クロロフィル蛍光法を用いた浮遊性有孔虫-藻類共生系の探究 ○ 高木悠花(早稲田大学/海洋研究開発機構),木元克典・藤木徹一(海洋研究開発機構) 湯浅智子(東京学芸大学) ,平野弘道(早稲田大学) 浮遊性有孔虫は,炭酸塩殻体を有する単細胞原生生物であり,その一部の種は光合成藻類と細胞 内共生(光共生,photosymbiosis)を営むことが知られている.それため浮遊性有孔虫は,炭酸塩生産 のみならず一次生産にも寄与する生物として,地球の炭素循環に貢献している.また,有孔虫宿主は 藻類の光合成産物を享受できるため,貧栄養な遠洋域で有利に生息できると考えられる.これらの特 徴から,浮遊性有孔虫共生系の光合成量を見積もり,また光共生生態そのものの多様性や系統上の位 置関係を明らかにすることは,物質循環の観点からも,浮遊性有孔虫の生態進化の観点からも重要で ある.しかし,浮遊性有孔虫は外洋性であり,個体の寿命が短く継代飼育も未だ確立されていないこ とから,生態学的情報の取得が容易ではなく,光共生生態の有無すら不明である種も多く存在するの が現状である.そこで本研究では,MR13-04 および KY14-09 の航海にて様々な有孔虫種を採取し,船 上での光合成の測定,加えて下船後に共生藻類の遺伝子解析を実施することで分類学的な検討を加え, 浮遊性有孔虫の光共生について網羅的,かつ多面的に理解することを目的とした. 本研究では,プランクトンネット鉛直曳き,および表層ポンプ採水の濾過により浮遊性有孔虫の 生体試料を採取し,船上で光合成の測定を行った.測定には,クロロフィル蛍光法のひとつである高 速フラッシュ励起蛍光法(FRR 法)を用いた.FRR 法では有孔虫の光合成を 1 個体で測定できるため, 各個体について,(1) クロロフィルの可変蛍光(Fv)から共生藻の有無を判別,(2) 最大蛍光収率(Fm) よりクロロフィル量を定量,(3) 光合成の生理特性(光合成活性 Fv/Fm,光の吸収効率 σPSII)の比較を 行った.また可変蛍光が検出された種については,(4) 宿主,共生藻両者の 18S rRNA の解析を行った. 採取された計 20 種の浮遊性有孔虫につい て 検 討 し た 結 果 , 恒 常 的 な 共 生 ( obligate symbiosis,9 種),恒常的な非共生 (non-symbiosis, 5 種) ,共生/非共生が一貫しない“条件的共生” (facultative symbiosis,6 種)が確認された. 恒常的な共生種では,有孔虫の殻体サイズとク ロロフィル濃度に有意な正の相関が見られた (図 1).有孔虫 1 個体あたりから検出される クロロフィル濃度は,有孔虫細胞内の共生藻密 度を反映するため,この関係は有孔虫のサイズ 増加に伴って共生藻数が増加することを意味 図 1 有孔虫サイズとクロロフィル濃度の関係. する.また共生藻の種類によって光合成の生理特性に違い があることも明らかとなり,遺伝子解析の結果では少なくとも 3 種類(Dinoflagellate,Pelagophyte, Prymnesyophyte)の共生藻が確認された.なお,本研究により新たに共生関係が確認された種もあり, 従来知られているものより多くの浮遊性有孔虫種について,藻類との共生関係を築いている可能性が 示唆された.
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