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島根大学地質学研究報告 8.1∼6ページ(1989年6月)
GeoL Rept.Shimane Univ.,8.p.1∼6 (1989)
中国地方の第四紀後期植物・花粉群
一その4.島根県仁多町福原および佐田町反部の泥炭層一
大
郁
西
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Late Quatemary Flora』s in Chugoku District
−Part4.Peat Beds of Fukuhara in Nitacho and Tambe in Sadacho,Shimane Prefecture
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論
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1330E
図1位 置 図
中国地方各地の山間盆地には,最終氷期の泥炭質堆
期植物・花粉群”のシリーズとして,それらの数ヶ所
積物が分布し,その一部には植物化石や花粉がふくま
について報告してきた(大西,1986,1987,1988).今
れている.筆者は,これまで,“中国地方の第四紀後
回は,島根県仁多町福原と佐田町反部(図1)の泥炭
層の花粉分析結果を報告する.
*島根大学理学部地質学教室
1
2
大 西 郁 夫
難縣1舳灘 醗
1.仁多町福原
359N
島根県仁多郡仁多町福原は,斐伊川の小支流・矢入
川の上流にひらけた,標高約400mの,小さな山間盆
地である(図2).そこでは,層厚2m以上の亜角礫層
があり,層厚25cmの砂混じり泥炭層をはさみ,黄色
降下軽石層におおわれている.この降下軽石層は三瓶
山の浮布軽石(松井・井上,1971の浮布降下軽石層)
に対比される.
泥炭層から5試料を採取し,花粉分析をおこなっ
た.結果を図3に示す.全般的に,スギ属とマツ属が
2㎞
多いが,下部と上部で,顕著な違いがみられる.すな
図2 福原の試料採取地点 国土地理院発行2万5
わち,下部の2試料では,ハンノキ属が多いが,上部
千分の1地形図r阿井町」を使用
の2試料では,ツガ属,トウヒ属が多くなる.
道路拡張工事の際に,飯の原礫層におおわれる泥炭層
H.佐田町反部
が発見された.ここでは,軽石を含む礫層の下位に,
出雲市乙立町森原から簸川郡佐田町豊田にかけての
層厚約2mの軽石を含まない礫層があり,その中位
神戸川沿いには,大田軽石流(松井・井上,1971)に
に,層厚約40cmの泥炭層がはさまれている.この泥
由来すると考えられる軽石粒を含む礫層(飯の原礫
炭層から,4試料を採取し,花粉分析をおこなった.
層)が分布し,河岸段丘を構成している(島根県地質
花粉分析の結果を図5に示す.スギ属とハンノキ属
図説明書編集委員会,1985).佐田町反部(図4)で,
が多く,単維菅束亜属を含むマツ属,トウヒ属,ツガ
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中国地方の第四紀後期植物・花粉群一その4
属などの針葉樹種を伴う.
3
泥炭層の絶対年代はいくつかの報告がある.浮布軽
石は,三瓶山周辺では,浮布火砕流を整合におおう.
皿.気候推定とその年代
浮布火砕流からは,16,000±400y.B.P.(松井・井上,
鳥取県日南町の下花口層から,チョウセンマツをふ
1971)と14,780±350y.B.P.(服部ほか,1883)という
くむ泥炭層が発見され,その22,030±1,240年BPとい’
1℃年代が報告されていて,浮布軽石の噴出年代は約
う1℃年代値から,最終氷期の最寒冷期を示すと考え
し5万年前と推定される.
られている(大西ほか,1987).その泥炭層の花粉組成
一方,大田軽石流からは,25,600±1,000y.B.P.(鈴
は,単維菅束亜属を含むマツ属,トウヒ属,ツガ属な
木ほか,1968),21,740±810∼>33,300y.B.P.(服部
どの針葉樹種が多く,スギ属などの針葉樹種やカバノ
ほか,1983)などの14C年代が報告されているが,池
キ属以外の広葉樹種をほとんど含まず,周辺地域は発
田軽石や姶良火山灰との関係からみて(柴田,1979).
達した亜高山性針葉樹林におおわれていたと推定され
その噴出期はほぼ3万年前と考えられる.
ている(大西,1987).
IV.山陰地方中部における最終氷期後期の気候変化
それに対し,今回の反部と福原の下部の花粉組成
は,スギ属とハンノキ属が多く,単維菅束亜属を含む
このような年代推定をすると,反部の泥炭層は,松
マツ属,トウヒ属,ツガ属などの針葉樹種を伴う.こ
江市の奥谷層上部(大西,1974)とほぼ同時代で,同
れらの花粉組成から,上記の寒冷気候よりかなり温暖
層下部の寒冷期(大西,1988)と前記の下花口層(大
化した気候が推定される.それに対し,福原の上部の
西,1987)および岡山県八束村の花園層(大西,1974)・
花粉組成は,スギ属は多いが,ハンノキ属が減少し,
島根県横田町の亀ヶ市層(大西,1986)などの約2.2万
単維菅束亜属を含むマツ属,トウヒ属,ツガ属などの
年前の寒冷期とに狭さまれた,3万年前後のやや温暖
針葉樹種が増加し,やや寒冷化したものと考えられ
な時期を代表するものと考えられる.また福原の泥炭
る.
層の下部は,約2.2万年前の寒冷期に引ぎ続くやや温
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図4 反部の試料採取地点 国土地理院発行2万5千分の1地形r神西湖」r反部」を使用
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図5 反部の花粉ダイアグラム
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9
大 西 郁 夫
6
暖化した時期を代表し,上部はやや寒冷化して,横田
1−9
町の小峠層の寒冷期(大西,1986)へと引ぎ続き,さ
大西郁夫,1987:中国地方の第四紀後期植物・花粉群
らに,境港層のやや温暖な時期(大西,1977)へと引
」その2.鳥取県日南町下花吉の含チョウセンマツ
ぎ続いていくものと考えられる(表1).
泥炭層と鍵掛峠の砂まじり泥炭層一.島根大学地質
文
研究報告,6,55−60
献
大西郁夫,1988:中国地方の第四紀後期植物・花粉群
服部 仁・鹿野和彦・鈴木隆介・横山勝三・松浦浩久・
一その3.鳥取市口細見の泥炭層一.島根大学地質
佐藤博之,1983:三瓶山地域の地質.地域地質研究
学研究報告,7,1−4
報告,168P.地質調査所
大西郁夫7・赤木三郎・三好 環,1987:鳥取県産含
松井整司・井上多津男・1971:三瓶火山の噴出物と層
チョウセンマツ泥炭層の14C年代一日本の第四紀層
序・地球科学,25,112−114
の14C年代(166)一地球科学,41,251−252
大西郁夫,1974:山陰地方の第四紀中・後期の植物化
柴田喜太郎,1979:帝釈観音洞窟遺跡における二層の
石.島根大学文理学部紀要,理学科編,7,110−
火山灰層.広島大学文学部帝釈峡遺跡発掘調査質年
114
大西郁夫,1977:出雲海岸平野下第四紀堆積物の花粉
報,2,77−83
島根県地質図説明書編集委員会,1985:島根県の地
分析.地質学雑誌,83,603−616
質.646p.島根県.
大西郁夫,1986:中国地方の第四紀後期植物・花粉群
鈴木隆介・横山勝三・高橋健一,1986:三瓶火山の活
一その1.島根県横田町小峠および下横田の後期更
動史と地形(演旨).地理学評論,41,386−387
新世花粉フロラー.島根大学地質学研究報告,5,
T