数学科の横山です.みなさん,今回の問題はどう だったでしょうか

 数学科の横山です.みなさん,今回の問題はどう
sin 2q = 2cos q ∑ sin q
よって,g2(cos q) = 2cos q \ g2(x) = 2x
だったでしょうか.何やら見たことのある式が出て
きていましたね.
sin 3q = 3sin q - 4sin3 q
それでは,前回出題した問題を見ていきましょう. = (3 - 4sin2 q) ∑ sin q
= (4cos2 q - 1) ∑ sin q
問
よって,g3(cos q) = 4cos2 q - 1 \ g3(x) = 4x2 - 1
(1) n は自然数とする.すべての実数 q に対して
となります.この多項式を第 2 種チェビシェフ多項
cos nq = fn(cos q) ,sin nq = gn(cos q)sin q
式と言います.チェビシェフの多項式は実はもう 1
を満たし,係数がともにすべて整数である n 次 つあったんですね.そして,(2) にあるように
式 fn(x) と n - 1 次式 gn(x) が存在することを f1'(x) = 1 = g1(x)
示せ.
f2'(x) = 4x = 2g2(x)
(2) p を 3 以上の素数とするとき,
f3'(x) = 12x2 - 3 = 3g3(x)
fn'(x) = ngn(x) が成り立つことを用いて,fp(x) が成り立つのです.
の p - 1 次以下の係数はすべて p で割り切れる ことを示せ.
では,この問題の方針です.
< 方針 >
方 針の前に,まずこの問題の背景にある多項式に
(1) 問題文から,n は自然数であり,結局「すべて
ついて触れておきましょう.今回の問題も第 171 回
の自然数 n に対して ~ であることを示せ」という
に引き続き,チェビシェフの多項式に因んだ問題で
問題であることを読み取れれば数学的帰納法を用
す.
いて示すということには気が付くと思います.
ここでポイントとなるのは,示すことを「係数
cos nq = fn(cos q)
を満たす多項式 fn(x) については,第 171 回の記事
がともにすべて整数である n 次式 fn(x) と n - 1
で具体例を交えながら紹介しましたね.第 171 回の
次式 gn(x) が存在すること」とするのではなく, 記事では,述べていませんでしたがこの多項式を第
「係数がともにすべて整数であり,最高次の係数
1 種チェビシェフ多項式と言います.
が 2n - 1 次であるような n 次式 fn(x) と n - 1 次式
cos 1q = cos q gn(x) が存在すること」を示すことです ( 理由は後
\ f1(x) = x
ほど ).証明に関しては,加法定理を用いながら
cos 2q = 2cos q - 1 2 つの条件式を同時に考えるとうまくいきます.
\ f2(x) = 2x2 - 1
(2) (1) から,fp(x),gp(x) はそれぞれ p 次,p - 1
cos 3q = 4cos3 q - 3cos q 次の整式であり,係数はすべて整数であることが
\ f3(x) = 4x - 3x
分かります.そこで
2
3
でした.
g p (x) = 2 p- 1 x p- 1 + ap- 2 x p- 2 + ººº
次に,問題文に出てくるもう1つの条件式
+ a1 x + a0
sin nq = gn(cos q)sin q
とおき,fp'(x) = pgp(x) であることを用いると
について少し見ていきましょう.具体的に n = 1,2, f (x) を表すことができます.ここからは,素数
p
3 のときについて考えると
の性質を用いて f (x) の p - 1 次以下の係数が p
p
sin q = 1 ∑ sin q
の倍数となることを示します.
よって,g1(cos q) = 1 \ g1(x) = 1
1
では,解答です.
また,cos pq = fp(cos q) において q =
< 解答 >
(1)
すると,fp(0) = 0 となる.よって,定数項 C = 0
f1(x) = x,g1(x) = 1
である.
2
f2(x) = 2x - 1,g2(x) = 2x
以上より,p を 3 以上の素数とすると,fp(x) の
である.よって
fn(x) = 2
p - 1 次以下の係数はすべて p で割り切れる.
x + ( 整数係数の高々 n - 1 次式 )
n-1
gn(x) = 2
n
n-1
p
を代入
2
( 解答おわり )
+ ( 整数係数の高々 n - 2 次式 )
n-1
x
と表せる ºº 1
と予想できる.以下,1 が成り立つことを数学的
では,考察です.
帰納法を用いて示す.
< 考察 >
(i) n = 1 のとき
まず,(1) で最高次の係数も含めた命題を示した理
1 は明らかに成り立つ.
由を考えましょう.これは
(ii) n = k (k = 1,2,ºº) のとき
fk + 1(x) = xfk(x) - (1 - x2)gk(x)
1 が成り立つと仮定する. において,fk(x) と gk(x) の最高次の係数の関係から
ここで,加法定理より
fk(x) + xgk(x) の k 次の項の係数が 0 になってしま
cos (k + 1)q = cos qcos kq - sin qsin kq
うと,fk + 1(x) の次数が k + 1 次とならないからです.
sin (k + 1)q = sin qcos kq + cos qsin kq
その可能性を消すために,係数が整数であることだ
けでなく,最高次の係数の値についても証明しなけ
であることを用いると
ればならなかったわけですね.
2
fk + 1(x) = xfk(x) - (1 - x )gk(x)
= 2 x
k
k+1
+ ( 整数係数の高々 k 次式 )
gk + 1(x) = fk(x) - xgk(x)
次に,(1) において今回は第1種チェビシェフ多
= 2 x + ( 整数係数の高々 k - 1 次式 )
項式と第 2 種チェビシェフ多項式を同時に考えまし
k
k
とおけば,n = k + 1 のときも 1 は成り立つ. たが,第 1 種単独で考えるにはどうしたらよいでしょ
以上 (i),(ii) より,すべての自然数 n に対して
うか.これが意外と難しいのです.考えてみましょ
1 は成り立つ.
う.
(2) (1) より,a0,a1,ºº ,ap - 2 を整数とし
問
gp(x) = 2
n を自然数とする.すべての実数 q に対して
p-1
p-1
x
p-2
+ ap - 2x
+ ºº + a1x + a0
cos nq = fn(cos q)
とおけて,fp'(x) = pgp(x) であることから
p- 1
p
fp (x) = 2 x +
pap- 2
p-1
を満たし,係数がすべて整数である n 次式 x p- 1 + ºº + pa0 x + C
fn(x) が存在することを示せ.
(C は定数項 )
< 解答 >
とおける.ここで,fp(x) の xk (1 ≤ k ≤ p - 1) の
係数は
pak- 1
k
三角関数の和積の公式より
であるが,(1) よりこの値は整数であ
cos (n + 1)q + cos (n - 1)q = 2cos nqcos q
り,p が素数で 1 ≤ k ≤ p - 1 であることから,
\ cos (n + 1)q = 2cos qcos nq - cos (n - 1)q
この値は p の倍数である. である. 2
ºº 2
以下,係数がすべて整数である n 次式 fn(x) が存在
である.
すること ºº 3 を数学的帰納法を用いて示す.
sin q ≠ 0 のとき,両辺を - sin q で割ると
(i) n = 1,2 のとき
fn'(cos q ) = ngn(cos q )
f1(x) = x
となる.連続性から,sin q = 0 のときも成り立つ.
f2(x) = 2x2 - 1 (# cos 2q = 2cos2 q - 1)
である.よって,n = 1,2 のとき 3 は成り立つ.
(ii) n = k - 1,k (k = 2,3,ºº) のとき
最後に,cos q = x とすると
fn'(x) = ngn(x)
が成り立つ. ( 証明おわり )
3 が成り立つと仮定する.
つまり,n = k - 1,k のとき,係数がすべて整
簡単に証明できました.第 1 種と第 2 種の関係に 数 で あ る n 次 式 fn(x) で,cos nq = fn(cos q)
ついても理解できましたね.
を満たすものが存在すると仮定すると,2 より
最後に,問題の (1) については有名で未来の強者
cos (k + 1)q = 2cos qfk(cos q) - fk - 1(cos q)
の中には既知であった人もいたと思いますが,(2) の
であるから
性質にはビックリしたのではないでしょうか.それ
fk + 1(x) = 2xfk(x) - fk - 1(x) ºº &
では,具体的に確認してみましょう.
とおくと,仮定より fk + 1(x) は k + 1 次式で係
cos 3q = 4cos3 q - 3cos q
数はすべて整数で,fk + 1(cos q) = cos (k + 1)q で
ある.よって,n = k + 1 のときも 3 は成り立つ.
以上,(i),(ii) よりすべての自然数 n に対して, → f3(x) = 4x3 - 3x cos 5q = 16cos5 q - 20cos3 q + 5cos q
→ f5(x) = 16x5 - 20x3 + 5x 3 は成り立つ. ( 証明おわり )
cos 7q = 64cos7 q - 112cos5 q + 56cos3 q - 7cos q
→ f7(x) = 64x7 - 112x5 + 56x3 - 7x
和積の公式を用いることが必要でけっこう難しい
となります (& を利用して,f5(x),f7(x) を考えて
ですね.2 が 3 項間の関係式なので,帰納法の流れ
います ).確かに成り立っていますね.
も「3 項間」になります.できなかった人は解き直
合わせて,f( 奇数 )(x) には,x( 奇数 ) の項しか登場し
しもしてくださいね.
ないことなども分かりますね.& を用いれば簡単に
示すことができますので,やってみてください.
では,次に (2) で「用いてよい」として与えられ
ている関係式について見ていきましょう.この式は
< おわりに > 冒頭で見たように第 1 種と第 2 種の関係式となりま
今回もチェビシェフの多項式のおもしろい性質を
す.数Ⅲの微分を用いますが,そこまで難しくない
確認することができましたね.チェビシェフの多項
ので,証明してみましょう.
式にはまだまだ色々な性質がありますので,興味が
( 証明 )
湧いた方は自分で調べてみてくださいね.( また,
cos nq = fn(cos q)
強者で出題するかも ºº)
において,両辺を q で微分すると
では,今回はここまでとします.夏の疲れが出や
- nsin nq = - sin qfn'(cos q )
すい時期ですので,体調を崩すことのないようしっ
である.ここで
かり体調管理をし,勉強に励みましょう.お疲れ様
sin nq = gn(cos q)sin q
でした. ( 横山 )
であることより
- ngn(cos q)sin q = - sin qfn'(cos q )
3