1.標題:結晶構造解析を用いた薬剤耐性 B 型肝炎ウイルスの出現

1.標題:結晶構造解析を用いた薬剤耐性 B 型肝炎ウイルスの出現メカニズムの解析
区分
学内公募
所属
医学研究科
補職
助教
氏名
尾曲
分担者
なし
ウイルス学
克己
2.要旨:
B 型 肝 炎 ウ イ ル ス の 治 療 薬 で あ る 、逆 転 写 酵 素 阻 害 剤 の 耐 性 ウ イ ル ス の 出 現 が 問 題 と な
っている。本研究では、耐性出現を許さない新規薬剤をデザインするために、薬剤開
発に必須な逆転写酵素の活性部位の原子レベルでの立体構造を明らかにする。 コムギ
無細胞発現系にて蛋白質発現させ、得られた蛋白質を結晶化 に供した。本研究から、
新規阻害剤開発に必要な蛋白質結晶構造解析の基盤技術を確立できた。
キ ー ワ ー ド : B 型 肝 炎 ウ イ ル ス 、 逆 転 写 酵 素 、結 晶 構 造 解 析 、新 規 阻 害 剤 、コ ム ギ 無 細 胞
発現系
3.概要
①研究目的:
B 型 肝 炎 ウ イ ル ス (HBV)の 治 療 薬 で あ る 、逆 転 写 酵 素 阻 害 剤 の 耐 性 ウ イ ル ス の 出 現 が 問 題
と な っ て い る 。 現 在 、 日 本 と 世 界 で 広 く 用 い ら れ て い る HBV の 逆 転 写 酵 素 阻 害 剤 で あ る
Entecavir(ENT)は 耐 性 株 の 出 現 率 が 低 い と 報 告 さ れ て い る が 、 先 行 し て 利 用 さ れ た 阻 害 剤
か ら の 切 り 換 え に よ り 、 耐 性 の 出 現 頻 度 が 高 く な っ て い る (Mukaide,, 2010) 。 今 後 、 ENT
耐性株が増加することが予想される。この耐性株に対する治療薬は、現在、知られていな
い 。 こ の 耐 性 株 に 対 す る 治 療 薬 の 条 件 は 、 ENT と 異 な る 作 用 機 序 を 持 ち 、 耐 性 プ ロ フ ィ ー
ル が ENT と 異 な る こ と で あ る 。 こ れ ら の 条 件 を 満 た す 阻 害 剤 を デ ザ イ ン す る に は 、 逆 転 写
酵素活性部位の立体構造に立脚した、活性メカニズムや阻害剤の作用機序を明かにする必
要がある。本研究では、耐性出現を許さない新規薬剤をデザインするために、薬剤開発に
必 須 な 逆 転 写 酵 素 (RT)の 活 性 部 位 の 原 子 レ ベ ル で の 立 体 構 造 を 明 ら か に す る 。
②研究方法:
コ ム ギ 無 細 胞 発 現 に は 、セ ル フ リ ー サ イ エ ン ス 社 WEPRO シ リ ー ズ を 利 用 し た 。ま ず 、蛋
白 質 発 現 用 の ベ ク タ ー を 作 成 し た 。発 現 領 域 は 、RT 領 域 全 長 と N 末 端 と C 末 端 を 切 断 し た
RT(∆NC)と し た (図 1)。 こ れ ら の 蛋 白 質 に は 、 精 製 用 の タ グ と し て 、 GST と His の 両 方 を N
末 端 に 付 加 し て あ る 。 蛋 白 質 発 現 の 手 順 は 、 WEPRO の マ ニ ュ ア ル に 従 っ て 行 っ た 。 大 ま か
な手順は次に示したとおりである。まず、発現プラスミドから発現領域の蛋白質をコード
す る mRNA を 合 成 し 、 そ の 後 、 mRNA を 翻 訳 反 応 液 に 加 え 、 20 時 間 反 応 後 、 翻 訳 産 物 を 確 認
し た 。 蛋 白 質 合 成 確 認 の た め に 、 翻 訳 産 物 を 遠 心 し 、 上 清 を SDS-PAGE と Western Blot に
供した。蛋白質の結晶化には、結晶化スクリーニングキットを用いた。
③研究成果及び考察とまとめ:
コ ム ギ 無 細 胞 発 現 系 に て 蛋 白 質 発 現 を 調 べ た 。 発 現 さ せ た 領 域 は 、 RT 領 域 に 限 定 し 、
昆 虫 細 胞 発 現 系 と 同 様 に RT 領 域 全 長 (RT)と 、N 末 端 と C 末 端 を 切 断 し た 領 域 (RT(△ NC))
と し た (Fig. 1) 。 His タ グ を 付 加 し た 蛋 白 質 を His-RT, GST タ グ を 付 加 し た 蛋 白 質 を
GST-RT と し て 示 し て あ る 。 His-RT、 GST-RT と も に 蛋 白 質 の 発 現 を 確 認 で き た 。
Figure 1: HBV polymerase の ド メ イ ン 構 造
RT ド メ イ ン の み を 蛋 白 質 発 現 に 供 し た 。
発現した蛋白質が可溶性であるか不溶性であるかを調べるために、蛋白質合成反応液を
遠 心 し 、 遠 心 後 の 上 清 を SDS-PAGE と Western Blot に 供 し た 。 His タ グ を 付 加 し た 蛋 白
質 は 遠 心 後 の 上 清 に 確 認 で き な か っ た が 、 GST-tag つ き の 蛋 白 質 を 発 現 さ せ た 結 果 は 遠 心
前 と 遠 心 後 で SDS-PAGE の バ ン ド の 濃 淡 が わ ず か に 減 少 し た だ け で 、 蛋 白 質 量 に わ ず か
な変化しかないと考えられる。
次 に 、RT 領 域 の N 末 端 と C 末 端 を 切 断 し た 蛋 白 質 の 発 現 を 行 っ た 。そ れ ら に His タ グ
を 付 加 し た も の を His-RT(Δ NC), GST タ グ を 付 加 し た も の を GST-RT(Δ NC)と し て 示 し
て あ る 。RT 全 領 域 の も の と 比 べ 、His-tag を 持 つ 蛋 白 質 も 少 し 可 溶 化 し た 。一 方 、GST-tag
を持つ蛋白質は遠心前後の上清中の蛋白質量に違いはなかった。そのため、今回は可溶性
で あ る GST-tag 付 き 蛋 白 質 の 発 現 を 利 用 す る こ と に し た 。
蛋 白 質 合 成 反 応 後 の 産 物 に は 、目 的 の GST 融 合 蛋 白 質 以 外 の 、蛋 白 質 合 成 に 必 要 な 蛋 白
質が粗雑物として含まれる。これらの粗雑蛋白質をアフィニティーカラムにて除き、目的
の蛋白質のみを精製した。まず、蛋白質合成後の反応溶液を遠心し、上清をアフ ィニティ
ー カ ラ ム に 供 し た 。 こ れ ら の 精 製 サ ン プ ル を SDS と western blot に 供 し た 。 精 製 前 に は
目 的 の 蛋 白 質 以 外 の 粗 雑 蛋 白 質 が 多 数 含 ま れ て い た が 、 精 製 後 の 産 物 を SDS-PAGE に 供
す る と 目 的 蛋 白 質 の バ ン ド の み が 確 認 で き た (Fig. 2)。
こ れ ら の 精 製 蛋 白 質 は 、 目 的 の 蛋 白 質 の 分 子 量 (そ れ ぞ れ 75kDa, 87kDa)と 一 致 す る 。
ま た 、Western blot に て 目 的 の 分 子 量 の 位 置 に サ ン プ ル バ ン ド を 確 認 で き た 。こ の GST-RT、
GST-RT(Δ NC)の ア ミ ノ 酸 配 列 を ア ミ ノ 酸 配 列 解 析 に 供 し 、発 現 蛋 白 質 が HBV RT 領 域 を
発現していることを確認した。蛋白質発現量を調べるとコムギ無細胞発現系では、精製後
の GST-RT お よ び GST-RT(Δ NC)の 発 現 量 は 、Bradford 法 で 50-100μ g/mL 程 度 の 蛋 白 質
が 発 現 し て い る 事 が 分 か っ た 。こ の 発 現 量 は 、結 晶 構 造 解 析 に 一 般 的 に 利 用 さ れ る 発 現 系 、
大 腸 菌 や 昆 虫 細 胞 発 現 系 に 比 べ 、 発 現 量 が 10 倍 以 上 低 い 。 発 現 量 が 少 量 で あ る の を 改 善
するために、コムギ無細胞系発現用の合成機を利用して、高効率で蛋白質を発現・精製で
きることが分かった。
Figure 2: RT 発 現 の 確 認
コ ム ギ 無 細 胞 発 現 系 に て 発 現・精 製 し た 蛋 白 質
を SDS-PAGE(左 )お よ び western blot(右 )に て 確
認 し た 。 Lane 1: Crude, Lane 2: extract.
蛋白質の結晶化スクリーニング
蛋 白 質 の 結 晶 化 に 必 要 な 蛋 白 質 量 は 、1mg/mL 以 上 で あ る こ と が 経 験 的 に 分 か っ て い る 。
コムギ無細胞発現系から得られた蛋白質を目的濃度に濃縮して、結晶化に要求される濃度
の蛋白質を準備した。この蛋白質を利用して、蛋白質の結晶化スクリーニングを行った。
考察
コ ム ギ 無 細 胞 発 現 系 に て 、 可 溶 性 の RT 領 域 の 発 現 を 確 認 し た 。 本 研 究 に よ り 、 RT を
50-100μ g/mL 以 上 発 現 す る こ と が 可 能 と な っ た 。 こ の 蛋 白 質 を 利 用 し て 、 蛋 白 質 の 結 晶
化スクリーニングを行い、結晶構造解析に適した結晶が得られるか検討している。良質な
蛋白質結晶が得られたら、回折実験を行い、結晶構造を決定する。