3.カノニカル分布と自由エネルギー ミクロカノニカル分布: 孤立系 カノニカル分布: 熱浴と熱平衡にある系 A B 量子状態 n ミクロカノニカル分布 カノニカル分布 (孤立系) 熱浴(heat bath)と熱平衡にある系 エネルギー En 熱浴 B の中に小さい系 A があるとし、系の間の相互作用エネルギーは十分小さいので無視する。 系全体のエネルギーは E A + EB = ET = const この条件下で、 E A , (3.1) E B は色々な値を取り、かつ、全系は熱平衡にある。 A がエネルギー E n の量子状態 n にあるとし、この時 B 全体は量子状態 m に、あるとする。 全系の量子状態は (n, m) (個別の量子準位 準位ではなく、 その占有状態全体の状態 状態) 準位 状態 と表す事が出来る。 A がエネルギー E n の量子状態 n にある確率(場合の数)は、残りの系の状態数(自由度)に 比例する。 そこで、残りの系の状態数を考えると Pn ∝ WB (ET − E n ) B のエントロピーを よって (3.2) S B (E) とおけば S B (E ) = k B logWB (E ) (3.3) 1 W B (E ) = exp S B (E ) kB (3.4) ∴ 1 Pn ∝ exp S B (E T − E n ) kB (3.5) ここで、系 A は系 B に比べ十分小さいので、 E n << E T S B (ET − E n ) を E n について Taylor 展開し、 (3.6) dS S B ( E T − E n ) ≅ S B (E T ) − B En dE E = ET (1.44) より、 dS 1 = dE T なので、B の温度を T として、 S B (E T − E n ) ≅ S B (E T ) − En T ∴ 1 Pn ∝ exp kB E n S B (E T ) − T ここで、括弧内の第1項は定数で、 n についての関数は第2項のみ。 ∴ Pn ∝ e − En よって、 Pn = Ce k BT − En k BT とおいて確率を規格化すると ∑P n = 1 なので、 n ∑ Ce − En k BT = C ∑ e − En n k BT ∴ n Pn = 1 − En e Z k BT 1 = ∑ e − En C n k BT =Z (3.8) (3.7) この Z を分配関数( 分配関数(partition 分配関数(partition function) function)、または 状態和 と呼ぶ。 注: 厳密さはさておき、直観的に理解するならば、分配関数は 確率を求める時の規格化因子、 或いは、全体で起こりえる事象の確率の総和、と考える事ができる。 この様に、温度 T の熱平衡状態にある大きな外部系(熱浴)に接して熱平衡にある粒子一定の 系(閉じた系)のとる確率分布をカノニカル分布(canonical 系(閉じた系)のとる確率分布をカノニカル分布(canonical distribution: 正準分布)と呼ぶ。 (カノニカル分布を満たす条件) 1.外部の系に比べ十分小さい事、 2.全エネルギーが一定(但し、相互作用無視し得る) 弱く結合した部分系の集まりのカノニカル分布 図 3-2 (右図並びに教科書 P.73)の様に、弱く相互 a b c … 作用(相互作用エネルギーを無視し得るが、全エネルギ ーは一定)している部分系 a, b, c, からなっている系を 考える(B は熱浴 熱浴) 熱浴 。 この時、全エネルギーは B E = E (a ) + E (b ) + E (c ) + L = const (3.9)’ (教科書の記述はやや誤解を招く) 図 3-2 弱く結合した系 各部分系の量子状態 量子状態を各々 量子状態 i, j, k , L で表せば、全系の量子状態 全系の量子状態はその組 (i, j , k , L) で指定さ 全系の量子状態 れる。 部分系の量子状態のエネルギーを E i(a ) , E (jb ) , E k(c ) , L とすると、全系の量子状態のエネル ギー(の和)は E (i , j , k , L) = E i(a ) + E (jb ) + E k(c ) + L (3.10) 分配関数は Z= 1 exp − E i(a ) + E (jb ) + E k(c ) + L i , j , k ,L k BT ∑ ( ) (3.11) この和は部分系毎に独立にとる事ができ、(各部分系の中で、どの様な量子状態を取るかは独立) (a ) k T B Z = ∑ e − Ei ∑e i − E (jb ) k BT j ∑e − Ek( c ) k BT L (3.12) k = Za Zb Zc L ここに、 (a ) k T B Z a = ∑ e − Ei (3.13) i は部分系 a の分配関数。 よって、全系が量子状態 P(i , j ,k ,L) = = (i, ( j, k , L) にある確率は ) 1 1 exp − Ei( a ) + E (jb ) + E k(c ) + L Z k BT 1 − Ei( a ) e Za k BT ⋅ 1 − E (jb ) e Zb k BT ⋅ 1 − Ek( c ) e Zc k BT ⋅L 部分系 a の確率分布を 1 − Ei( a ) k BT e Za (3.14) P(i , j ,k ,L) = Pi (a ) Pj(b ) Pk(c ) L (3.15) Pi (a ) = とおけば、 各部分系の確率分布は独立事象。 (上で、既に分配関数の掛算で利用しているが) 「ミクロカノニカル分布」 は孤立系 「カノニカル分布 「カノニカル分布」 分布」 は熱浴中の部分系 エネルギーの平均値 確率分布が (3.7) E = ∑ E n Pn = n 1 k BT = β 1 − En e Z Pn = 1 Z ∑E k BT n と得られたので、熱平衡における系のエネルギーの平均値は e − En k BT (3.16) n とおくと、 E = 1 Z ∑E n e − En k BT n = 1 Z ∑E n n e − βEn = − 1 d Z dβ ∑e n − βEn =− 1 dZ Z dβ (3.16)’ 即ち E =− ここに、 d log Z dβ dβ d 1 = dT dT k B T (3.17) 1 = − k BT 2 dT d 1 = dβ dβ k B β 1 = − = −k BT 2 2 kBβ E =− dT d d log Z = k B T 2 log Z dβ dT dT (3.18) この様に、分配関数から、熱力学的関数の値を求める事が出来る 分配関数から、熱力学的関数の値を求める事が出来る。 分配関数から、熱力学的関数の値を求める事が出来る 即ち、量子状態の分布が分かれば、エネルギー等の値は全て計算できる、 量子状態の分布が分かれば、エネルギー等の値は全て計算できる、という事。 量子状態の分布が分かれば、エネルギー等の値は全て計算できる、 注: 計算が簡単になるため、 β = 1 k BT という変数を頻々と利用するが、無論、本質的には温度を 利用して全く構わない。 3-2 エネルギーのゆらぎ 既に第1章でも「ゆらぎ」という概念を導入した。 → B A これは、古典熱力学では余り扱われず、やや分 かり難い概念。 量子状態 n 微視的な世界では「多少の」ゆらぎがあり、これ を考えると色々な現象が分かるために導入される概 熱浴 B と エネルギー En 熱平衡にある系 A 図 3-1 念だと思えばよい。 ここでは、図 3-1(右上並びに教科書 P.70)の様に、熱浴と接した系 A を考え、色々なエネルギ ーの量子状態を取る時の確率分布を求める。 熱浴に接した系のエネルギー分布 系がエネルギー E の1つの量子状態にある確率は、(3.7) Pn = よって、エネルギーが E の1つの量子状態の数を 率、即ち W (E ) 個の量子状態のどれかにある確率は 1 − En e Z k BT で E = En で求まる。 W (E ) とすれば、系がエネルギー E を持つ確 S (E ) = k BT logW (E ) を考慮して、 P (E ) = 1 W (E )e − E k BT Z (3.19) P (E ) = 1 1 exp − {E − TS (E )} Z k BT (3.20) エネルギーが揺らぐ中、実現確率最大のエネルギーは、P(E ) 最大、i.e. E − TS (E ) 最小の時のもの。 d {E − TS (E )} = 0 dE ∴ 1− dT dS (E ) =0 S (E ) − T dE dE この T は熱浴の温度、従って、系のエネルギーには依存しない。 dT =0 dE よって、 と考えられるので、 dS 1 1 ≡ = dE T (E ) T ところで、 (1.44) の本来意味する処は、系の温度は dS 1 ≡ dE T (E ) (3.21) で定義されるという事。 少々分かり難いが、 T (E ) は上の様に量子状態の確率分布を考えた時の系 A の温度、 T は熱浴の温度、である。 (3.21) により定まるエネルギーを E 0 とおき、エネルギーを揺らぎ ε を用いて E = E0 + ε とおく。 (3.20) を ε を用いて展開して、 1 d 2S 2 1 d 2S 2 dS E − TS(E ) ≅ E0 − TS(E0 ) + ε − T ε − T 2 ε = E0 − TS(E0 ) − T 2 ε 2 dE 0 2 dE 0 dE 0 但し、添字の 0 は E = E 0 における値。 ε 1次の項は、(3.21) より 0。 ここに、 1 d 2S d 1 dT (E ) 1 =− 2 2 = = − 2 T dE 0 dE T (E ) 0 {T (E )} dE 0 −1 1 dE =− CT 2 dT 0 但し、 C は系の比熱。 ∴ E − TS (E ) ≅ E 0 − TS (E 0 ) + ε2 2CT (3.22) (3.20) に代入して P(E ) = 1 1 exp− Z k BT ε 2 E − TS ( E ) + 0 0 2CT よって、エネルギー分布の確率は P (E ) ∝ ε2 exp − 2 2k BT C (3.23) エネルギーのゆらぎ (3.23) を用いて、エネルギーの揺らぎ・分布を求める。 ε の2乗平均を求めると、 5 ε ∫ = ε 2 exp(− ε 2 2k BT 2 C )dε ∞ −∞ ∞ 2 ∫ −∞ ( ) exp − ε 2 2k B T 2 C dε = k BT 2 C (3.24) この導出には、宿題でもやって貰った、下記の関係を利用した。 ∫ ∞ −∞ ∫ ( π ) exp − ax 2 dx = ∞ −∞ (A.2) a π x 2 exp (− ax 2 )dx = 2a 3 (A.3) 2 ここで、この値の大きさを考察 ε2 E k T 1 = O B = O << 1 N E k BT 2 C = E (3.25) 3 3 RT = Nk B T 程度である。 2 2 ところで、 (3.21) により定まるエネルギーを E 0 とおいたが、(3.23) より、分布は E 0 を中心に 注: E= 対称に分布しているので、 E 0 = E 平均値からのずれは、 ε と推定できる。 = E−E とおき ε 2 = (E − E ) = E 2 − 2 EE + E 2 = E 2 − E 2 2 カノニカル分布の式 (3.7) Pn = ∑E e β E= ∑e β 1 − En e Z − En − En k BT より ∑E e β = ∑e β 2 − En n n n 公式 E2 , n n − En n よって、 2 dE = dβ −∑E e 2 n − β En n ∑n e + ∑n En e − βEn − ∑ E n2 e − βEn ∑ E n e −βEn = n − βE + n 2 − βE n n e ∑ ∑e − β En ∑e n n n − βE n 2 2 2 = −E + E 従って ε2 =− dE dE = k BT 2 dβ dT (3.26) これは、(3.24) と一致。 6 比熱の不等式 揺らぎ ε2 (3.24) より、 ε 2 = k B T 2 C は定義から正。 C >0 なので、 (3.27) である。 ∵ もし、 C が負ならば、 ε2 2k BT C 1)(3.23) P (E ) ∝ exp − 2 において、 E = E 0 (ε = 0) は確率最小を与える 2)物理的に考えて、比熱が負ならば、熱が入ると温度が低下、さらに熱が流れ込む、 といった問題点が生じる。 即ち、(3.27) は系の安定性の成立から要請され、熱力学不等式(inequality in thermodynamics) と呼ばれる。 3-3 3-3 自由エネルギー 自由エネルギー 熱浴に接して温度が一定 温度が一定な系で、マクロな物性の議論に有用なのもの。 温度が一定 (系が外界になし得る最大仕事量) 分配関数と自由エネルギー (3.18) E = k B T 2 d log Z を参考に、 log Z (T ) dT F (T ) = −k BT log Z (T ) を利用した物理量を定義。 (3.28) これを自由エネルギー(Helmholtz Free Energy)と呼ぶ。 (3.19) P (E ) = 1 W (E )e − E k BT Z (3.20) P (E ) = 1 1 {E − TS (E )} exp − Z k BT これらの式の意味を良く理解・消化! より、 (但し、 W (E ) Z (T ) = はエネルギー ∑ W (E )e − E k BT E = E ~ E + ∆E にある量子状態の数) 1 ∑ exp − k T {E − TS (E )} E (3.29) B 以下、(3.30 - 32) の議論は余り拘る必要無し。 エントロピーは S (E ) = k B logW (E ) (3.30) 7 E − TS (E ) ≅ E 0 − TS (E 0 ) + ここに (3.22) より ε2 なので 2CT 2 1 {E − TS (E )} = exp − 1 {E 0 − TS (E 0 )} exp ε 2 exp − k BT k BT 2 k B CT E0 dS 1 1 ≡ = dE T (E ) T は (3.21) を満たす様なものに定義(実現確率最大)したが、 2 1 {E − TS (E )} = ∑ exp− 1 {E0 − TS (E0 )} exp− ε 2 Z (T ) = ∑ exp− E k BT E k BT 2k B CT 1 ∞ 1 2πk B CT 2 ε 2 dε {E0 − TS (E0 )} ∫ exp− {E0 − TS (E0 )} = exp− = exp− 2 ∆E k BT −∞ 2k B CT ∆E k BT (3.31)’ 注: (3.31)’ は宿題でやった計算 F = E 0 − TS (E 0 ) − k B T log ∴ 2πk B CT 2 ∆E dS 1 1 ≡ = dE T (E ) T ところで、 E 0 は (3.21) を満たす様なものに定義(実現確率最大)し たが、これを E と置き直すと、 (いちいち 0 をつけなくとも上記を満たすものとする) F = E − TS (E ) − k B T log 2πk B CT 2 ∆E ここに、 2πk B CT 2 (3.32) ∆E 1 なので、 ~ O N F = E − TS (3.33) ============================================ 自由エネルギーと温度、圧力 自由エネルギーと温度、圧力 (この節は省略) (3.18) E = k B T 2 d log Z dT と (3.28) F (T ) = −k BT log Z (T ) より、系の平均エネル ギーは Helmholtz 自由エネルギーを用いると E = −T 2 d F dT T (3.34) (3.33) より S= E−F = T −T 2 d F −F d F F d dT T = −T − = − T dT T T dT dF F T ⋅ = − dT T (3.35) 8 ここで、取り扱っている系を液体・気体等の等方的なものを考えると、体積変化 態のエネルギーが ∆En = ∆V により量子状 ∆En だけ変化するとすると、 dEn ∆V dV このエネルギー変化が系の量子状態を保って断熱的(ゆっくり)起こったとすると、体積変化に伴い 外界になす仕事によって起こったものと考える事ができる。 即ち、 pn = − を系が量子状態 dEn dV (3.36) n にある時の「圧力」に相当。 ところで、実際に計測し得るマクロな圧力(カッコなし)はこれを系の量子状態全てについて平均 したものなので、各々の状態を取る確率 Pn = 1 − En e Z k BT (3.7) を考慮し、 p = ∑ Pn pn = n 1 dEn − En ∑ − e Z n dV k BT = k BT d e − En ∑ Z dV n k BT = k BT d log Z dV (この式変形のテクニックに留意!) 先に定義した Helmholtz 自由エネルギー p=− F (T ) = −k BT log Z (T ) dF dV を用いると (3.37) ところで、Helmholtz 自由エネルギーは熱力学で学んだ様に、 F ∂F S = − , ∂T V (3.28) ∂F p = − ∂V T = F (T , V ) と考えると (3.38) よって、自由エネルギーの微小変化の全微分式は ∂F ∂F dF = dT + dV = −S dT − p dV ∂T V ∂V T 因みに、 F = E − TS (3.33) と dE = TdS − pdV (3.39) (2.73) より dF = dE − d (TS ) = T dS − p dV − T dS − S dT = − p dV − S dT としても求まる。 =============END 参考========================= 9 弱く結合した部分系の集まりの自由エネルギー 弱く結合した部分系の集まりの自由エネルギー 3-1 節: 系が弱く相互作用している幾つかの部分系からな a b … c る時、 全系の分配関数は、 部分系の分配関数の積で表される。 (図 3-2 参照) Z = ZaZbZc L ∴ (3.12) B log Z = log Z a + log Z b + log Z c L 各部分系の Helmholtz 自由エネルギーは Fa = − k B T log Z a (3.41) 図 3-2 弱く結合した系 等で与えられ、系全体では F = Fa + Fb + Fc + L 例: N 個の振動子系 (3.40) (相互作用は十分小さいとする) 1振動子の分配関数は hω 1 e − hω 2 k B T z = ∑ exp − n + = 2 1 − e − hω k B T n =0 k BT ∞ (3.42) 1振動子の自由エネルギー φ = − k B T log z = − k B T log N 振動子系の自由エネルギー e − hω 2 k B T hω = + k B T log 1 − e − hω k BT − hω k B T 2 1− e ( ( N 振動子系の自由エネルギー ( (3.44) k BT ) (3.45) d F を用いて dT T N 振動子系の内部エネルギー E = −T 2 ) (全て固有振動数異なる) hω F = ∑ i + k BT log 1 − e −hωi i 2 E = −T 2 (3.43) (全て固有振動数同じ) hω F = Nφ = N + k BT log 1 − e −hω kBT 2 (3.34) ) (全て固有振動数同じ) d hω d hω N + k B log 1 − e −hω k BT = − NT 2 − 2 + k B log 1 − e −hω k BT dT 2T dT 2T ( ) hω hω 1 hω hω = N = − NT − 2 − k B + hω k B T 2 hω k B T k BT e −1 −1 2 e 2T ( ) (3.46) 2 10 =========計算================================= X = 1 − e −hω k BT = 1 − e −Y 、 Y = ( hω k BT ) とおいて、 ( ) ( ) d dX d d 1 log 1 − e −hω k BT = log 1 − e −hω k BT = 1 − e − h ω k BT ⋅ − hω k BT dT dT dX dT 1− e hω −hω k BT d hω d 1 1 − hω 1 − e = 1 − e −Y ⋅ = = − h ω k BT 2 − h ω k BT 2 hω k BT dT k B T dY k BT e 1− e 1− e −1 k BT ( ) ============================================= N 振動子系の内部エネルギー (全て固有振動数異なる) hω i hω i − hω k T 2 d 2 E = −T ∑ 2T dT ( + k B log 1 − e i B i ) = −T ∑ − 2T 2 + kB i hω hω 1 hω hω = T ∑ 2i + 2i hω k T = ∑ i + hω k BTi B T e −1 e −1 i 2T i 2 ( d log 1 − e −hωi dT k BT ) (3.47) 2 理想気体の自由エネルギー E = 3 Nk B T 2 (3.33) F = E − TS (2.57) V mk T 3 2 5 S (N1 , N 2 , N 3 , L) = Nk B log B 2 + 2 N 2πh (2.31) よって、 V mk T 3 2 5 V mk T 3 2 3 B F = E − TS = Nk B T − Nk B T log + = − Nk B T log B 2 + 1 2 2 N 2πh 2 N 2πh (3.48) 理想気体ではエネルギーは各分子のエネルギーの和にはなっているが 分子が区別できない事から、 F = Nφ (T , V ) とはなっていない。(cf. 振動子系では成立) 注: 直観的には、自由エネルギーは内部エネルギーにエントロピーの効果を加えていると考えると 分かり易いかも知れない。 11 ============================================================== 補足 ミクロカノニカル(小正準)分布 2-1~2-3で説明を行ったのがミクロカノニカル分布 エネルギーが一定の時の統計集団の振る舞い Notation が少し異なるが、教科書に準じた内容を説明済み 3-1A カノニカル(正準)分布 大きな物質系を考える時、その部分集団(系)を考える。 それら、部分系の間には相互作用やエネ ルギー交換があるが、大きな物質系全体としては、温度 T で熱的平衡にあり、系全体としては粒子 数・体積は保存していると考える。 (熱力学第一法則より、 d ' Q = dU + pdV , あり、体積変化があると内部エネルギー U に影響を与えてしまう。 dS = d 'Q T で また、粒子の数が変わると、 後述の様に化学ポテンシャルが効いてくる。 ) エネルギーEj の部分系が Mj 個 各々の箱の中には、これまで議論してきた、粒子を離散化されたエネルギー準位に入れた状態が存在 し、その箱の中のエネルギー和は、 E ∆ = ∑ nk ε k (3A.1) k 但し、 ε k は箱内の量子準位のエネルギー、 nk はそれを占有する粒子数 この時、エネルギー E ∆ も離散的であるが、それらが小さい方から、 E1 , E 2 , E3 ,L, E j , L と云っ たエネルギー値を取り、それぞれを満たす系が M j 個あると考える。 すると、全体の微小(部分) 系の数を M 、系全体のエネルギーを E とすると、 M = ∑M j j (3A.2) E0 = ∑ M j E j (3A.3) j 取りうる状態の数は、 12 W= M! M1!M 2 !M 3!.... (3A.4) S = k B logW 最大にすべく、 この時、エントロピー log W ≅ M (log M − 1) − ∑ M j (log M j − 1) = M log M − ∑ M j log M j j (3A.5) j を束縛条件 (3A.2), (3A.3) の下でこの値の極値にするは、Lagrange の未定係数法を用いると、 f = log W + λ1 ∑ M j + λ 2 ∑ M j E j j (3A.6) j の極値を求める事に帰結する。 ∂f ∂ = (logW + λ1 ∑ M j + λ 2 ∑ M j E j ) ∂M j ∂M j j j (3A.7) = −∑ (log M j + 1 + λ1 + λ2 E j ) = 0 j (参考: λ1 = α – 1 とおけば教科書(別のもの)の結果と一致する。 また、計算の経過は δ log W ≅ −δ ∑ M j log M j = −∑ (δM j log M j + M j δ log M j ) j j = −∑ (δM j log M j + M j j j 従って、全ての について、 M j = e −α e − βE j δM j Mj である) j log M j + α + βE j = 0 = Ce (3A.8) ) = −∑ δM j (log M j + 1) つまり、 − βE j (3A.9) ところで、(3A.2) より、 M = ∑ M j = C∑ e j − βE j = CZ (3A.10) j すると、 Mj M = e − βE j ∑e − βE j = e − βE j Z (3A.11) j ∂S 1 = = kBβ ∂E T となる。 この時、Z は分配関数と呼ばれ、β は前に求めた通り、 β= 1 k BT (1.44) より、 である(熱力学的エントロピーの定義)。 この結果から、粒子数・体積一定、温度 T の時、エネルギー状態が E j である微小状態 (部分系)が出現する確率は、 13 p( E j ) = e − βE j Z = e − βE j ∑e (3A.12) − βE j j となり、この様な分布をカノニカル分布と呼び、これに従う統計集団を正準集団である。 (これに 対し、これまで求めてきた系は 1 つの微小系の中の状態なので、ミクロカノニカル集団(小正準集団) と呼ぶ。) この時、分配関数 Z は各々の状態が出現する確率(に比例する)量の総和である。 すると、この集団での物理量 A の平均値 A = ∑ A j p( E j ) = j A は 1 − βE Aj e j ∑ Z j (3A.13) で求まる。 <注>一般に、物理量 A の平均値は、例えばエネルギー分布 ∫ AG (ε )dε ∫ G (ε )dε A = G(ε ) に対し (3A.14) で与えられる。 これは物理量 A は時々刻々変化するが、熱平衡状態における A の観測値は十分に 長い時間についての平均であり、位相空間の微小部分の出現確率に基づく平均に等しい。 「一つの系の長い時間に渡る平均(長時間平均)は位相空間における母集団の平均(位相平均)に等 しい」というエルゴード仮 エルゴード仮説 エルゴード仮説に基づいている。 (§1-3 参照) 例えば全体のエネルギー E= E = ここに、 Z = ∑e j E= E は 1 − βE E je j ∑ Z j − βE j ∴ (3A.15) ∂Z −βE = −∑ E j e j ∂β j である事を利用すると、 1 1 ∂Z ∂ logZ −βE Eje j = − =− ∑ Z j Z ∂β ∂β (3A.16) となる。 (すると、例えば、定積比熱 CV は、 ∂β 1 =− = −k B β 2 2 ∂T k BT ∂E ∂T を用い で与えられるが、 β CV = = 1 k BT より、 ∂E ∂β ∂ E ∂E = = −k B β 2 ∂T ∂T ∂β ∂β (3A.17) ) 14 ところで、 Helmholtz の自由エネルギーは、 F = E − TS で与えられるが、上記で内部 エネルギーは E の事であり、よって F = E − TS dF = dE − TdS − SdT = dE − d ' Q − SdT 熱力学第一法則 d ' Q = dE + pdV より、 dF = − pdV − SdT ∂F S = − ∂T V すると、 ∴ ∂ F ∂ F ∂F E = F + TS = F − T = −T 2 = T ∂ T ∂ β k T ∂T V V B V (3A.18) (Gibbs-Helmholtz の関係) ところで、(3A.16) より、 E=− ∂ log Z ∂T ∂ log Z ∂ log Z =− = k BT 2 ∂β ∂T ∂T ∂β これら2式を比較すると log Z = − F k BT ∴ F = −k BT log Z (3A.19) という事で、カノニカル分布においては分配関数が与えられるとヘルムホルツの自由エネルギーを求 める事が出来る。 そして、この様な系がエネルギー的に独立な部分に分かれている時には、各々の部分のエネ ルギー E ( a ) , E (b ) , E ( c ) , ... 、分配関数が Z ( a ) , Z (b ) , Z ( c ) , ... であれば、 E = E ( a ) + E (b ) + E ( c ) + ... (3A.20) Z = Z ( a ) ⋅ Z ( b ) ⋅ Z ( c ) ⋅ ... (3A.21) となる。 量子調和振動子の例: 角振動数 ω の N 個の調和振動子からなる系を考える。 各々の振動子のエネルギーは 1 ε n = hω n + (n = 0, 1, 2, ⋅ ⋅ ⋅) 2 この時 1 粒子の分配関数は ∞ Z1 = ∑ e − βε n n=0 N 粒子系では Z = (Z 1 ) − β hω 2 e = 1 − e − β hω (3A.22) N 15 ∴ hω hω e − β hω ∂ log Z ∂ E=− = −N log Z 1 = N + − β hω ∂β ∂β 2 1− e 1 1 = Nhω + βhω −1 2 e (3A.23) ところで (3A.17) より、 ∑ E j e − βE j ∂E ∂β ∂E ∂E ∂ j = = −k B β 2 = −k B β 2 CV = ∂T ∂T ∂β ∂β ∂β Z E 2 e − βE j E e − βE j j ∑ j ∑ j j 2 = kB β − Z Z2 2 = kB β 2 E 2 − E ( 2 ) (3A.24) 従って、比熱は運動エネルギーの分散(ゆらぎ)で与えられる。 ==========END 補足=========================================== 16 3-4 3-4 自由エネルギー 自由エネルギーの最小原理 エネルギーの最小原理 エネルギー一定の孤立系の熱平衡状態を求める。 部分平衡状態のエントロピーを求める → この最大化を考える 外部と接触し、温度が一定 の系を考える。 の系を考える 部分平衡の自由エネルギー 系が部分平衡にある場合: 化学反応する物質の混合気体 部分平衡を表すマクロなパラメーター(例えば温度)を x とおく。 n 系のとる量子状態 x = x1 となる確率 P(x1 ) は パラメーターが P(x1 ) = をパラメーターの値により分類すると、 ∑P n ( x = x1 ) (3.49) n 抽象的だが、例えば、温度が T になる確率 起こりえる事象を考えると、分配関数 P( x1 ) = 1 Z Z ( x1 ) = ∑ e) ( ∑ e) ( − En k B T = n x = x1 Z を用いると、 Z ( x1 ) Z (3.50) 但し、 Z =∑ − En k B T n x = x1 i ∑ e) ( n x = x1 − En k B T = ∑ Z ( xi ) (3.51) i 部分平衡の自由エネルギーは F (x) = −k BT log Z ( x) 真の平衡状態は、確率 (3.52) P( x) が最大 → 自由エネルギー最小 表面吸着 右図参照: 固体表面に M 個の吸着中心が あり、ここに n 個の分子が吸着 (温度 T , 圧力 p , 吸着エネルギー ε , 化学ポテンシャル µ とする) 表面吸着 化学ポテンシャルは第6章で議論 17 W = M Cn = 分子の吸着の仕方(吸着サイトの選び方)は、 M! n !( M − n )! よって、吸着分子の配置に関わるエントロピーは n n n n S = k B logW ≈ −MkB log + 1 − log1 − M M M M 吸着のエネルギーは E = − nε よって、吸着分子の自由エネルギーは n n n n Fa = E − TS = −nε + Mk BT log + 1 − log1 − M M M M (3.53) 系全体では、吸着していない分子も考えると、理想気体の自由エネルギーは V mkBT 3 2 F = − Nk BT log + 1 2 N 2πh で与えられており、今、 N − n (3.48) 個の自由分子があるので、これらについて自由エネルギーは 32 V mk BT F f = −(N − n )k BT log + 1 2 N − n 2πh よって、系全体では、 n n n n F = Fa + F f = −nε + Mk B T log + 1 − log1 − M M M M 32 V mk BT − ( N − n )k BT log + log + 1 2 2πh N − n (3.54) 熱平衡における吸着分子数を求める条件は、 3 V mk B T 2 1 + 1 − ( N − n )k BT + k BT log 2 N − n 2πh N −n n n V 3 mk T = −ε + k BT log − log1 − + k BT log + log B 2 = 0 M M N − n 2 2πh dF n n = −ε + k BT log − log1 − dn M M ε ∴ n M V mk B T = log 2 k BT M M − n N − n 2πh ∴ nM N 2πh 2 ε k BT e = (1 − n M )(1 − n N ) V mk BT 32 32 吸着サイト数よりも、全分子数が十分に大きいとすれば、 M << N 18 32 n V mk BT −ε k BT ≈ + 1 ∴ e M N 2πh 2 32 nM N 2πh 2 ε k BT e ≈ 1 − n M V mk BT −1 (3.55) エネルギーとエントロピーの競合 F = E − TS なので、自由エネルギーを小さくするためには、エネルギーを小さく、エントロピーを大きく しかし、 dS 1 = >0 dE T なので、エネルギーを小さくすると、エントロピーも大きくなる。 一般に、 低温ではエネルギーを小さく して熱平衡を実現 高温ではエントロピーを大きく 先の気体分子の吸着 (3.55) では 32 n V mk BT −ε k BT ≈ + 1 e M N 2πh 2 低温 高温 k B T << ε で k B T >> ε で −1 e −ε kBT << 1 e −ε k BT ∴ ≅1 ∴ n ≈1 M 32 n V mk B T ≈ + 1 M N 2πh 2 −1 高温ではエントロピーにより、吸着分子数減少。 (気体として動き回っている状態がエントロ ピーが低い) (物理的には、全エネルギーに対し、低温では吸着にする事によるエネルギー変化は大きいが、高温 では小さい事に相当) p = mg/A 3-5 3-5 ギブスの自由エネルギー ギブスの自由エネルギー 温度・圧力一定(体積は変化)の孤立系の熱平衡状態を求める。 (ここまでは体積一定だった) ... おもりの位置エネルギー pV を加えて考える。 m V (図 3-3 参照) すると、系が量子状態 Pn (V ) ∝ よって、系が体積 V n T にある確率は 1 exp − {E n (V ) + pV } k BT をもつ確率 (3.56) 図 3-3 温度・圧力一定の系 P(V ) は n について和をとり、 19 P (V ) ∝ Z (V ) e − pV k BT (3.57) Z (V ) = ∑ e − En (V ) kBT (3.58) n ここに Z (V ) は体積 V をもつ時の分配関数。 この時の自由エネルギーは (3.52) より F (V ) = −k BT log Z (V ) (3.59) F (V ) Z (V ) = exp− k BT ∴ 1 {F(V ) + pV} P(V ) ∝ exp− k BT (3.57) に代入して、 (3.60) 体積が揺らいでいる中で、実現確率が最大となるのは、 ∂ {F (V ) + pV } = ∂F + p = 0 ∂V ∂V 揺らいでいる体積を ~ V =V +v ∴ ( ~) ~ とおき、 F V + pV ∂F = −p ∂V T (3.61) を v について展開。( V は釣り合ってい る時の体積) F (V + v ) + p (V + v ) = F (V ) + v ∂ 2 F (V ) + pV 2 ∂V 2 v ≈ F (V ) + ∴ ∂F (V ) v 2 ∂ 2 F (V ) v 3 ∂ 2 F (V ) + + + L + pV + pv ∂V 2 ∂V 2 6 ∂V 2 2 v 2 ∂ 2 F (V ) v 2 ∂p F (V + v ) + p(V + v ) − {F (V ) + pV } ≈ = 2 ∂V 2 2 ∂V T (3.60) より揺らぎ v の実現する確率は、 v2 P (v ) ∝ exp − 2k B Tκ T V 1 ∂V V ∂p T κ T = − (3.62) (3.63) 等温圧縮率 ここで、エネルギーの揺らぎの式 20 ε 2 ∫ = ε 2 exp(− ε 2 2k BT 2 C )dε ∞ −∞ ∞ ∫ −∞ ( ) exp − ε 2 2k B T 2 C dε = k BT 2 C (3.24) を得た時と同様にして、体積の揺らぎは、 v 2 ∫ = ∞ −∞ ∞ ∫ ( ) v 2 exp − v 2 2k B κ T T 2V dε −∞ ( ) exp − v 2 2k B κ T T 2V dε = k B T 2κ T V (3.64) この式より、 κT > 0 (3.67) である。 理想気体の状態方程式 pV = NkBT より Nk T ∂ 1 Nk B T 1 1 ∂V 1 ∂ Nk T 1 = − B = − B = = 2 V ∂p T V ∂p p T V ∂p p T V p p κ T = − (3.65) よって、体積の揺らぎは v2 1 = V N (3.66) であり、今考えている様な N がマクロな系では十分小さい。 ギブスの自由エネルギー (3.66) の議論の通り、マクロな系では体積の揺らぎは小さいので、体積 V がきちんと定まる。 そこで、温度 T 、圧力 p で定まる系について、ギブスの自由エネルギー G = F + pV (3.68) という量を導入。 微小変化を考える。 dG = dF + d ( pV ) = −SdT + Vdp 一方、 G (T , p ) (3.69) に全微分を考えると、 ∂G ∂G dp dG = dT + ∂T p ∂p T (3.70) (教科書間違っている) (3.69), (3.70) を比較して、 ∂G ∂G S = − 、 V = ∂T p ∂p T (3.71) 21 温度、圧力一定の下で熱平衡を考える時(即ち、粒子の出入り 粒子の出入りがある様な場合) 、ギブスのエネルギ 粒子の出入り ーを用いる。 この時、粒子数に相当するパラメーターを x とおくと、ギブスのエネルギーは、 G(T , p; x ) と表現でき、パラメーターが x という値を取る確率は P(x ) ∝ G (T , p; x ) exp − k BT (3.72) となり、 G(T , p; x ) = min (3.73) が熱平衡(実現確率最大)の状態である。 3-6 3-6 熱力学の諸関係 本講義の主たるテーマで無く、熱力学の復習なので、省略。 (各自、自習) Maxwell の関係式などはいつでも使える様にしておく事。 22
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