低原子価 Ti 系薄膜合成と超伝導物性制御

低原子価 Ti 系薄膜合成と超伝導物性制御
吉松 公平
東京工業大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻
Growth of low-valence Ti-based thin films and control of their superconducting properties
Kohei Yoshimatsu
Department of Applied Chemistry, Tokyo Institute of Technology
半導体エレクトロニクスに変わる新たな電子技術として遷移金属酸化物の相転移を利用したモ
ットロニクスが提唱されている。強相関電子相の1つである超伝導では、超高速•超低消費電力の
デバイスが期待される。しかしながら超伝導はキャリヤに対して鈍感であり、従来の電界効果では
相転移に必要な量のキャリアを誘起できない。近年、イオン液体を用いた新規キャリア誘起手法
が検討されているが、超伝導転移は表面や極薄膜などの擬二次元構造に限定されている[1]。
我々は、新たな超伝導制御手法として電気化学反応に着目し、特に Ti 系材料の LiTi 2O 4 薄膜を
用い、薄膜全体の超伝導物性制御を目指している。LiTi 2O 4 は超伝導転移温度が最高で 14 K と
比較的高く、Li の不定比組成に依存して転移温度が変化する [2]。そこで Li イオン二次電池の充
電/放電原理を応用し、LiTi 2O 4 薄膜中の Li 組成制御と、それに伴う超伝導物性制御を行なった。
膜厚 50 nm の LiTi 2O 4 薄膜はパルスレーザー堆積法を用いて MgAl 2O 4(111)基板上に堆積し
た。as-grown の LiTi 2O 4 薄膜を負極、LiCoO 2/Al を正極、LiClO 4 とプロピレンカーボネートの重量
比 1:20 の混合溶液を Li イオン電解液に用い、電気化学セル構造とした。
図1に室温で得られたサイクリックボルタングラム(CV)を示す。LiTi 2O 4 薄膜の酸化および還元
に伴う電流のピークが Li の酸化還元電位に対し、それぞれ 2.2 V と 1.9 V に現れていることが見
て取れる。また、対称的な CV 曲線が得られたことから、LiTi 2O 4 薄膜への Li イオンの挿入脱離が
可逆的であると考えられる。この CV 曲線から決定した酸化/還元電位を LiTi 2O 4 薄膜に印可し、Li
イオンを脱離/挿入させ電気抵抗測定を行なった。
図 2 に電気化学反応により Li 組成を制御した LiTi 2O 4 薄膜の抵抗率の温度依存性を示す。
as-grown では 11K で超伝導転移を示す薄膜に電気化学的に Li イオンを挿入すると超伝導状態
が 消 失 す る 。 こ の 常 伝 導 薄 膜 へ 酸 化 電 位 を 印 可 し Li イ オ ン を 脱 離 す る と 、 超 伝 導 状 態 が
as-grown と同等まで回復した。この結果は Li イオン電気化学により超伝導-常伝導転移に成功し
たこと、また薄膜全体の超伝導物性が可逆的に制御可能なことを示している[3]。
図1: LiTi 2 O 4 薄膜のサイクリックボ
ルタングラム。
図 2:Li イオン電気化学による
LiTi 2 O 4 薄膜の超伝導制御。
参考文献:
[1] K. Ueno et al., Nature Mater. 7, 855 (2008), A. T. Bollinger et al., Nature 472, 458
(2011). [2] R. W. McCallum et al., J. Low Temp. Phys. 25 177 (1976). [3] 丹羽三冬他、第
75 回応用物理学会秋季学術講演会 19p-A10-2 (2014).