Note : 生体利用を目指したダイヤモンドライクカーボン(DLC)の密着性評価

神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014
生体利用を目指したダイヤモンドライク
カーボン(DLC)の密着性評価
(チタン膜上への DLC コーティング)
金 子
安 井
電子技術部 電子デバイスチーム
伊 藤
企画部 研究開発連携室
堀 内
株式会社ジャパン・アドバンスド・ケミカルズ 安 原
三尋木
大阪府産業技術総合研究所
松 永
日本電子工業株式会社
池 永
株式会社不二 WPC
熊 谷
下 平
相模原表面技術研究所
須 藤
電子技術部 電子材料チーム
智
学
健
崇 弘
重 雄
勝 洋
崇
薫
正 夫
英 二
理枝子
優れた生体親和性を示すチタンへのダイヤモンドライクカーボン(DLC)のコーティングを試みた.シリコン基板上
の表面粗さの異なるチタン薄膜上への DLC の積層を行った.また,チタンと DLC の界面にテトラメチルシラン
(TMS)を緩衝膜として用いた.チタン表面粗さと緩衝膜が DLC 膜に与える影響を調べたところ,緩衝膜を 50 nm 程
度積層すると密着性が向上することが分かった.
キーワード:チタン,ダイヤモンドライクカーボン,テトラメチルシアン
積層している.DLC を含む各膜の成膜後には,原子間力
1 はじめに
顕微鏡(AFM)により表面粗さを観察した.チタン膜は X
様々な金属やポリマーが医療用目的で用いられている.
線回折試験により結晶性を観察し,X 線反射率(XRR)法と
生体埋め込み用途では化学的な安定性や強度が必要不可欠
触針式粗さ計により膜厚を測定した.また.粒子径の評価
となる.チタンは 1950 年代から生体埋め込みに用いられ
はフリーソフトの ImageJ により見積もり,密着性をスク
ている金属であるが,関節などでの長期間の利用では更な
ラッチ試験により評価した.
る耐久性が要求されている 1).
3 結果と考察
DLC はコーティングとして工業的に幅広く使われてい
る材料であり,高い耐久性と硬度,低い摩擦係数を持つ.
チタン膜は,XRR 法と触針式粗さ計による膜厚測定
我々は DLC 膜の評価については,密度と硬度の相関等を
から,製膜速度は毎分 55 nm と見積もった.図 1 は,膜
既に報告している 2).本報告ではチタン上に DLC をコー
厚が 500 nm のチタン膜の AFM 像であり,表面粗さは
ティングすることで耐久性の向上を試みる.
1.5nm 程度である.また,結晶性は X 線回折試験により
チタンの多結晶膜であることが示された.チタン膜の製膜
2 実験
時間により膜厚は 10 から 1500 nm であり,そのときの
表面粗さは 0.5 から 15 nm 程度で変化していることが分
チタン膜はホロカソード法によりシリコン基板上に
350℃で積層した.製膜時間を変えることで膜厚を制御し,
かった.これらの表面粗さの異なるチタン膜に DLC 膜を
厚さの異なるチタン膜を用意した.また,化学気相法によ
積層したが,表面粗さと密着性には相関がなかった.これ
り,チタン上にテトラメチルシラン(TMS)を緩衝膜として
は,コーティング膜である DLC の積層において,15 nm
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神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014
表1 各膜のまとめ
図 1 シリコン基板上にホロカソード法により作製した
チタン膜の AFM 像.膜厚は 500 nm で粒子径は 10
nm 程度と見積もられた.
図 3 DLC 膜のスクラッチ試験結果.TMS 緩衝膜の膜
厚により密着度が向上している.
TMS 膜の表面粗さが影響しているとは考えにくい.表 1
に示すように,500 nm のチタン膜の表面粗さは 10 nm
以下と小さい値であるが,積層される TMS 緩衝膜の膜厚
は 10 から 500 nm であり,薄い条件である 10 nm の膜
厚はチタン膜の表面粗さと同程度である.このため,数十
nm の膜厚の TMS 緩衝膜では,チタン膜を全面覆ってい
図 2 TMS 緩衝膜上に作製された DLC 膜の AFM
像.膜厚は 1 μm で粒径は 200 nm 程度であった.
ない可能性がある.
4 まとめ
程度の表面粗さは影響が少ないためであると考えている.
多結晶チタン膜上に TMS 膜を緩衝膜として,更に
チタン膜の表面粗さは DLC の密着性にあまり影響がな
DLC 膜を積層させた.チタンの膜厚により表面粗さを制
いことが分かったため,チタン膜の膜厚を 500 nm 一定と
御したが,DLC 膜の密着性には影響はなかった.しかし,
して TMS 緩衝膜の膜厚を変えた試料を用意し,さらに,
緩衝膜となる TMS の膜厚には密着性向上の為のしきい値
1 μm の DLC 膜を積層した.製膜後には AFM により,
が存在し,50 nm 以上の膜厚が必要であることが示され
表面粗さと粒子径を見積もっている.表 1 にシリコン基
た.現在,生体埋め込み用器具の材料試験を行っており,
板上のチタン膜と TMS 緩衝膜,DLC 膜の表面粗さと粒
今後,器具への DLC コーティングを検討している.この
子径をまとめた.また,図 2 には TMS 緩衝膜上に作製し
研究は一部,相模原市コンソーシアムの補助により行われ
た DLC 膜の AFM 像を示した.10 nm と小さい粒子径の
た.
チタン膜上に成長した DLC 膜の粒子径は 200 nm と大き
いが,表面粗さは 5 nm 程度と平坦性を維持している.
文献
膜厚の異なる TMS 緩衝膜上に積層した DLC 膜の密着
性をスクラッチ試験機で評価した.図 3 は TMS 緩衝膜の
1) H. G. Willert, and M. Semlitsch ; J. Biomed. Mater.
膜厚と密着性の関係を示している.図に示すように TMS
Res., 11, 157 (1997).
の膜厚が 10 nm 以下では密着性が極端に悪くなり,数十
2) S. Kaneko et al. ; Jpn. J. Appl. Phys., 50, 01AF11
nm 以上の膜厚から密着性が向上していることが分かる.
(2011).
TMS 緩衝膜の膜厚は 10 から 500 nm まで変化している
が,その表面粗さは約 5 nm と一定であり,密着性に
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