線形代数学 (担当: 谷戸光昭) 5 空間内のベクトルとその演算 2 2.2 空間内の直線の方程式 ( ) ベクトルは空間内においても考えることができる. ベ クトルの等号, スカラー倍や加法の性質など, 1.2 節∼1.6 a b c 点 P0 (x0 , y0 , z0 ) を xyz 空間内の点とし, v = を, 節の内容は空間内のベクトルについてもそのまま成り立 零ベクトルではない空間ベクトルとする. このとき, 点 つので, 説明は省略する. P0 を通り, v と平行な直線 ℓ の方程式を求めよう. 言葉: v を直線 ℓ の方向ベクトルという. 2.1 空間ベクトル O を原点とする xyz 空間内のベクトルを, 単に空間ベ クトルという. 基本的な考え方は平面ベクトルのときと ほぼ同じである. −−→ a = AB とする. −−→ 点 P を直線 ℓ 上の任意の点とすると, P0 P = tv (t は −−→ −−→ −−→ −−→ 実数) と書ける. OP = OP0 + P0 P なので, a = OP0 , −−→ p = OP とおくと, p = a + tv ベクトル a の始点 A の座標が (a1 , a2 , a3 ), 終点 B の座標が (b1 , b2 , b3 ) であるとする. こ のとき, 点 A から点 B までの x 座標の変化量 b1 − a1 , y 座標の変化量 b2 − a2 , z 座標の変化量 b3 − a3 を縦に書き と表せる (直線 ℓ のベクトル方程式). 空間ベクトルの成 ( ) ( ) ( ) 分表示 v = 並べたものを, ベクトル a の成分表示といい, 次のように 表す: ( a= b1 − a1 b2 − a2 b3 − a3 x y z 必要とする. a, (b を , 成分表示を用いて ) 2 つの空間ベクトルとし ( ) b1 b2 b3 a1 a2 , b = a3 と表されているとする. このとき, 等号: a1 = b1 , a2 = b2 , a3 = b3 のときに限り, a = b. また, スカラー倍・加法・減法・大きさ・内積は次のよう ( スカラー倍: ka = ka1 ka2 ka3 ( 加法と減法: a + b = ( ) = x0 y0 z0 x y z を代入すると, ( ) a +t b c となる. これを, 直線 ℓ の媒介変数表示といい, t を媒介 変数という. 連立方程式 x = x0 + at y = y0 + bt z = z + ct 0 ベクトルの等号は次のように言い換えられる. になる. x0 y0 , p = z0 ( ) ) このように, 空間ベクトルの成分表示には 3 つの成分を a= a b ,a= c から t を消去すると, 以下のようになる (場合分けが必要 である). • a ̸= 0, b ̸= 0, c ̸= 0 のとき, 直線の方程式は ) y − y0 z − z0 x − x0 = = (= t) a b c ) a1 + b1 a2 + b2 , a − b = a3 + b3 √ 大きさ: |a| = a21 + a22 + a23 ( a 1 − b1 a 2 − b2 a 3 − b3 ) • a ̸= 0, b ̸= 0, c = 0 のとき, 直線の方程式は x − x0 y − y0 = ( = t ), a b z = z0 • a ̸= 0, b = 0, c = 0 のとき, 直線の方程式は 内積: (a, b) = a1 b1 + a2 b2 + a3 b3 a と b が零ベクトルでなければ, 2 つのベクトルのなす 角 θ が定義される. このとき, 平面ベクトルのときと同様 y = y0 , z = z0 その他の場合も同様である. に, 等式 (a, b) = |a| · |b| · cos θ が成り立つ. そして, a と b が直交することと内積 (a, b) が 0 になることとは同値である. 2.3 空間内の平面の方程式 ( ) 点 P0 (x0 , y0 , z0 ) を xyz 空間内の点とし, v = a b c を, 零ベクトルではない空間ベクトルとする. このとき, 点 P0 を通り, v と直交する平面 H の方程式を求めよう. 言葉: v を平面 H の法線ベクトルという. 6 −−→ 点 P を平面 H 上の任意の点とすると, v と P0 P は直 2.5 交するので, −−→ (v, P0 P ) = 0 −−→ −−→ −−→ −−→ −−→ である. P0 P = OP − OP0 なので, a = OP0 , p = OP と おくと 平面と点との距離 xyz 空間内の平面 H : ax + by + cz = d と, 空間内の任 意の点 A(x0 , y0 , z0 ) を考える. 点 A から平面 H までの距離 D は, 次の式で与えられる: D= (v, p − a) = 0 と表せる (平面 H のベクトル方程式). 空間ベクトルの成 ( ) ( ) ( ) 分表示 v = a b ,a= c x0 y0 , p = z0 x y z を代入して内積 を計算すると, a(x − x0 ) + b(y − y0 ) + c(z − z0 ) = 0 という式を得る. カッコを外して整理すれば, ax + by + cz + d = 0, または ax + by + cz = d という形になる. こ れを, 平面の方程式の一般形という. 例. ( 点 P0 (1, 4, 2) を通り, 法線ベクトルが v = ) 1 −2 3 の平面 の方程式を求める: 【証明】点 A から平面 H へ垂線を下ろし, その足を点 −−→ B(x1 , y1 , z1 ) とする. A から H までの距離 D とは, AB −−→ の大きさ |AB| のことである. これを求めるために, 次の 内積の式を用いる: −−→ −−→ (AB, v) = |AB| · |v| · cos θ −−→ ただし, v は H の法線ベクトルで, θ は AB と v のなす 角とする. 計算に必要なデータを集めよう ( ) . まず H の方程式よ a −−→ り, 法線ベクトルは v = b である. さらに, AB = ( x1 − x0 y1 − y0 z1 − z0 ) c −−→ である. また, AB と v は平行なので, なす角 は θ = 0 または π (0◦ または 180◦ ) である. すなわち, cos θ = 1 または −1. 1(x − 1) − 2(y − 4) + 3(z − 2) = 0 したがって, x − 1 − 2y + 8 + 3z − 6 = 0 −−→ −−→ (AB, v) |AB| = |v| · cos θ a(x1 − x0 ) + b(y1 − y0 ) + c(z1 − z0 ) √ = a2 + b2 + c2 · (±1) ax1 + by1 + cz1 − ax0 − by0 − cz0 √ =± a2 + b2 + c2 ∴ x − 2y + 3z + 1 = 0 ( ) 再確認: 平面 ax + by + cz + d = 0 の法線ベクトルは |ax0 + by0 + cz0 − d| √ a2 + b2 + c2 a b c である. [B は H 上の点なので, ax1 + by1 + cz1 = d を満たす] 2.4 平面の方程式のヘッセの標準形 d − ax0 − by0 − cz0 √ a2 + b2 + c2 |ax0 + by0 + cz0 − d| √ = a2 + b2 + c2 =± 注意: この節と次節では, ax + by + cz = d の形を採用 する. xyz 空間内の平面 H : ax + by + cz = d を考える. ただ し, d ̸= 0 とする. このとき, 両辺を法線ベクトルの大き √ さ a2 + b2 + c2 で割り, 必要ならばさらに両辺を (−1) 倍して右辺の定数項を正にしたものを, 平面 H のヘッセ の標準形という. 例. 平面 x + y + 2z = −5 のヘッセの標準形は, 1 2 5 1 −√ x − √ y − √ z = √ 6 6 6 6 注意: 平面の方程式をヘッセの標準形で表したとき, 法線 ベクトルの大きさは 1 になっている. となる. (証明終) 例. |d| 原点から平面 H までの距離は, D = √ . 2 a + b2 + c2 d 特に, d ≧ 0 なら D = √ となり, これはヘッ a2 + b2 + c2 セの標準形の右辺の定数項である. 例えば, 平面 x + y + 2z = −5 のヘッセの標準形は, 1 2 5 1 −√ x − √ y − √ z = √ 6 6 6 6 5 なので, 原点からの距離は √ . 6 例. 点 A(x0 , y0 , z0 ) が平面 H 上にある場合は, ax0 + by0 + |d − d| cz0 = d なので, D = √ = 0. 2 a + b2 + c2
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