一流男子バレーボール選手の跳躍能力に関する研究 山中 浩敬 1),秋山 央 2)谷川 聡 3) 1.はじめに バレーボールにおいて,総得点に占める割 合はスパイクが最も多い 1)ことから,スパイ クは試合で勝利するための重要な技術であ る.スパイクの決定力をあげるための要素の 一つとして,高い打点高からスパイクを打つ ことが挙げられる.これには,身長や跳躍能 力が大きく影響していると考えられる. ま た,跳躍能力は,下肢の貢献度が大きく加齢 による影響を受けやすいと考えられる 2).こ れらのことから,一流男子バレーボール選手 の身長や年齢との跳躍能力の関係を検討す ることは重要であると考えられる. 本研究の目的は,一流男子バレーボール選 手における跳躍能力の基礎的データを収集 するとともに,適切なトレーニングを処方す るための有効な知見を得ることである. た. CMJ による反動効果: {(CMJ の跳躍高-SJ の跳躍高)/SJ 跳躍高×100}により算出した. バネ的能力: SPJ3 の跳躍高を SJ の跳躍高 で除すことで算出した. 6.統計処理 各算出データとの関係を検討するため, Peason の積率相関係数を算出し,2 群間お よび 3 群間におけるデータの比較は対応の ない一元配置分散分析を行い,後者において, 有意水準に達したものについては,多重比較 (Tukey-Kramer 法)を行った.いずれの統 計処理においても有意水準は 5%未満とした. 3.結果及び考察 1.跳躍高 これまで多くの一流男子バレーボール選手 を対象とした各種跳躍の基礎的データが示 されておらず,これらが,トップレベルを目 指す際などの目標値の一つとして参考にな る値であると考えられる(図 1). 2.方法 1.対象 V プレミアリーグおよび関東大学バレーボール 連盟 1 部に所属する男子バレーボール選手 58 と した. 被験者の年齢および形態は以下に示す通 りである. 90.0 69.0 (cm) 60.0 表 1 形態の平均値および標準偏差 年齢(歳) 身長(cm) 体重(kg) 83.5 78.4 75.0 45.0 54.1 41.7 47.2 45.8 39.3 指高(cm) 下肢長(cm) 下腿長(cm) 下腿長/下肢長 下肢長/身長 足長(cm) 30.0 23.5±3.3 187.5±7.1 81.7±7.3 243.9±11.0 99.6±5.4 50.2±2.7 0.50±0.02 0.53±0.02 28.8±0.9 15.0 0.0 2.跳躍能力の測定 Squat Jump(SJ),Counter Movement Jump (CMJ),CMJ with Arms(CMJA-mat), Rebound Jump(RJ),RJ with Arms(RJA) における跳躍能力は Multi Jump Tester(ディ ケイエイチ社製)を用いて測定し,CMJA (CMJA-yard),1 歩助走による Spike Jump (SPJ1),3 歩助走による SPJ(SPJ3)は, Yardstick(swift 社製)を用いて測定した. 3.測定手順 十分なウォーミングアップ, 練習の後,測 定は形態,SJ,CMJ,CMJA-mat,RJ,RJA, CMJA-yard,SPJ1,SPJ3 の順に行った.各跳 躍は 2 回ずつ行い,記録の良い方を分析に採 用した. 4.各種データの算出 CMJA-yard,SPJ1,SPJ3 における跳躍高:最 高到達点から指高を引いた値を跳躍高とし SJ CMJ CMJA mat RJ h RJA h CMJA yard SPJ1 SPJ3 図 1 各種跳躍における跳躍高の平均値および標準偏差 2.一流男子バレーボール選手の跳躍能力 身長と SPJ1,SPJ3 における跳躍高との間に は有意な負の相関関係が認められ(SPJ1: r=-0.360,p<0.05;SPJ3:r=-0.346,p<0.01), 身長と SPJ1,SPJ3 における最高到達点との 間には有意な正の相関関係が認められた (SPJ1:r=0.711,p<0.001;SPJ3:r=0.673, p<0.001) .これらのことから,身長を考慮し て跳躍能力を評価しなければならないと考 えられる. 1)身長別の跳躍能力の特徴 身長の平均値(187.5±7.1cm)を基準とし て,上位群(T 群:193.0±3.7cm)と下位群 (S 群:181.7±4.8cm)に分類した. S 群に対する T 群の跳躍能力の割合は 19 SJ CMJ CMJA-mat RJ-index RJA-index 跳躍能力の割合(%) 100.0 95.0 90.0 85.0 80.0 Y M 110.0 105.0 反動効果の割合(%) 2.30 Y群 M群 2.11 2.10 O群 2.03 1.93 1.90 1.70 1.50 * *:p<0.05 図 4 Y 群,M 群および O 群における SPJ3/SJ 比の平 均値および標準偏差 これらのことから,バネ的能力は加齢に伴 って低下し,力型の跳躍へとシフトしていく ことが示唆された. 3.まとめ 本研究の結果から,一流男子バレーボール 選手の SPJ1 における最高到達点および跳躍 高はそれぞれ,322.4±10.3cm,78.4±7.5cm であった.また,SPJ3 においてはそれぞれ, 327.5±10.7cm,83.5±8.1cm であった. 現在,多くの指導現場で行われているよう に,SPJ の最高到達点や跳躍高のみでの跳躍 能力の評価は,SPJ の跳躍パフォーマンスに 影響を与えている要因が考慮されていない. そこで,本研究の結果に示されたように身長 の違いや加齢による跳躍能力の変化を考慮 した上で,個々の跳躍能力を変化することが, 個々の選手に適切なトレーニングを処方す るために重要であると考えられる.また,加 齢に伴い,スピード・バネ型から力型のトレ ーニング方法を考えていくべきである. 4.引用・参考文献 1)浅井正二(2001)バレーボールゲームの 得点に関するゲーム分析的研究— ラリーポ イント制における得点構成及び連続得点に ついて— .大阪体育大学紀要,32:13-24. 2) 川初清典(1974)脚筋の力・速度・パワ ー能力の年齢別推移.体育学研究,19(4・5), 201-206. 反動効果 100.0 95.0 90.0 85.0 80.0 M SPJ3 は,速い助走,短い踏切時間での跳躍 であり(スピード・バネ型),SJ は,反動を 用いない短縮性筋力発揮による跳躍である (力型) .SPJ3/SJ の値が大きいほどスピー ド・バネ型の跳躍であり,値が小さいほど力 型の跳躍であることを示している(図 4). SPJ3/SJ 比は,Y 群,M 群,O 群の順に値 は低下し,O 群の SPJ3/SJ 比は Y 群に比べ て有意に低い値を示した(p<0.05) . O 図 2 M 群に対する Y 群および O 群の跳躍能力の割合 Y 果の割合 SPJ3/SJ RJ-index(86.0%)の差が最も大きかった.S 群に対する T 群の CMJ による反動効果にお いて両群に差は見られなかった.以上のこと から,T 群は,RJ-index に求められる能力が 低かったことが,SPJ の跳躍パフォーマンス に影響していると推察される. 2)高身長選手の跳躍能力の特徴 高身長の選手において SPJ3 の跳躍高の平 均値(83.5±8.1cm)より上位にある選手を TH 群(89.1±4.6cm) ,下位にある選手を TL 群(75.1±4.8cm)とした. TH 群に対する TL 群の跳躍能力の割合は, RJ-index(87.7%)や CMJA-mat(89.0%)の 差が大きかった.また,TH 群に対する TL 群の CMJ による反動効果の割合(81.6%)は 低く,CMJ による反動を効果的に利用でき ていないことがわかる. 以上のことから,下肢三関節の爆発的筋力 発揮能力の差や反動を効果的に利用できて いないことが,TL 群における SPJ の跳躍パ フォーマンスに影響を与えている可能性が あると推察される. 3)年齢別の跳躍能力の特徴 被験者の平均年齢(25.3±3.3 歳)の±0.5SD を基準に 3 群に分けた(Y 群:23 歳以下,M 群:24〜26 歳,O 群:27 歳以上) . M 群に対する跳躍能力の割合は,O 群にお いて RJA-index に大きな差がみられた(図 2) . M 群に対する Y 群および O 群の CMJ による 反動効果に有意差はないものの,Y 群が高か った(図 3) . 以上のことから,加齢によって RJA-index に求められる能力が低下しやすく,反動を効 果的に利用できなくなることが示唆された. O 図 3 M 群に対する Y 群および O 群の CMJ による反動効 20
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