層内には複数の状態のSiが存在
• 印加するVgの符号によって応答が変化
測定結果
VG VSD =-20 Vを印加した状態で繰り返しHAXPES測定
(デバイスのストレス試験を模擬)
測定回数の増加にともない、C 1sピークの光電子の運動エネルギーが大きくなる
VthとC1s光電子運動エネルギーの間には相関がある
まとめ
• HAXPES測定と同時に3端子2経路から電圧を印加できる機構を整
備することで、OTFT駆動中における有機半導体内および有機-絶
縁膜界面近傍の電位を観察した。
• 負のVgを印加するとPEN層内に正孔が移動している状態を反映し
て、C1s, Si1sスペクトルのピークエネルギーのシフト量が変化した
• SiO2層内には複数の状態のSiが存在していることが明らかとなった。
• Vthと光電子の運動エネルギーの間には相関があることが明らかと
なった。