第365回 開業医が知っておくべき小児の歯科治療 一先天歯から歯周病まで− 大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教室 教授 大 嶋 隆(19回生) 小児歯科医療の目的は「健 、2歳頃に発生する。この時期は乳歯の直下に永久 全な永久歯列を完成させるこ と」にある。この健全な永久 歯胚が形成されており、外傷の衝撃により、永久歯 の形成異常を誘発することがある。また永久歯の外 歯列を育成する上で、最も大 きな障害となる歯科疾患ほ乳 傷は歯根未完成時に発生し、歯冠破折の形をとるこ 歯う蝕である。しかし乳歯う蝕の病因は明らかにさ れ、その予防法も確立している。乳歯う蝕の撲滅も cationあるいはApexogenesisという過程で根尖が閉 可能と考えられているが、残された唯一の問題が哺 も、歯髄の除かれた象牙質の厚みが増齢により増す ことはなく、幼君永久歯の歯髄処置はその歯の寿命 乳う蝕である。晴乳う蝕というのは、離乳時期を過 ぎても長期にわたって就寝時に、母乳あるいは糖質 を含む飲料を晴乳ぴんに入れて飲ませることによっ て起こる重度のう蝕である。その初期症状は、通常 とが多い。時に歯髄処置を伴い、いわゆるApex泊− 鎖する。しかしたとえ根尖がうまく閉鎖したとして を短くすることになる。一方、歯牙外傷の治療は時 間との闘いといった側面を持っている。このことは では余り見られない上顎乳切歯の口蓋側歯面にエナ 予後の良否が最初に施した歯科医の処置にかかって いることを意味している。地域医療に携わる歯科医 メル質の脱灰が認められることである。この段階で こそが外傷の処置に通じていなければならないこと 発見し、就寝時における授乳あるいは晴乳瓶の使用 を止めると、それだけでう蝕の進行は停止する。し になる。 かし適切な指導を受けずに、そのまま続けると、そ 乳歯列期の不正岐合は少ない。これは発育期に当 たるために萌出スペースに余裕があるだけでなく、 の時期に萌出しているすべての乳歯が重度のう蝕に 岐合力の方向が歯軸とほぼ垂直に向かっているため 雁息することになる。この晴乳う蝕は、母親にその である。しかしごく稀に発生する機能性の臼歯部交 病因を説明し、就寝時に糖質を含む飲料の摂取を止 めるように指導するだけで予防することができる。 叉校合は、顎の発育により自然に治癒することがな しかし現実には、1∼2歳頃の幼児に認められる重 乳歯列期の間に治療しておく必要がある。下顎に比 べて上顎の歯列弓が少し小さいために、中心校合位 度う蝕の多くが哺乳う蝕である。晴乳う蝕を予防す るためには、保健所における妊婦教室や母親教室に おいて、普通の乳歯う蝕に対する予防法に加えて、 離乳後の就寝時授乳あるいは糖質を含む飲料の摂取 が、重度のう蝕を引き起こすことを、母親に強く指 導する必要がある。 く、放置しておくと骨格性の交叉校合となるため、 でほ乳犬歯あるいは乳臼歯に早期接触が認められる。 この状態では校合できないため下顎を偏位させて岐 合することに起因する。この状態は上下顎の正中線 を一致させて、岐む訓練を行うとともに、早期接触 した部分を削合して正しい校合位に導くような斜面 乳歯の外傷は陥人という形をとることが多く、そ を形成するだけで直ることがある。しかし基本的に の多くが上顎乳中切歯の萌出直後の、歩き始める1 は上顎歯列の狭窄に起因するため、拡大装置で上顎 の拡大を併せて行うことが必要になる。 最後に、歯周疾患の教科書には記載されていない、 異物挿入による歯周炎と数週間のうちに数皿の歯槽 骨吸収とその再生が起こる急性歯周炎についても、 その症例を示した。 この講演では、開業されている同窓会の先生に、 小児の歯科治療を行う上で基本となる知識と処置法 について、時間の許す範囲でお話しした。
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