Title わが国の使用済核燃料再処理 Author(s) 井出野 - HERMES-IR

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わが国の使用済核燃料再処理
井出野, 栄吉
一橋論叢, 105(5): 573-589
1991-05-01
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/12511
Right
Hitotsubashi University Repository
わが国の使用済核燃料再処理
井 出 野 栄 吉
1緒 言
核燃料サイクルは,ウラン資源の入手,ウラン濃縮,燃料加工,使用済燃料
の再処理及び放射性廃棄物の処理処分等からなっている.
使用済燃料を再処理して得られる回収ウランとプノレトニウムは軽水炉,新型
転換炉及ぴ高速増殖炉において利用できる.
核燃料サイクルが確立されれぱ,プルトニウム及ぴ回収ウランの利用によっ
てウラン資源を有効利用できるぱかりでなく,これまでほとんど海外に依存し
ていたウラン濃縮,再処理等が国内でできることになるので原子カ発電の自主
性を一層向上させることが可能となる一したがって,核燃料サイクノレの確立は,
原子カ発電を準国産エネルギーとするために極めて重要な課題であると言える
のである.
核燃料サイクルの技術の定着と商業化には多くの困難を含んでいるため,今
まで核燃料加工事業のみが産業として確立されているに過ぎなかったが最近に
なり,ウラン濃紘使用済燃料再処理及ぴ低レベル放射性廃棄物処分が事業化
の段階を迎えようとするに至った.すなわち,青森県下北半島に蓮設される核
燃料サイクル三施設の民間事業化がそれである.ここで取り扱われる技術や物
質は国際的にみて極めて機徴なものであり,国の監督が必要である上,規模も
世界有数のものである。わが国はこれを実現することによって初めて核燃料サ
イクルを完結させた原子カ平和利用国となり得るのである.
本論文では,わが国初の民間による使用済燃料再処理の状況を眺めてみるこ
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(2) 一橘論叢 第105巻 第5号
ととする.
2再処理の経緯
、
1956年に策定された第1回原子力開発利用長期計画において,わが国の再
処理に関して初めて国の方針が示された・この方針の主眼は,1) 平和利用確 .
保の観点から再処理事業を原子燃料公社の独占事業とすること・2)小規模な
中間試験程度までの基礎的研究を差当たり原子カ研究所に行なわせるというこ
とであった.しかし,再処理試験装置の開発は困難に遭遇し,一方,海外では
再処理の技術情報が次第に公開され出したことから,原子カ研究所の成果の活
用は考慮に入れるとしても,基本的には海外からの技術導入によってバイロッ
トプラントを建設しようという考え方が有カになってきた。その緒果,1961
年に策定された第2回原子カ開発利用長期計画の中ではバイロヅトプラントを
1966年∼1970年に建設するとされ,1962年には海外事惜の視察結果に基づく
再処理専門部会の報告でO・7∼1t/日の再処理施設を1968年頃までに完成する
のが望ましいとされ,実用規模に近い施設を東海炉の使用済燃料排出に間に合
うように作ろうという方向が固まってきた、
即ち,原子カ研究所の研究成果は十分考慮するとしても,試験工場を建設せ
ずに,海外からの技術導入による実用規模の工場建設へと考え方が変化してい
ったのである.自主開発から技術導入への転換が生じたということである。
1963年,原子燃料公社は海外への発注を予備設計,詳紬設計,建設の三段
階で行なう方針の下に,競争入札で予傭設計を英国ニュークリアケミカルプラ
ント社(NCP)に発注した.ところがNCP社は詳細設計の段階になって予算
の数倍もの金額を要求してきた.原子燃料公社はやむなく,予備・詳紬一貫の
再入札に切り替え,1966年,結局仏国サンゴバン社(SGN)に発注をきめた. 、
当時,ドゴール大統領が対日原子カ協カで穣極的方針を打出していたこともあ
って,予算内で結着し,詳細設計は1969年に完成したi).
この間,原子カ研究所では,再処理分野における基礎研究を実用技術に橋渡
しすることを目的に,湿式およぴ乾式再処理法に関する研究を進めていたが,
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わが国の使用済核燃料再処理
(3)
1968年5月に研究炉使用済燃料(JRR−3号炉,アルミニウム被覆天然ウラン
金属燃料)の再処理試験で約18グラムの高純度プノレトニウムの分離に成功し
た.この主分離工程は湿式法の一種であるピュレヅクス法を採用したもので,
動燃事業団東海再処理工場建設の先駆けとなった.
一1967年10月に原子燃料公社を改組し発足した動カ炉・核燃料開発事業団
(動燃事業団)に対し,政府は19ア1年5月,再処理施設建設を認可した.ホヅ
ト試験は1977年に開始され1981年より本格運転が行なわれている.既に,平
均燃焼度28,000MWD/tの燃料を中心に若干のMOX燃料を含む約480t(1989
年3月現在)の燃料を処理し,ビュレヅクス技術に関する貴重な経験と技術デ
ータを蓄稜している2).
初期には試運転期に特有なトラブルが発生した、特に,酸回収蒸発缶や溶解
槽など腐食環境の大きい機器におけるビンホールのために運転申断を余儀なく
されたこともあった.現在は,遠隔保守・検査技術の開発,高性能耐食材料の
採用などの努カが払われ,安全運転を継続する条件を達成している.
しかし,1977年早々,動燃事業団東海再処理工場は,試験操業の開始を前に
して米国の核不拡散政策によってその運転に支障を来たすこととなってしまっ
た.わが国は米国提供の濃縮ウランを使用しており,その使用済燃料を再処理
するに当っては日米原子カ協定に基づいて米国の同意が必要であった.わが国
は,この米国の同意を取り付けるため,約9ヵ月かけて交渉を重ねた結果,交
渉が妥緒し,19η年9月東海再処理工場は漸く試運転に入るなど内外の政治
経済情勢の変化によって計画に遅れが生ずることもあった.
原子カ委員会は1982年6月,原子カ開発利用長期計画を策定した3).その後,
世界の原子カを巡る環境は大きく変化し,この環境変化を踏まえてわが国でも
新しい原子カの課運に対応していくことが必要となってきた.このため,原子
カ委員会はこれまでのわが国の開発路線を総点検し,新しい時代環境に適応し
た原子力開発利用に関する指針の大綱と基本的な施策の推進方策を明らかにす
る必要性が生じたとし,ユ986年4月,原子カ開発利用長期計画の見直しを行な
うことを決定し,長期計画専門部会を設澄し,審議を進めた結果,1987年6月,
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(4)
一橋論叢第105巻第5号
新しい原子カ開発利用長期計画が決定された4).ここにrはじめ」の部分を一
部抜粋する.
わが国の経済は,協調と相互依存を基調とする新しい国際化の時代を迎えて
いる.
この結果,経済安全保障,なかんずくその重要な要素であるエネルギーセキ
ュリティについても,自国のエネルギー確保だけの観点から捉えるという発想
は次第に時代の流れにそぐわなくなってきており,国際的な視点を取りこんで,
国際協調の中で達成していくという考え方が重視されるようになってきた.
原子カは,今後ともエネノレギーセキュリティを確保する上で重要な役割を果
たすものであるが,上記のようなエネノレギーセキュリティに対する考え方の中
で,わが国としては,諸外国との協調や相互理解の下に原子カ開発利用を推進
するとともに,新しい原子力技術や知識を創出することによって世界の発展に
貢献していく役割を担うことが従来以上に求められている.その際,わが国が
核不拡散上の国際的責務を果たすこと及び核不拡散と両立し得る平和利用を自
ら率先して推進し実証していくことが重要となってくる.
今日,各種のエネルギー間の競含関係が厳しさを増している中で,主要国の
原子カ開発利用は各国の国情を反映して多様化してきている.わが国としては,
国内に有力なエネルギー資源を有せず,一方で世界有数のエネルギー消費国で
あるという国憎を踏まえつつ,新しいエネノレギー情勢の下で長期的視点に立っ
てエネルギー供給における原子カの役割を見直していくことが求められている.
1986年4月に発生したチェルノブイリ原子カ発電所の事故によって,原子カ
施設の安全確保の重要性が強く再認識された.
この事故が国際社会に与えた影響は深刻で,一部の国では,原子カ発電の是
非をめぐる政治的対立を生ずるに至るなど,世界の原子カ開発利用の停滞を招
くことは避けられないとみられる.世界の原子カ関係者は,国際原子カ機関の
安金諮間委員会の提唱を踏まえ,常に安全優先の高い意識を持った人間と強固
な技術的基盤に立脚した「原子カ安全文化」を築きあげていくことを貝指すと
ともに,そうした努カを通じて原子力に対する信頼を取り戻すという大きな課
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わが国の使用済核燃料再処理 (5)
題に直面している。わが国も,原子カ開発利用における安全確保に更に率先し
て取り組み,国際協カの面でも稜極的にこれを推進していくことが必要である.
わが国の原子カ開発利用は潜実に進展している.それに伴い,次のような課
題が生じてきており,その対応を上記の時代環境の変化を踏まえて,これに対
処していくことが必要となっている、
(1)原子カ発電規模の将来見通しについてはエネノレギー需要の仰びの鈍化
等を踏まえ,関連する核燃料サイクル所要量を改めて見直すことが必要である.
(2)原子カ発電は,総発電電カ量で石油火カを上回り,また近年は設備利
用率も70%を超え,極めて優れた稼働実績を示す等主カ電源としての役割を
果たすまでに至っている.しかし,チェノレノブイリ原子カ発電所の事故を契機
として安全確保の重要性に対する認識が高まっていること及ぴ原油価格の低下,
円高等によって化石燃料による発電との間での経済性の差が狭まっていること
に対処していくことが必要となっている.原子カ発電が今後とも供給安定性に
優れた主カ電源としての役割を果たしていくためには,個々の原子カ発電プラ
ントのみならず,核燃料サイクルを含めた原子カ発電体系を総合的にとらえ,
安全性・信頼性・経済性を向上させていくための方途を明らかにして,それを
推進することが求められている、
(3)核燃料サイクルについては,今日の段階では,燃料カロエ事業が産業と
して確立しているだけであるが,ウラン濃縮,再処理及び低レベル放射性鹿棄
物の処分の各分野において,民間による事業化計画が進められている.この計
画は,核燃料サイクノレの確立及ぴプルトニウム利用体系への展開という観点か
ら,わが国の原子カ開発利用上画期的な意義を有するものである.これまでの
研究開発の成果を活かし,官民の密接な協カの下にこれらの核燃料サイクルの
事業化を成功させることが必要である.
このように使用済燃料の再処理は,ウラン資源の有効利用を進め,原子カ発
電に関する対外依存度の低減を図り,原子カによるエネルギー安定供給の確立
を目指す上からも,また,使用済燃料に含まれる放射性廃棄物の適切な管理と
いう観点からも重要であることを述べ,わが国においては,使用済燃料は再処
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(6) 一橋論叢 第105巻 第5号
理し,プノレトニウム及び回収ウランの利用を進めることを基本とし,プルトニ
ウム利用の自主性を確実なものとする等の観点から,再処理は国内で行なうこ
とを原則とし,国内における再処理能力を上回る使用済燃料については,再処
理するまでの間適切に貯蔵・管理することとし,海外再処理委託については,
内外の諸情勢を総合的に勘案しつつ慎重に対応することとするとしている・
わが国の使用済燃料は,それまでは国内において再処理することを原則とし
てはいたが,国内の能カを上回る使用済燃料は外国と再処理委託契約を結び再
処理を行なってきた.動燃事業団束海再処理工場は19η年9月以降1990年3
月まで累計482.5tの再処理を行ない,国際的な比較では軽水炉用濃縮ウラン
の再処理実績量は仏国についで世界第2位となってきてはいるが,年間約200t
の使用済燃料の再処理のため前回の1982年の原子カ開発利用長期計画で述べ
られているように「再処理については,大部分を海外への委託によって対応し
ていた」のである.わが国g軽水炉からでる使用済燃料について,電力業界は
英国原子燃料公社BNFLと仏国核燃料公社COGEMAとの間に,また,ガ
ス炉からでる使用済燃料については日本原子カ発電が英国BNFLとの間に再
処理委託契約を結んでおり,これらの契約に基づき,1988年度末までに,軽水
炉使用済燃料約3,400t,およぴガス炉使用済燃料約1・000tが英国及ぴ仏国に
輸送されている状況である.
再処理需要量は原子カ発電開発の進展に左右されるが,わが国では,1995年
前後までの再処理需要量は英国,仏国への海外委託と東海再処理工場で処理で
きるものの,それ以降に生ずる再処理需要については国内に民間再処理工場を
建設してそれに対応していく必要があるとされたのである.
3再処理工場の立地
本格的な商業規模の再処理工場の建設には,様々な立地条件を満たす必要が
ある.
たとえぱ,年間800tの処理能カを有する再処理工場建設を想定した場合,
地形,地質,気象などの自然状況や,交通,輸送,人口密度などの社会的条件
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わが国の使用済核燃料再処理
(7)
の外に,200万m2の用地,3,OOOt/日の淡水を必要とし,3,000t級の船舶が
複数隻停泊できる港湾建設の可能な地点がその対象となるという.同様に低レ
ベル放射性廃棄物の固化体を貯蔵する施設の場合にも,その輸送手段は船舶が
適しているので3,O00t級の船舶が接岸できる港湾が必要である.
さらに困難な間魑は,地元住民の理解と援助を得るため特段の努力を要する
ことである.
再処理工場立地選定では,過去に数地点に及ぶ立地侯補地が浮かんだが,い
ずれも調査の段階から立地技術上の問魑,地域住民の合意形成上での問題点な
どが提起され,具体的な計画として推進されるまでには至らなかった。一方,
低レベノレ放射性廃棄物の貯蔵施設については,一二の地点がその対象に上った
が具体的な進展はみられなかった.
こうした情勢の中で1983年の半ぱ頃から,青森県下北半島の大平洋沿岸地
域が核燃料サイクル基地として浮上してきた.同地域では1970年前後から石
油化学コンピナートの誘致を目指して,むつ小川原開発計画が進められ,港湾,
遣路,水道施設などが整備された5,280ヘクタールのrむつ小川原開発地域」
に2,800ヘクタールの工業用地が造成された.しかし,1973年の石油危機以降
の経済低成長により,この広大な地域には国家石油備蓄基地が建設されたのみ
であつた.
下北開発のための企業誘致にはこれまで二三の計画があったが下北半島の特
殊な立地条件のためいずれも成功しなかった.わが国経済の高度成長時代に芽
生えたrむつ小川原開発」も,中央官庁,県,財界の努カにもかかわらず困難
をきわめ,開発の衝に当ったむつ小川原開発株式会社は莫大な債務を抱えるま
でになってしまった.
この莫大な工業用地を下北開発のため活用しようとする県,地元自治体と再
処理工場を中心とする核燃料サイクル立地の早期確立を目指す電力業界の意向
とが合致して核燃料サイクノレ施設立地が具体化していった.
電気事業連合会は,1984年4月,九電カ会社の社長会で核燃料サイクル三施
設を下北半島太平洋岸に立地することを決め,青森県知事に申し入れた.青森
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一橋論叢第105巻第5号
県はこれに対し,1)地元の意向を尊重すること,2)国からも政策上の位置
づけを明らかにすること,3)具体的な立地地点を電気事業連合会または事業
主体の責任で明らかにすること,4)今後の検討は国の指導,援助の下に地元
とも連絡を密にして進めることの4条件を提示して協カを約した.
当初,核燃料サイクノレ三施設は,むつ小川原開発地域(六ヶ所村)と東北電
力,東京電力が確保している東通村の原子力発電所建設予定地とに分割される
案が有カであったが,1984年7月,電気事業連合会は核燃料サイクノレ三施設を
むつ小川原開発域内の六ケ所村に集中立地することとし,その旨を青森県に申
し入れた・再処理施設は同村弥栄平地区の350ヘクタール,ウラン濃縮施設及
ぴ低レベル放射性廃棄物貯蔵施設は同村大石平地区の300ヘクターノレと定めら
れ,港湾はむつ小川原港を利用する計画とされた5).
青森県は,工業センターを目指したむつ小川原開発の計画倒れを救う大規模
な核燃料サイクノレ施設が進出してくることを歓迎しながらも,県内の世論作り
を慎重に進め,専門家会議による安全性の究明を軸に,地域の指導者への説明
会や意見聴取会などを次々に開いた.1984年ユ1月,専門家会議が諸施設の安
全性は基本的に確立しうると報告したことにより,ユ985年1月,青森県六ヶ所
村議会は核燃料サイクノレ三施設の受入れを了承した.同年4月,安全対策の確
実な履行を前提に,1)原子カ損害については,原子カ損害賠償法により厳正
に対処し,風評被害についてもそれに備える措置を講ずる,2)地元参画,地
元雇用を穣極的に推進する,3) 多角的な企業立地の誘導,原子力関係教育・
研究機関の設置等,広く地域振興に協カする等の諸点を含む青森県,六ケ所村,
原燃サービス,原燃産業,電気事業連合会の五者による協定が締結され,ここ
に受け入れへの地元合意が形成されたのである6).
核燃料サイクノレ三施設建設の事業主体である日本原燃サービスと日本原燃産
業は,6月から立地調査を開始した.一方,むつ小川原地域の大規模な工業基
地開発を進めているむつ小川原開発は,1989年8月より核燃料施設事業用地
の造成工事に潜手し1988年12月に終了し,造成後,事業主体の前記二社に事
業用地を引渡した.
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わが国の使用済核燃料再処理 (9)
原子カ関係諸施設の安全性確保はその地域で生活する地域住民にとっては最
大の関心事であると思われる。原子カ関係諸施設のうち,原子カ発電所はすで
に運転されており,その経験から安全性に対する信頼は得られていると言える
が,核燃料サイクル施設に関しては,国内には例えぱ再処理のために動燃事業
団東海再処理工場があるとは言え,その規模は比較的小さい.核燃料サイクル
施設を地元行政側は,雇用の創出をはじめとして,地場産業の基盤整備など地
域振興に結ぴつけたいと念じ,事業者側は,地域との共存共栄の精神で建設,
運営する姿勢を示している.
一方,商業規模の核燃料サイクル施設を初めて受け入れる地域住民の関心婁
には,この諸施設を受入れることによって,事故が起こらなくても村内外の人
々にこの村は危険な村であるという印象を与えて自分達の生活に影響が生ずる
いわゆる風評被害一施設は技術的に安全性が確保されており,環境が汚染され
ていないのにもかかわらず,地域住民の農水産物が風評によって売れなくなっ
たり,安く買われてしまうことによる被害一があった.これについては1989
年3月先の五者は「風評による被害に関する確認書」を作り,風評被害基金制
度を設けてその対策を講じたのである.
4再処理工場の設備
わが国初の民間第一再処理]二場は,原子カ発電所等から生ずる使用済燃料の
再処理その他の事業を行なうため九電カ会社,日本原子カ発電株式会社及びそ
の他の企業により1980年3月設立された日本原燃サービス株式会社が青森県
上北郡六ケ所村弥栄平地区に建設することとなった.
再処理工場の年間最大処理能力は,わが国の原子カ発電設傭容量,使用済燃
料発生量の長期見通しのもとに,信頼性,経済性を考慮して年間800tとした.
この再処理工揚には,使用済燃料3,O00tの受入貯蔵施設と使用済燃料2,250t
相当の英国及び仏国からの高レベル返還廃棄物管理施設が附属する.
主要機器である使用済燃料のせん断器,連統式溶解槽は各2基,その後の工
程のウラン,プルトニウムおよび核分裂生成物の分離,精製,脱硝施設等は故
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(10)
一橋諭叢第105巻第5号
障が少ないとみられるため各一式一系統となっている、
再処理工場の製品となるウラン酸化物粉末の最大製造能カは4.6tノ日,ウラ
ン・プノレトニウム混合酸化物粉末の製造にはマイクロ波加熱方式が採用され,
最大108kgウラン・プルトニウムノ日となっているア〕.
日本原燃サービスは再処理を,r国内外で実証性の高い最良の技術を採用し,
再処理技術を日本に定着させる」との基本方針のもとに主工程については,1)
軽水炉燃料の再処理で最高の処理実綾を有し信頼性が高いこと,2)年間800
t規模の処理能力を有する先行プラントがあり,その運転経験が当該プヲント
に反映できること,3)動燃事業団東海]二場で採用している方式と同様の技術
であるのでその経験を活かし得ることなどを勘案し仏国の再処理技術ピュレヅ
クス法を導入することとし,1987年4月に仏SGN社再処理工場の主工程の技
術を導入するための技術移転契約を締結した.また,1987年6月には英BNFL
社と高レベル廃液濃縮工程及ぴ酸回収工程の減圧蒸発装置技術を,独DWK
社(原子燃料再処理会社)と溶解オフガス中のヨウ素除去技術をそれぞれ導入
するための技術移転契約を締結した.
さらに,1987年10月には再処理工場周辺施設の基本設計に関して,東海再
処理工場の運転経験を有する動燃事業団とコンサルタント契約を締結した8〕.
機器の詳細設計,製作及び据付けは,原則として技能レベノレが高く,品質管
理の優秀なメーカーに発注することとし,信頼性の確保を図るとともに,運転
開始後の保守に対して迅速かつ円滑に対応できるよう,また導入技術を十分消
化し国内定着化が達成できるよう考慮された.国内メーカーは全体の総括取り
まとめ及びせん断・溶解工程を三菱重工,酸回収工程及び排気処理工程を日立
製作所,清澄工程と溶媒再生系を東芝,核分裂生成物の除去及びウラン・プル
トニウム分離系を住友金属鉱山,精製工程を三菱金属がそれぞれ担当すること
となったg〕.
再処理工程施設で使用される主要なプロセス,使用機器などの概要を以下に
記述する1o).
1 せん断機
582
わが国の使用済核燃料再処理 (11)
せん断機には縦型築合体せん断機と横型集合体せん断機があり,縦型のもの
は仏国UP−2−HADで採用されているが,横型のものは動燃事業団でも十分
実績があり,新設される仏国のUP−3や英国のTHORPでも横型が採用予定
である・その他,横型にはせん断刃の粉末をかみ込む可能性がすくない等の利
点がある.これらの理由から横型集合体せん断機が採用された.
2溶解槽
溶解槽には回分式と連続式とがあり,英国,独国は回分式を,仏国は連続式
を採用している.達続式は処理能力を犬きくすることができ,運転手順も容易
であり,処理量に比し槽内の燃料のインベントリーを少なくできる等の利点が
ある、また,仏国における長年の技術開発の実繍があること,UP−3における
実規模運転の経験が反映できること等の利点もあり,連統溶解槽が採用された.
3清澄機
清澄機にはパルス7イルタと遠心清澄機がある.遠心清澄機は処理能力を大
きくできること,二次廃棄物の発生量が少ないこと等の利点がある.また,
UP−2−HAD,UP−3,THORPもすべて遠心清澄機を採用している.これらの
理由により遠心溝澄機が採用された.
4抽出機
バノレスカラムはミキサセトラに比較して以下の利点がある.
1)抽出器内の滞留時間が短かく,有機溶媒の放射線分解が少ない.
2) ホールドアヅプ量が少なく,処理能力が大きくなるので臨界安金管理が
容易である.
3)不溶解残澁を含む溶液の処理が容易である.
当工場は大容量1高燃焼度燃料を扱うため,臨界安全管理,処理量,溶媒損
傷等の観点から,分離工程,プノレトニウム精製工程の抽出器にはパルスカラム
を,他の工程にはミキサセトラを採用している.
また,パノレスカラムには円環型と円筒型があり,分離工程には安全管理が容
易な円環型が採用されている.
5高レベノレ鹿液蒸発缶と酸回収蒸発缶
583
(12) 一橋論叢 第105巻 第5号
この工程は腐食環境が厳しいことから,腐食環境緩和を貝的として,英国
THORPの減圧蒸発技術を採用する。
6 ウラン脱硝とウラン・プノレトニウム混合脱硝
ウラン脱硝には,UP−3やTHORPで採用されているアンモニア沈殿によ
る湿式法等に比して廃液の発生が少なく,また安定した運転が可能で動燃事業
団で実繍のある流動床方式を採用する.
ウラン・プノレトニウム混合脱硝には,しゅう酸沈殿による混式法に比して廃
液の発生が少なく,また核不拡散の観点からMOX混合転換が可能で,動燃
事業団でも実繍のあるマイクロ波加熱方式を用いる、
7高レベル廃液ガラス固化
世界で採用されているガラス固化法としては米国や独国で採用されているセ
ラミヅクメルタ方式(LFCM法)と,仏国や英国で採用されている金属メノレ
タ方式(AVH法)がある.
LFCM法はシステムが単純で,溶融炉も堅牢な構造で耐火性がある等の特
徴を有しているものである.動燃事業団が開発研究を進めてきたもので・安全
性,信頼性が十分に確保できる見通しが得られたことや動燃事業団の実績が利
用できることからLFCM法が採用された.
8’気体廃棄物処理(よう素除去)
気体廃棄物中の放射性よう素の除去については,UP−3やTHORPでは湿
式法が採用されているが,洗浄廃液の処理が問題となる・
当工場は,洗浄廃液の発生がなく,またよう素除去率のよい独国の再処理]二
場で実繍のある銀系吸着剤のよう素フィルタによる乾式法を採用した.
9液体廃棄物処理
THORPでは蒸発処理を,UP−3では低レベル廃液については凝集沈殿によ
る処理を行なっている.
当工場では,廃液の種類及び濃度に応じて,高レベル廃液処理設備の蒸発装
置,低レベル廃液処理設備の蒸発装置で処理し,放射性物質の量をできるだけ
低減化する.
584
(13)
わが国の使用済核燃料再処理
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585
(14) 一橋論叢第105巻第5号
ユ0 固体廃棄物処理
当ユ場では,再処理工場で発生する射放性廃棄物はできるかぎり再処理施設
内で貯蔵・管理し,その発生源に応じて減容,焼却。固化等の処理を行ない, ・
十分なしキヘい能カを有する廃棄物貯蔵設備に保管廃棄することにより一般公
象の線量当量の低減化を図る。 一
低レベル濃縮廃液は,丁耳ORPではタンク貯蔵しているが,当工場では乾
燥処理で固体にしてドラム缶詰めする・
廃溶媒は,UP−3,THORPではタンク貯蔵しているが,当工場では熱分解
処理で固体にしてドラム缶詰めする、
雑固体廃棄物は,UP−3ではコンクリート固化,THORPでは埋設している
が,当工場では焼却,圧縮後ドヲム缶詰めする.
六ヶ所事業所再処理工場,動燃事業団東海工場,UP−3及ぴTHORPの採
用技術の比較を表に示す。
5 日仏原子カ協カ協定の改訂
日仏両国は,19ア2年に日仏原子カ平和利用協カ協定を締結した・しかし,
その後,わが国は1976年に核兵器の不拡散に関する条約を,また19η年には
国際原子カ機関IAEAとの間にフノレ・スコープの保陣措置協定を締結した.
一方,仏国は1981年に欧州原子カ共同体EURATOM及ぴ国際原子力機関
]AEAとの間で保障措置を締結した.さらに国際的には1974年のインドによ
る核実験を契機に,平和利用目的で輸出された特殊核物質の転用防止の重要性
が再認識され,非核兵器国への原子カ資材等の移転に関する供給国グループの
指針であるロンドンガイドラインが作成される等の原子カ平和利用協力の規制
強化の動きがみられた. 。
1987年1月,日本原燃サービスが建設を計画している青森県六ヶ所村の使用
済燃料再処理工場に仏国のSGN社から原子力技術を導入することになった際, .
当時の日仏間の原子カ協カ協定には再処理技術などのいわゆるr機微技術」の
移転に関する規定がなかったため,日本側からは口上書を出し・技術移転の規
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わが国の使用済核燃料再処理 (15)
定を設定した。この口上書では移転される再処理技術について,平和的非爆発
目的への限定利用及びIAEAによる保障措置の適用等が日本の政策として表
明されているが,これはあくまでも政策表明に過ぎなかったため,いずれ法的
な枠作りが必要であると認識されていた.
このような事態に対処するため,当時の原子カ協力協定を改正することにつ
いて日仏双方が合意し,新協定は1990年7月に発効した.
この新協定は,青森県六ヶ所村の民間再処理工場への技術導入を期待し丁交
渉してきたもので。わが国が米国,英国など他の五ヵ国と締結している協定に
比し再処理等の機微な技術の規制を初めて本格的に盛り込だものとなっている
一方,1)再処理の事前同意は必要としない,2)技術移転の双務性の確保な
ど両国の対等性,自主性がはかられていることが大きな特徴となっている.
新協定では,協カ目的を単なる「平和的利用」から「平和的非爆発利用」に
変更し・また・核物質防護に関する規定を新たに盛り込んでいる.日米原子力
協カ協定のような「再処理の規制」,「20%を超えるウラン濃縮の規制」,「プ
ルトニウム・高濃縮ウランの貯蔵の規制」は規定されておらず,わが国の自主
性が確保された形となっている.
第三国への移転については・1)濃縮,再処理,重水生産の設備,2)20%
以上の濃縮ウラン,3) プルトニウム,4)機徴な技術及ぴ移転された機微な
技術に基づく設備などが,供給国側の事前同意なしには再移転できないことに
なっているli).
6結 言
わが国の原子カ発電は1990年4月に東京電カ柏崎刈羽5号(BWR,110万
kW)が運転開始したことにより,総発電設傭(事業用)は38基,3,038万
kWとなった(動燃事業団のATR原型炉「ふげん」をカロえると39基,3,054
万5000kW).その内訳は英国から導入したGCR(ガス冷却炉)1基16万
6000kW,米国技術を基にしたPWR(カロ圧水型軽水炉)17基,1,317万7000
kW,BWR(沸騰水型軽水炉)20基1,703万7000kWである12〕.この設傭容
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(16) 一橘論叢 第105巻 第5号
量は,米国(109基,1億263万7000kW),仏国(54基,5,364万8000kW),
ソ連(50基,3,755万kW)に次いで世界第4位となっている・
1989年度末時点での原子カ発電の総発電設備に占める割合は18%となった。
また総発電電カ量に占める割合は26%となり,東京電カ福島第二発電所3号
機(BWR,110万kW)が事故により長時間運転停止となっているため前年よ
り発電量は少くなっているものの,石油火カの発電量に次ぐものとなっている・
10年後には,それぞれ22%,34%となる計画となっており13),軽水炉による
原子カ発電は定着したとみてよい・
わが国は,これらの原子カ発電に必要な燃料であるウランを海外に依存して
いる.したがってウラン資源の利用効率を向上させ,原子カ発電の安定供給に
資する観点からは使用済燃料を再処理し,回収されるプルトニウム及ホウラン
を国産のエネノレギー資源として活用することは重要なことであり・また核不拡
散上の面からみても,プノレトニウムを適切な管理の下で平和利用として軽水炉,
高速増殖炉の燃料として活用することは望ましいことである.また再処理能カ
を上回る使用済燃料を再処理するまでの間一時貯蔵することは,現在軽水炉が
定着しさらに軽水炉の高度化が予測されるほか新型転換炉や高速増殖炉に対す
る経済的環境が厳しくなっている上,プルトニウムの需要動向は低迷している
状況を考慮すると,プルトニウムを燃料として必要な時期に必要な量を物理的
防謹の下で得る上で柔軟性のある対応であると言えよう.このように考えると,
今後は,原子力をめぐる環境を見極めつつ核燃料サイクルの定着化を図る努カ
をする上で恰好な時代になるものと思われる一
一方,わが国のように使用済燃料を再処理し,プルトニウムならぴウランを
回収し利用する再処理・リサイクル路線を基本方針とする国は他に仏国,英国,
独国などがあるが,自国内にウラン資源が豊宮であるか,他のエネルギー資源
が多く,原子カに重点を置く必要のない国では,使用済燃料を再処理せずに最
終処分を行なうワンススノレー路線(使い捨て路線)が採られている.例えぱカ
ナダは原子炉として天然ウラン装荷のCANDU炉を使用しており・ここで使
用後取り出された燃料は貯蔵される.原子炉からの使用済燃料は臨界条件がな
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わが国の使用済核燃料再処理
(17)
く高密度での貯蔵が可能であるが,燃焼度の低い使用済燃料が多量に発生する
ためそれに応じた広い貯蔵施設が必要となるほか,燃料の最終処分の対応や原
子カ以外のエネルギー源の開発が必要となるであろう.また,原子カ発電を現
有の12基の原子炉に凍縞し,2010年までに原子カ発電を全廃することを決
めたスエーデンでは使用済燃料を湿式の使用済燃料中間貯蔵施設に約40年間
貯蔵し放射能を減衰させた後最終処分を行なうとしている.なお貯蔵能カは
3,000tで将来9,000tまで拡張可能であるという.
各国の再処理に対する対応は各国がおかれている諸環境の相違によってそれ
ぞれ異なるものである.今後,わが国は原子カをめぐる環境の変化を見誤るこ
となく平和利用に徹してわが国の再処理事業の定潜化を図ることが重要となる
ものと思われる.
文 猷
1)
森一久綴,原子カは,いま,上巻,229頁,目本原子カ産業会議,19S6年.
2)
日本原子カ産業会議編,原子カ年鑑(平成2年版),159頁,日本原子カ産業会
議,平成2年.
3)
原子カ委員会編,原子カ白書(昭和5ア年版),224頁,大蔵省印刷局,昭和57年。
4)
原子カ委員会編、原子カ白書(日召和62年版),283員,大蔵省印刷局,昭和62年・
5)
笹生仁編,地域と原子カ,89員,実業公報社,昭和6C年.
6)
目本原子カ産業会議編,原子カは,いま,下巻,264頁,日本原子カ産業会議,
1986年.
7)
日本原子カ産業会議編,原子カ年鑑(平成2年版).2員,目本原子カ産業会譲,
8)
『司」ヒ, 161員.
9)
豊田正敏,原子カ]=業,第35巻,第9号,5頁,1989年、
平成2年.
10)
川勝理,原子カエ業,第35巻,第9号,9頁,1989年.
11) 日本原子カ産業会議編,原子カ年鑑(平成2年版),3買,236頁,日本原子カ
産業会議編,平成2年.
12) 同上,55頁、
13) 同上,61員.
(平成2年度科学研究費補助金一般研究Cによるものである)
(一橘大学教授)
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