View from the Top トップインタビュー 岩本 敏男 NTTデータ 代表取締役社長 リマーケティング手法を 活かし,国内外の市場へ さらなる飛躍 グローバル化が一段と加速する情報通信市 場 . N T T データは, その波 に乗 るべく Global One NTT DATA体制を開始し, 一丸となって世界市場を席巻しようと意気込 んでいます.いかなる戦略と視点を携えてい るのか,プロジェクトマネージャーとして手腕 ◆PROFILE:1976年日本電信電話公社に入社.1988年の NTTデータ通信株式会社(当時)分社以降,2004年取締役 決済ソリューション事業本部長,2007年取締役常務執行役 員 金融ビジネス事業本部長,2008年取締役常務執行役員 金 融分野担当を経て,2009年代表取締役副社長執行役員に就 任,2012年6月より現職. を発揮してこられた岩本敏男NTTデータ代表 取締役社長に,新中期経営計画などについて 伺いました. 現在,私たちは世界のITサービス市場のシェアでトップ 新鮮な視点と情報を持って,社会のニーズ, 構造の変化をしっかりと把握 6に位置しています.ランクでいえばトップ5まではもう 1つですが,5と6の間には大きな隔たりがあります.成 長は企業活動の根源であり,規模を活かした最高のサー ◆社長就任おめでとうございます.もっとも成し遂げたい ことからお聞かせいただけますか. 成し遂げたいことはさまざまありますが,新中期経営計 6 ビスをお客さまへ提供するため,国内外のグループの力を 結集して成長戦略をしっかり遂行していきます. 次に,EPS 20 000円を達成していこうと目標を立てた 画の大きな柱は2つです.チャレンジングではありますが, のは,グローバル企業として求められる企業価値向上への 1つはグローバルトップ5,もう1つはEPS(1株当りの 強い決意です.お客さま利益への貢献,社会への価値創 利益)20 000円を目指すことです. 出により,当社の価値も上げていきます.EPS 20 000円 NTT技術ジャーナル 2012.11 に向けては,今後4年間,純利益を毎年1割近くずつ上 げていかなければならず,まさにチャレンジングと思われ るかもしれません. しかし,国内外の60 000人近いグループ社員と一緒に, この目標に向かって進みたいというのが,私の現在の率直 な気持ちです. 新戦略は「リマーケティング」をキーワード に展開 ◆具体的な戦略をお聞かせいただけますか. 具体的な戦略は「リマーケティング」「ソフトウェア生 しし,人々に多くの幸福をもたらしていけるように努めて 産技術の抜本的な改革」「グローバルビジネスの拡大・充 いきたいと思っています. 実・強化」の3つです. ◆NTTデータはこれまで唯一無二の大規模なシステム開発 我々は,もちろんマーケティングに基づいて事業活動を を手掛けてきました.その経験から,日本国内における 行っています.過去のマーケティングの結果,無理だと諦 今後の課題や貴社の役割は何だとお考えですか. めたとすると,ずっと諦めたままの場合がある.しかし, 公共事業においては,解決が必要な課題が多々ありま 市場環境は時の経過とともに大きく変化しています.さ す.国民IDや税と社会保障の一体改革などもその1つで らに,我々の業界の技術は急速に進歩しています.以前 す.もちろん,私たちも積極的にお役に立てる活動を続 はお客さまのご要望にお答えできなかったことも,今では けていきたいと思います.特に公共システムにおいては, 実現できることが増えています. 我が国固有のシステムが大半です.ようするに,1つしか 私はこれを「残像」と言っており,かつてのマーケティ ないわけです.例えば,税関に関するシステムも日本には ングによって得た結果の「残像」を完全に消去し,再度, 1つしか必要ないわけですが,このシステムを応用して, 新鮮な目で市場を見つめ直せば,国内外で新たなマー 海外諸国にも使っていただけるように働きかけていきたい ケットを開拓できるかもしれません.これを「リマーケ ですね. ティング」と呼び,徹底的に取り組みたいと思っています. 金 融 業 界 も市 場 としては厳 しい状 況 にありますが, 「リマーケティング」にはもう1つの意味があります.社 マーケットが変われば,決済方法も変わります.これに合 会のニーズ,構造の変化をしっかりと把握することで,私 わせてIT 処理は変化していきますから,その変化に伴って たち独自のサービスを提供できますし,新しい市場をつく 私たちも優れたものを提供し,サポートしていきたいと り出すことができます.この活動にも継続して取り組みた 思っています. いと思っています. 次にソフトウェアの生産技術の抜本的な改革について 例えば,保険業務取り扱いの解禁で,銀行の窓口など 説明します.一般にソフトウェアの開発は,まず要件定 で販売できるようになったとき,その取り扱いシステムを 義を決め,それに従って基本,詳細設計を行い,プログ 開発しました.電子マネーのシステム構築も技術革新に ラミング,テスト,出荷というプロセスを取ります.この より実現しました.開発当時は大変な業務でしたが,こ 一連のワークロードを見渡してみると,人的稼働が集中 れも浸透定着し,お客さまに喜ばれるシステムづくりがで している工程があります.この人的稼働が集中している工 きたと自負しています. 程を,協力会社などと協力して乗り切っているのがソフト こうした制度の変更,規制緩和,技術革新による参入 ウェア業界の現状です.そして,コスト面からの配慮で労 の機会をとらえ,私たちがお役に立てることがあるのです. 働集約が必要な部分を国内ではなく海外企業へ委託して 新しいマーケットの開拓を目指すことで社会の進歩を後押 います. NTT技術ジャーナル 2012.11 7 これを踏まえて,工業界に目を移してみましょう.生産 編と「NTT DATAブランド」への統合を実施し,ほぼ確 工場はオートメーション化が進み,製品の品質の安定も 立しました.私はやっと第一ステージに立てた段階だと 図れるようになりQCD(Quality Cost Delivery)をきちん 思っています.我々のお客さまである多くの日系グローバ と担保できています.このシステムをソフトウェア業界に ル企業に対して,また,各地域のお客さまに対して迅速 も応用,導入できないかと常々私は考えています.労働 なサービス提供ができる環境が整いました.これからは第 集約型から知識集約型への変換です.重要な設計に注力 二ステージとして,世界中のNTTデータグループ社員が連 することやお客さまのご要望を引き出すことに優秀な人 携し,グローバルビジネスを拡大・充実・強化していき 材,マンパワーを投入したいのです. ます. 実は,30年ほど前にも挑戦したことがあるのですが実現 ただ,グローバルビジネスは単にビジネスを展開するだ しませんでした.コンピュータのパワーは今とは比べもの けの話ではありません.カルチャーの融合,人事の統合な にならないくらい乏しかったですし,そもそもコストが掛 どクリアしなければならない問題もありますが,これらを かり過ぎたのです. 乗り越えていきたいですね. しかし,今ならできます.我々がコンピュータパワーを 最大限に活用し,ソフトウェア生産技術を抜本的に改革 したいと思っています.すでにいくつかの大規模プロジェ 「ズームイン」と「歴史的視点」で自身の 役割を認識 クトでは,ほぼ100%のソフトウェア開発自動化が進んで います.これをブラッシュアップしていこうと思っていま ◆前回(本誌2010年5月号),お話を伺った際に印象に す.世界の牽引役としてのポジションも築き,日本発の 残りましたのが,社長自身が確信できる真実があるかど ビジネスモデルを提案していきたいですね. うか,またこの真実に基づいてビジネスを展開するとい 最後にグローバルビジネスについてお話します.現在, う志でした.社長に就任なさってこれらの目標を達成す 35カ国・地域,136都市の拠点で事業を展開しています. るにあたり,何を基軸になさるのでしょうか. これまでM&Aを中心に拡大してきたわけですが,2012年 「物事の見方」ですね.社員にも話していますが,次 1月から北米を皮切りに海外のグループ会社の統合・再 の2つの見方を大切にしています. 1つは「ズームイン」です.ネットワークが発達し,世 界中のことは手に取るように分かります.世界で何が起き ているかをまず見渡し,日本の位置付けや出来事,NTT データ,各セクション,各プロジェクト,そして家族や取 り巻く環境,最終的に自分へ視点を移していくのです. 世の中の動向を大きくとらえ,徐々に自身に落とし込ん でいく過程で,何をすべきか,どんな位置に立っているか が分かることがあるのです. もう1つは「歴史的視点」です.どこまでさかのぼるか は別として,例えばインターネットの歴史を例にとってみ ましょう.日本のインターネット元年を1995年とすれば, まだ20年も経っていません.世界的にみても,諸説ありま すがWebブラウザの普及の基軸となった1993年からわずか 20年あまり.ではコンピュータの歴史はどうでしょうか. 世界最初のコンピュータは1946年のENIACといわれてい ます.今と違ってアナログでしたが,コンピュータ誕生も たかだか65年ほど前です.それが,今やスマートフォンの 8 NTT技術ジャーナル 2012.11 ようなハンディのコンピュータを多くの人が携帯し,生活 や政治,経済,ビジネスシーンに大きく影響する時代を 迎えているのです.歴史的にみるというのは,あるポイン トに焦点を絞るのではなく,その経過を一貫して眺めてみ るという意味です.どのように発展していくかを見通すこ とができてくる.この観点から考えると,スマートフォン のコンセプトは変わらなくとも,5年後はそれに代わる何 かが誕生しているか,あるいは形を変えていると思います. ズームインの視点,歴史的視点を用いて,現在をとら えてその先にフォーカスしていくのです.これらの視点を ベースにして,目標を達成していきたいと考えています. 負があります.技術開発部隊がどういうツールをつくって ◆研究者の皆さんとプロジェクトマネージャーの皆さんに いくかは我々の根源ととらえています.また日本だけでは 一言激励をお願いします. なく,世界へ向けて,日本発の技術,サービスを発信し 研究者の皆さん,技術開発の目的は何かを明確にして ていきたいですし,そのための投資をしていきたいと思っ いきましょう.どういう情報社会をつくらなければいけな ています. いのかという視点を持って,近未来を見通す力をつけま プロジェクトマネージャーの皆さん,哲学者たれ.人は しょう.NTTのグループ各社と協力し合い,さらにアライ 感動と共鳴でなければ動きません.これを原点に,信念 アンスできるところはアライアンスをしていきたいです を持って人を動かしてほしい.この心構えは忘れないでほ ね.ビッグデータ,M2M,センサネットワーク,さま しいと思います. ざまなキーワードがあります.我々は技術の会社という自 (インタビュー:外川智恵/撮影:村岡栄治) インタビューを終えて 前回のインタビュー時,非常に軽快なジョークと語り口にすっかり引き込まれ てしまったのが印象に残っていました.2度目のインタビューである今回は,一 段とエネルギッシュになられていました. ショパン,円熟期の名作の1つとも数えられる「英雄ポロネーズ」.岩本社長 の登場とともにいずこからか聞こえてくるような気がするほどです. そんな岩本社長の原動力は,食べること,お酒を飲むこと,素敵な人と話す こと. 歯切れ良く,リズム良く,にこやかに話されます.「物理的には疲れるが,充 実した時間が過ごせている」と.時には,1人静かに過ごされることもあるとの こと.万物に表裏はあると実感する一言です.著書『IFRS時代のレポーティン グ戦略―XBRLで進化するビジネスのしくみ』(チャールズ・ホフマン氏と共著)では,IFRS時代のビジネスの変革 と未来展望について論じましたが,今後は歴代のトップのように哲学書の執筆へのご興味もおありだとのこと.タイ トルはやはり,岩本社長のキャッチフレーズを使った「真実一路の経営学」となるのでしょうか.ご上梓を楽しみに しております. NTT技術ジャーナル 2012.11 9
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