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SURE: Shizuoka University REpository
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IB-7 社会的環境としての社会的ネットワークの研究 (『
人間と地球環境』プロジェクトメンバー研究中間報告 :
環境変動と生態系・人間(生活)への影響)
野沢, 慎司
静岡大学学内特別研究報告. 1, p. 38-39
1999-06
http://doi.org/10.14945/00008145
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IB-7
社 会 的 環 境 と して の 社 会 的 ネ ッ トワ ー ク の 研 究
元人文学部
(現 明治学院大学社会学部
[研 究 の 概 要 ]
個人を取 り巻 く社会的環境 を、個 人が形成・
維持 す る他者 との社会関係 (紐 帯 )の ネ ッ トワ
ー ク (パ ー ソナル・ ネ ッ トワー ク)と して捉 え、
都市環境 が社会関係 に与える影響 を明 らかにす
るす る目的で、 3つ の調査研究 を行 つてきた。
その第 1は 、既婚女性 のパー ソナル・ ネッ ト
ワー クと彼女 らの夫 との絆 に関 して、東京郊外
の調布市 と地方都市・ 長野市 との間で どのよ う
なちが いがあるか、特 によ り都市的な環境が有
配偶女性た ちのサポ ー ト・ ネ ッ トワー ク形成に
どのよ うなちが いを もた らすか を調査票調査に
よって検討す るものである。
第 2の 研究は、大都市 。東京 の構造分化 との
関わ りか ら、下町的な台東区 と郊外住宅地域 `
三 鷹市 との比較で、住 民 のパー ソナル・ ネ ッ ト
ワー クに地域的な差 と個人的要 因が どのよ うに
影響す るかを検 討 した。
第 3に 、社会 が どれ くらい緊密なネ ッ トワー
クによって構成 され て い るかを探 る有名な 「小
さな世界問題 Jの 応用追試研究 として、静岡大
学 の少数 の学生 を調査対象者 (協 力者 )と し、
遠 く離 れた場所 に居住す る全 く見知 らぬ 目標人
物 に向けて知人に手紙 と電子 メー ル を転送す る
実験調査 を行い、結果 をとりまとめた。
1.夫 婦 関 係 と パ ー ソナル ・ ネ ッ トワー ク
ー 調布 と長 野 の 比 較 ―
居住地域 の都市度 (人 口集 中度 )の ちが い と
援助的なパー ソナル・ ネ ッ トワー クの特性 との
関連 を検討す るとい う観点か ら、調布市 と長野
市 で行 われた有配偶女性調査 のデ ー タを比較分
析 した。
そ の結果、個 人 の特性や世帯 の状況 にかかわ
らず、大都市郊外居住 は、地方都市居住 に比 べ
て、夫婦間 の援助 、 とりわけ夫か らの家事援助
を減少 させ、同時 に世帯外 の親や兄弟 か らの援
助 を縮小させ るとい う効果がある ことが明 らか
になった。他 の研究 の知見 も照合す ると、 こう
した結果 は、戦後 に拡大生産 された大都市郊外
住宅地 の (核 )家 族 が、親族ネ ッ トワー クとの
関 わ りを弱 め、 同時 に援助 の交換 という点で分
離的な夫婦関係 によって も特徴 づ け られるよ う
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)野
沢 慎司
になった ことを示唆 している.
夫か らの援助 と世帯外ネ ッ トワー クか らの援
助 との連関 についても比較分析を行った。そ の
結果、いず れの地域 において も、近隣ネッ トワ
ー クヘの援助依存が増大す ると夫 からの家事援
助が減少す るが、親族や友人ネ ッ トワークヘ の
依存の増大はむ しろ夫か らの情緒的援助を増大
させるとい う傾向が見 られた。ただし後者 は個
人・ 世帯 の属性的要因をコ ン トロール して も統
計的 に有意 であるが、前者 については有意 では
な くなる。そのため大都市郊外 と地方都市の双
方 の妻たち に関 して両立仮説 が支持された こと
になるが、夫 のネッ トワー クの効果を含 めて、
援助ネッ トワークの構造効果 についてはさ らに
検討の余地 が残されている。
2.パ ー ソナ ル・ ネ ッ トワ ー ク の 多様性
―東京 ・ 台東 区 と三 鷹市 の 比較 ―
個人特性 がネ ッ トワーク多様性 とどのように
関連 しているか、台東・ 三鷹 の地域別 に確 かめ
てみた。同時 に、個人特性 にかかわ らず、地域
間に何 らかの差があるかも探索 してみた。 ここ
では、11の 社会層カテ ゴ リー を用意 し、紐帯 の
強弱と、地域内のネッ トワー クと地域外 のネ ッ
トワー クに分けて考察 した。
その結果、台東 と三鷹 という 2つ の地域サ ン
プルの間にネ ッ トワー ク多様性を規定するメカ
ニズムにちが いがある ことが示唆 された。郊外
住宅地・ 三鷹市では、 3種 のネ ッ トワー クいず
れに対 して も社会経済的階層変数が一貫 して重
要な規定要因 になってい るが、下町・ 台東区で
はそのような傾向はみ られない。高学歴であ る
ことが地域外ネットワー クの多様性を高めると
い う効果 のみが、両地域 に共通 して いる。他方
台東区の場合 は、地域移動 の影響がどのネ ッ ト
ワー クにた い しても相対的 に強 く、とくに地元
に近 い出身者 ほど地域内ネ ッ トワークの多様性
が増す点に特徴 がある。
なお地域内ネッ トワー クの多様性は台東区サ
ンプルのほうが三鷹市よ りもわずかに高く、強
い紐帯のネ ッ トワーク多様性は三鷹市 のほ うが
台東区よりもわずか に高 い とい う結果も得 られ
た。居住地域 の独立効果 は統計的 に有意である。
このような地域的な差異 が生 じるのはなぜだ
ろうか。 ひ とつの可能性 は、 この分析 には含 め
られなかった別 の個 人属性要 因 の効果 が隠 され
てお り、それ を含 めることによって居住地 の差
異 は説明 し尽 くされ るとい うもの である。確 か
にその可能性 は残 る。
もうひとつのよ り高 い可能性 は、個 人 の特性
か らは説明 し尽 くされな い地域社会 の下位文化
効果が存在す るとい うもの。下町 には地縁的な
関係依存 を強化す る制度・ 集 団や慣習 の歴史的
集積 があ り、そ こに居住す る個 人 の関係形成 に
構造的な拘束 を及 ぼ し、義理的な絆 と しての近
隣関係 を増大 させ、地域 内 ネ ッ トワー クの多様
性 を増す。それ は、翻 って親族や親密な友人を
広 げる ことの制約 になって いる という解釈 であ
る。そのよ うな地域下位 文化 の拘束 の少な い郊
外住宅地では、選択的な関係形成がよ り許容 さ
れ、地域内ネ ッ トワー ク の多様性 よ りも、親 し
い友人な どの強 い紐帯 の多様性が促進 され る。
3.現 代 日本 にお け る 「小 さ な 世 界 問題 」
の 探究
一 静 岡大 学 で の 実 験 一
1960年 代 にア メリカ の社会心理学者
S.ミ ル
「
1-world
グラム は 、 小 さな 世 界 問 題 (sn」
problem)」 とい う問 い を立て 、非常にユニ ー
クな方 法 で それ を検証 しよ うと した (Mittmm
1967)。 社会 が本 当に緊 密なネ ッ トワー クに よ
って構成 され る 「小 さな世 界 Jで あるな らば、
まった くランダムに取 り出 した 二 人 の人間は、
意外 に少数 の知人 の連鎖 (チ ェー ン)を 辿 れ ば
つ な がる ことになる。 しか し、逆 に多 くの知人
(の 知人 の…)を 間 に媒介 させなければその二
人が結 び つ かなのな らば、世 界 はやは り相 当 に
「広 い」 とい う ことにな る。 アメ リカ社会 の現
実 は一体 どち らなのか。 これが ミル グラム の立
てた 「小さな世界問題」であった。
結果 にな った (到 達チ ェー ンの平均媒介者 数 は
約 5人 )。 そ こで彼は、私たち の想像以 上に「世
界 は小 さいJと 主張 したのである。
私た ち も小規模なが ら郵送 と電子 メー ル の双
方 を使 つた比較 実験調査 を実施 した 。 ゴー ル と
なる人 には、東京都内 に勤務 し、横浜市 に居住
す る男性 を設定 した。 そ して、静岡大学 の学生
に転 送 の起点 となって もらうよう依頼 した (学
部学生 の 中か ら、電子 メー ルでは 15人 、郵 便
では 10人 を任 意抽出 した )。
結果 は、 ゴー ルに届 いた ものが、郵便 による
1チ ェー ンのみ で、電子 メー ルでは 0で あ った。
全体的 にみ る と、郵便 の方が電子 メー ル よ りも
多 くのステ ップまで到 達 した。唯 一 ゴー ル に届
いた郵送 チ ェー ンを見 る限 り、互いに全 く知 ら
ないスター トとゴールの人の間が、わず か 5人
の仲介者 を経 て つ ながった ことになる。奇 しく
もこの数字 は、意外 にも 「世界は小 さい」 とい
う結果 を導 き出 した これ まで の研究 にお ける成
功例 の平均媒介者数 とほぼ一致 している。
実験 は、到達 したチェー ンが少なす ぎる とい
う点で、成功 した とは言 い難 い。そ のため、「小
さな世 界 問題」 に直接解答 を与 えるには至 らな
か った。 しか し、未到達 のチ ェー ンについて も、
途 中までは転送者 (媒 介者 )の 個人属性や転送
相手 との 関係 について情報 を得 られた。 学 生か
ら出発す る ことに起因す るであろう結果 につい
ては、共 通 した 結果 があ らわれた。 つ ま り、大
学生か らス ター トしたチ ェー ンが学 生 同士 とい
う点で 同質的な社交圏か ら抜 け出る ことがで き
なかった。郵送か電子 メー ルか という手段 にか
かわ らず 、学生 のネッ トワー クはかな り閉 じた
もので あ り、世代や職業 上の壁 を越 える ことが
困難 であった と推測できる。
*上 記の研究成果 に関しては以下 の拙稿参照。 「妻
ミルグラムは、郵 送 による文書 の転送 とい う
たちの援助動員にみる地域差 一夫婦関係と援助ネ ッ
トワークに対する大都市居住効果」、 「夫とネッ ト
方法を使 った実験 によって 「小 さな世界問題」
に答 えを出そ うと した。 まず アメ リカ東海岸 に
ワークは競合するか ?― 東京郊外 と地方都市の妻 の
住む人ひ とりを ゴー ル として設定 した。そ して、 援助動員J石 原邦雄編『妻たちの生活ス トレスとサ
はるか遠 く離れたカ ンザス州 とネブラスカ州 に
ポー ト (仮 題 )』 日本評論社 近刊 所収、 「パー ソ
ナル・ ネットワー ク・ メンバーの多様性 ―東京・ 台
住む一群 の人 々に依頼 して、 目指す人物 を知 っ
ていそ うな個 人的な知 り合 い ひ と りだけに手紙
東区と三鷹市の比較」、 「現代日本における『小 さ
を転 送 して もらい、転送 を繰 り返す うちに何人
な世界問題』の探求一静岡から横浜への郵便と電子
の媒介者 を経 て ゴールにた ど り着 けるかを調 べ
メールによる連鎖ネットワーク」 (宮 本佳範・ 岡本
たのである。途 中で途絶えたチ ェー ンも多か っ
香と共著)渡 戸一郎編著『大都市における都市構造
の転換と社会移動 に関する実証的研究』科学研究費
たが、到達 したチ ェー ンに関 しては意外 に短 い
ステ ップでゴー ル になる人にた どり着 くとい う
補助金研究成果報告書 1999年 3月 所収。
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