関節リウマチ滑膜マクロファージを 標的とした軟骨・骨破壊抑制剤 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 健康科学専攻 感染防御学講座 免疫学分野 講師 永井拓 鹿児島大学 医用ミニブタ・先端医療開発研究センター 客員教授 松山隆美 注)発表当日には配付資料に載せていないデータと補足説明があります。 1 関節炎に対する局所投与薬の比較 持続時間 炎症抑制 ヒアルロン酸 ステロイド 生物製剤 短期 短期 長期 弱い 強い 強い 軟骨・骨 破壊抑制 薬価 なし あり1) あり2) 安価 安価 高価 1)初期のRA患者(発症期間が8ヶ月未満で中央値73日)でステロイド群と併用群(ステロイド+生物 製剤)間で同効果(Axelsen MB, et al. Ann Rheum Dis 2014;0:1–9. doi:10.1136/annrheumdis-2013-204537) 2)TNF製剤に抵抗性を示すRAではステロイドと同効果 (Roux CH, et al. J Rheumatol 2011 38:1009-1011) 2 関節リウマチ(RA)治療薬の 軟骨・骨破壊抑制に対する問題点 1)ステロイドや生物製剤の効能を高める目的で 関節内投与が治験で行われているが、軟骨・骨破 壊の抑制についてエビデンスに乏しい。 2)生物製剤に抵抗性を示すRAでは成功例が少 ない。 3)軟骨・骨破壊の責任分子は炎症性サイトカイン 以外にも存在する。単一の制御では期待する効 果が得られない場合がある。 3 本技術の背景① RA滑膜の活性化マクロ ファージは軟骨・骨破壊に関与する 関節リウマチ滑膜 正常滑膜 ・滑膜マクロファージはTNF-αや IL-6などの炎症性サイトカインを 広汎に分泌するだけでなく、破骨 細胞に分化する。(Nagayoshi. R., et al. A&R., 52:2666, 2005, Nagai T., et al. A&R., 54:3126, 2006) ・抗TNF製剤が有効な患者では、 滑膜マクロファージが減少する。 (Carla A., et al., A&R, 56:3869, 2007) サイトカイン 増殖因子 タンパク分解酵素 破骨細胞 軟骨・骨 4 本技術の背景② 滑膜マクロファージは葉酸 受容体β(FR-β)を発現する Ctrl CD14 (マクロファージマーカー) FR-β CD163 (マクロファージマーカー) RA OA 関節リウマチ(RA)および変形性関節炎(OA)患者の滑膜を抗FR-βで免疫染 色を行った。その結果、滑膜マクロファージはFR-βを発現する事が示された。 5 FR-β発現細胞中の陽性率 (%) 本技術の背景③ FR-β発現滑膜マクロ ファージが分泌するサイトカインの比較(免疫 組織染色) 100 ** * RA OA 80 60 40 20 0 TNF-α TGF-β IL-10 RAとOAの滑膜組織を用い、 FR-β発現滑膜マクロファージ のサイトカイン分泌を免疫染 色で比較したところ、TNF-α とTGF-β分泌量の相違が確 認された。(当教室 Tsuneyoshi et al., Scand J Rheumatol. 41:132, 2012 一部 編集) 6 葉酸結合タンパク質と発現組織 タンパク質名 発現組織・細胞 葉酸キャリアタンパク質(膜型) 全ての細胞 FR- (膜型) 上皮細胞(固形がん) FR-β (膜型) 組織内で活性化したマクロファージ (肝臓クッパー細胞で低発現、末梢血単球では未発現) FR-γ (分泌型) FR-δ (膜型) 好中球 制御性T細胞 7 本技術の背景④ 抗ヒトFR-βイムノトキシン の効果(RA滑膜-SCIDマウス移植モデル) Control rIT CD68 (マクロファー ジマーカー) VL VH IL-6 抗FR-β イムノトキシ ン(後述) TUNEL RA滑膜をSCIDマウスに移植後、イムノトキシンを移植組織周囲に投与した。移植組織の免疫染 色を行い、IL-6の減少とFR-β発現マクロファージの細胞死を確認した。また、RA滑膜マクロファー ジの破骨細胞への分化誘導時にイムノトキシンを添加し、破骨細胞の減少を確認した (当教室 Nagai et al., A&R., 54:3126, 2006 一部編集)。 8 背景まとめ • 間接内投与は全身投与に比べて軟骨・骨破 壊の抑制に有効と推察されるが、マウスモデ ルでは限界がある(関節が小さい)。 • そこで、ラット関節炎モデルにて、イムノトキシ ンによる軟骨・骨破壊の抑制効果を検討した。 9 実施例① マウス抗ラットFR-βモノクローナ ル抗体の作製 FR-β発現細胞株 対照用細胞株 FR-β発現 FR-β発現強度 FR-β発現強度 FR-β発現強度 チオグリコレート誘発ラット腹腔マクロファージ CD11b/c発現強度 (マクロファージマーカー) マウス抗ラットFR-βモノクロー ナル抗体(クローン名4A67、IgM タイプ)を作製し、反応性をラット FR-β強制発現細胞株とチオグ リコレート誘発ラット腹腔マクロ ファージで確認した。 10 FR-β発現マクロファージの選択除去を目的 としたイムノトキシン VL VH VL VH CDR 軽鎖 抗FRβイム ノトキシン リコンビナントタイプイムノトキシン:抗体の抗原 認識領域 (VH、VL)に、Phase IIで実績がある 遺伝子改変型緑膿菌外毒素(PE38)を組み込 んだ融合タンパク質。 抗体に比べて低分子(60 kDa)で血中半減期が 短い特徴をもつ。 重鎖 抗FRβ抗体 PE38はエンドサイトーシスにより 細胞内に取り込まれ、細胞死を誘 導する。(抗体に比べて低濃度で 作用する) The EMBO Journal (2000) 19, 5943 11 実施例② リコンビナントタイプ抗ラットFR-β イムノトキシンの作製 CDR1 CDR2 CDR3 VL VH kD ラットFRβ発現B300-19細胞 イムノトキシン 65- 対照タンパク質 49イムノトキシン濃度(ng/ml) 9-SH +SH -SH ラット腹腔マクロファージ 細胞死誘導率(%) VH イムノトキシン (62 kDa) 細胞死誘導率(%) 対照タンパク質 VH-PE38 (50 kDa) イムノトキシン濃度(ng/ml) 抗ラットFR-βイムノトキシンおよび対照タンパク質(重 鎖とPE38の融合)を大腸菌発現系から作製・精製し、 細胞死の誘発をラットFR-β強制発現系とチオグリコ レート誘発ラット腹腔マクロファージで確認した。 12 関節腫脹 (mm) 実施例③ 抗ラットFR-βイムノトキシンの関 節内投与はメチル化BSA誘発ラット関節炎 の関節腫脹を抑制する 対照タンパク質(50μg) イムノトキシン(2μg) イムノトキシン(10μg) イムノトキシン(50μg) ** **** ** * ** 対照タンパク質 (50μg, 2.0 mm) ** ** ** * ** ****** ** ***** ** ***** * ** *, P<0.05 イムノトキシン (50μg, 0.8 mm) mBSA投与(0) 関節内投与 Days Lewisラットにメチル化BSAを後肢左膝関節に注入して関節炎を誘発させた(0日)。誘発後(1, 3, 5, 7日)、 対照タンパク質 (VHPE)あるいはイムノトキシンを関節内に投与し、関節腫脹を計測した。縦軸は関節炎 誘発後の日数を示し、縦軸は正常関節幅(右膝)との増加 (mm)を示す。 13 実施例④ 抗ラットFR-βイムノトキシンの関 節内投与はメチル化BSA誘発ラット関節炎 の軟骨・骨破壊を抑制する 正常 対照タンパク質(50μg) 滑膜 滑膜 軟骨 骨髄 イムノトキシン(50μg) 滑膜 軟骨 骨髄 軟骨 骨髄 炎症スコア (0-3) 2.5 2 1.5 * * 1 滑膜肥厚スコア (0-2) 2.5 2 1.5 * * 1 0.5 0.5 0 0 イムノトキシン イムノトキシン 軟骨・骨破壊スコア (0-3) 軟骨・骨破壊領域 3 0.2 mm 3 2.5 2 1.5 1 0.5 * * 0 イムノトキシン 実施例③のラッ ト関節を脱灰後、 ヘマトキシリン・ エオシン染色を 行い、炎症、滑 膜肥厚、軟骨・ 骨破壊のスコア を比較した。 その結果、イム ノトキシン投与 は軟骨・骨破壊、 滑膜肥厚、炎症 を有意に抑制し た。 14 実施例⑤ 抗ラットFR-βイムノトキシンの関 節内投与は破骨細胞を減少させる 正常 CD68 マクロ ファー ジ 対照タンパク質 正常 イムノトキシン 対照タンパク質 イムノトキシン CatK (破骨 細胞) 0.1 mm FRβ ラット関節の免疫染色をCD68(マクロ ファージマーカー)、CatK(カテプシン K、破骨細胞マーカー)、FR-β抗体 を用いてラット関節の免疫染色を行 い、イムノトキシン投与群における破 骨細胞の減少を確認した。 0.2 mm 15 実施例⑥ 抗ラットFR-βイムノトキシンの関 節内投与では免疫原性が生じにくい 0.5 関節内投与 1 3 5 7 14 Days 21 Absorbance at 415 nm 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 ベースライン (0.1以下) 0.1 0.05 0 7 14 21 (n=5) (n=5) (n=12) メチル化BSA誘発ラットにイムノトキシン(50μg)の関節内投与を行い、関節炎誘発後7日、14 日、21日に採血し、血清中の抗PE38ラット抗体の抗体価をELISA法で測定した。その結果、 誘発後14日群の1個体を除き、ベースライン(0.1)以下の値を示した。 16 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来の問題点であった、関節内投与による抗FR-βイム ノトキシンの軟骨・骨破壊の抑制を確認した。 • 炎症組織のマクロファージに選択的な薬剤には、イムノ トキシンに比べて作製コストに優れる葉酸誘導体が挙 げられる。しかしながら、血中の葉酸濃度によって効果 が左右されやすい。 • 当該抗体はFR-βの反応において葉酸濃度の影響を受 けないクローンを用いている。 17 想定される用途 • 抗FR-βイムノトキシンは、PE38領域を任 意のタンパク質やペプチド、化合物と融合 可能である。 • 活性化マクロファージの検出系を基とした 用途(治療剤、診断剤)に貢献できる。 • ヒト、マウス、ラットに対するモノクローナル 抗体やイムノトキシンが利用可能。 18 実用化に向けた課題 • イムノトキシンの問題点である免疫原性と血 中半減期の改善。 • FR-β発現マクロファージの局在と機能の明確 化(特に病態の初期に出現するFR-β発現マク ロファージや正常組織に局在するクッパー細 胞について)。 • 毒性評価システム(急性ならびに慢性毒性) の確立。 19 企業への期待 • イムノトキシンの免疫原性と血中半減期につ いては、PEG化などに代表されるタンパク質 修飾技術により克服できると考えている。 • タンパク質修飾(ドラッグデリバリーシステム) 技術を持つ企業、毒性評価システムを持つ企 業との共同研究を希望。 • また、検出試薬を開発中の企業や慢性炎症 が関わる疾患への展開を考えている企業に は本技術の導入が有効と思われる。 20 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称 :軟骨・骨破壊抑制剤 出願番号 :PCT/JP2012/070872 出願人 :国立大学法人鹿児島大学 発明者 :永井拓、松山隆美 21 産学連携の経歴 • • • • 2008年 2009年 2011年2013年 JSTシーズ発掘試験に採択 JSTシーズ発掘試験つなぐしくみに採択 ImaginAb社と共同研究開始(継続中) JST A-STEP(探索タイプ)に採択 22 お問い合わせ先 鹿児島大学産学官連携推進センター 知的財産部門 TEL 099-285-3881 FAX 099-285-3886 e-mail [email protected] 23
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