大型風力発電設備へのフッ素樹脂塗料『ボンフロンGT

大型風力発電設備へのフッ素樹脂塗料『ボンフロンGT』の提案
AGCコーテック株式会社
山崎達朗
1.はじめに
1982年に旭硝子(株)より、世界初の溶剤可溶型
塗料用樹脂『ルミフロン』が開発され、翌年の1983年
に『ルミフロン』を使用した溶剤可溶型フッ素樹脂塗料
『ボンフロン』が弊社より上市された。以来建築物の長
期美観と保護を目的として、超高層ビルを中心に数
多くの著名な建造物に採用されてきた。また、1990
年には、『鋼道路橋塗装便覧』の外面塗装系Cにフッ
素樹脂塗料が採用され、2005年に改訂された『鋼道
路橋塗装・防食便覧』においては、新設塗装並びに
塗り替え塗装の大半にふっ素樹脂塗料が採用され
た。
近年、風力発電設備においては、洋上風力発設備
のように大型化されたものが見られるようになってきた。
洋上に設置された風力発設備では、洋上という環境
の制約上、塗り替え周期を長期化しなければならず、
そのため厳しい腐食環境を十分に考慮した防食塗装
仕様の選定が必須となるため、環境遮断性に優れた
フッ素樹脂塗料の採用が望まれる。
また、大型化されたブレード翼に対しては、その終
速の高速化による、塗膜やFRP基材の破断現象であ
る『レインエロージョン』に対応した塗料の開発は重要
な要望であると考える。
本稿では、離島や海上等の厳しい腐食環境での使
用を想定し、従来のフッ素樹脂塗料を更に高耐久化
すべく開発した『ボンフロンGT』と大型化する風力発
電設備を想定して、現在開発を進めている『ブレード
用フッ素樹脂塗料』を紹介する。
2.フッ素樹脂塗料に関する国内標準・規格
フッ素樹脂塗料は、日本における防食分野におい
て、この 10 年間の間に国土交通省や旧公社公団の
橋梁塗装に標準化され、長大橋ばかりか短い橋も含
めて、ほとんどの橋の塗装に使用されるようになった。
日本国内での塗料全体の生産量・使用量が減少す
る中で、フッ素樹脂塗料が持つ耐久性が市場ニーズ
にマッチしたため塗料全体の動向とは逆に、フッ素樹
脂塗料の使用量は年々増加する傾向にある。
ISO規格では、フッ素樹脂塗料は最も厳しい環境で
の海上を想定した C-5M 仕様に適用できる。耐久性
は 15 年以上として運用されている。1) 海外では、海上
で利用可能な仕様として風力発電設備での利用計画
が進んでおり、フッ素樹脂塗料の利用に関して ISO
規格は、重要な規格となっている。
フッ素樹脂塗料は、長期の耐久性から塗り替えが少
なく、省資源、省エネルギー、VOC低減などで最も期
待された塗料である。
防食関係では、フッ素樹脂塗料を塗装仕様の標準
塗料にした塗装標準・規格が多数存在している。日
本におけるフッ素樹脂塗料に関する主な塗装標準・
規格を表-1 に示す。
鋼道路橋塗装・防食便覧においては、国道・県道・
町道などに設置する橋梁の塗装は、LCC低減のため、
基本的にはフッ素樹脂塗料で塗装することとしてい
る。
旧公団公社は同様の考え方を塗装規格の中に反
映しており、本州四国高速道路(株)では、さらに海上
での使用を想定して、『高耐久性ふっ素樹脂塗料』の
暫定規格を策定し、沖縄県宮古島での暴露試験規
格を導入し、一般のフッ素樹脂塗料との差別化を図
っている。
表-1 フッ素樹脂塗料に関する国内標準・規格
防食関係
・鋼道路橋塗装・防食便覧
・本州四国高速道路(株)塗装基準
・各 NEXCO 管理要領
・各地区高速道路(株)塗装基準
・JIS K5659-2010
建築関係
・建築工事共通仕様書
・日本建築学会建築標準 JASS18
・建設業協会高耐久性塗料規格(案)
・JIS K5658-2010
3.高耐久型フッ素樹脂塗料『ボンフロンGT』
フッ素樹脂塗料が、ポリウレタン樹脂塗料やアクリル
シリコン樹脂塗料に比べて、高い耐久性を有している
ことは、前節までの試験結果や各種建築関連学会で
の報告により周知されているが、都市部や山間部のよ
うな一般環境に設置される場合に比べて、南方の離
島や海上の様に「高温・多湿・高紫外線量」である厳
しい暴露環境にさらされた場合、塗料中に一般的に
使用される白顔料である酸化チタンの光触媒反応の
影響により、比較的早く塗膜の光沢の低下や白亜化
が発生することが確認されるケースがある。
酸化チタンを含む塗膜では、次のような酸化チタン
の光触媒作用が働き、ラジカルを生成することで、塗
(
光 100
沢 80
保
持 60
率
40
)
% 20
6
12
18
暴露期間(ヶ月)
80
光
沢
60
保
持
率 40
% 20
)
120
0
100
0
0
20
40
60
試験時間(時間)
80
100
ボンフロンGT
従来型ボンフロン
ポリウレタン樹脂塗料
宮古島暴露(南面45°)データ
0
最近では、酸化チタンの光触媒反応による樹脂劣
化を想定した促進耐候性試験機として、過酸化水素
水を試験体に噴霧するシステムを組み込んだキセノン
ランプ式促進耐候性試験機が開発されており、非常
に短時間で、光触媒反応による樹脂劣化を再現でき
るようになった。この装置は、過酸化水素水から発生
した[OH・]や[O・]が塗膜表面に作用することにより、
酸化チタンによる光触媒劣化と同様な劣化機構を発
生する。そのため沖縄本島や宮古島に代表される「高
温・多湿・高紫外線量」での暴露試験と高い相関性が
確認されている。
図-2にこの過酸化水素キセノン式促進耐候性試
験機を使用した時のフッ素樹脂塗料とポリウレタン樹
脂塗料の光沢保持率の変化を示す。
(
膜の劣化が進行することが知られている。2)、3)
+hν →[TiO2]P+ +e-
[TiO2]
(酸化チタン) (光エネルギー) (正孔) (電子)
[TiO2]P+ +H2 O →HO・+H++[TiO2]
→H2 O+O・
2e-+2H++O2
-
→HO・+OH-
e +H2O2
この反応では、まず光(紫外線)を吸収した酸化チタ
ンが+電荷の正孔と-電荷の電子を生成する。酸化
チタンの表面近傍の水が正孔によって酸化を受けて
高活性のヒドロキシラジカル[HO・]が発生し、このラ
ジカルが樹脂の劣化反応を進行させる。この場合、顔
料の周辺部を中心に塗膜の劣化が進行していく。こ
のようにして、酸化チタンから発生したラジカルによる
樹脂成分の分解は、酸化チタン周辺部から発生し、さ
らにはこの分解が拡大して、塗膜劣化を引き起こして
いくことが確認されている。
図-1に宮古島暴露試験を実施した時のフッ素樹
脂塗料とポリウレタン樹脂塗料の光沢保持率の変化
を示す。宮古島は、沖縄本島よりさらに南に位置して
おり、暴露環境としては非常に過酷な環境であること
が知られており、ポリウレタン樹脂塗料で暴露1年を過
ぎると著しい光沢の低下が観測される。また、従来型
のフッ素樹脂塗料であるボンフロンにおいても2年の
暴露期間で光沢が半分程度まで低下する。このような
環境においても高耐久型フッ素樹脂塗料『ボンフロン
GT』は、暴露2年を経過しても90%近い光沢保持率
を保持しており、「高温・多湿・高紫外線量」のような厳
しい暴露環境に最適な塗料であるといえる。
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ボンフロンGT
従来型ボンフロン
ポリウレタン樹脂塗料
図-1各種塗料の宮古島暴露試験結果
図-2 各種塗料の過酸化水素キセノン式促進耐候
性試験結果
過酸化水素キセノン式促進耐候性試験では、一般
環境において20年以上の実績のあるフッ素樹脂塗
料『ボンフロン』でも、光触媒反応により比較的短時間
で光沢低下が発生するが、このような環境下での使用
を想定して改良された高耐久型フッ素樹脂塗料『ボン
フロンGT』では、光触媒反応から樹脂劣化を最小限
に抑えることができ、フッ素樹脂塗料が本来持ってい
る耐候性能を厳しい環境下にさらされても、発揮する
ことを可能にした。
4.FRPブレード用フッ素樹脂塗料の開発
近年、風力発電設備の大型化に伴い、使用するブ
レード翼も大型化されており、回転の際のブレード翼
の終速も高速化している。またブレード翼に使用され
る部材は、風力発電設備本体に使用させる鋼材では
なく、一般的にFRPが使用される。そのため、本体の
ような重防食塗装を施す必要はないが、鋼材より軟ら
かいFRPが回転している際に、雨粒や砂塵等と衝突
した場合、いわゆる『レインエロージョン』と呼ばれる現
象により、塗膜剥離やブレード翼基材の破壊等が見ら
れることがある。これは高速で回転しているブレード翼
の運動エネルギーが、塗膜やFRP基材の強度を超え
るため、雨粒や砂塵等に衝突したときに破壊される現
象であり、ブレード翼が大きくなればなるほど発生しや
すくなる。
塗料の設計において、このような『レインエロージョン』
の発生を抑えるためには、塗膜の硬さの調整とブレー
ド翼の素材であるFRPとの付着性を十分考慮に入れ
て開発を進める必要がある。
弊社では現在ブレード用に塗料設計されたフッ素
樹脂塗料を開発中である。下記に開発中のブレード
用フッ素樹脂塗料の評価結果を示す。
まず『レインエロージョン』現象を想定して、一般的な
フッ素樹脂塗料とブレード用フッ素樹脂塗料をFRP
に塗装した試験体を用いて、ブラストマシンを使用し
たブラスト噴射試験を実施した。
評価方法としては、目視により塗膜外観の変化を確
認した。以下にそのときの外観写真を示す。
写真-1ブラスト噴射試験後の塗膜の外観写真
左側:一般的なフッ素樹脂塗料(全面に剥離発生)
右側:FRP ブレード用フッ素樹脂塗料(異常なし)
上記外観写真で明らかなように塗膜の硬さとFRPへ
の付着性を考慮して塗料設計されたブレード用フッ素
樹脂塗料は、『レインエロージョン』を想定したブラスト
噴射試験において有効な試験結果を得ることが出来
た。
今回開発されたブレード用フッ素樹脂塗料は、現在、
大型の風力発電設備のブレード翼に塗装して、実際
の効果の確認を検証中である。
5.まとめ
30年の実績と長期間の暴露試験や促進耐候性試
験により、耐久性が証明されているフッ素樹脂塗料
『ボンフロン』を上回る耐久性を有する、高耐久型フッ
素樹脂塗料『ボンフロンGT』を上塗り塗装に用いた重
防食塗装を実施することにより、洋上や離島等の過酷
な環境下に設置される風力発電設備の長期間に亘る
メンテナンスフリーを可能にするものと考える。
また、より大型化されるブレード翼に対して、『レイン
エロージョン』現象に対する耐久性を進めたFRPブレ
ード翼専用のフッ素樹脂塗料の開発を検討しており、
実証試験による検証結果を踏まえて今後上市する予
定である。
参考文献
1) 田邊:鋼構造協会,第 36 回鉄構塗装技術討論
会特別講演,(2013)
2) 橋本和仁、藤嶋昭:用水と排水,36,851(1994)
3) 村澤貞夫:J.Jpn.Soc.Colour Mater(色材)(1996)