会長就任のご挨拶

会長就任のご挨拶
河本 邦仁(名古屋大学)
これまで 3 期 6 年間梶川会長のもとで副会長を務め
て参りましたが、
本年度より会長を務めさせていただ
くことになりました。これから 2 年間、梶川先生の跡
を継いで学会が拡大発展していくよう微力を尽くし
て参りたいと存じます。
熱電を取り巻く社会状況は依然として厳しいもの
があります。
グローバル規模で起こる大きな社会変動
の中で遠い未来を視野に入れた地球の行方を思う立
場に立てば、
自ずと熱電の重要性が認識されるのです
が、我々会員はそう思っていても、世の中の多くの人
はそう思ってくれないのが現状です。しかし、一方で
は熱電の将来に大きな期待が寄せられていることも
確かです。
熱電理工学が人類にとって本当に必要な学
問・技術だと我々が信じるのであれば、
学問の進化
(深
化)
とともに社会に役立つ技術へ止揚する努力を今後
も続けて行かなければなりません。
熱電の分野では、
先進諸国は戦略的に研究費を投入
して新産業創出・人材育成に取り組んでいますが、日
本は盛り上がりに欠けていて大型投資が停滞してい
ます。今後は、熱電学会が核になって産官学が結集・
連携し、
さらに国際的なネットワークの中で戦略的な
熱電研究開発を進めて行かなければなりません。
こうした思いの中で、
今後の学会運営における3つ
の基本方針を掲げさせていただくことに致しました。
1. 学術研究レベルの向上
ゼーベック、ペルチエ効果が 19 世紀前半に発見さ
れてから 200 年が経とうとしています。発見から 100
年以上経た後、
第 2 次世界大戦後にようやく提案され
たビスマステルルが冷却用に細々と使われ続けてき
ました。1990 年代に入ってから、Dresselhaus の低次
元ナノ構造の提案と Slack の PGEC の考え方の提案
を契機に新材料の開発競争がはじまり、21 世紀にな
って“ナノ構造工学”(Nanostructure Engineering)によ
る膨大な数の新物質・材料が創製されてきました。
また、従来理論の範疇にない新たな現象や効果の発
見・提案もなされてきていますし、有機熱電材料や
無機/有機ハイブリッドなど新しい材料系の提案も
相次いでいます。こうした歴史の流れの中で、特に
最近 20 年間は米国が材料研究を牽引してきたとい
っても過言ではありません。日本、中国、EU もそ
れなりに頑張ってはいますが、正直なところ先導す
るレベルには達していません。しかし、米国がリー
ドしてきたにもかかわらず、真の意味で役に立つ材
料や技術が開発されてきたかというと、そうではあ
りません。その理由は、米国の研究開発の理念や方
向性に問題があったからと、私は見ています。日本
がこれから世界の熱電研究を牽引して社会に役立つ
熱電変換技術を創出していくためには、日本独自の
研究開発理念をベースに、学術研究レベルを今以上
に高めていく必要があると考えます。そのために学
会は、学会誌、学術論文誌の見直しと改革、学術講
演会・研究会等の充実を図っていく必要があると考
えています。また、表彰制度の見直しも行って、良
い研究、良い仕事をすればきちっと評価して表彰さ
れるようにすることで、色々な階層の人がエンカレ
ッジされる仕組みにしていきたいと思っています。
1. 熱電変換技術の産業化促進
熱電に対する社会の認知度が低い理由の一つに、
身
の回りに親しみを感じる応用例がないことが挙げら
れます。コストや適用温度範囲等に問題のある高 ZT
材料を使うことを前提にしたデバイスやシステムの
アイデアを考えるのには限界があります。
そのため応
用範囲も限られたものになってしまい、
我々の目に触
れる応用が出てこないのでしょう。しかし、固定観念
を捨てて、ZT は多少低くても、問題のない元素を組
み合わせて低コストで作れる材料を適用することを
考えれば、いろいろなアイデアが生まれ、将来の広範
な用途開発に繋がり新産業化を促すだろうと期待さ
れます。
学会として産業化促進をサポートする一つの
取り組みとして、
新しい熱電応用のアイデアを若い人
たちから募る「熱電応用アイデアコンペ」の企画を考
えております。その他、実用化・産業化を促すための
企画アイデアを広く募集し実行に移していきたいと
思っています。
2. 国際連携の推進
国際的な研究発表の場として主なものに ICT, ECT
がありますが、ここ 10 年の間に中国、韓国が力を付
けてきているアジアに国際的研究発表の場がありま
せん。
欧米だけでなくアジア地区にも連携ネットワー
クを作るため、日中韓が協力してアジア熱電会議
(ACT)を立ち上げる予定です。また、将来を見越
して、熱電関係の評価解析技術、材料作製技術等に関
する標準化を進めるための国際連携も強化したいと
思っています。
以上、
3つの方針にしたがって会員諸氏の研究活動
を側面から支えながら、
熱電理工学の進歩発展に貢献
するための学会運営を心がけたいと存じますので、
皆
様からも惜しみないご協力をいただけますよう、
何卒
よろしくお願い申し上げます。
The Journal of the Thermoelectric Society of Japan Vol. X No. Y (Month, Year)
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