日本機械学会誌 2014. 5 Vol. 117 No. 1146 333 ウェーハ張り合わせにより製作した 波面補正用デフォーマブルミラー 地上からの天体観測では,地球の大 気によって天体の像が乱されてしま う.これを補正する技術・補償光学を 用いると,地上からでも大気圏外から の観測と同様に,望遠鏡の限界性能の 解像度を得ることができる.補償光学 系は光波面の揺らぎ分布を測る波面セ ンサ,波面揺らぎをうち消すデフォー マブルミラー(Deformable Mirror: DM)と,DM の変形を制御する制御 系からなる.ミラーの変形により歪ん だ波面を平らに補正する DM は補償 光学系の重要な要素である. 近年,マイクロ電気機械システム (MEMS)技術により,低コストで多 素 子 DM( 以 下,MEMS-DM) の 開 発が盛んになっている.MEMS-DM は高い光利用効率,連続位相補正など 良い特性を持つにもかかわらず,スト ローク(最大変形量)の不足(< 5μm) が問題になっている.次世代天体望遠 鏡(30 メートル口径)の補償光学系 に使われる DM には 20μm のストロー クが必要であることが光学シミュレー ションにより示されている. このため, 大ストローク連続メンブレンデフォー マブルミラーを開発し,次世代天体望 遠鏡補償光学系に適用することが期待 されている. 2. 大ストローク DM 平行平板型静電アクチュエータの場 合,理論上変位が電極ギャップの 1/3 を超えると可動電極が固定電極に吸い 付いてしまうプルイン現象が発生す る.したがって,大ストロークを実現 するために,ミラーメンブレンと電極 の間のギャップを大きくする必要があ る.そこで,バイモルフスプリング (bimorph spring)を用いた大ストロー ク DM を考案した. 図 1 に大ストローク DM の構造を 示す(1).厚さ 2μm のシリコンミラー メ ン ブ レ ン(silicon mirror membrane)はバイモルフスプリングの先 端に接合されている.バイモルフスプ リングは Si と HfO2(酸化ハフニウム) の 2 層の構造で,HfO2 膜応力により 面外に曲がる.これによりミラーが持 ち上げられ,大きい電極ギャップを実 現できる.Si と HfO2 の厚さはそれぞ れ 2μm,0.2μm である.電極に電圧 印加することで静電力が発生し,ミ ラーを変形させることができる. 3. 製作方法 ウェーハの張り合わせは複雑なデバイ スのパッケージング,ヘテロ接合と呼 ばれる異種高機能材料の接合などに多 く応用され,MEMS デバイス製作・ 量産において重要なプロセスである. 図 1 に提案した DM では 2μm 厚さの Si メンブレンを電極基板に転写する 必要があるため,ウェーハの張り合わ せプロセスを採用した.具体的には, 金とシリコンの共晶化反応を利用し, 1μm 厚さの金を片方のウェーハの表 面に堆積し,もう片方のウェーハと熱 圧着により張り合わせる.プロセス温 度は 400℃程度である.このデバイス では,バイモルフスプリングとミラー メンブレンの接合に金とシリコンの共 晶化反応を利用した.接合パッドは直 径 35μm の円状パッドで,接合面積 は極めて小さいため,接合の高い強度 が要求される.金とシリコンの共晶化 反応で合金が生成され,高い強度が実 現できた. 4. 製作結果と静特性 図 2(a)の電子顕微鏡写真に示す DM は 860μm × 860μm のサイズの ミラーメンブレンとそれに覆われる 4 個の電極と 9 個のバイモルフスプリン グからなる.図 2(b)に DM の断面 形状を示すように,ミラーと基板の間 のギャップはおおよそ 20μm である. また,残留応力によりミラーは凸形状 になり,全体のピークバレー値がおお よそ 2μm である. 16 電極の DM の静的駆動実験結果 を図 3 に示す.図 3 は一つの電極に 80V を印加し,白色干渉計で測定した 表 面 形 状 で あ る. ま た,110V で 7.6 μm の変位が得られた.既存の連続メ ンブレン DM に比べて大きいストロー クが得られた. 5. おわりに 従来,ギャップを作成するときに用 いられてきた犠牲層エッチングの場 合,ギャップの大きさは犠牲層の厚さ に制限されている(通常< 10μm). しかし,ウェーハの張り合わせの製作 方法により 20μm のギャップを実現 できた.また,この製作方法により大 きい自立 Si メンブレンを基板に転写 できるので,DM の製作だけでなく, 大ストロークアクチュエータ,波長選 択スイッチなどの製作にも利用が期待 される. 本研究は学振特別研究員奨励費の支 援を受けた. (原稿受付 2014 年 2 月 14 日) 〔呉 同 東北大学〕 ─ 87 ─ (a) 10μm 35μm 2μm 0.2μm 40μm 8μm 200μm ミラーメンプレン バイモルフ スプリング 電極 SiO2 シリコン基板 (b) ミラーメンブレン 接合パッド シリコン基板 電極 バイモルフスプリング 図 1 提案する DM の構造 (a) ミラーメンプレン バイモルフスプリング 400μm (b) 25 高さ(μm) 1. はじめに 20 15 10 5 0 0 200 400 600 800 1 000 位置(μm) 図 2 (a)電子顕微鏡画像(b)ミラー 断面プロファイル 図 3 一 つの電極に 80V を印加時のミ ラーの表面形状 ●文 献 ( 1 )Wu, T., Sasaki, T., Akiyama, M. and Hane, K., Large-scale Membrane Transfer Process:Its Application to Single-crystal-silicon Continuous Membrane Deformable Mirror, J. Micromech. Microeng. , 23 (2013) , 125003.
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