第8章
「画像の復元と再構成」
ピンぼけ写真や手ぶれ写真のような劣化した画像から、劣化のな
い原画像を推定する手法について学ぶ。
1
写真の修復
http://www.hint.or.jp/mihararinku/yyhongo/hashima/restoration.html
2
白黒写真のカラー化
http://phototf.com/newpage5.htm
3
画像の修復・復元
—  画像の修復・復元において、人手によって画像に手を加え
る場合がある。このような処理をフォトレタッチとよぶ。
—  一方、カメラの動きによって生じた画像のぶれなど、劣化プ
ロセスが明確にモデル化できる時は、ある程度、自動的な
画像を復元することができる。
—  ここでは、画像の劣化が点拡がり関数によってモデル化で
きる場合の画像復元を学ぶ。
4
画像処理における順問題と逆問題
—  順問題の例(画像劣化):例えば、三脚に固定して撮影した
鮮鋭な画像があり、それを基に、カメラに手ぶれが発生した
場合の画像を計算する問題。
*
手ぶれに相当する
画像処理
—  逆問題の例(画像復元):手ぶれによってぼけた画像があり、
そこから、手ぶれが無かった場合の画像を推定する問題。
*
手ぶれの復元に相当する
画像処理
5
画像劣化のモデル
—  線形空間フィルタで表現できる画像劣化を考える。劣化前
の原画像をf(x,y)、劣化後の画像をg(x,y)とすると、両者は
空間フィルタh(x,y)によって次式で関係づけられる。
% %
g(x, y) =
&&
f (x " #, y " $)h(#,$)d#d$ = f (x, y) ' h(x, y)
"% "%
—  上式は2変数関数で記述されたアナログ画像での関係式
!
であるが、ディジタル画像では下式になる。
W
g(i, j) =
W
# # f (i + m, j + n)h(m,n)
n ="W m ="W
6
!
点拡がり関数
—  f(x,y)としてデルタ(δ)関数(インパルス関数ともよび、点光
h(x, y) = " (x, y) # h(x, y)
源のモデル)を与えると、 となる。す
なわち、原点にのみ値をもつ点画像に劣化を表す空間フィ
ルタを適用すると、劣化関数が画像として観察できる。劣化
関数を点拡がり関数(PSF:Point
Spread Function)とよ
!
ぶ。
図8.1
—  夜空の星のような点光源を撮影すると、点がぶれたり、ぼ
けたりする。これは、撮影系の劣化関数が像に現れている
という現象で、ぼけた画像そのものが点拡がり関数である。
7
8
逆フィルタ
g(x, y) = f (x, y) " h(x, y)
—  をフーリエ変換すると
!
!
!
G(u,v) = F(u,v)H(u,v)
を得る。ここから、
F(u,v) = G(u,v) /H(u,v)
となる。
1
H inv (u,v) =
G(u,v)
—  したがって、 と (劣化画像のフーリ
H(u,v)
エ変換)の積を逆フーリエ変換することで、元画像を復元す
ることができる。このようなH
! inv(u,v)を逆フィルタとよぶ。
!
—  しかし、H(u,v)が0となるか0にきわめて近い場合には Hinv(u,v)は発散してしまう。画像をぼけさせる画像劣化は、
ある周波数以上でH(u,v)がほぼ0になる場合が多いため、
逆フィルタでは望ましい復元が難しい。
9
ウィーナフィルタ
—  実画像の復元ではノイズの影響も考慮する必要がある。ノ
イズを考慮した画像の劣化モデルは下式になる。
G(u,v) = F(u,v)H(u,v) + N(u,v)
—  このモデルにおいて原画像と復元画像の誤差を最小にす
るフィルタは下式になる。このフィルタをウィーナフィルタと
2
!
よぶ。
1
H(u,v)
H w (u,v) =
H(u,v) H(u,v) 2 + N(u,v) 2 / F(u,v) 2
—  上式のSN比の項を定数にした次式を用いることも多い。
2
!
1
H(u,v)
H w (u,v) =
H(u,v) H(u,v) 2 + "
図8.2
10
11
ウィーナフィルタによる復元
劣化画像:g(x,y)
復元画像
フーリエ
変換
ウィーナフィルタで補正した
劣化画像のフーリエ変換
G(u,v)
G(u,v) Hw(u,v)
劣化画像の
フーリエ変換
逆フーリエ
変換
点拡がり関数:h(x,y)
フーリエ
変換
2
H(u,v)
点拡がり関数の
フーリエ変換
!
1
H(u,v)
H w (u,v) =
H(u,v) H(u,v) 2 + "
ウィーナフィルタ
12
点拡がり関数のモデル化
—  画像の劣化を点拡がり関数で表すことができれば、そこか
らウィーナフィルタなどの画像復元フィルタを計算すること
ができる。
—  焦点ぼけ(ピンぼけ)の点拡がり関数は、ガウス分布のロー
パスフィルタ(図7.9)、あるいはディスク型のローパスフィル
タ(図7.5)で表すことができる。
—  カメラのぶれによる点拡がり関数は、ぶれの軌跡に応じた
係数をもつ空間フィルタにより表すことができる。
13
コンピュータ断層撮影
—  コンピュータ断層撮影(CT、Computed Tomography)は、
X線などによる走査映像をコンピュータ処理することで、人
体の内部画像を再構成する技術。
http://www.chuo-c.jp/visitors/images/ct.jpg
主な断層撮影技術
—  X線CT:全周囲方向から被検査物のX線投影像を取得し、
それを再構成することで、内部の3次元構造を再構成する。
—  MRI:核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance
Imaging)。人体に強い磁場を与えることで、水素原子(水
分)の3次元分布を計測する。
—  PET:ポジトロン断層法(Positron Emission
Tomography)。人体に投与した放射性化合物(トレー
サー)が放出するガンマ線を検出し、3次元画像化する。
—  その他に超音波CT、SPECT、光トポグラフィなどがある。
X線CT装置の構成
—  X線源とX線検出器が回転する。各回転角で、X線源と検出
器が平行移動し、断面の投影像を得る。この測定を180°
繰り返すことで、多数の断面像を取得する。
投影像の生成
—  対象物体の断面をxy平面とし、断面上におけるX線の減衰
量分布をf(x,y)とする。X線の照射方向をt軸、t軸と直交する
r方向にX線源と検出器を走査する。走査位置rにおけるX
線の検出量をI0(r)とすると、I0(r)は照射したX線の強度Iに
対して、下式になる。
% +#
(
&
Io (r) = I exp " $ "# f (x, y)dt)
・・・(1)
'
*
—  (x,y)と(r,t)の関係は、x軸に対するr軸の回転角θを用いて、
次のようになる。
" r% " cos(
!
$ ' =$
# t & # )sin (
sin ( %" x %
'$ '
cos( &# y &
・・・(2)
ラドン変換
—  式(1)の対数をとることで、次式を得る。
I
$ "# f (x, y)dt = ln I (r)
・・・(3)
0
—  式(3)左辺に式(2)を代入することで、次式を得る。
+#
+$
g(r," ) = % #$ f (r cos" # t sin " ,r sin " + t cos " )dt ・・・(4)
!
—  g(r,θ)は、2次元分布f(x,y)の投影像を、(r,θ)をパラメータと
して表現したものである。これをf(x,y)の投影、あるいはラド
! ン変換とよぶ。g(r,θ)を画像化したものをサイノグラムとよぶ。
—  CT画像の再構成は、投影から元の分布f(x,y)を求めること
である。逆ラドン変換とも呼ばれる。
人体頭部模型とラドン変換の例
Sheppファントム
Matlabのヘルプドキュメントから抜粋
中央断面定理
(フーリエ切断定理)1/2
—  投影g(r,θ)のrに関する1次元フーリエ変換が、2次元分布 f(x,y)の2次元フーリエ変換の、原点を通るr軸断面に等しく
なる性質を中央断面定理とよぶ。
—  f(x,y)の2次元フーリエ変換F(u,v)は次式で定義される。
F(u,v) =
+#
+#
" j 2% (ux +vy )
f
(x,
y)
e
dxdy
$ "# $ "#
・・・(5)
—  g(r,θ)のrに関する1次元フーリエ変換G(s,θ)は次式である。
!
!
G(s," ) =
+%
# j 2$sr
g(r,
"
)e
dr
& #%
中央断面定理
(フーリエ切断定理)2/2
—  (r,t)を(x,y)に変数変換することで、G(s,θ)を変形する。
G(s," ) =
式(4)を代入
# j 2$sr
g(r,
"
)e
dr
& #%
' +%
*
= & #% ( & #% f (r cos" # t sin " ,r sin " + t cos " )dt+e # j 2$sr dr
)
,
+%
=
式(2)で変数変換
+%
=
式(5)と比べることで =
+%
+%
+%
+%
# j 2$sr
f
(r
cos
"
#
t
sin
"
,r
sin
"
+
t
cos
"
)e
dtdr
& #% & #%
# j 2$ (xs cos" +yssin " )
f
(x,
y)e
dxdy
& #% & #%
F(scos" ,ssin " )
—  G(s,θ)=F(scosθ,ssinθ)の関係を中央断面定理とよぶ。
!
中央断面定理を用いた再構成
(フーリエ変換法)
—  下図のように、θごとに測定された投影のrに関する1次元
フーリエ変換を、uv平面においてθ方向となるs軸上に与え
れば、2次元分布f(x,y)の2次元フーリエ変換を得る。これを
逆変換すれば、f(x,y)を再構成することができる。
フーリエ変換法のメリット/デメリット
—  メリット
—  FFT(高速フーリエ変換)を利用できるので、計算が高速であ
る。
—  デメリット
—  2次元フーリエ変換は(u,v)、(x,y)について直交座標系で行うこ
とが一般的である。一方、G(s,θ)のサンプリング点は、(u,v)の
正方格子と一致しないので、補間が必要になる。この補間が
計算誤差となり、再構成画像が劣化する。
—  実際の装置ではフーリエ変換法はあまり利用されない。
フィルタ逆投影法1/3
—  一つの投影像を3次元空間に逆投影するという操作は、次
ページの図8.6(b)に示すように、それぞれの投影値を投
影直線上にある単位格子に、均等に値を振り分けることで
ある。
—  全ての方向からの投影像を逆投影することで、概略の3次
元分布b(x,y) (単純逆投影分布)を得ることができる。これ
は、真の3次元分布f(x,y)よりもぼけており、f(x,y)に点拡が
り関数h(x,y)を畳み込んだものになる。
b(x, y) = f (x, y) " h(x, y)
!
フィルタ逆投影法2/3
—  2次元デルタ関数δ(x,y)の投影g(r,θ)は、次式のように1次
元デルタ関数δ(r)になる。
g(r," ) =
&
+%
$%
# (x, y)dt = # (r)
—  1次元デルタ関数の逆投影βθ(x,y)は、投影方向に沿った直
線(xcosθ+ysinθ=0)上でのみ値をとるので、次式となる。
!
" (x, y) = $ (x cos# + y sin # )
#
—  βθ(x,y)をすべてのθについて積分すると次式になる。β(x,y)
はデルタ関数の逆投影像であるから、逆投影による点拡が
り関数と考えることができる。
!
1
"(x, y) =
x2 + y2
フィルタ逆投影法3/3
—  単純逆投影分布b(x,y)と真の2次元分布f(x,y)、点拡がり関
数β(x,y)の関係は次のようになる。
b(x, y) = f (x, y) " #(x, y)
—  したがって、単純逆投影分布b(x,y)に点拡がり関数β(x,y)を
逆畳み込みすることで、真の2次元分布f(x,y)を推定するこ
!
とができる。
—  実際に広く利用されている方法は、このように2次元のフィ
ルタリングを行うのではない。あらかじめ投影g(r,θ)の各rに
関して1次元フィルタリングを行っておき、その上で、逆投影
処理を行う方法である。