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Title
(プロ)レニン受容体細胞外領域の細胞内貯留と多量体形
成( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
中川, 千春
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第617号
Issue Date
2014-03-13
Type
博士論文
Version
none
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/49097
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
[11]
氏
名(本(国)籍)
中 川 千 春
(兵庫県)
学
位
の
種
類
博士(農学)
学
位
記
番
号
農博甲第617号
学 位 授 与 年 月 日
平成26年3月13日
学 位 授 与 の 要 件
学位規則第3条第1項該当
研 究 科 及 び 専 攻
連合農学研究科
生物生産科学専攻
研究指導を受けた大学
岐阜大学
学 位 論 文 題 目
(プロ)レニン受容体細胞外領域の細胞内貯留と多
量体形成
審
査
委
員
会
論
文
主査 岐阜大学 教 授
早 川 享 志
副査 岐阜大学 教 授
鈴 木 文 昭
副査 静岡大学 教 授
森
副査
中 川
の
岐阜大学 准教授
内
容
の
要
田 明 雄
寅
旨
(プロ)レニン受容体 [(P)RR]は、血圧調節を担う酵素レニンおよび、その不活性な前
駆体プロレニンの受容体である。(P)RR はレニンまたはプロレニンと結合することによ
り、細胞内情報伝達と、プロレニンの非タンパク質分解的な活性化を誘導する。レニン、
プロレニンとは独立した機能も報告されている。(P)RR は N 末端から、シグナルペプ
チド、細胞外領域、膜貫通領域、細胞質領域で構成される。全長型(P)RR は細胞内プロ
テアーゼにより、可溶型の N 末端断片[s(P)RR] と膜貫通型の C 末端断片(M8-9 フラグ
メント)に切断される。細胞外に分泌された s(P)RR は血中や尿中に存在しており、糖尿
病合併症や高血圧のバイオマーカーとしての可能性が期待されている。本研究では、レ
ニン、プロレニンの結合部位であり、s(P)RR に相当する(P)RR の細胞外領域に着目し、
分子細胞生物学の視点から、哺乳類細胞に発現させた(P)RR 分子の挙動や特性を解析し
た。
1.
(P)RR 細胞外領域の細胞内貯留
FLAG タグと His タグを付加したラット(P)RR 細胞外領域を遺伝子導入により
COS-7 細胞で一過性に発現させた。細胞溶解液と培養上清を SDS‐ポリアクリルアミ
ドゲル電気泳動後、イムノブロットで解析した。目的タンパク質は細胞溶解液に検出さ
れたが培養上清に検出されず、膜貫通領域と細胞質領域がないのにも関わらず、細胞内
に貯留することが明らかになった。
そこで、分泌型のグルタチオン S-トランスフェラーゼ (GST)をキャリアタンパク質
として、ヒト(P)RR 全長 (17-350 位)ならびに細胞外領域 (17-304 位) の融合タンパク
質、GST-FL と GST-ECD を作製し、COS-7 細胞と HepG2 細胞に発現させたところ、
先の実験同様、細胞溶解液に検出されたが培養上清には検出されなかった。小胞体貯留
シグナル KDEL を付加した GST-KDEL は、大部分が細胞溶解液に検出された。COS-7
細胞での免疫蛍光染色の結果、GST-FL、-ECD、-KDEL はいずれも小胞体様の細胞内
の膜構造に分布することが分かった。
GST 融合タンパク質の細胞内貯留が、(1)膜との直接的または間接的な安定した結合
によるのか、(2)回収装置による回収によるのかを明らかにするため、GST-FL、-ECD、
-KDEL をそれぞれ安定発現する HepG2 細胞株を作製し、界面活性剤を用いた二相分
配法で解析した。その結果、GST-KDEL(動的回収のモデルタンパク質)は水相に分
離された。これに対して、GST-FL だけでなく膜貫通領域を持たない GST-ECD も界面
活性剤相に分離された。このことから、GST-ECD は、直接または間接的な、膜との安
定した相互作用によって細胞内に貯留すると示唆された。
2.
(P)RR 多量体化における細胞外領域の関与
全長型(P)RR は、ホモ二量体 (多量体)を形成すると報告されている。しかし、多量
体化に係わる領域は明らかにされていない。(P)RR 細胞外領域が細胞内に貯留したこと
から、細胞外領域が全長型(P)RR に結合している可能性が考えられた。そこで、(P)RR
の多量体化に細胞外領域が係わっている可能性を検証した。
各種 GST 融合(P)RR 欠損変異体と、FLAG タグを付加した全長型ヒト(P)RR
[FLAG-h(P)RR]を HEK293T 細胞で一過性に発現させ、GST プルダウンアッセイによ
り相互作用を解析した。その結果、FLAG-h(P)RR は、GST-FL、GST-ECD、および
GST-ECDΔ4 (101-132 位を欠損した GST-ECD)の結合画分に検出され、複合体を形成
することが示された。FLAG-h(P)RR は、M8-9 フラグメント(282-350 位)を持つ
GST-M8-9 の結合画分にわずかに検出され、GST-KDEL の結合画分には検出されなか
った。免疫蛍光共染色の結果、COS-7 細胞に発現させた GST-ECD の細胞内分布は小
胞体マーカーの分布とほぼ一致した。
細胞内で作られた s(P)RR が全長型(P)RR と複合体を形成する可能性を検証するため、
C 末端に His タグを付加した全長型ヒト(P)RR を安定発現する CHO 細胞を作製した。
この細胞では、細胞内に、全長型に加えて s(P)RR、M8-9 断片が検出され、培養上清中
に s(P)RR が検出された。細胞外領域を認識する抗体を用いた免疫蛍光共染色の結果、
全長型(P)RR と s(P)RR は主として小胞体に分布した。His タグに対するアフィニティ
ー担体を用いたプルダウンアッセイの結果、s(P)RR が全長型の His タグ付加(P)RR と
共に結合画分に検出された。
以上の結果より、細胞外領域が(P)RR の多量体化に重要であり、17-100 位または
133-281 位、もしくはその両方に相互作用部位が存在することが示唆された。
本研究で、(P)RR の細胞外領域が多量体形成に重要な領域であることが明らかになっ
た。また、全長型(P)RR と複合体を形成して細胞内に貯留している s(P)RR の存在が明
らかになった。本研究で得られた知見は、(P)RR の多彩な機能において何らかの役割を
果たしているであろう s(P)RR の分泌調節メカニズムを明らかにする手掛かりとなると
期待される。
審
査
結
果
の
要
旨
(プロ)レニン受容体 [(P)RR]は、血圧調節を担う酵素レニンおよび、その不活性な前
駆体プロレニンの受容体である。(P)RR はレニンまたはプロレニンと結合することによ
り、細胞内情報伝達と、プロレニンの非タンパク質分解的な活性化を誘導する。レニン、
プロレニンとは独立した機能も報告されている。(P)RR は N 末端から、シグナルペプ
チド、細胞外領域、膜貫通領域、細胞質領域で構成される。全長型(P)RR は細胞内プロ
テアーゼにより、可溶型の N 末端断片[s(P)RR] と膜貫通型の C 末端断片(M8-9 フラグ
メント)に切断される。細胞外に分泌された s(P)RR は血中や尿中に存在しており、糖尿
病合併症や高血圧のバイオマーカーとしての可能性が期待されている。本研究では、レ
ニン、プロレニンの結合部位であり、s(P)RR に相当する(P)RR の細胞外領域に着目し、
分子細胞生物学の視点から、哺乳類細胞に発現させた(P)RR 分子の挙動や特性を解析し
ている。
1.
(P)RR 細胞外領域の細胞内貯留
FLAG タグと His タグを付加したラット(P)RR 細胞外領域を遺伝子導入により
COS-7 細胞で一過性に発現させた。細胞溶解液と培養上清を SDS‐ポリアクリルアミ
ドゲル電気泳動後、イムノブロットで解析した。目的タンパク質は細胞溶解液に検出さ
れたが培養上清に検出されず、膜貫通領域と細胞質領域がないのにも関わらず、細胞内
に貯留することが明らかになった。
そこで、分泌型のグルタチオン S-トランスフェラーゼ (GST)をキャリアタンパク質
として、ヒト(P)RR 全長 (17-350 位)ならびに細胞外領域 (17-304 位) の融合タンパク
質、GST-FL と GST-ECD を作製し、COS-7 細胞と HepG2 細胞に発現させたところ、
先の実験同様、細胞溶解液に検出されたが培養上清には検出されなかった。小胞体貯留
シグナル KDEL を付加した GST-KDEL は、大部分が細胞溶解液に検出された。COS-7
細胞での免疫蛍光染色の結果、GST-FL、-ECD、-KDEL はいずれも小胞体様の細胞内
の膜構造に分布することが分かった。
GST 融合タンパク質の細胞内貯留が、(1)膜との直接的または間接的な安定した結合
によるのか、(2)回収装置による回収によるのかを明らかにするため、GST-FL、-ECD、
-KDEL をそれぞれ安定発現する HepG2 細胞株を作製し、界面活性剤を用いた二相分
配法で解析した。その結果、GST-KDEL(動的回収のモデルタンパク質)は水相に分
離された。これに対して、GST-FL だけでなく膜貫通領域を持たない GST-ECD も界面
活性剤相に分離された。このことから、GST-ECD は、直接または間接的な、膜との安
定した相互作用によって細胞内に貯留すると示唆された。
2.
(P)RR 多量体化における細胞外領域の関与
全長型(P)RR は、ホモ二量体 (多量体)を形成すると報告されている。しかし、多量
体化に係わる領域は明らかにされていない。(P)RR 細胞外領域が細胞内に貯留したこと
から、細胞外領域が全長型(P)RR に結合している可能性が考えられた。そこで、(P)RR
の多量体化に細胞外領域が係わっている可能性を検証した。
各種 GST 融合(P)RR 欠損変異体と、FLAG タグを付加した全長型ヒト(P)RR
[FLAG-h(P)RR]を HEK293T 細胞で一過性に発現させ、GST プルダウンアッセイによ
り相互作用を解析した。その結果、FLAG-h(P)RR は、GST-FL、GST-ECD、および
GST-ECDΔ4 (101-132 位を欠損した GST-ECD)の結合画分に検出され、複合体を形成
することが示された。FLAG-h(P)RR は、M8-9 フラグメント(282-350 位)を持つ
GST-M8-9 の結合画分にわずかに検出され、GST-KDEL の結合画分には検出されなか
った。免疫蛍光共染色の結果、COS-7 細胞に発現させた GST-ECD の細胞内分布は小
胞体マーカーの分布とほぼ一致した。
細胞内で作られた s(P)RR が全長型(P)RR と複合体を形成する可能性を検証するため、
C 末端に His タグを付加した全長型ヒト(P)RR を安定発現する CHO 細胞を作製した。
この細胞では、細胞内に、全長型に加えて s(P)RR、M8-9 断片が検出され、培養上清中
に s(P)RR が検出された。細胞外領域を認識する抗体を用いた免疫蛍光共染色の結果、
全長型(P)RR と s(P)RR は主として小胞体に分布した。His タグに対するアフィニティ
ー担体を用いたプルダウンアッセイの結果、s(P)RR が全長型の His タグ付加(P)RR と
共に結合画分に検出された。
以上の結果より、細胞外領域が(P)RR の多量体化に重要であり、17-100 位または
133-281 位、もしくはその両方に相互作用部位が存在することが示唆された。
本研究で、(P)RR の細胞外領域が多量体形成に重要な領域であることが明らかになっ
た。また、全長型(P)RR と複合体を形成して細胞内に貯留している s(P)RR の存在が明
らかになった。本研究で得られた知見は、(P)RR の多彩な機能において何らかの役割を
果たしているであろう s(P)RR の分泌調節メカニズムを明らかにする手掛かりとなると
期待される。
以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位論
文として十分価値あるものと認めた。
基礎となる学術論文
(1)
題目:Intracellular retention of the extracellular domain of the (pro)renin receptor in
mammalian cells
雑誌名:Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
年号:2014 年(印刷中)
著者:SUZUKI-NAKAGAWA, Chiharu; NISHIMURA, Misa; NODA, Masako; IWATA,
Hideyuki; HATTORI, Masaru; EBIHARA, Akio; SUZUKI, Fumiaki; NAKAGAWA,
Tsutomu
(2)
題目:Participation of the extracellular domain in (pro)renin receptor dimerization
雑誌名:Biochemical and Biophysical Research Communications
年号:2014 年(印刷中)
著者:SUZUKI-NAKAGAWA, Chiharu; NISHIMURA, Misa; TSUKAMOTO, Tomoko;
AOYAMA Sho; EBIHARA, Akio; SUZUKI, Fumiaki; NAKAGAWA, Tsutomu