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Lipid Journal
テーマ
監 修
small, dense LDL
昭和大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門 教授 平野 勉 先生
Q1
?
small, dense LDL とは何ですか?
A1
LDL は比重1.019~1.063g/ml の幅広いリポ蛋白の集合であり、粒子サイズの
異なる幾つかの亜分画より構成されています。このうち粒子サイズが小さく、比
重の重い LDL を小型高密度 LDL(英語では small, dense LDL(sd LDL)
)と言
います。
Austin、Krauss らは電気泳動を用いて LDL の平均粒子直径を測定し、直径25.5nm 以下
の sd LDL を主に有する症例をパターン B、正常の LDL 粒子サイズを有する症例をパターン
A と命名しました。そして、パターン B における冠動脈疾患(CHD)の発症頻度は、パター
ン A に比べて3倍も高率であったことを見出しています。
現在までに sd LDL は LDL 以上に CHD と関連していることが数多く報告されています。sd
LDL は、CHD の最大の危険因子である LDL よりも動脈硬化惹起性が強いことから、
「超悪玉
コレステロール」というニックネームがあります。
Large
粒子サイズ
Small
Light
比 重
Heavy
Chylomicron
VLDL
LDL
Large, buoyant LDL
図1.リポ蛋白の粒子サイズと比重
Small, dense LDL
HDL
Q2
?
small, dense LDL はどのような構造ですか?
A2
LDL の主要構造蛋白はアポ B であり、LDL1粒子につき1分子存在します。
一方、small, dense LDL(sd LDL)の構造上の特徴はコレステロール含有量の
減少です。粒子径を規定する脂質のコレステロールが少ないため小さく、また1
分子のアポ B に対してコレステロールが相対的に減少していることから比重も重
くなります。
sd LDL は、粒子直径が25.5nm 以下、比重が1.044~1.063g/ml と定義されています。
小型高密度 LDL
普通サイズの LDL
(small, dense LDL)
コレステロール
アポ B
平均粒子直径 25.5nm 以下
比重 1.044−1.063g/ml
コレステロール
アポ B
平均粒子直径 25.5nm 以上
比重 1.019−1.044g/ml
図2.small, dense LDL の構造
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学術営業推進部 東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号
TEL 03-6214-3231(代表) FAX 03-6214-3241
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監 修
small, dense LDL
昭和大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門 教授 平野 勉 先生
Q3
?
small, dense LDL の生成機序について教えて下さい。
A3
small, dense LDL(sd LDL)がいかにして生成されるかには諸説ありますが、
LDL サイズを規定する最も強力な因子はトリグリセリド(TG)濃度であり、高
TG 血症では一般的に LDL は小型化することが分かっています(図1)
。
Packard らは、血中で VLDL が LDL に変換される際に2つの代謝速度の異なる
プールを想定し、高 TG 血症では大型の VLDL(VLDL1)が血中クリアランスの遅いプール
で異化され、sd LDL が産生されることを示しています(図2)
。
また、TG に富む大型の VLDL1はインスリン抵抗性があると増加し、小型の VLDL2はイン
スリンの影響を受けないとされています。VLDL1は sd LDL の前駆体であることから、イン
スリン抵抗性があると sd LDL が優先的に生成されることになります。
さらにインスリン抵抗性存在下では、肝性 TG リパーゼ(HTGL)は増加傾向を示します。
HTGL は TG リッチな LDL を水解して脂質成分に乏しい LDL を生成するため、その活性上昇
もまた、sd LDL の増加を引き起こします。
このほか、高 TG 血症下では VLDL の TG が HDL に転送され、TG リッチとなった HDL が
LDL に TG を渡して、LDL からコレステロールを引き抜くため、LDL のコレステロールが減
少して sd LDL が生成されるとする説もあります。
LDL 直径
(Å)
Hirano T, et al: Atherosclerosis 141: 77-85, 1998
280
270
正常インスリン感受性
LPL
VLDL2
260
VLDL
レムナント
LPL
LPL
250
small, dense
LDL
IDL
HTGL
IDL
240
HTGL
LDL
230
Large VLDL
(VLDL1)
インスリン抵抗性
r=-0.766
p<0.0001
0
100
200
300
400
血清トリグリセリド(mg/dl)
図1.LDL サイズとトリグリセリドとの関係
LDL (TG-rich)
500
HTGL
small, dense LDL
図2.インスリン抵抗性と small, dense LDL の関係
Q4
?
small, dense LDL はなぜ動脈硬化惹起性が強いのでしょうか?
A4
small, dense LDL(sd LDL)は、LDL を異化する LDL レセプターに対する親
和性が低下しており、血中滞在時間の長いことが知られています。一般的に正常
サイズの LDL の血中滞在時間は2日、sd LDL のそれは5日と言われています。
このため、sd LDLは血管壁と接触する機会が多いと言えますが、それ自身が小
型であることと相まって血管壁に侵入しやすく、
酸化変性というストレスにさらされやすいと
いう側面を有しています。
さらにこの酸化ストレスに対して、正常サイズの LDL はビタミン E やユビキノール10とい
った抗酸化物質によって保護されていますが、sd LDL は抗酸化物質に乏しく酸化変性を受け
やすいという特徴も有しています。
以上のことから、sd LDL はアテローム性動脈硬化の主因である酸化 LDL の良き原料と考え
られています。
血管内皮
正常サイズの LDL
肝 LDL 受容体へ
small, dense LDL
②
血管内皮
③
血中滞在時間2日
①
血中滞在時間5日
酸化
マクロファージ
泡沫細胞
酸化 LDL
①LDL 受容体への結合能が低下し、血中に滞留しやすい。
②小型なので、血管内皮下への侵入が容易。
③抗酸化物質に乏しいため酸化されやすい。
small, dense LDL は酸化 LDL のよき材料
図3.small, dense LDL の動脈硬化惹起性
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small, dense LDL
昭和大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門 教授 平野 勉 先生
Q5
?
small, dense LDLと疾患・病態との関係について教えて下さい。
A5
small, dense LDL(sd LDL)は動脈硬化惹起性が強く、特に冠動脈疾患(CHD)
の強い危険因子とされています。
インスリン抵抗性を有する疾患・病態の代表である2型糖尿病やメタボリックシ
ンドロームで増加します。LDL-Cはメタボリックシンドロームでは増加しないため、
sd LDL は「メタボリック LDL」とも表現できます。
遺伝的に脂質異常症をきたし、CHDを高頻度に引き起こす家族性複合型高脂血症(FCHL)
では sd LDL が著明に増加します。
冠動脈疾患(CHD)との関係
図は CHD 患者が運ばれて、すぐに採血をした時のデー
タです。図中のコントロール群とは健常人ではなく、後
にカテーテル検査で陰性であった人を指します。LDL-C
はコントロール群と CHD 群とで差はありませんでした
が、アポ B は CHD 群で有意に増加していました。アポ
B はおおよその LDL 粒子数を表しますので、CHD 群で
はLDL1粒子当たりのコレステロール含量が少なく、粒子
が小型化していることが考えられます。換言すれば、sd
LDL の増加が示唆されています。事実、LDL サイズを調
べたところ、CHD と診断された人の4人に3人(75%)
は LDL サイズが小さく、パターン B に該当しました。
2型糖尿病との関係
一般的に糖尿病は「TG が高く、HDL-C は低い」と
言われ、LDL-C はそれほど増加しません。本データ
においてもLDL-Cは若干増加する程度でした。また、
両者における LDL-C の差は2型糖尿病における sd
LDL-C の増加に起因しており、正常サイズの LDL-C
は増加していませんでした。
メタボリックシンドロームとの関係
“メタボリックシンドロームでは LDL-C が増加する”
と言う表記がないのはなぜかと言いますと、メタボ
リックシンドロームでは元々大型の LDL-C は増加せ
ず、sd LDL-Cだけが増える病態であるためです。ま
た、sd LDL-Cは高分子量アディポネクチンと負に相
関し、HOMA-Rとは正に相関しました。このような
様々な要素から、我々は sd LDL を“メタボリック
LDL”と名付けました。LDL はメタボリックシンド
ロームの影響を受けませんが、sd LDLは非常に強く
その影響を受けます。
家族性複合型高脂血症(FCHL)との関係
1.0
家族性複合型高脂血症(FCHL)とは遺伝的背景によ
度
感
0.8
り TG と LDL とが共に増加する疾患であり、その特
0.6
通り、sd LDL-C は LDL サイズと比較して感度・特
徴として sd LDL の増加が挙げられます。図に示す
異度共に FCHL の診断に有用であることが分かりま
した。
0.4
0.2
0.0
0.0
sd LDL-C
LDL サイズ
0.2
0.4
0.6
1−特異性
0.8
1.0
図1.ROC 曲線の比較(sd LDL-C vs LDL サイズ)
平野 勉,木庭 新治:Small,dense LDL コレステロールキットによる家族性複合型高脂血症診断の評価.医学と薬学 59:421-427,2008.より引用
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small, dense LDL
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Q6
?
small, dense LDL の治療について教えて下さい。
A6
small, dense LDL(sd LDL)は「メタボリックLDL」とも表現されるほど生活
習慣病との関連が強く、食事や運動療法で生活習慣が改善されると低下します。生
活習慣の是正に加え、薬物療法としてはフィブラート、スタチンが有効です。
フィブラートはリポ蛋白リパーゼの合成を促進し、TG を低下させ、HDL-C を
上昇させますが、LDL を大型化して sd LDL を低下させます(図1)
。
スタチンは LDL 粒子の構成には変化を与えませんが、LDL 全体の粒子数を減少させること
から、sd LDL の絶対数も減少させることが示されています(図2)
。同様にコレステロール
吸収阻害薬のエゼチミブやレジンでも低下します。
糖尿病を伴うメタボリックシンドロームではインスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾ
ンが有効です。TG の低下、HDL-C の上昇、sd LDL の低下が認められています。
%
pre
160
post
140
%
140
pre
post
120
120
100
100
*
*
*
*
*
sd-LDL
lb-LDL
80
80
60
60
40
40
20
20
0
TG
total-LDL
sd-LDL
lb-LDL
0
TG
total-LDL
図1.フェノフィブラート投与(1日1回100mg を3ヵ月
図2.ピタバスタチン投与(1日1回1mgを3ヵ月間投
間投与)後におけるTG、総LDL-C、sd LDL-C、lb LDL-C
与)後における TG、総 LDL-C、sd LDL-C、lb LDL-C
の変化 の変化 * p<0.01
*
p <0.01
Tokuno A,Hirano T,Hayashi T et al:The Effects of Statin and Fibrate on Lowering Small Dense LDL-Cholesterol in Hyperlipidemic
Patients with Type 2 Diabetes.J Atheroscler Thromb,2007;14:128-132.より引用
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