小麦圃場における土壌の低pH 化の実態とその改善提案(三重)

小麦圃場における土壌の低pH 化の実態とその改善提案(三重)
三重県における小麦圃場で増加している土壌の低pH化について紹介し、県で一体
となって取り組んでいる生産向上に向けた土壌改善提案を報告します。
紹介します。
はじめに
三重県においては、平成 22 年6月より県関係機関、県下 15JA(平成 25 年度はJA
合併により 12JA)、全農みえ及び広域土壌分析センター三重が主な構成機関となり、
「土
壌診断及び地域有機資源の肥料的活用による肥料の効率的な利用を促進し、環境に配慮
した農業を進めること」を目的に『みえ土づくり推進協議会』(事務局:全農みえ肥料農
薬課)を設立しました。広域土壌分析センター三重は土壌分析機関として、土づくりと施
肥のためのデータを収集し、提供する役割を担っています。
ここでは協議会の活動の中から、小麦についての取り組みを紹介します。
本県の主要な小麦品種は、あやひかり・ニシノカオリ・農林61号・タマイズミです。
本県の麦作の特徴として
①水田輪換畑での作付けのため低湿な圃場※1 が多く、排水対策が必要である。
②麦・大豆作付けの増加にともなう連作がもたらす地力低下圃場が増加している。
③土づくり資材の施用が減少している。
などがあり、近年極端な生育不良圃場も見受けられるようになりました。
このような状況下にあって平成 23 年度の活動目標として小麦の収量・品質アップをか
かげ、その対策として小麦圃場の土壌診断を実施し、分析データの収集・解析をおこな
いました。本調査をおこなうにあたっては、県下JA及び県関係機関の協力をいただき
ました。
写真1 小麦の極端な生育不良圃場(pH4.4…播種後約 4 ヶ月後)
(県関係機関提供)
※1低湿な圃場:水田圃場は一般に水の影響を受けて、土壌が湿った状態にあるので、「低湿」と表現した。
取り組み結果
平成 23 年に県下JAで収集した 477 点の土壌試料の分析結果は下記のとおりでした。
(1)JA別の土壌診断結果(表1)をみると、平均値が土壌診断基準値(表2)をクリ
アしているJAはpH では2JA、塩基飽和度では3JAにすぎず、多くのJAで土
壌の酸性化と塩基類の不足がみられることがわかります。
表1 小麦栽培予定圃場における土壌の化学性(平均値、平成 23 年度)
表2 三重県診断基準値(普通畑作物:麦・大豆、飼料作物等)
土壌の種類
pH
黒ボク土
灰・黄色土(粘)
灰・黄色土(礫)
砂質土
6.0
~
6.5
可給態
CEC
塩基
交換性
交換性
交換性
リン酸
(基準値)
飽和度
石灰
苦土
カリ
mg/100g
me
%
30~80
25
30~50
15
30~50
15
30~50
10
mg/100g
60
~
70
310~390
50~75
24~60
180~230
30~45
15~35
180~230
30~45
15~35
120~160
20~30
15~25
(2)調査した 477 点のpHの状況(表3および図1)をみると、低pHに属する 5.5 未
満の点数は 132 点(約 28%)、さらに強酸性といわれる 5.0 以下の点数は 30 点(約6%)
となっています。また、診断基準値である 6.0~6.5 を下回る点数は、347 点(約 72%)
で、3/4近くに及んでいます。このような地点では、作物にとって毒性の強いアルミ
ニウムが土壌中に溶け出してきて、根に害を与えたり、リン酸の固定化が進んで作物
生育が抑制されることが懸念されます。
表3 JA別にみた低pH点数
図1
pH の分布状況
(3)特にpHに影響を与える交換性石灰および苦土の分析値の分布状況をみると(図2)、
基準値を下回る石灰 100mg/100g 以下の点数は 90 点(約 19%)
、苦土 20mg/100g 以
下の点数は 186 点(約 39%)となっています。これらの養分が不足していることが
土壌の酸性化の大きな要因です。
図2 交換性石灰および苦土含量の分布状況
(4)pH の異なる圃場における小麦の生育状況を写真2に示しました。両者の生育差は
一目瞭然で、強酸性であるpH 4.4 の圃場の小麦の生育は発根障害を受けて、非常に不
良となっていました。こうした生育差は小麦の節間伸長期以降に顕著に見られました。
写真2 土壌pHの違いによる小麦の生育比較(県関係機関提供)
おわりに
今回、麦生育に及ぼす土壌要因の一つとして、pHを中心に分析結果を報告いたしました。
広域土壌分析センター三重では毎年開催される生産者・JA 営農指導員を対象とした麦品質
向上研修会で、この結果を報告すると共に、県関係機関の小麦圃場の低pH に関する試験結
果も踏まえて、土壌診断に基づいた酸度矯正と塩基補給のため苦土石灰を中心とした石灰資
材の施用の呼びかけをおこなっています。
pHを適正に管理することは作物生産向上の重要な要因であり、特に極端な生育不良の圃
場では、上記の土壌改良材の施用を行うとともに、地力回復(緩衝力向上および保肥力改善)
のために家畜ふん堆肥を主とする有機物等の施用も進める必要があります。
25 年度においても『みえ土づくり推進協議会』の構成機関として、継続した麦圃場の分
析をおこない、データ集積にあたっています。今後も県関係機関と協力し、麦の安定生産、
品質向上に取組んでいきます。
(文責 JA 全農
近畿・東海・北陸肥料農薬事業所
広域土壌分析センター三重)