沖縄トラフ伊平屋北熱水フィールドにおける IODP331 掘削後

沖縄トラフ伊平屋北熱水フィールドにおける IODP331 掘削後の 海底環境と生物相の変化 ○中嶋亮太・山本啓之・川口慎介・高谷雄太郎・野崎達生(海洋研究開発機構),Chong Chen(University of Oxford),藤倉克則・三輪徹也・高井研(海洋研究開発機構) 2010 年 9 月に沖縄トラフの深海熱水フィールド(北部伊平屋海嶺,水深 1,000 m)において地球深
部探査船ちきゅうによる科学掘削が行われた(IODP Expedition 331).我々は,掘削による海底環境
と生物相の変化を調べるために,掘削後 3 年間にわたってモニタリングを行ってきたので,その結果
について報告する.本研究は,沖縄トラフ・北部伊平屋海嶺の巨大熱水チムニー(North Big Chimney, NBC)から約 500 m 東に位置する C0014 サイト(メタン湧水域)で行われた.本サイトでは合計 7 つの
穴(Holes A-G)が掘られた.掘削直前(2 週間前)及び掘削から 11,16,25,38,40 ヶ月後に無人探
査機のカメラで撮影したビデオ映像から掘削前後における海底環境とベントス相の変化を調べた.掘
削前,海底は柔らかい泥に覆われ(被覆率 100%),熱水の噴出は見られず,10 年以上にわたり
Calyptogena okutanii(シマイシロウリガイ)のコロニーが確認されていた.掘削予定地から北西に
約 20-40 m の場所において,Shinkaia crosnieri(ゴエモンコシオリエビ)と Bathymodiolus spp.(シ
ンカイヒバリガイ類)に代表される熱水生物コロニーを確認した.掘削後,C. okutanii コロニーは掘
削カッティングスに由来する堆積物中に完全に埋没した.掘削から 11 ヶ月後,Hole D/E 付近の海底表
層温度は上昇を始め,堆積物上では熱水の噴/湧出と無数の小さなチムニー,白色バクテリアマット(被
覆率〜100%)が確認された.海底温度は上昇を続け,掘削 15 ヶ月後には温度計の限界温度(50℃)に
達した.掘削前に設置した堆積物チャンバーの底は黒焦げた.掘削 16 ヶ月後,穴周辺には S. crosnieri
が優占する人工熱水生態系が形成された.Hole D/E の半径 10 m における S. crosnieri 個体数は最大
43 inds. m-2 であったが(平均 2.4 inds. m-2),その後増大し,掘削 25 ヶ月後の最大密度は 110 inds. m-2 に達した(平均 10.5 inds. m-2). 掘削から 38-40 ヶ月後の S. crosnieri 個体数は 25 ヶ月後と大
差はなく,最大密度は 109-114 inds. m-2 であった(平均 9.6-10.3 inds. m-2).S. crosnieri は,掘削
40 ヶ月後よりも 16 ヶ月後の方が大型個体が多かった(甲幅 5-6 cm の個体が最も優占).また 16 ヶ月
では甲幅 2 cm 以下の個体は見られないが,40 ヶ月では 2 cm 以下の個体が出現したことから,掘削 16
ヶ月後における S. crosnieri の優占は,プランクトン幼生の加入ではなく,周囲約 20 m〜のコロニー
から歩いて移動して来た結果であることを示唆している.Bathymodiolus spp.は,掘削から 40 ヶ月後
においても穴周辺で観察されなかった.掘削 25 ヶ月以降からは,バライト/ジプサムの鉱化またはケ
イ化によると考えられる海底の硬化が確認され,掘削 40 ヶ月後までにはさらに海底の硬化が進み多く
の亀裂と凹凸を生み出した.本掘削に伴う海底環境と生物相の影響範囲は掘削穴から最大 30m と推定
されたが,新規に形成された熱水生態系は 2 年以上に渡って観察されており,海底下から熱水の供給
が止まらない限りこの人工熱水生態系は持続すると思われる.