地域課題の解決を 担う人材を養成

●特別レポート 高知大地域協働学部をはじめ地域の課題に即した学部の誕生
ト
ポ
レ
別
特
意味では文理にわたって複数の
学部を擁する地方国立大は有利
な立場にあると言えよう。
人材育成が地域貢献の土台に
国立大がその地方の特性を生
かして、地域創生を支えるプロ
ジェクトは様々な形で展開され
ている。
山形大は、大学・県・商工会
議所などが加わるかたちで山形
人材育成委員会を作り、その中
で山形大は「山形プロジェクト
教育」
「山形フィールドワーク
教育」
「リーダーシップ教育」
の3分野を担当している。講座
名から想像できるように、教室
での講義以外の授業が多く、地
元出身の学生がリードして、地
域の課題に取り組んだこともあ
る。
地方創生の旗印のもと、地域活性化における大学の役割が重視されてい
る。地域の拠点大学(COC)から、さらに新たな学部を創設して地域と
ともに発展する試みが注目されている。今春スタートする高知大地域協働
学部を中心に、
地域の課題解決を担う人材の育成を目指す大学を紹介する。
高知大地域協働学部の挑戦
加えて、新たに「やまがた未
来科学プロジェクト」構想を実
現するSCITAセンターを立
ち上げた。体験型の科学実験教
室のプログラムに小・中・高校
生や教員などが年間1000人
参加した。そのほかにも、所属
の学生が地域イベントで理科実
験をしたりして、科学を通して
地域との交流を深めている。
和歌山大でも、観光学部が異
分野の農業・農村との「複合化」
プ ロ ジ ェ ク ト に 挑 戦 し て い る。
キーワードは「日本型グリーン
ツーリズム」で、生産者の顔が
見える農産物直売所や、農家に
泊まってその生活を体験学習し
たり、食事と住居の提供を受け
て農作業を手伝うワーキングホ
リディーなどがある。この複合
化プロジェクトに参加した学生
が、将来的に観光と農業の複合
化による地域活性化に担い手に
なることが期待されている。
高知大地域協働学部をはじめ
地域の課題に即した学部の誕生
こ の よ う な 地 域 貢 献 活 動 は、
今まで既存の複数学部による文
理融合などによって人材育成を
「 大 学 に お け る 地 域 貢 献 」 と
いうテーマは、2004年の国
立大の法人化で大学の役割とし
て重視されるようになり、近年
はその具体的プロジェクトとし
て、「地(知)の拠点整備事業(大
学 C O C 事 業 )」 が 進 め ら れ て
いる。大学が自治体を中心とし
た地域社会と連携し、地域を志
向した教育や研究、社会貢献を
進める取り組みを支援すること
で、さまざまな人材や情報、技
術が集まる地域コミュニティの
中核的存在として機能強化を図
ることを目的としている。
2014年度に採択されたC
OCには、国立では弘前大(青
森ブランドの価値を創る地域人
材 の 育 成 )、 茨 城 大( 茨 城 と 向
き合い、地域の未来づくりに参
画 で き る 人 材 の 育 成 事 業 )、 山
梨大(食のブランド化と美しい
里づくりに向けた地《知》の拠
点 づ く り・ 仮 称 )、愛 媛 大( 地
域の未来をステークホルダーと
共 に 創 る 実 践 的 人 材 の 育 成 )、
熊本大(活力ある地域社会を共
て、高知大の研修生を質問攻め
にしたというエピソードもあり
ます」
卒業すると学士号はどうな
るのですか?
「全国で唯一の地域協働学士
となります。文部科学省も地域
を重視する理念は理解してくれ
ました。ただ新学部の設置を検
討する委員会で、学問の体系性
などについて疑問が出ましたが、
学際分野であるということで理
解していただきました。基礎科
目から専門科目を積み重ねてい
く教育課程は他学部と変わりま
せんが、地域と協働する実習を
重視しているのが特色です」
具体的に地域というと高知
県が研究対象になるのですか?
「 高 知 県 は 課 題 先 進 県 と い わ
れています。高齢化は全国平均
より 年早く進行し、人口も全
国より 年早く1990年に自
然減に転じています。農林水産
業に頼り、物づくりによる製造
品出荷額は全国でも最下位です。
中山間地域の超限界集落におけ
る過疎高齢化の問題だけでなく、
都市部の団地も高齢化や空洞化
に 創 る 火 の 国 人 材 育 成 事 業 )、
鹿児島大(山と島嶼を有する鹿
児島の地域再生プログラム~進
取の精神を持つグローカル人材
養成)などがある。
公立大や私立大でも、静岡県
立大(次世代と創る!「からだ
×こころ×地域」ふじのくに健
康 長 寿 拠 点・ 仮 称 )、 熊 本 県 立
大(『 も や い す と 』 育 成 と 産 官
学民の対話と協働で拓く地域の
未 来 )、 東 北 学 院 大( 地 域 共 生
教育による持続的な「ひと」づ
く り「 ま ち 」 づ く り )、 日 本 福
祉大(持続可能な『ふくし社会』
を 担 う『 ふ く し・ マ イ ス タ ー』
の養成)などがあり、全国的な
広がりを見せている。
現在、ほとんどの大学がCO
Cを目ざしているが、2014
年度の場合、申請した大学19
8校のうち採択されたのは 校
で、 %に過ぎない。なんと公
立大は 校のうち2校しか採択
されなかった。地域貢献といっ
ても理念だけではだめで、大学
の教育研究に裏付けされた取り
組みであることや、実現可能性
などが評価されるようだ。その
COCで実積を積み上げる
目ざすパターンが多いが、高知
大では大学と地域による協働そ
のものを目的とする地域協働学
部をこの4月に創設する。
上 田 健 作 設 置 準 備 委 員 長 に、
そのねらいと特色について聞い
た。
グローバリズム人材の育成
が大学の最大の課題となってい
ますが、今ローカリズムにこだ
わる狙いはどこにあるのでしょ
うか。
「 グ ロ ー バ ル と い っ て も、 地
方がしっかりしなくては、地に
足の着いたものにはならないで
しょう。その点で地域協働学部
は、地域課題の国際的展開にも
力を入れます。世界の8割は地
方にあり、防災や町おこしなど、
日本の地域と共通な課題を抱え
ています。現に高知大では、イ
タリアの地方国立大やインドネ
シアの大学と連携を結び、地震、
津波、洪水、火山など災害に悩
む地域と連携を図っています。
また地域振興も世界共通の課
題です。高知で江戸時代から続
く伝統的な街路市に、イタリア
のボローニャの人が関心を持っ
2015 / 2 学研・進学情報 -12-
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地域課題の解決を
担う人材を養成
上田健作 設置準備委員長
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●特別レポート 高知大地域協働学部をはじめ地域の課題に即した学部の誕生
県外や東京の企業からの求人に
影響するのではないですか?
「高知大は現在でも入学者の
うち8割が県外です。高知県に
は大学が3つしかないので、む
しろ県内の高校生に機会を与え
た い と 思 っ て い る く ら い で す。
もちろん他県の高校生で地域の
活性化で頑張りたいという受験
生は大歓迎です。
また就職についても東京の企
業に新学部の卒業生への求人意
欲 に つ い て 聞 い た と こ ろ、
『地
域協働のスペシャリストはむし
ろ欲しい人材である』という返
事でした」
具体的にどのような高校生
に、地域協働学部に入学してほ
しいと思いますか?
「 人 付 き 合 い が 苦 手 だ か ら、
研究室にずっと閉じこもったり、
1日中図書館で本を読んでいた
いというようなタイプには向い
ていません。
地域に入って高齢者の声に耳
を傾け真意を汲み取る
『聴く力』
を持っていて、それを他者と共
有するために、客観的に文章化
できる能力が求められます。基
礎学力も必要ですが、それは自
分で考えることのベースになる
からです。地域に入ったら、い
ろいろな現状と課題が見えてき
ます。そのほとんどは教科書で
は答えをみつけることはできな
いものなので、自分で考えるし
かないのです。
当学部は、目的意識がはっき
り し た 学 部 で す か ら、 地 域 に
まったく関心がない人は入学し
ても不幸でしょう」。
高知大の新学部が狙う地域協
働の成果が定着すれば、地域の
ニーズが発掘され、それに対応
し て マ ー ケ ッ ト が 形 成 さ れ る。
その結果、地域の雇用も生まれ
るようになる。それが地方創生
の本当のねらいであろう。
卒業生の進路や学ぶ科目など
は、別表にまとめたので参照し
ていただきたい。
他の大学でも次々と新たな
取り組みや新学部
従来のCOCだけでなく、新
たに地域貢献を目ざす大学は多
い。 た と え ば 宇 都 宮 大 で は、
2016年から文理融合や農工
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にスポーツ健康コミュニティー
な ど が 教 育 研 究 の 対 象 と な る。
まさに地域社会との多彩な共創
を目ざす内容だ。
宮崎大も、同じ2016年4
月に文理融合の「地域資源創成
学部(仮称)」を設置する予定だ。
地域の新たな産業の振興と地域
活性化に寄与するため、農業を
基盤とした事業創出やグリーン
ツーリズムを通し魅力を発信す
るリーダーなどを育成する。
文科省は2017年度までの
大学改革の中で、国立大の学部
再 編 方 針 を 明 記 す る と と も に、
地方の課題解決に取り組む大学
を財政支援する方針を示してい
る。全国各地にあって、各地域
の知的なシンクタンクである大
学は、地域社会から、今まで以
上に期待されている。
大学進学においても、大学で
どの学問を学びたいかという今
までの原則に加えて、自分がど
のように地域や社会で役に立つ
ようになりたいかという視点か
ら、学部選びを考える必要があ
りそうだ。
(取材/執筆 木村誠)
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が進み、自治機能が低下してい
また全国のCOC実施機関が
ます。ある意味、高知県の現状
類似課題に対して解決方法のヒ
は日本の将来を先取りしている
ントを得ると同時に、今後地域
ともいえます。
の志向化を目指す機関に対して
も、情報の提供ができるプラッ
それだけに高知県が高齢化や
地 域 の 過 疎 の 問 題 に 取 り 組 み、 トフォームの構築も目指してい
地元の産業振興において実績を
ます」
上げることができれば全国のモ
求められるのは、地域協働で
デ ル パ タ ー ン に な る わ け で す。
課題解決できる地域を作る人材
ですから高知県での地域協働と
教員の体制やその専門分野
いう教育研究は先駆的といえる
は、どうなりますか?
のです」
以前からの地域協働という
「 入 学 定 員 名 に 対 し、 教 員
高知大の伝統が、受け継がれて
が 名です。高知大の教員から
いますね。
名で、人文、教育、農学部を
「COCとして県中央部に集
はじめ、いろいろな分野の教員
中している大学と遠隔地域の詳
が い ま す。 外 部 か ら も 名 で、
細なニーズの収集や地域との密
社会学や環境問題の専門家だけ
な情報交換のため、2013年
でなく、防災と福祉の分野で起
に高知県が県内7か所に設置す
業をした実務経験者などもおり、
る産業振興推進地域本部に高知
コンサルタント能力も期待でき
大学サテライトオフィスを併設
ます。
し、教員を常駐させました。こ
国内だけでなく、国際社会に
の体制を、高知大が地域に入り
通用する教育研究レベルを目ざ
込 む と い う 意 味 合 い で、「 高 知
します。そのためにも、まずは
大学インサイド・コミュニティ・ 課題先進県である高知が当面の
システム
( KIC:Kochi University 研究課題になります」
)」
高 知 県 を 強 調 し す ぎ る と、
Inside Community System
と呼んでいます。
県 外 の 志 願 者 に 敬 遠 さ れ た り、
など理系異分野融合のカリキュ
ラ ム に よ っ て、 コ ミ ュ テ ィ ー、
都市・建築、農村・流域環境な
ど、地域の課題に対応した地域
デザインのジェネリックスキル
を身につけた人材の育成を目ざ
すという。
愛媛大では、2016年度の
学部再編を目指し、地域ととも
に文理融合で、地域課題に取り
組む「社会共創学部」を新設す
る 予 定 だ。 同 学 部 は 4 学 科 で、
設置が認められれば、同大では、
実に 年ぶりの新学部となる。
新学部の産業マネジメント学
科は、地場産業の課題を解決で
きる人材、起業・創業コースを
目ざす人材を育てる。産業イノ
ベーション学科は水産業や紙産
業、あるいはものづくりの分野
で、新しい技術や新製品の開発
を担う人材を育てる。環境デザ
イン学科は、地域環境問題のほ
か、高齢化社会を踏まえたコン
パクトな街づくりや防災対策な
どを学ぶ。地域資源マネジメン
ト学科は、農山漁村など高齢化
した集落の対応策、瀬戸内の中
世の塩田跡など文化遺産、さら
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