低周波数送電インバータの周波数と変圧器の検討 正員 中田 篤史* 上級会員 鳥井 昭宏** 終身会員 植田 明照** Inverter Frequency and Transformer for Low Frequency Power Transmission Atsushi Nakata*, Member, Akihiro Torii**, Senior Member , Akiteru Ueda**, Life Member キーワード:低周波送電,インバータ Keywords:low frequency power transmission, inverter 1. は基本的に 5Hz,ピーク値が 3kV の 120 度導通方形波イン まえがき バータを基本とし,INV2 はゲートオフさせて還流ダイオー 近年,海洋国家である我が国では洋上風力発電等,海か ドによる整流器動作とする。方形波による送電(3)を用いるこ ら得る自然エネルギーの利用法が模索されてきている。我 とによって,変圧器を介してケーブルの最大絶縁電圧まで が国の排他的経済水域は広大であり,ここで得られたエネ 昇圧することができる。 ルギーを効率よく電力消費地へ送電できることが望まし ここで用いる CV ケーブルの特性は,配線抵抗分は無視, い。長距離送電法として直流送電がある。線路のリアクタ インダクタンス 350µH/km,線間静電容量 0.3µF/km,50km ンスを無視できるため電圧降下が少なく,最大電圧が直流 のケーブル長と仮定する。CV ケーブル絶縁体中の空間電荷 電圧であるためケーブル耐電圧まで利用できるといった長 の蓄積現象は 1Hz 以上の交流で中和されることが知られて 所がある。しかし,安価な CV ケーブルに直流電圧を印加す おり(1),インバータ周波数を 1Hz 以上としなければならない。 ると絶縁体内に空間電荷が蓄積し絶縁破壊を引き起こすた また,10Hz 以下の周波数を用いれば,直流送電と同等の数 (1) (2) め ,高価な無機充填剤入りの CV ケーブル や油入りケー 百 km の長距離ケーブル送電が可能なことが報告されてい ブル(OF ケーブル)を用いる必要がある。 る(1)。5Hz と 10Hz 送電時のケーブルインピーダンスを ZL, これらの問題を解決するために,5-10Hz 程度の低周波送 アドミタンスを YC とし,それぞれの%インピーダンスと% 電が提案されている(1)。しかし,周波数が低くなる分変圧器 アドミタンスを Table 1 に示す。50km のケーブル長に定格 が大型化する問題がある。 電流を流すと,配線インピーダンスによる電圧降下が 5Hz 本論文ではインバータ周波数の決定,低周波送電に用い 時で 3.41%,10Hz 時で 6.82%となる。無効電力や電圧変動 る変圧器について検討を行い,シミュレーション結果につ の抑制を考え,インバータの周波数は 5Hz と決定した。ま いて報告する。 た,長距離 CV ケーブルを 5Hz インバータの LC フィルタと 2. システム構成 考えバランスを考慮した結果,22kV 系統電圧と決定した。 Fig.1 に低周波送電システム構成を示す。このシステムは 双方向の 30MVA 電力融通が可能であるが,説明を単純化さ せるため,左側の発電機から右側の電力系統への流れで考 える。 60Hz の変圧器は 2 次側を 6 つのオープン巻き線とし, それぞれの出力電圧を 1.5kV とする。変圧器の短絡インピ ーダンスは漏れインダクタンス分 10%,巻き線抵抗分 1%を 想定している。Rec1-6 及び Rec7-12 の PWM 整流器は 4.5kV の IGBT を並列接続して使用することとし,三角波キャリア 540Hz を 60 度ずつずらして多重化を行う。Rec1-6 は直流電 圧を 3kV 一定制御するが,Rec7-12 は必要な電力を系統に流 Fig.1. System configuration. す分だけ直流電圧を低下させる制御を行う。6 多重化制御を 行うため,等価スイッチング周波数は 3.24kHz となり,変圧 器 1 次側に高調波除去用フィルタを必要としない。インバ ータ INV1,2 も 4.5kV の IGBT を並列接続して用いる。INV1 * 静岡理工科大学 〒437-8555 袋井市豊沢 2200-2 Shizuoka Institute of Science and Technology., 2200-2, Toyosawa, Fukuroi 437-8555 ** 愛知工業大学 〒470-0392 豊田市八草町八千草 1247 Aichi Institute of Technology., 1247 Yachigusa, Yakusa-Cho, Toyota 470-0392 Table 1. %ZL and %YC of CV cable in 30MVA system. Table 2. Design of transformer. 4. まとめ 論文では,低周波インバータの周波数決定の根拠と低周 波用変圧器について検討を行い,その設計値によるシミュ 次に低周波数用変圧器について検討する。Table 2 に 60Hz 用変圧器と 5Hz 用変圧器の設計例を示す。設計には概略が 求まるパーミアンス法を用いた(4)。なお,磁束密度 B の最大 値は 1.5T,鉄心有効断面積は 0.9,基準磁気装荷 0.03,3 脚 鉄心にて設計を行っている。 Table 2 の設計値より,60Hz と 5Hz 変圧器の巻数比および 鉄心断面積は周波数比の平方根(sqrt(60/5)=3.464)となること レーション解析を行った。ケーブルを LC フィルタとみな し,LC 共振による電圧振動を抑制する制御を行った。過変 調制御と電圧振動抑制制御を行って受電端電圧が台形波状 になるようにした結果,50km の CV ケーブルを用いても十 分な送電能力を持つことを明らかにした。本研究の一部は, 財団法人浜松電子工学奨励会,高柳研究奨励賞の助成を受 けたものである。 が分かる。低周波になることで変圧器が大型化するが,周 波数比の平方根倍である。直流送電に用いる直流リアクト ルやサイリスタ変換器が発生する高調波除去用フィルタ, サイリスタ変換器の位相角変化による力率改善用調相設備 Fig.2. Simulation circuit. などを必要とせず,また安価な CV ケーブルを用いることが 可能なため,低周波用変圧器が大型化してコストが増大す る問題点は十分相殺できると考えられる。 一般的な特高変圧器(22kV-3.3kV,30MVA,50Hz など)の場 合,短絡インピーダンスは 15%程度である。5Hz の低周波 用変圧器の漏れインダクタンス分%ZL は 1.5%程度と推定で きるが,インバータ使用による偏磁対策を行う必要があり, Fig.3. Block diagram of inverter control. ギャップを設けることを想定して,2.5%(抵抗分無視)と仮定 した。 3. シミュレーション (a) Inverter output voltage waveform. 本論文では,Fig.1 に示した 30MVA 送電システム構成の うち,低周波インバータ,ケーブル,受電整流器を検討す る。検討するシミュレーション回路を Fig.2 に示し,制御ブ ロック線図を Fig.3 に示す。Fig.3 に示すように,インバータ (b) Receiving-end voltage waveform. 出力電流を取り込み電圧振動抑制制御を行う。インバータ は 120 度導通方形波状の出力電圧としたいので,0 クロス点 付近のみスイッチングする過変調制御を用いる。120 度導通 方形波電圧の 0 付近のみスイッチング(キャリア周波数 (c) Cable current waveform. 500Hz)するため,出力電流を取り込んだ電圧振動抑制が可 能となる。過変調とすることで 120 度導通方形波電圧の 0V 区間付近は PWM 制御し,その後は方形波とすることができ る。 シミュレーション結果である 120 度導通方形波インバー (d) DC voltage waveform. タ時のインバータ出力電圧 VINV,受電端電圧 Vend,ケーブル Fig.4. Voltage and current waveforms. 電流 I,直流電圧 Vdc 波形を Fig.4 に示す。ケーブル電流 I で は,定格電流 787.3Arms に対し,872.5Arms が流れている。定 格電流よりも約 10%程度多く流れているが,これは受電側 文 (1) がダイオード整流回路となっているため,低次高調波電流 の発生,線路のキャパシタンスによる進み電流が原因であ (2) る。立ち上がり,立ち下がり部分が PWM となることで,電 (3) 圧振動抑制を行うことができ,受電端電圧を台形波状にで き,ほぼ安定した直流電圧を受電側で得ることが可能とな った。 (4) 献 舟木,松浦: 「低周波ケーブル送電方式の提案」 ,電気学会論文誌 B, Vol.120,No.8/9,pp.1077-1083(2000-8/9) 前川,山中,木村,村田,片貝,松永: 「直流 500kV 海底 XLPE ケ ーブル」,日立電線技報,vol.21,pp.65-72,(2002-1) 鬼頭,渡邉,竹下,西田: 「三相方形波配電システムにおける変圧器 絶縁負荷ダイオード整流回路の解析」 ,電気学会論文誌 D,Vol.130, No.5,pp.639-645(2010-5) 坪島,羽田:「変圧器-基礎から応用まで」,東京電機大学出版局, pp.182-188,(1981-12)
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