レッスン 8 シュール分解と QR 分解 Part II [ ]

レッスン 8 シュール分解と QR 分解 Part II
現代線形代数入門―分解定理を主軸に整理整頓
レッスン
8
シュール分解と QR 分解
Part II
このレッスンではエルミート行列の固有値問題および直交行列の固有値問題の更なる展開
を学ぶ。まず、エルミート行列の固有値単調定理および分離定理、ついで固有値の Minimax 特
徴づけである、Courant – Fischer の定理を学ぶ。これは部分空間に関する有名な次元等式
dim( S ∩ T ) = dim S + dim T − dim( S + T ) のよい応用例でもある。次いで、エルミーと行列の
単純固有値をレーリー商で近似すれば、
誤差は残差ノルムの 2 乗のオーダーであることを示し、
レーリー商が固有値近似に有力な手段であることを示す。次に、やや大型の問題として、弾性
バネで結合された質点系の自由振動問題(連成振動)を扱い、その解法が実対称 3 重対角行列
の固有値問題に還元することを示す。最後に 2 次および 3 次直交行列の標準形を詳しく学ぶ。
8.1
エルミート行列とレーリー商
この節では次節以降への準備事項を学ぶ。前節の結果を復習すると、任意の n 次エルミー
[
ト行列 A は Q AQ = D 型のシュール分解を許す。ここに、Q = q1
*
⎡ λ1
⎢
列( Q Q = I )、 D =
⎢
⎢⎣ 0
*
( i, j = 1,
{q1 ,
q n ] は適当なユニタリ行
0⎤
⎥ は実対角行列を表す。展開すれば、 Aq = λ q , q *q = δ
i
i i
i
j
ij
⎥
⎥
λn ⎦
, n )となり、実数 λ1 ,
, λn は A の固有値、 q1 ,
, q n は対応する固有ベクトル、
, q n } は Cn×1 の正規直交基底を表す。シュール分解の一般論から、 λ1 ,
, λn が D 中に並
ぶ順序は任意に指定できる。以上は復習である。
与えられたエルミート行列 A ∈ C
n×n
と任意の 0 ≠ x ∈ C
ρ (x) ≡ x Ax / x x をレーリー商 Reighleigh
*
*
n×1
から作った商
quotient という。 x x = 1 なら ρ (x) = x Ax とな
*
る。また、 ρ (q i ) = λi に注意(∵ Aq i = λi q i , q i q j = δ ij , i, j = 1,
*
*
, n )。レーリー商はエルミ
ート行列の固有値問題近似問題において重要な役割を果たす。次に、以下数節で必要となるレ
ーリー商に関する補題を証明する。
補題
いま、 A を n 次エルミート行列、 λ1 ≤
ル関係を Aq i = λi q i , q i q j = δ ij , i, j = 1,
*
≤ λn をその固有値、固有値―固有ベクト
, n とする。すると、(1) x*x = 1 を満たす任意の
x ∈ Cn×1 に対して、 λ1 ≤ x* Ax ≤ λn が成立する。(2) x*x = 1 を満たす任意の
x ∈ span{q r , q s ,
, qt } (1 ≤ r < s <
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< t ≤ n) に対して、 λr ≤ x* Ax ≤ λt が成立する。
1
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証明:(1) x x = 1 を満たす任意の x ∈ C
*
れば、 Aq i = λi q i , q i q j = δ ij , i, j = 1,
*
x* Ax = λ1 y1 +
2
n×1
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を {q1 ,
, q n } で展開し、 x = y1q1 +
, n により、 1 = x*x = y1 +
+ λn yn が出る。ここで λ1 ≤
2
2
+ yn q n とす
+ yn および
2
≤ λn を考慮すれば、 λ1 ≤ x* Ax ≤ λn が出
る。不等式(2)も全く同様な論法で得られる。■
8.2
単調定理 Monotonicity theorem
エルミート行列 A , B, C が A + B = C を満たすとする。 A , B, C の固有値(すべて実数!)
をそれぞれ α1 ≤
≤ α n , β1 ≤ ≤ β n , γ 1 ≤ ≤ γ n とすれば次の不等式(1)-(4)が成り立つ:
(1) α i + β1 ≤ γ i ≤ α i + β n (i = 1, , n)
, n) なら βi ≤ nε (i = 1,
(2)
bij ≤ ε (i, j = 1,
(3)
α j + β i − j +1 ≤ γ i (i ≥ j )
(4)
γ i ≤ α j + β i − j + n (i ≤ j )
, n)
ここに
B = ⎡⎣bij ⎤⎦
(1)によれば、 A に B を加えれば、 A の各固有値はすべて少なくとも β1 だけ増加し、 β n 以上は
増加しない。しかも(1)は A と A + B の同一番目の固有値を比較している。これが(1)の値打ち
であり、一般の行列に対しては成立しない関係である。 (2)はエルミート行列 B が小さければ、
βi (i = 1,
, n) もすべて小さいことを示す。 (3)(4)は(1)の一般化を表し、 i = j と置けば(1)に
戻る。
証明: 次元等式を利用する。まず、前節で復習したように、固有値、固有ベクトルの関係は次
のように書ける:
Aui = α i ui , Bvi = βi vi , Cw i = γ i w i , δ ij = ui*u j = vi* v j = w i*w j (i, j = 1,
(1)の証明 次に任意の 1 ≤ i ≤ n とし、部分空間 S = span{ui ,
, u n } 、T = span{w1 ,
, n)
, wi } を
考えると、次元等式により
dim( S ∩ T ) = dim S + dim T − dim( S + T ) ≥ (n − i + 1) + i − n = 1
ゆえに、 S ∩ T は非零ベクトルを含む。そこで、 x ∈ S ∩ T かつ x x = 1 を満たす x をとれば、
*
前節の補題により、
α i + β1 ≤ x* Ax + x*Bx (∵ x ∈ S , x ∈ C n×1 ) = x* ( A + B )x = x*Cx ≤ γ i (∵ x ∈ T )
すなわち、(1)の前半が出た。
次に、 C + ( −B ) = A に上の結果を適用すれば、シュール分解から −B の固有値は
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2
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−βn ≤
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≤ − β1 ゆえ、 γ i + (− β n ) ≤ α i が従う。これは(1)の後半に他ならない。
(2)の証明 前レッスン 7.9 節の結果により、
成り立つ。ゆえに
n
β1 +
2
+ βn =
βi ≤ ∑ bij ≤ n2ε 2 (∵ bij ≤ ε )。
2
2
2
n
∑b
i , j =1
ij
2
が
(2)はこれから直ちに出る。
i , j =1
(3)の証明
1 ≤ j ≤ i ≤ n とし、
S = span{u j ,
, u n }, T = span{v i − j +1 ,
, v n }, U = span{w1 ,
, wi}
を定義すると(どれも空集合でないことに注意)
、次元等式より
dim( S ∩ T ∩ U ) = dim( S ∩ T ) + dim U − dim(( S ∩ T ) + U )
= dim S + dim T − dim( S + T ) + dim U − dim(( S ∩ T ) + U )
≥ (n − j + 1) + ( n − i + j ) − n + i − n = 1
そこで、 x ∈ S ∩ T
∩ U かつ x*x = 1 を満たす x をとり、前節の補題を使えば、
α j + βi − j +1 ≤ x*Ax + x*Bx (∵ x ∈ S , x ∈ T ) = x* ( A + B)x = x*Cx ≤ γ i (∵ x ∈U )
となり、(3)が得られる。
(4)の証明
C + ( −B) = A に(3)を適用すれば、 γ j + ( − β n −i + j ) ≤ α i (1 ≤ j ≤ i ≤ n) (∵ −B の
小さい方から i − j + 1 番目の固有値は − β n −i + j )が出る。ここで i, j の役割を交換すれば、
γ i + ( − β n − j +i ) ≤ α j (1 ≤ i ≤ j ≤ n) が得られる。これは不等式(4)に他ならない。■
2 ⎤ ⎡1
1 + i ⎤ ⎡2
3 + i⎤
⎡1
+⎢
=⎢
A+B = ⎢
⎥
⎥
⎥ = C の場合。
⎣ 2 − 2 ⎦ ⎣1 − i 1 ⎦ ⎣3 − i − 1 ⎦
A の固有値: α1 = −3 ≤ α 2 = 2
例1
B の固有値: β1 = 1 − 2 = −0.4142
≤ β 2 = 1 + 2 = 2.4142
C の固有値: γ 1 = −3 ≤ γ 2 = 4
単調定理の主張をそのままのべると:
α1 + β1 ≤ γ 1 ≤ α1 + β 2 : −3 − 0.4142 ≤ −3 ≤ −3 + 2.4142
α 2 + β1 ≤ γ 2 ≤ α 2 + β 2 : 2 − 0.4142 ≤ 4 ≤ 2 + 2.4142
−3 ≤ 2 − 0.4142
γ 1 ≤ α 2 + β1 :
−3 + 2.4142 ≤ 4
α1 + β 2 ≤ γ 2 :
例2
2 ⎤ ⎡b11 b12 ⎤
⎡1
+⎢
= C ( B* = B )
A+B = ⎢
⎥
⎥
⎣ 2 − 2 ⎦ ⎣b21 b22 ⎦
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bij ≤ ε ( i, j = 1, 2 )なら、 α i − 2ε ≤ γ i ≤ α i + 2ε (i = 1, 2)
本節(1)(2)の結果は「エルミート行列の固有値は安定である」ことを意味している。すなわ
ち、与えられた n 次エルミート行列 A にエルミート変動 B = ⎡⎣bij ⎤⎦ (
bij ≤ ε )を加えても、固
有値は高々 nε 変動するに過ぎない。すなわち、エルミート行列の固有値は安定である stable
(=良条件である well-conditioned)
。
一般に、与えられた行列 A の計算固有値は A に小さな変動 B を加えた A + B の厳密な固
有値になっていることがよく知られている(後退誤差解析)。B が小さいような算法を安定な算
法 stable algorithm という。算法の安定性と固有値の安定性とは全く別概念なので混同しない
こと。ゆえに、安定な算法を使って計算されたエルミート行列の計算固有値は真の固有値から
わずかにずれているに過ぎない。しかし、一般の行列に対してはこのような保証はない。標準
的行列計算パッケージ LAPACK、MATLAB、MTHEMATICA が高品質パッケージと呼ばれる
のは、安定な算法を提供しているからである。
(参考) A , B, C をエルミート行列とし、A + B = C とする。固有値をこれまでと同じように、
それぞれ、α1
≤ α n , β1 ≤
≤
≤ βn , γ 1 ≤
n
Wielandt-Hoffman’s theorem
∑ (γ i − αi )2 ≤
i =1
≤ γ n と記すと、ウィーランド・ホフマンの定理
n
n
i , j =1
i , j =1
∑ βi 2 = ∑ bij
2
(B = ⎡⎣bij ⎤⎦ ) の成立することが
知られている。これは明らかに単調定理と関連しているが、単調定理から導くことはできない。
証明は J.H. Wilkinson, The Algebraic Eigenvalue Problem, Oxford, 1965,104-109 参照。
8.3
分離定理 Separation theorem(コーシーの入れ子定理 Cauchy’s Interlace
Theorem)
⎡B C ⎤
⎥ を n 次エルミート行列とし、 B の次数を m ( m < n )、 A の固有値を
*
C
D
⎣
⎦
いま、 A = ⎢
α1 ≤ ≤ α n 、 B の固有値を β1 ≤ ≤ β m とする。すると以下(1)(2)(3)が成り立つ:
(1) α k ≤ β k ≤ α k + n − m ( k = 1, , m)
(2) とくに m = n − 1 の場合は、 α1 ≤ β1 ≤ α 2 ≤ β 2 ≤
≤ β n −1 ≤ α n (入れ子構造)
0⎤
⎡ d1 e2
⎢
⎥
e2 d 2 e3
⎢
⎥ (ただし、 e ≠ 0, i = 2,
(3) A が3重対角行列 A =
i
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢⎣0
en d n ⎥⎦
α1 < β1 < α 2 < β 2 <
, n )なら、(2)は強分離
< β n −1 < α n となり、 A の固有値はすべて相異なる。
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A, B の固有値―固有ベクトル関係を、 Aui = α i ui , ui*u j = δ ij (i, j = 1,
証明
⎡v ⎤
, m) とし、 w i ≡ ⎢ i ⎥ ∈ Cn×1 (i = 1,
⎣0⎦
Bvi = βi vi , vi* v j = δ ij (i, j = 1,
1 ≤ k ≤ m を満たす任意の k に対して、部分空間 S = span{u k ,
, m)
, n) 、
とおく。いま
, u n }, T = span{w1 ,
, wk }
を定義すれば
dim( S ∩ T ) = dim S + dim T − dim( S + T ) ≥ (n − k + 1) + k − n = 1
ゆえに、 x x = 1, x ∈ S ∩ T を満たす x ∈ C
*
n×1
が取れる。すると、前節の補題により、
*
⎡y ⎤ ⎡y ⎤
α k ≤ x Ax (∵ x ∈ S ) = ⎢ ⎥ A ⎢ ⎥ (∵ x ∈ T , y ∈ span{v1 ,
⎣0 ⎦ ⎣0 ⎦
*
, v k }, x*x = 1 → y *y = 1)
= y *By ≤ β k
⎡ −B − C ⎤
⎥ に適用すると、 − A の固有値は
*
⎣ −C − D⎦
これは(1)の前半の関係である。この関係を − A = ⎢
−α n ≤
≤ −α1 、−B の固有値は − β m ≤ ≤ − β1 だから(小さい方から数えて同一番目にある
固有値の添字の値の間には常に n − m だけの差がある)、 −α k + n − m ≤ − β k ( k = 1, , m) が得ら
れる。これは(1)の後半の関係に他ならない。(2)は(1)において m = n − 1 とおいた場合である。
(3)を示す。A の k 次切断行列(左上 k × k 小行列のこと)を A
と書けば、 A
(*)
(n)
(k )
、その特性多項式を f k (λ )
= A 、 A ( n −1) = B であり、行列式の展開公式を使えば
det( A ( k ) − λ I ) = f k (λ ) = ( d k − λ ) f k −1 (λ ) − ek
が出る。ここで α1 ≤ β1 ≤ α 2 ≤
β2 ≤
2
f k − 2 (λ ), k = 2,
, n ( f 0 (λ ) ≡ 1)
≤ β n −1 ≤ α n はすでに成立しているから、強分離性を示
すには f n (λ ) = 0 と f n −1 (λ ) = 0 が共通根 λ0 をもつと仮定すればば矛盾が起こることを示せば
十分である。(*)式に 0 = f n (λ0 ) = f n −1 (λ0 ) を k = n,
, 2 の順に使うと、 ei ≠ 0 (i = 2,
, n) ゆ
え、 f 0 (λ0 ) = 0 が出る。これは f 0 (λ ) = 1 と矛盾する。■
例1
⎡0 1 0
⎢1 0 1
⎢
恒等関係 ⎢
⎢
⎢
⎢⎣ 0
1
0⎤
⎥
⎥
⎥
⎥
1⎥
0 ⎥⎦
⎡sin x ⎤
⎢sin (2 x) ⎥
⎢
⎥ = 2 cos x
⎢
⎥
⎢
⎥
⎣sin (nx) ⎦
0
⎡sin x ⎤ ⎡
⎤
⎢sin (2 x) ⎥ ⎢
⎥
⎢
⎥ −⎢
⎥( n ≥ 2 )
⎢
⎥ ⎢
⎥
0
⎢
⎥ ⎢
⎥
⎣sin (nx) ⎦ ⎣sin (n + 1) x ⎦
を考える。これは三角関数の加法定理 sin u + sin v = 2 sin{(u + v ) / 2} ⋅ cos{(u − v ) / 2} を使っ
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て出る関係 sin( k − 1) x + sin( k + 1) x = 2 cos x ⋅ sin kx( k
= 1, 2, )を行列形に書き直したもの
に過ぎない。行列形に書いた式を見ると ( n + 1) x = kπ ( k = 1, 2, , n) を満たす x に対して、
sin (n + 1) x = 0 となり、 2 cos x は左辺の実 3 重対角行列( Tn と呼ぼう)の固有値となること
, n) なら、 [sin x,sin 2 x,
がわかる(∵ ( n + 1) x = kπ ( k = 1, 2,
λk( n ) = 2 cos{kπ /(n + 1)}, k = 1, 2,
(n)
ある。 1 >
8.4
T
, n と書けば、 Tn の固有値は λn( n ) < λn(−n1) <
って与えられる。分離定理によれば λk +1 < λk
ある。すなわち、 2 cos
,sin nx ] ≠ 0 )。ゆえに、
( n −1)
< λk( n ) ( k = 1,
(k + 1)π
kπ
kπ
< 2 cos
< 2 cos
n +1
n
n +1
< λ1( n ) によ
, n − 1) が成立しているはずで
(に注意)が成立しているはずで
k +1 k
k
> >
> 0 ゆえ、これは確かに真である。■
n +1 n n +1
クーラン・フィッシャーの定理
与えられた n 次エルミート行列 A の固有値を α1 ≤
≤ α n とすれば、次式が成立する:
(1)
α k = min max{x* Ax : x ∈ S k , x*x = 1} ( k = 1, , n )
(2)
α k = max min{y* Ay : y ∈ S n − k +1 , y*y = 1} ( k = 1, , n )
Sk
S n−k +1
k
ここに S は C
n×1
内の任意の k 次元部分空間を表す( 1 ≤ k
≤ n )。これをクーラン・フィッシャ
ーの定理 Courant-Fischer’ Theorem または Minimax 原理 Minimax Principle という。(1)は、
任意かつ特定の k 次元部分空間 S について条件 x ∈ S
k
k
, x*x = 1 下で x* Ax を最大化し、その最
大値をすべての S について最小化すると α k に等しくなることをいっている。(2)は、任意かつ
k
特定の n − k + 1 次元部分空間 S
の最小値をすべての S
証明
n − k +1
n − k +1
について条件 y ∈ S
n − k +1
, y *y = 1 下で y * Ay を最小化し、そ
について最大化すると α k に等しくなることをいっている。
このよく知られた定理も次元公式を使えば簡単に出る。まず、固有値―固有ベクトル関
係を Aqi
= α i qi , qi*q j = δ ij (i, j = 1,
(1) の証明:
, n) とする。
f ( S k ) ≡ max{x* Ax : x ∈ S k , x*x = 1} = x k * Ax k ( x k ∈ S k , x k *x k = 1 )とする。
このような x k が実際に存在することは解析学からの結果である(レッスン 14「内積とノルム
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k
Part II 」)。 と く に 、 S と し て
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S k = span{q1 ,
, q k } を と れ ば 7.1 節 の 補 題 に よ り
α1 ≤ f ( S k ) ≤ α k だが、 q k * Aq k = α k ゆえ、 f ( S k ) = α k となる。
つぎに、任意の S に対して、 S = span{u k ,
k
, u n }, T = S k とすれば、次元等式より
dim( S ∩ T ) = dim S + dim T − dim( S + T ) ≥ n − k + 1 + k − n = 1 が出る。ゆえに、
x 0 ∈ S ∩ T , x 0*x 0 = 1 を満たす x 0 が存在し、この x0 ∈ S k は x 0* Ax 0 ≥ α k をも満たす
(∵ x 0 ∈ S = span{u k ,
(2)の証明: g ( S
n − k +1
, u n }) 。これは f ( S k ) ≥ α k を示す。
) ≡ min{y* Ay : y ∈ S n −k +1 , y*y = 1} = y k * Ay k ( y k ∈ S k , y k *y k = 1 )と
。とくに、 S
する。このような y k は実際に存在する(レッスン 14「内積とノルム Part II」)
として S
n − k +1
= span{q k ,
n − k +1
, q n } をとれば 7.1 節の補題により α k ≤ g ( S n − k +1 ) ≤ α n だが、
q k * Aq k = α k ゆえ、 g ( S n − k +1 ) = α k となる。
つぎに、任意の S
n − k +1
に対して、 S = span{q1 ,
, q k }, T = S n − k +1 とすれば、次元等式よ
り、 dim( S ∩ T ) = dim S + dim T − dim( S + T ) ≥ k + n − k + 1 − n = 1 が出る。ゆえに、
y 0 ∈ S ∩ T , y 0* y 0 = 1 を 満 た す y 0 が 存 在 し 、 こ の y 0 は α k ≥ y 0* Ay 0 を も 満 た す
(∵ y 0 ∈ S = span{q1 ,
, q k }) 。これは g ( S n − k +1 ) ≤ α k を示す。■
クーラン・フィッシャーの定理から単調定理(8.2 節)
、分離定理(8.3 節)が出ることはよ
く知られているが、この 3 者の証明は次元等式を利用すればそれぞれ独立に行うことができる
のはご覧の通りである。これらは次元等式の応用例としても面白い。
8.5
ゲルシュゴーリンの定理(比較のため)
本節の定理は簡単ながら全く一般の行列に対して成立する実用性の高い定理である。ここ
でのべる理由は単調定理(8.2 節)との対比のためである。次の定理をゲルシュゴーリンの定理
Gerschgorin’s theorem という:
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A = ⎡⎣ aij ⎤⎦ ∈ C n×n の任意の固有値 α はゲルシュゴーリン円板 Gerschgorin disk
Gi = {z ∈ C : z − aii ≤ ∑ aij } (i = 1,
, n) のどれか一つに含まれる。そして、 k 個の円板の
j ≠i
合併集合が連結集合(=集合内の任意の 2 点をその集合内に存在する折線のみで結べるような
集合)をつくり、他の円板とは共通部分がない場合、その合併集合にはちょうど k 個の固有値
が含まれる(ただし、重複固有値は重複度だけ数えるものとする)
。
[
前半は簡単である。任意の固有値 α をとり、対応する固有ベクトル x = x1 ,
証明
, xn ] を
T
max x j = 1 を満たすようにとる。いま、 xk = 1 とし、 Ax = α x の第 k 成分を書き下すと
1≤ j ≤ n
ak1 x1 +
ば
n
+ akn xn = α xk が得られる。これを (akk − α ) xk = −∑ akj x j と変形し、絶対値をとれ
j≠k
n
n
j ≠k
j ≠k
akk − α = akk − α xk ≤ ∑ akj x j ≤ ∑ akj ⋅1 が出る。これは α ∈ Gk を意味する。
⎡ a11
⎢
後半の証明のために、 A = D + F, D =
⎢
⎢⎣0
0 ⎤
⎥ とおき、 A (t ) = D + tF (0 ≤ t ≤ 1) を
⎥
ann ⎥⎦
考える。明らかに A (0) = D, A (1) = A が成り立つ。複素関数論の教えるところによれば、
λi (0) = aii (i = 1, , n) を満たし、 det( A(t ) − λ ) = (λ1 (t ) − λ ) (λn (t ) − λ ) を満たすような、
0 ≤ t ≤ 1 上で連続な実変数 t の複素関数 λi (t ) がとれる。ここに λ1 ( t ), λn (t ) はいうまでもなく
A(t ) の固有値を表す。前半の結果により、変数 t の各値に対して各 λi (t ) はゲルシュゴーリン円
板 G j (t ) = {z ∈ C :
n
z − a jj ≤ t ∑ aij } のどれかに入っているが、 t = 0 のときは Gi (0) = {aii } に
i≠ j
入っている。 t の値が 0 から 1 へ増大していくとき、各円板の中心は動かず、半径のみが単調増
大していく。また各 λi (t ) は連続関数である。ゆえに、最終的に k 個の円板 Gi
= Gi (1) の合併集
合が連結集合をつくり、他の円板とは共通部分がない場合、この合併集合の中には初期値がこ
れら各円板の中心に等しいような固有値のみが存在し続け、いかなる t の値に対してもこの合併
集合外に出ることは不可能である。これで定理の後半が証明された。■
例
⎡1 0 ⎤
⎡1 − 1⎤
⎡1 − t ⎤
、 A (1) = ⎢
A(t ) = ⎢
(0 ≤ t ≤ 1) とおく。すると、 A(0) = ⎢
⎥
⎥ である。
⎥
⎣0 2 ⎦
⎣1 2 ⎦
⎣t 2 ⎦
A (t ) の固有値は、 λ1 (t ), λ2 (t ) = (1/ 2)(3 ± 1 − 4t 2 ) である。すなわち、 0 ≤ t ≤ 1/ 2 なら、固
有値は実数、1/ 2 < t
≤ 1 なら固有値は λ1 (t ), λ2 (t ) = (1/ 2)(3 ± i 4t 2 − 1) で与えられる。詳しく
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見ると、 λ1 (t ) は λ1 (0) = 2 から出発し、実軸上を λ1 (1/ 2) = 3 / 2 まで減少し、ここから真上に
折れて λ1 (1) = 3 / 2 + i
3 / 2 まで連続的に移動する。 λ2 (t ) は λ2 (0) = 1 から実軸上を
λ2 (1/ 2) = 3 / 2 まで増加し、真下に折れて λ2 (1) = 3 / 2 − i 3 / 2 まで連続的に移動する。
ゲルシュゴーリン円板 G1 (t ) = {z ∈ C :
よび G2 (t ) = {z ∈ C :
z − 1 ≤ t} =「 z = 1 を中心とする半径 t の円板」お
z − 2 ≤ t} =「 z = 2 を中心とする半径 t の円板)」は、 0 ≤ t < 1/ 2 では共
通部分をもたないから、すでに見た通り、それぞれ1個の固有値を含む。 1/ 2 ≤ t ≤ 1 では
G1 (t ) ∪ G2 (t ) は連結集合となり、固有値 λ1 (t ), λ2 (t ) はつねに両円周の交点上に存在する。■
以上の一般的結果は単調定理より弱い結果である。正規行列 A ( A
*
A = AA* )に限定し
ても、
「各ゲルシュゴーリン円板は、連結状態に関係なく、少なくとも 1 個の固有値を含む」こ
とがいえるに過ぎない(問題 8.5)
。
8.6
連成振動解析
最近よく話題となる免震構造の基礎は振動解析である。構造物のもっとも簡単な振動モデ
ルとして知られているのが変形量に比例する復元力が働くような、弾性バネで結合された質点
系の振動(連成振動)である(下図)
。このモデルは分子内原子の振動モデルとしても使われる。
復元力が線形でなく、変形量の指数関数であるような力学系は広範な応用をもつ戸田格子方程
式として知られている。これについては、
中村佳正著「可積分系の機能数理」共立出版 (2006) 第 2 章
を参照して頂きたい。
このレッスンの主題である、線形連成振動解析の核をなすのは実対称行列の固有値問題で
ある。簡単のため自由振動(=外力が作用しない場合の振動)のみを考える。
k1
m1
x1
m1
ここに m1 ,
k2
m2
k3
x2
kn
m3
x3
m2
, mn は質点の質量、 k1 ,
mn
xn
m3
mn
, kn はバネ定数を表す。すると、平衡点からの変位にバ
ネ定数を乗じたものが復元力を与えることになり、各質点の運動方程式は次式で与えられる:
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9
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現代線形代数入門―分解定理を主軸に整理整頓
d 2 y1
= −k1 y1 + k2 ( y2 − y1 ),
dt 2
d2yj
(1) m j
= −k j ( y j − y j −1 ) + k j +1 ( y j +1 − y j ) (1 < j < n)
dt 2
d 2 yn
mn
= −kn ( yn − yn −1 )
dt 2
ここに yi = yi (t ) は質点 mi の平衡位置からの変位( i = 1, , n )、 t は時間を表す。行列形に書
m1
くと
⎡ m1
⎢
⎢
⎢⎣0
− k2
0⎤
⎡ k1 + k2
⎢
⎥ y
− k2 k2 + k3 − k3
0 ⎤ 2 ⎡ y1 ⎤
⎢
⎥⎡ 1⎤
⎥ d ⎢ ⎥ = −⎢
⎥⎢ ⎥
⎥ dt 2 ⎢ ⎥
⎢
⎥⎢ ⎥
⎢⎣ yn ⎥⎦
⎢ ⎥
mn ⎥⎦
k
−
n ⎥ ⎣ yn ⎦
⎢
⎢0
kn ⎥⎦
− kn
⎣
これは定係数 2 階線形同次連立微分方程式を表す。これは簡潔に次形に書ける:
(2)
M
d 2y
= −Ky
dt 2
ここに、
⎡ m1
⎡ y1 ⎤
⎢
⎥
y = ⎢ ⎥ (未知ベクトル)、 M = ⎢⎢
⎢⎣ yn ⎥⎦
⎢⎣0
0⎤
− k2
⎡ k1 + k2
⎢ −k k +k −k
⎥
0⎤
2
2
3
3
⎢
⎥
⎥ 、K = ⎢
⎥
⎥
⎢
⎥
− kn ⎥
mn ⎥⎦
⎢
⎢0
kn ⎥⎦
− kn
⎣
K は実対称 3 重対角行列である。(2)はさらに次のように変形できる:
(3)
d 2z
= −Lz
dt 2
ここに、
z = M1/ 2 y 、 L = M −1/ 2 KM −1/ 2 、 M1/ 2
⎡ m1
⎢
≡⎢
⎢
⎣0
0 ⎤
⎥
−1/ 2
= (M1/ 2 ) −1
⎥ 、M
⎥
mn ⎦
L も実対称 3 重対角行列である。
(3)は L のシュール分解がわかれば解けるので、以下これを示す。実際、次の事実が成り立
つ:
(I)
K の固有値はすべて相異なる正数である。
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10
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(II)
L の固有値もすべて相異なる正数である。
(III) L のシュール分解を
(4)
L = QDQT = [q1 ,
⎡ω12
⎢
, qn ] ⎢
⎢0
⎣
0 ⎤
⎥
⎥ [q1 ,
ωn 2 ⎥⎦
, q n ] ( 0 < ω1 <
T
< ωn )
とすれば元の式(1)の解は次式で与えられる:
(5)
y=M
ここで、 M
−1/ 2
−1/ 2
⎡C11 cos ω1t + C12 sin ω1t ⎤
⎥
Q ⎢⎢
⎥
⎢⎣Cn1 cos ωnt + Cn 2 sin ωnt ⎥⎦
Q ≡ S = [s1 ,
, s n ] と書けば、上式は
n
(6)
y = ∑ (Ci1si cos ωi t + Ci 2si sin ωi t )
i =1
となる。ここに、右辺各 si cos ωi t ,
angular eigenfrequency、 ωi
si sin ωi t を固有振動 eigenvibration、 ωi を固有角振動数
/(2π ) を固有振動数 eigenfrequency、 M −1/ 2Q の各列 si を固有モ
ード eigenmode という。初期条件、すなわち、 t
られれば、定数 C11 ,
= 0 における各質点の位置と初速度、が与え
の値はすべて確定する。
証明
(I)
分離定理(8.3 節)により、 K の固有値はすべて相異なる実数である。これを κ1
とする。ゲルシュゴーリンの定理により 0 ≤ κ i ( i = 1,
< < κn
, n )明らか。さらに、 K は 0 固有値
をもたないことを証明できる。これは「 K は優対角行列であり、そのグラフは強連結である」
ことから従う。詳しくは最終レッスン(レッスン 15)を見て頂きたい。
(II)
L は 必 ずし も 優 対角行 列 で はない た め 、(I)の 方 法 は使え な い 。ここ で は 、任意 の
0 ≠ x ∈ R n×1 に対して xT Lx > 0 が満たされること示す(これを正定値性 positive-definiteness
という)。シュール分解を考えれば、 L の正定値性は L の固有値がすべて正であること、と同
値であることは明らかである(検算して下さい)
。実際、(I)により K は正定値行列であるから、
0 ≠ x ∈ R n×1 なら、 xT Lx = xT M −1/ 2 KM −1/ 2 x = (M −1/ 2 x)T K (M −1/ 2 x) > 0 となる。
(III)
シュール分解(4)を(3)に代入すれば
⎡ −ω12
d
⎢
(QT z ) = − D(QT z ) = ⎢
2
dt
⎢0
⎣
2
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0 ⎤
⎥ T
⎥ (Q z )
2⎥
− ωn ⎦
11
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d 2 wi (t )
= −ωi 2 wi (t ) (ωi > 0) 型の単振
dt 2
動 simple vibration / oscillation の方程式となり、その解は wi (t ) = Ci1 cos ωi t + Ci 2 sin ωi t
( Ci1 , Ci 2 は任意定数)にとって与えられることがよく知られている。ゆえに、
T
となる。Q z
= w = [ w1
wn ] とおけば、直前の式は
T
⎡C11 cos ω1t + C12 sin ω1t ⎤
⎥ となる。z = M1/ 2 y を想起すれば、(5)式が得られる。(6)
w = QT z = ⎢⎢
⎥
⎢⎣Cn1 cos ωnt + Cn 2 sin ωnt ⎥⎦
は(5)の簡単な書き換えに過ぎない。■
例
n = 2, m1 = 4, m2 = 1, k1 = 6, k2 = 2 の場合 (2)に対応する運動方程式は
M
d2
d 2y
Ky
=
−
、すなわち、
dt 2
dt 2
⎡ 4 y1 ⎤
⎡ 8 − 2 ⎤ ⎡ y1 ⎤
⎢ y ⎥ = − ⎢ −2 2 ⎥ ⎢ y ⎥
⎣
⎦⎣ 2⎦
⎣ 2 ⎦
である。ここに
⎡ m 0 ⎤ ⎡4 0⎤
⎡y ⎤
⎡ k + k − k2 ⎤ ⎡ 8 − 2 ⎤
, y = ⎢ 1 ⎥, K = ⎢ 1 2
=⎢
=
M=⎢ 1
⎥
⎥
k2 ⎥⎦ ⎢⎣ −2 2 ⎥⎦
⎣0 m2 ⎦ ⎣0 1⎦
⎣ y2 ⎦
⎣ − k2
ゆえに、(3)に対応する方程式は、 L = M
d2
d 2z
Lz
=
−
、すなわち、
dt 2
dt 2
−1/ 2
⎡ 2 y1 ⎤
⎡ 2 − 1⎤
KM −1/ 2 = ⎢
, z = M1/ 2 y = ⎢ ⎥ ゆえ、
⎥
⎣ −1 2 ⎦
⎣ y2 ⎦
⎡ 2 y1 ⎤
⎡ 2 − 1⎤ ⎡ 2 y1 ⎤
⎢ y ⎥ = − ⎢ −1 2 ⎥ ⎢ y ⎥
⎣
⎦⎣ 2 ⎦
⎣ 2 ⎦
となる。 L のシュール分解は
2
⎡ 2 − 1⎤
⎡1 0 ⎤ ⎡ω1 0 ⎤
1 ⎡1 1⎤ ⎡1 0 ⎤ 1 ⎡1 1⎤
T
L=⎢
)
⎥=(
⎢
⎥) ⎢
⎥(
⎢
⎥ ) ≡ QDQ ( ⎢ 0 3 ⎥ = ⎢
2⎥
2 ⎣1 − 1⎦ ⎣0 3 ⎦ 2 ⎣1 − 1⎦
⎣
⎦ ⎢⎣0 ω2 ⎦⎥
⎣ −1 2 ⎦
であるから、未知ベクトル y は次式によって与えられる:
⎡C cos ω1t + C12 sin ω1t ⎤
y = M −1/ 2Q ⎢ 11
⎥
⎣C21 cos ω2t + C22 sin ω2t ⎦
⎤
⎡1/ 2 0 ⎤ 1 ⎡1 1⎤ ⎡C11 cos t + C12 sin t
=⎢
⎢
⎥
⎥
⎢
⎥
⎣ 0 1⎦ 2 ⎣1 − 1⎦ ⎢⎣C21 cos 3t + C22 sin 3t ⎥⎦
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12
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=
⎤
1 ⎡1 1 ⎤ ⎡C11 cos t + C12 sin t
⎢
⎥
⎢
⎥
2 2 ⎣ 2 − 2 ⎦ ⎣⎢C21 cos 3t + C22 sin 3t ⎥⎦
⎡1 ⎤
⎥ cos t ,
⎣2⎦
固有振動は ⎢
8.7
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⎡1 ⎤
⎢ 2 ⎥ sin t ,
⎣ ⎦
⎡ 1⎤
⎢ −2 ⎥ cos 3t ,
⎣ ⎦
⎡ 1⎤
⎢ −2 ⎥ sin 3t である。■
⎣ ⎦
重要不等式 3 つ
線形代数における重要な不等式はたくさんあるが、ここに挙げるものはとくに応用が広い。
一般化はレッスン 12、14、15 で行う。
[
, xn ] ∈ R n×1 に 対 し て x = xT x = x12 +
任 意 の x = x1 ,
+ xn 2 ≥ 0 を x の ノ ル ム
T
norm(または 2-ノルム)という。次の不等式が成り立つ:
(1)
xT y ≤ x ⋅ y (コーシー・シュワルツ不等式)
(2) 任意の x, y ∈ R
(3) 任意の x ∈ R
n×1
m×1
に対して、
x + y ≤ x + y (三角不等式)
, A ∈ R m×n , y =∈ R n×1 に対して、 xT Ay ≤ x ⋅ y
λmax ( AT A)
ここに、 λmax ( A A ) は A A の最大固有値を表す。 A = I なら(1)に還元する。
T
T
証明 (1)
x/ x
x ≠ 0 、 y ≠ 0 としてよい。すると(1)は (x / x )T (y / y ) ≤ 1 と同値であり、しかも
= y/ y
= 1 だから、 x = y = 1 の条件下で(1)を証明すれば十分である。実際、
0 ≤ (x − (xT y )y )T (x − (xT y )y ) = 2(1 − (xT y ) 2 ) となる。
(2) ( x + y ) − x + y
2
2
≥ 0 を示せばよい。左辺を展開し、(2)を使えばすぐ出る。
(3) x Ax ≤ x ⋅ Ay ((1)による)=
T
x
yT AT Ay
ゆえに、y
T
AT Ay ≤ λmax ( AT A) y を
2
⎡ d1
⎢
示せばよい。 A A のシュール分解を A A = QDQ 、ここに Q Q = I, D =
⎢
⎢⎣0
T
T
T
T
とすれば、 0 ≤ ( Ay ) ( Ay ) = y A Ay = y QDQ y = (Q y ) D(Q y ) = d1 z1 +
T
T
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T
T
T
T
T
T
2
0⎤
⎥、
⎥
d n ⎥⎦
+ d n zn 2
13
レッスン 8 シュール分解と QR 分解 Part II
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[
が成り立つ。ただし、 Q y ≡ z = z1
T
zn ] と書いている。これより、 d1 ,
T
2
, d n ≥ 0 となり、
y T AT Ay ≤ max di z = λmax ( AT A) QT y = λmax ( AT A) y (∵ QT Q = I ) ■
2
2
1≤i ≤ n
8.8
レーリー商と固有値近似
レーリー商の定義については 8.1 節参照。この節では、話を実対称行列に限定し、レーリ
ー商は優れた固有値近似法であることを示す。そこで、A = ⎡⎣ aij ⎤⎦ ∈ R
列とし、その固有値を λ1
n× n
を与えられた実対称行
≤ λn とする。いま、 0 ≠ v ∈ R n×1 を任意に一つとり、レーリー商
≤
ρ ( v ) = vT Av / vT v を作れば、 λ1 ≤ ρ ( v) ≤ λn が成り立つことはすでに知っている(8.1 節)。
(I) レーリー商の特徴づけ
f (λ ) ≡ Av − λ v は λ = ρ ( v) = vT Av / vT v のとき最小化され
2
f (λ ) の最小値は 0 であることに注意)。
証明 A は実対称行列であることに注意して f (λ ) を展開すれば、
る( v がたまたま固有ベクトルなら
f (λ ) / v = (λ − ρ ( v )) 2 − ρ 2 ( v ) + Av / v
2
2
が出る。これより f (λ ) は λ =
(II) 幾何学的解釈
2
ρ ( v ) のとき最小値 Av − ( ρ ( v ) v ) 2 をとることがわかる。■
2
μ ( v ) v は直線 {tv : −∞ < t < +∞} 上への Av のからの正射影を表す(下図)。
Av
Av − ρ ( v) v
v
O
説明
レーリー商の定義から、v
T
ρ ( v) v
( Av − ρ ( v ) v ) = 0 が成り立つ。これはベクトル Av − ρ ( v) v
と v の直交条件に他ならない。
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14
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(III) 誤差評価
λ1 を A(≠ λ1I ) の任意の固有値とすれば、
Av − λ1 v / v
ρ ( v) − λ1 ≤
min λi − λ1
2
(1)
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2
。
λi ≠ λ1
ここに、分母 min
λi ≠ λ1
λi − λ1
は λ1 から最短距離にある他固有値までの距離を表す。
証明 v v = 1 と仮定してよい。すると、 ρ ( v ) − λ1 = v Av − λ1 = v ( A − λ1I ) v が出る。ここ
T
で、 r
T
T
⎡λ1I 0 ⎤
≡ ( A − λ1I ) v とおく。 A のシュール分解を A = QDQT 、 QT Q = I 、 D = ⎢
⎥
⎣ 0 D1 ⎦
とする。ここに D1 は λ1 とは異なる固有値をもつ対角行列を表す。すると
0 ⎤ T
⎡0
r = ( A − λ1I) v = Q(D − λ1I )QT v = Q ⎢
⎥Q v
⎣0 D1 − λ1I ⎦
ゆえに、 ρ ( v ) − λ1 = v r
T
0 ⎤ T
⎡0
= vT Q ⎢
⎥Q v
⎣0 D1 − λ1I ⎦
0
0 ⎤ T
0 ⎤ T
⎡0
⎤ T
⎡0
⎡0
= ( vT Q ⎢
)(
Q
Q
Q )(Q ⎢
⎢
⎥
⎥ Q v)
−1 ⎥
⎣0 D1 − λ1I ⎦
⎣0 D1 − λ1I ⎦
⎣0 (D1 − λ1I ) ⎦
0
⎡0
⎤ T
= (QT r )T ⎢
(Q r ) ≡ (QT r )T D2 (QT r )
−1 ⎥
⎣0 (D1 − λ1I) ⎦
T
絶対値をとり、前節の不等式(3)を使うと( Q r
ρ ( v) − λ1 = (QT r )T D2 (QT r ) ≤ QT r
2
= (QT r )T QT r = rT (QQT )r = r に注意)、
λmax (D2T D2 ) = r / min{ λi − λ1 : λi ≠ λ1}
2
これは証明すべき不等式(1)に他ならない。■
問題 8.5 によれば、 A を実対称行列、 λ を任意の実数、 v v = 1 ( v ∈ R
T
λ − λ1 ≤ Av − λ v
n×1
)とすれば、
を満たす A の固有値 λ1 が存在する。これを(1)式と比較すると、右辺の
のべき乗の値が違う。これは λ =
ρ (v ) という特別うまい選び方のお陰といえる。
(IV) 誤差評価(Ben Noble, Applied Linear algebra, Prentice-Hall, 1969, Theorem 12.14)い
ま、λ1 を A の固有値、 Aq1
= λ1q1 , q1 = 1 、 z = 1( q1 , z ∈ R n×1 )、 v = q1 + ε z とすれば、
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Av − λ1 v = ε ( Az − λ1z )
(2)
ρ ( v ) − λ1 ≤
(3)
ε 2 Az − λ1z
2
min λi − λ1 ⋅ v
2
λi ≠ λ1
ρ ( v ) − λ1 = ε 2 ( μ (z ) − λ1 ) / v
(4)
証明
2
Aq1 = λ1q1 と定義式 v = q1 + ε z を使えば、(2)式は簡単に出る。これを(III)(1)に代入す
れば不等式(3)が従う。つぎに
q1 = 1 、 z = 1 を考慮すると
v = vT v = (q1 + ε z )T (q1 + ε z ) = 1 + 2αε + ε 2 (α ≡ q1T z )
2
ゆえに、
( ρ ( v) − λ1 ) vT v = vT Av − λ1 vT v = (q1 + ε z )T A(q1 + ε z ) − λ1 vT v
= λ1 + 2λ1αε + ε 2 zT Az − λ1 (1 + 2αε + ε 2 ) = ε 2 ( ρ (z ) − λ1 ) ■
(3)を見ると、 ε
1 なら、 ρ ( v) − λ1 は高々 ε 2 の定数倍で抑えられる。これは再びレーリ
ー商が固有値近似手段として優れていることを物語っている。では「 Av k
− ρk v k → 0 、
ρ k = v k T Av k → λ1 ( k → ∞, v k T v k = 1 )」を満たすようなベクトル列 {v k } をどう構築すれば
よいか?数値解析の専門書によれば、答えはレーリー商逆反復法 Rayleigh quotient inverse
iteration である(次例参照)
。
例
8.6 節の例を使う。すなわち、シュール分解
⎡2 − 1 ⎤
1 ⎡1 1⎤ ⎡1 0 ⎤ 1 ⎡1 1⎤
=(
A=⎢
)⎢
(
) ≡ QDQT
⎥
⎢
⎥
⎥
⎢
⎥
2 ⎣1 − 1⎦ ⎣0 3 ⎦ 2 ⎣1 − 1⎦
⎣ −1 2 ⎦
を考えると、 A の固有値は λ1 = 1, λ3 = 3 、対応する正規直交固有ベクトル系は
{q1 =
1 ⎡1⎤ ⎡0.7071⎤
1 ⎡ 1 ⎤ ⎡ 0.7071⎤
⎢1⎥ = ⎢0.7071⎥ , q 2 =
⎢ ⎥=⎢
⎥}
2⎣ ⎦ ⎣
2 ⎣ −1⎦ ⎣ −0.7071⎦
⎦
である。
⎡0.6 ⎤
= ⎢ ⎥ ( v1 = 1) をとると、
⎣0.8 ⎦
⎡ 2 − 1⎤ ⎡0.6 ⎤
ρ1 ≡ ρ ( v1 ) = v1T Av1 = [ 0.6 0.8] ⎢
⎥ ⎢ ⎥ = 1.04 ≈ λ1 (= 1)
⎣ −1 2 ⎦ ⎣0.8 ⎦
(I) いま、試みに、 v = v1
上で証明した誤差評価式(1)を用いると
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2
0.04 = 1.04 − 1 = μ1 − λ1 ≤ ( A − λ1I ) v1
2
⎡ 1 − 1⎤ ⎡0.6 ⎤
/ 1− 3 = ⎢
⎥ ⎢ ⎥ / 2 = 0.04
⎣ −1 1⎦ ⎣0.8 ⎦
ここに、
「 ≤ 」は実際には「 = 」となっているが、これは偶然のなせるわざである。
レーリー商逆反復法によれば改良近似固有ベクトル v 2 は
⎡ 0.99 − 1 ⎤
⎡ 0.6 ⎤
( A − ρ1I ) v 2 = v1 : ⎢
v2 = ⎢ ⎥
⎥
⎣ −1 0.99 ⎦
⎣0.8 ⎦
の解 v 2 とることになっている。計算すると
⎡ 70.05⎤
⎡ 0.7076 ⎤
v2
v2 = − ⎢
,
v
=
9800
=
98.99,
=
−
2
⎥
⎢ 0.7066 ⎥
v2
⎣ 69.95⎦
⎣
⎦
固有ベクトルのスカラー倍だけの自由度があるから、v 2 は厳密な固有ベクトル q1 に近いことが
わかる。これから計算したレーリー商は
v 2T Av 2
= 1.0003
v 2T v 2
この値は ρ1 に比べてさらによい λ1 = 1 の近似値となっていることは明らかである。
ρ2 ≡ ρ ( v 2 ) =
固有ベクトルの近似について考える。精度の目安として q1 = (1/
2) [1, 1] との間の角度
T
をとると(cos の値が ±1 に近いほどよい)
⎡0.6 ⎤
q1 と v1 のなす角: cos θ1 = q1T v1 = (1/ 2) [1, 1] ⎢ ⎥ = .98995
⎣0.8 ⎦
⎡ −0.7076 ⎤
q1 と v 2 のなす角: cos θ 2 = q1T v 2 / v 2 = (1/ 2) [1, 1] ⎢
⎥ = −0.99999
⎣ −0.7066 ⎦
⎡ 0.6 ⎤
T
(II) 第 2 の試みとして、 v = v1 = ⎢
⎥ ( v1 v1 = 1) をとると、
−
0.8
⎣
⎦
⎡ 2 − 1⎤ ⎡ 0.6 ⎤
ρ1 ≡ v1T Av1 = [ 0.6 − 0.8] ⎢
⎥⎢
⎥ = 2.96 ≈ λ2 (= 3)
⎣ −1 2 ⎦ ⎣ −0.8 ⎦
誤差評価式(1)を λ2 = 3 を対象に使うと
2
0.04 = 2.96 − 3 = ρ1 − λ2 ≤ ( A − λ2I ) v1
2
⎡ −1 − 1⎤ ⎡ 0.6 ⎤
/ 3 −1 = ⎢
⎥⎢
⎥ / 2 = 0.04
⎣ −1 − 1⎦ ⎣ −0.8 ⎦
ここでも、
「 ≤ 」は実際には「 = 」となっているが、これまた偶然である。レーリー商逆反復法
による改良近似固有ベクトル v 2 、すなわち、
⎡ −0.96 − 1 ⎤
⎡ 0.6 ⎤
( A − μ1I ) v 2 = v1 : ⎢
v2 = ⎢
⎥
⎥
− 0.96 ⎦
⎣ −1
⎣ −0.8 ⎦
の解 v 2 、を計算すると、
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⎡ 17.55 ⎤
⎡ 0.7091⎤
v2
,
=
612.5
=
24.75,
=
v2 = − ⎢
v
2
⎥
⎢ −0.6051⎥
v2
⎣ −17.45⎦
⎣
⎦
固有ベクトルのスカラー倍だけの自由度があるから、v 2 は厳密な固有ベクトル q 2 に近いことが
わかる。これから計算したレーリー商は
v 2T Av 2
= 2.9998
v 2T v 2
この値は ρ1 に比べてさらによい λ2 = 3 の近似値となっていることがわかる。
ρ2 ≡ ρ ( v 2 ) =
(III) 第 3 の試みとして v1
⎡1 ⎤
= ⎢ ⎥ をとると、 ρ1 ≡ ρ ( v1 ) = v1T Av1 = 2
⎣0 ⎦
レーリー逆反復法による改良近似固有ベクトルは
⎡ 0 − 1⎤
⎡1 ⎤
v2 = ⎢ ⎥
( A − ρ1I ) v 2 = v1 : ⎢
⎥
⎣ −1 0 ⎦
⎣0⎦
⎡0 ⎤
解 v 2 = ⎢ ⎥ である。ゆえに、改良近似固有値は
⎣ −1⎦
(21)
ρ2 ≡ ρ ( v 2 ) =
v 2T Av 2
= 2 = ρ1
v 2T v 2
すなわち、もとに戻ってしまった!これも偶然のなせるわざだが、ともかく失敗してしまった。
以上の試みから、出発ベクトルが異なれば、レーリー商と対応近似ベクトルの収束先も異
なり、ときに収束しないこともわかる。本例は簡単ながら教示的である。■
固有値近似に関する話題は以上とし、これ以降は直交行列の表現論と応用を話題とする。
8.9
2 次直交行列の標準形
与えられた 2 次直交行列 L はかならず次のどちらかの型に属する:
0
⎡cos θ + i sin θ
⎤ T
⎡cos θ − sin θ ⎤
= Q1 ⎢
(I) det L = 1 なら、 L = ⎢
Q1
⎥
cos θ − i sin θ ⎥⎦
⎣sin θ cos θ ⎦
⎣ 0
(シュール分解)。ここに、 Q1
=
1 ⎡ 1 1⎤
*
⎢ −i i ⎥ 、 Q1 Q1 = I である。この場合、 L は原点のま
2⎣
⎦
わりに角 θ だけ回転する演算を表す。
⎡cos θ sin θ ⎤
⎡1 0 ⎤ T
= I − 2nnT = Q 2 ⎢
⎥
⎥ Q 2 (シュール分解)
⎣sin θ − cos θ ⎦
⎣ 0 − 1⎦
⎡ cos(θ / 2) − sin(θ / 2) ⎤
T
T
ここに、n = [ − sin(θ / 2), cos(θ / 2) ] 、Q 2 = ⎢
⎥ 、Q 2 Q 2 = I である。
θ
θ
sin(
/
2)
cos(
/
2)
⎣
⎦
(II) det L = −1 なら、 L = ⎢
この場合、 L は原点を通り、ベクトル n に垂直な直線に関する反射を表す。これは前レッスン
7.2 節で扱った反射行列の特別な場合である。
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⎡a b ⎤
T
2
2
2
2
L=⎢
を与えられた直交行列とすれば、L L = I より、a + c = 1 、b + d = 1 、
⎥
⎣c d ⎦
証明
ab + cd = 0 だから、点 P (a, c ) 、Q (b, d ) は単位円周上にあり、ベクトル OP, OQ は直交する。
ゆえに、a = cos θ , c = sin θ , b = cos(θ ± π / 2), d = sin(θ ± π / 2) と書ける。これは X が(1)
または(2)の形をもつことに他ならない。その他の事実の検算は練習問題とする。■
⎡ 3 − 1 ⎤ ⎡c − s ⎤
L1 = (1/ 2) ⎢
⎥=⎢
⎥ ( c = cos(π / 6), s = sin(π / 6) ) と す れ ば 、 任 意 の
⎣⎢ 1 3 ⎥⎦ ⎣ s c ⎦
例
x ∈ R 2×1 に対して、 L1x は x を原点の周りに角 π / 6 だけ正方向に回転したものを表す。
⎡ 1 3 ⎤ ⎡c s ⎤
L 2 = (1/ 2) ⎢
⎥=⎢
⎥ ( c = cos(π / 3), s = sin(π / 3) )とすれば、任意の L 2 x は、
⎢⎣ 3 − 1⎥⎦ ⎣ s − c ⎦
原点を通り、 n = (1/ 2) ⎡ −1,
⎣
8.10
T
3 ⎤⎦ に垂直な直線に関する x の鏡像を表す。■
3 次直交行列の標準形
3 次直交行列は剛体の運動解析やコンピュータ・グラフィックスへの応用上重要である。こ
の節では、任意の 3 次直交行列 L は、det L = 1 なら空間の回転を表し、det L = −1 なら回転と
⎡l11 l12 l13 ⎤
⎢
⎥
T
反射の合成を表すことを学ぶ。まず、L = l21 l22 l23 を 3 次実直交行列とすれば、L L = 1 ゆ
⎢
⎥
⎢⎣l31 l32 l33 ⎥⎦
え、 det L = ±1 である。次に事実が成り立つ:
det L = 1 の場合(ただし L ≠ I とする)
(A) L の固有値は 1 、 cos θ ± i sin θ の形に表現できる。
(I)
[
(B) n を固有値 1 に対応する単位固有ベクトルとすれば、すなわち、 Ln = n ≡ n1 n2 n3
]
T
、
nT n = 1 とすれば、 L は、
⎡ 0 − n3 n2 ⎤
L = nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ 、ここに N ≡ ⎢⎢ n3 0 − n1 ⎥⎥
⎢⎣ −n2 n1 0 ⎥⎦
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の形に書ける。また、任意の x =
[ x1
x2 x3 ]
T
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⎡i n1 x1 ⎤
⎢
⎥
に対して、 Nx = n × x = det j n2 x2
⎢
⎥
⎢⎣k n3 x3 ⎥⎦
⎡1 ⎤
⎡0 ⎤
⎡0 ⎤
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢ ⎥
T
( i = 0 , j = 1 , k = 0 、レッスン 6、6.19 節ベクトル積参照)、 x Nx = 0 、 Nn = 0 、
⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢⎣0 ⎥⎦
⎢⎣0 ⎥⎦
⎢⎣1 ⎥⎦
NT = −N 、 NT N = −N 2 = I − nnT が成り立つ。 L を展開すれば
⎡ n12 + (1 − n12 ) cos θ
n1n2 (1 − cos θ ) − n3 sin θ n1n3 (1 − cos θ ) + n2 sin θ ⎤
⎢
⎥
L = ⎢ n1n2 (1 − cos θ ) + n3 sin θ
n2 2 + (1 − n2 2 ) cos θ
n2 n3 (1 − cos θ ) − n1 sin θ ⎥
⎢ n n (1 − cos θ ) − n sin θ n n (1 − cos θ ) + n sin θ
n32 + (1 − n32 ) cos θ ⎥⎦
2
3 2
1
⎣ 3 1
(C)
n, cos θ , sin θ の計算 次式が成り立つ:
⎡1 + l11 − l22 − l33 ⎤
⎡l12 + l21
⎤
⎢
⎥
⎢
⎥
c1 ≡ ⎢l12 + l21
⎥ = 2(1 − cos θ )n1n 、 c2 ≡ ⎢1 − l11 + l22 − l33 ⎥ = 2(1 − cos θ )n2n
⎢⎣l13 + l31
⎥⎦
⎢⎣l23 + l32
⎥⎦
⎡l13 + l31
⎤
⎢
⎥ = 2(1 − cos θ )n n
c3 ≡ ⎢l23 + l32
3
⎥
⎢⎣1 − l11 − l22 + l33 ⎥⎦
ゆえに、任意の ci ≠ 0 を一つとれば、 n は n = ±ci
/ ciT ci によって定まる。ここに、ベクトル
c1 , c2 , c3 は同時に 0 とはならない (∵ n ≠ 0, L ≠ I ) 。 cos θ , sin θ は次式から定まる:
2 cos θ = l11 + l22 + l33 − 1
2n1 sin θ = l32 − l23 , 2n2 sin θ = l13 − l31 , 2n3 sin θ = l21 − l12
(D) 幾何学的解釈
任意の x ∈ R
3×1
に対して y = Lx は x を n のまわりに θ だけ回転して得ら
れるベクトルを表す。ここに、回転の正の向きは、 n の向きに右ネジを進めさせるような向き
である。また、 Lx = n(n x) + (I − nn
T
T
)x cos θ + Nx sin θ における、右辺各項は直交するベク
トルを表す。各項の幾何学的解釈を得るには、次の作図を行う:まず x = OP, Lx = OQ により
点 P, Q を定め、 P, Q を通り n に垂直な平面を H と呼ぶ。そして原点を通り n 方向の直線が平
面 H と交わる点を R とする。次に点 Q より線分 RP に下した垂線の足を S と定義する。すると
上式の各項は次のように特定できる:
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n (nT x) = OR, (I − nnT )x cos θ = RS , Nx sin θ = SQ, ∠PRQ = θ
下図参照(Ben Noble, Applied Linear Algebra, Prentice-Hall, 1969, First Edition Ex.12.51,
pp.421-422、による)
:
z
A
R
P
θ
Q
x
y
O
y
x
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R
θ
S
Q
P
PQR plane
(E) 逆
[
任意の n = n1 n2 n3
]
T
(nT n = 1) 、任意の θ に対して
⎡ 0 − n3 n2 ⎤
L = nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ ( N = ⎢⎢ n3 0 − n1 ⎥⎥ )で定義さえる L は det L = 1 を
⎢⎣ −n2 n1 0 ⎥⎦
満たす直交行列を表す。
(II) det L = −1 の場合
証明
腕試し問題 8.14 参照。
幾何学的作図に基づく証明も知られているが、ここではシュール分解の応用として代数
的証明を与える。
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22
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det(L − I ) = det(L − LLT ) = det L det(I − LT ) = 1 ⋅ (−1)3 det(L − I ) (∵ det L = 1 )
これより det(L − I ) = 0 が従う。これは 1 が L の固有値であることを示している。他固有値が
(A)
cos θ ± i sin θ の形に書けることは次項(B)中で示す。
(B) n を第 1 列にもつ任意の直交行列 Q =
[n
a b ] (ただし、 det Q = 1 )を考えると、
直接計算により
⎡ nT ⎤
⎡nT ⎤
⎡nT ⎤
⎢ ⎥
⎢ ⎥
⎢ ⎥
QT LQ = ⎢aT ⎥ L [n a b ] = ⎢aT ⎥ [ Ln La Lb ] = ⎢aT ⎥ [n La Lb ]
⎢ bT ⎥
⎢bT ⎥
⎢bT ⎥
⎣ ⎦
⎣ ⎦
⎣ ⎦
⎡1 c d ⎤
⎡1 u ⎤
= ⎢⎢0 e f ⎥⎥ ≡ ⎢
0 L1 ⎥⎦
⎢⎣0 g h ⎥⎦ ⎣
Q, L は直交行列だから、 QT LQ も直交行列である。これより u = 0 および L1 は 2 次直交行列
であることがわかる。上式の行列式をとり、 det L = 1, det Q = 1 を考慮すると、 det L1 = 1 が
⎡cos θ − sin θ ⎤
⎥ の形に書ける。以上を前式に
⎣sin θ cos θ ⎦
得られる。従って、前節の結果により L1 は L1 = ⎢
代入し、 L について解けば
T
0
0 ⎤ ⎡n ⎤
⎡1
⎢ ⎥
L = [n a b ] ⎢0 cos θ − sin θ ⎥ ⎢aT ⎥ = nnT + (aaT + bbT ) cos θ + (baT − abT )sin θ
⎢
⎥
⎢⎣0 sin θ cos θ ⎥⎦ ⎢bT ⎥
⎣ ⎦
これは L のシュール分解形に相当する。これより、 L の固有値は 1, cos θ
± i sin θ である。
さて、上式右辺から a, b を消去しよう。まず
I = QQT = nnT + aaT + bbT → aaT + bbT = I − nnT
これを使えば、 L は
L = nnT + (I − nnT ) cos θ + (baT − abT ) sin θ
となる。つぎに、Q = Q
−1
= (1/ det Q) AdjQ = AdjQ (∵ det Q = 1) ( AdjQ は Q の余因子行
T
列を表す)
、すなわち、 Q = ( AdjQ) 、が成立する。第 1 列を等置すれば、
T
n = [ n1 n2 n3 ] = [ a2b3 − a3b2 a3b1 − a1b3 a1b2 − a2b1 ] = a × b (ベクトル積、レッスン 7)
T
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T
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⎡ 0 − n3 n2 ⎤
⎢
⎥
これより、 ba − ab = n3 0 − n1 = N が得られる。これを L の式に代入すれば、
⎢
⎥
⎢⎣ − n2 n1 0 ⎥⎦
T
T
L = nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ となり、(B)の前半が出る。後半の関係 Nx = n × x はベク
トル積の定義から明らか。関係式 x Nx = 0 、 Nn = 0 、 N = − N 、 N
T
T
T
N = I − nnT および L
の展開式も直接計算によって確認できる。
(C) 直接検算による。
(D)
Lx = n(nT x) + (I − nnT )x cos θ + Nx sin θ における右辺各項が直交することは、これま
でに得られた関係式から検証できる。これと作図から幾何学的解釈( n (n x) = OR, ほか)が得
T
られる。
(E) n n = 1 なら任意の θ に対して
T
L = nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ が直交行列を表すこ
とは L L = I の直接検証から確認できる。 det L = 1 を確かめるには、解析学の初歩的知識を使
T
う。まず、 f (θ ) ≡ det L = det L (θ ) は θ の実連続関数である。 L (θ ) は常に直交行列だから
f (θ ) = ±1 、また L (0) = I ゆえ、 f (0) = 1 である。仮に f (θ1 ) = −1 となる θ1 が存在したとす
れば中間値の定理により
f (θ 2 ) = 0 となる値 θ 2 が 0 と θ1 の間に存在しなければならない。これ
は常に f (θ ) = ±1 であることと矛盾する。■
⎡ 1 − 2 2⎤
1⎢
−2 1 2 ⎥⎥ は det L = 1 を満たす直交行列を表す。ゆえに、 L は空間の回転を
例1 L=
⎢
3
⎢⎣ −2 − 2 − 1⎥⎦
表す。回転軸と回転角を求めてみよう。
⎡1 + l11 − l22 − l33 ⎤
⎢
⎥ = 2(1 − cos θ )n n をとると
試みに、(I)(C)における c1 = l12 + l21
1
⎢
⎥
⎢⎣l13 + l31
⎥⎦
T
2 2 2 2⎤
4
T
⎡ 1 1 1
− ⎥ = [ 1 − 1 0] ≠ 0
c1 = ⎢1 + − + − −
3 3 3 3⎦
3
⎣ 3 3 3
これが n のスカラー倍だから、 n として n = 1/
2 [1 − 1 0] をとる( n = 1/ 2 [ −1 1 0] を
T
T
とってもよい)。すると、
cos θ = (l11 + l22 + l33 − 1) / 2 = {(1/ 3)(1 + 1 − 1) − 1}/ 2 = −1/ 3 = −0.3333
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sin θ = (l32 − l23 ) /(2n1 ) = (−2 / 3 − 2 / 3) /{2(1/ 2)} = −2 2 / 3 = −0.9428
[
以上により、 L の回転軸は原点から点 1 − 1 0
]
T
に向かう直線で与えられ、回転角は
θ = −160.53 で与えられる。■
[
]
例 2 原点より点 1,1,1 へ向かう直線のまわりの θ
T
[
= +30 回転を表す直交行列を求めよう。
]
回転軸を表す単位ベクトルは、n = (1/ 3) 1 1 1 で与えられる。すると(I)(D)により、
求める行列は、 L = nn + (I − nn
T
T
T
) cos θ + N sin θ 、で与えられる。
⎡ 0 − n3 n2 ⎤
⎡ 0 − 1 1⎤
⎢
⎥
0 − n1 ⎥ = (1/ 3) ⎢⎢ 1 0 − 1⎥⎥ である。
ここに、 N = n3
⎢
⎢⎣ −n2 n1 0 ⎥⎦
⎢⎣ −1 1 0 ⎥⎦
⎡1 + 3 1 − 3
1 ⎤
⎢
⎥
1
1+ 3 1− 3⎥
以上により、 L = ⎢ 1
3⎢
⎥
1
1 + 3 ⎥⎦
⎢⎣1 − 3
■
最後にひとこと:このレッスンと前レッスンはシュール分解のオンパレードであった。シュー
ル分解は後のレッスンでもよく出てくる。正規行列( A A = AA )のシュール分解は対角行
*
*
列であり、逆にシュール分解が対角行列なら、その行列は正規行列を表すという事実は記憶に
値する。実務計算において頻出する、エルミート行列とユニタリ行列が正規行列である事実は
シュール分解の実用性を保証する。以上でシュール分解の話はひとまず終わりにし、次のレッ
スンでは線形代数の最高峰とされるジョルダン分解の話に移る。
腕試し問題
問題 8.1 (エルミート行列の固有値単調定理)A を n 次エルミート行列、b を n 次列ベクトル、
B = b*b (これもエルミート行列)、 A + B = C とする。 A の固有値(実数!)を
α1 ≤ ≤ α n 、 C の固有値を γ 1 ≤ ≤ γ n とすれば、
α1 ≤ γ 1 ≤ α 2 ≤ γ 2 ≤
≤ α n ≤ γ n ≤ α n + b*b
が成立することを示せ。
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一般公式「 A : m × n, B : n × m なら ( −λ )
det( AB − λ I ) = (−λ ) m det(BA − λ I ) 」(レ
*
n −1
*
ッスン 6「行列式」参照)を用いると det(bb − λ I ) = (−λ ) (b b − λ ) )。ゆえに B の固有値
(略証
n
は β1 =
= β n −1 = 0 ≤ β n = b*b で与えられる。これを単調定理に適用すればよい。■)
問題 8.2
(実3重対角行列の相似対称化)
n(≥ 2) 次実 3 重対角行列
0 ⎤
⎡ d1 e2
⎢f d e
⎥
⎢ 2 2 3
⎥
⎥ は、 ei f i > 0 (i = 2,
T=⎢
⎢
⎥
en ⎥
⎢
⎢0
f n d n ⎥⎦
⎣
, n) なら、適当な可逆対角行列 D をとれば、
D −1TD が対称行列となることを示せ。
0 ⎤
⎡ d1 g 2
⎢g d g
⎥
⎢ 2 2 3
⎥
−1
⎢
⎥ , gi = ei fi (i = 2,
(略証 D TD =
⎢
⎥
gn ⎥
⎢
⎢0
g n d n ⎥⎦
⎣
, n) を実現するような
D を一つ求めよ。本問の事実は実用度が高い。■)
問題 8.3 シルべスターの惰性法則 与えられた n 次実対称行列 A, B が実可逆行列 P を介して
PT AP = B の関係にあるとき、A は B に合同である congruent という。この関係は、反射性、
対称性、推移性を満たすゆえ、同値関係を表す。また、 P を適当に取れば、 B は対角行列にな
ることが知られている(証明略)。シルべスターの惰性法則 Sylvester’s law of inertia によれば、
⎡ d1
P AP = ⎢⎢
⎢⎣0
T
0 ⎤
⎥ における、正の対角成分の総数 p と負の対角成分の総数 m は A のみに
⎥
d n ⎥⎦
よって定まり、 P には依存しない。これを次元等式を用いて証明せよ。
⎡ d1
⎢
T
(略証 A ≠ 0 としてよい。2 つの合同対角化:P AP =
⎢
⎢⎣0
を考え、正の対角成分の総数を
0 ⎤
⎡δ1
⎥ 、QT AQ = ⎢
⎢
⎥
⎢⎣0
⎥
dn ⎦
0 ⎤
⎥
⎥
δ n ⎥⎦
p, π 、負の対角成分の総数を m, μ とする。必要があれば適当
な順列行列による合同変換を行い、正の成分をすべて右上に集めることができる。そこでこの
操作がすでに行われたものとし、
d1 ,
, d p > 0, d p +1 ,
, d n ≤ 0;
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δ1 ,
, δ π > 0,
δ π +1 ,
,δn ≤ 0
26
現代線形代数入門―分解定理を主軸に整理整頓
とする。部分空間 S = span{p1 ,
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, p p }, T = span{qπ +1 ,
, q n } ( p j , q j は P, Q の第 j 列、
, n )を定義すると、 0 ≠ x ∈ S なら、 xT Ax > 0 、 0 ≠ x ∈ T なら、 xT Ax ≤ 0
ゆえに、 S ∩ T = {0} が成り立つ。すると、次元等式により
j = 1,
0 = dim( S ∩ T ) = dim S + dim T − dim( S + T ) ≥ p + ( n − π ) − n = p − π
∴ p ≤π
P, Q の役割を交換すると、 π ≤ p が出る。ゆえに、 p = π 。 p + m = π + μ = rank ( A ) ゆえ、
m = μ も出る。■)
問題 8.4
⎡ 0 t⎤
⎥ , 0 ≤ t ≤ 1 の固有値を λ1 (t ), λ2 (t )
⎣ −2t 2 ⎦
(ゲルシュゴーリンの定理) 行列 A (t ) = ⎢
とする。ゲルシュゴーリン円板は、 G1 (t ) = {z ∈ C :
z ≤ t}, G2 (t ) = {z ∈ C : z − 2 ≤ 2t} によ
って与えられる。ゲルシュゴーリンの定理によれば、固有値 λ1 (t ), λ2 (t ) はつねに G1 (t ) ∪ G2 (t )
に含まれる。次の結果を検算せよ:
(1)
0 ≤ t < 2 / 3 のとき:λ1 (t ) = 1 − 1 − 2t 2 , λ2 (t ) = 1 + 1 − 2t 2 は実数、G1 (t ) ∩ G2 (t ) = φ 、
λ1 (t ) ∈ G1 (t ), λ2 (t ) ∈ G2 (t ) である。
(2) t = 2 / 3 のとき: λ1 (t ) = 2 / 3, λ2 (t ) = 4 / 3 、
G1 (t ), G2 (t ) は一点 z = 2 / 3 において
接し、 λ1 (t ) は接点上に、 λ2 (t ) は G2 (t ) の内部に存在する。
(3) 2 / 3 ≤ t
≤ 1/ 2 のとき: λ1 (t ) = 1 − 1 − 2t 2 , λ2 (t ) = 1 + 1 − 2t 2 は実数、
G1 (t ) ∩ G2 (t ) ≠ φ ( G1 (t ) ∪ G2 (t ) は連結集合)、 G1 (t ) は λ1 (t ) も λ2 (t ) も含まず、 G2 (t ) は
λ1 (t ) 、 λ2 (t ) を含む。
(4) 1/
2 < t ≤ 1 のとき: λ1 (t ) = 1 − i 2t 2 − 1, λ2 (t ) = 1 + i 2t 2 − 1 は複素数、
G1 (t ) ∩ G2 (t ) ≠ φ 、( G1 (t ) ∪ G2 (t ) は連結集合)、 G1 (t ) は λ1 (t ) も λ2 (t ) も含まず、 G2 (t ) は
λ1 (t ) 、 λ2 (t ) を含む。
ゆえに、 2 / 3 < t ≤ 1 なら、2つの固有値は連結集合 G1 (t ) ∪ G2 (t ) に含まれるが、 G1 (t ) は固有
値を全く含まず、 G2 (t ) が両固有値を含む。
問題 8.5 正規行列 A = ⎡⎣ aij ⎤⎦ ∈ C
n× n
( A A = AA )の各ゲルシュゴーリン円板は、連結状態
*
*
に関係なく、少なくとも 1 個の固有値を含むことを次の手順で示せ。
(1)
λ を任意の複素数、 v* v = 1 ( v ∈ Cn×1 )、 r = Av − λ v とすると、円板
D ≡ {z ∈ C : z − λ ≤ r*r } は A の固有値を少なくとも1個含む。
[
(2) とくに、 v = e j (e1 = 10
0] ,
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T
, en = [0
01] ) 、 λ = a jj をとることにより、
T
27
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n
∑a
D j ≡ {z ∈ C : z − λ ≤ r*r } = {z ∈ C : z − a jj ≤
含むことを示せ( j = 1,
Fi ≡ {z ∈ C : z − aii ≤
n
∑
j , j ≠i
aij
2
n
∑
≤
j , j ≠i
i ,i ≠ i
ij
2
} は A の固有値を少なくとも 1 個
, n )。この結果を AT に適用すれば、円板
n
∑a
j ≠i
2
ij
} は A の固有値を少なくとも 1 個含むことがわかる。さらに、
n
aij ゆえ、ゲルシュゴーリン円板 Gi = {z ∈ C : z − aii ≤ ∑ aij } は Fi を含む。
j ≠i
ゆえに、正規行列の各ゲルシュゴーリン円板は、連結状態に関係なく、少なくとも 1 個の固有
値を含む。この結果は単調定理よりは弱い結果であるが、適用範囲は広がっている。
λ が A の固有値でないときのみを考えれば十分である。このとき v* v = 1 に
v = ( A − λ I ) −1 r を代入し、これに A のシュール分解(ユニタリ相似対角化!)を代入すると、
(略証 (1)
いくらかの計算後、8.7 節の不等式により、 min
1≤i ≤ n
λi − μ ≤ r*r が出る。ここに λ1 , , λn は A
の固有値を表す。(2) (1)の直接利用で解決する。■)
問題 8.8
3 重対角行列 T = ⎡⎣tij ⎤⎦ が tii = 0 (i = 1,
, n) を満たせば、D−1TD = −T を満たす対角
行列 D が存在することを示せ(ゆえに、 T は −T に相似である)。
(略解
D として、 D = diag{−1,1, −1, } 、すなわち、 −1,1, −1,
を対角成分とする対角行
列、をとればよい。■)
問題 8.9
直交多項式の零点(実対称 3 重対角行列の固有値問題として)次の 3 項漸化式
three-term recurrence relation によって定義される多項式をルジャンドル多項式 Legendre
polynomial という:
(1)
P0 ( x) = 1, P1 ( x) = x,
(k − 1) Pk − 2 ( x) − (2k − 1) xPk −1 ( x) + kPk ( x) = 0, k = 2,3,
最初のいくつかを計算すると、
P2 ( x) =
3 2 1
5
3
35 4 15 2 3
x − , P3 ( x) = x3 − x, P4 ( x) =
x − x +
2
2
2
2
8
4
8
次の諸性質が知られている(証明略)
:
直交性:
∫
1
−1
Pi ( x) Pj ( x)dx = 0 (i ≠ j ),
任意の n 次多項式 p ( x ) は P0 ( x),
∫
1
P 2 ( x)dx =
−1 i
2
2i + 1
, Pn ( x) の一次結合として一意的に表される:
+ cn Pn ( x)
p( x) = c0 P0 ( x) + c1 P1 ( x) +
ここに係数 c0 , c1 , は直交性(4)を利用すれば次式より直ちに定まる:
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28
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∫
1
−1
Pk ( x) p ( x)dx = 0 +
+ 0 + ck
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2
+0+
2k + 1
+ 0 (左辺は既知量)
さて、応用上は各 Pn ( x ) の零点の値を必要とすることが多い。本問ではこれを実対称 3 重
対角行列固有値問題の応用として Pn ( x) の零点は原点に対称に分布する異なる実数であること
を以下の手順で示せ。
(I) まず、(1)より
k −1
k
Pk − 2 +
Pk = xPk −1 , k = 2,3,
2k − 1
2k − 1
P1 = xP0 ,
( Pk ≡ Pk ( x),
)
1
2
2
3
3
4
P0 + P2 = xP1 , P1 + P3 = xP2 , P2 + P4 = xP3 ,
3
3
5
5
7
7
が成り立つことを示せ。次に、これらは次の行列形に書けることを示せ:
0⎤
⎡ 0 e2 0
⎡ P0 ⎤ ⎡0 ⎤
⎡0 ⎤
⎢f 0 e 0
⎥ ⎡ P0 ⎤
2
3
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢ ⎥
⎢
⎥ P
P1 ⎥ ⎢ ⎥
1 ⎥
⎢
⎢
⎥
=x
+
= xp + ⎢ ⎥
(2) Tp ≡ ⎢
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢0 ⎥
0
⎢
⎥
e
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢ ⎥
n
⎢
⎥ P
Pn −1 ⎦ ⎣ Pn ⎦
⎣ Pn ⎦
n −1 ⎦
⎣
⎣
⎢0
⎥
fn 0 ⎦
⎣
( n = 2,3,
)
k −1
k −1
, fk =
( k = 2,3, ) 。
2k − 3
2k − 1
(II) Pn ( x ) = 0 であるための必要十分条件は x が行列 T の固有値を表すことであることを示せ。
ここに ek =
(III) 問題 8.2 の結果を利用し、 T は実対称3重対角行列に相似であることを示し、これに分離
定類(8.3 節)を適用し、 Pn ( x ) の零点はすべて相異なる実数であることを示せ。
(IV) 前問の結果により、 T は −T に相似であるから、 Pn ( x ) の零点は必ず正負の対 ±λ の形で
現れることを示せ(これは Pn ( x ) の形からも明らか)。
(略証
(II) P0 = 1 に注意すれば、必要性は(9)から読み取れる。十分性の証明: T の任意の固
[
有値 μ に対応する固有ベクトルを x = x1 , x2 ,
[
を示し、漸化式より x = c P0 ,
, xn ] と書けば x1 ≠ 0 でなければならないこと
T
, Pn −1 ] (c ≠ 0) を示し、これから結局 Pn ( μ ) = 0 を導け。■)
T
(参考)偶数次 Pn ( x ) は x の多項式であり、奇数次 Pn ( x ) は x ⋅ ( x の多項式)の形をしてい
2
2
る。この事実を考慮すると、上の方法で零点計算を行う場合は、 Pi − 2 , Pi , Pi + 2 を結ぶ漸化式(一
2
つ飛びの漸化式)を導き、 x に相当する固有値が求め、その平方根をとればよい(詳細略)。
また、3 項漸化式に基礎を置く同様の方法は、特殊関数 special function である、第一種ベッセ
ル関数および導関数の零点計算、逆に、零点を与えて階数を計算する逆問題、マシュー関数
Mathieu functions の固有値計算と逆問題、正則クーロン波動関数および導関数の零点計算、ス
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29
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レッスン 8 シュール分解と QR 分解 Part II
フェロイド関数の固有値計算にも応用できるが、これらは無限行列の固有値問題となる。詳し
くは下記論文参照:
(a) Y. Ikebe et. al., The eigenvalue problem for infinite compact complex symmetric matrices
with application to the numerical computation of complex zeros of J 0 ( z ) − iJ1 ( z ) and of
Bessel function of any real order m , Linear Algebra and Its Applications 194, 35-70 ( 1993).
(b) Y. Ikebe et. al.,The eigenvalue problem for infinite complex symmetric tridiagonal
matrices with application, Linear Algebra and Its Applications 241-243, 599-618 ( 1996).
(c) 浅井信吉ほか
行列算法による zJν
'( z ) + HJ v ( z ) = 0 の数値解法、電子情報通信学会誌 A、
Vol. J79-A、1256 – 1265 (1996).
(d) Y. Miyazaki et. al., Numerical computation of the eigenvalues for the spheroidal wave
equation with accurate error estimation by matrix method, Electronic Transactions on
Numerical Analysis 23, 329-338, 2006.
問題 8.10
⎡ 1 − 2 − 2⎤
1⎢
−2 1 − 2 ⎥⎥
(1) L =
⎢
3
⎢⎣ −2 − 2
1 ⎥⎦
とする。これは第 3 列の符号を除いて 3.10 節例 1 の直交行列と同じ行列である。実際
(2)
L = I − 2nnT (n = (1/ 3) [1 1 1] ) および det L = −1
T
であることを確かめよ。次に 3.10 節の公式を使って(1)より(2)を導いてみよ。
問題 8.11
n = [ n1 n2 n3 ]
T
⎡ 0 − n3 n2 ⎤
, n n = 1, N = ⎢⎢ n3 0 − n1 ⎥⎥ とすれば
⎢⎣ −n2 n1 0 ⎥⎦
T
eθ N = nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ であることを示せ。ここに
θN
2
3
(*) e = I + θ N + (θ N ) / 2! + (θ N ) / 3! +
2
T
3
4
T
2
5
(略証: 直接計算により、 N = nn − I, N = − N, N = I − nn = − N , N = N, , を示
2
4
3
5
し、よく知られた公式 cos θ = 1 − θ / 2! + θ / 4! − , sin θ = θ − θ / 3! + θ / 5! − を使う。
(*)式右辺の収束は成分ごとの収束と考えても、特定のノルムに関する収束と考えて同じである
θN
(レッスン 14)。8.10 節(I)で学んだように、 e
は n のまわりの、角 θ だけの回転を表す。
)
問題 8.12 本問題は第 8.10 節「3 次直交行列」に関連し、テンソル tensor 入門である。出典:
Ben Noble, Applied Linear Algebra, Prentice-Hall, 1969, First Edition (Ex. 12.55-56,
[
pp.422-424) 復習: a = a1 a2 a3
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]
T
, b = [b1 b2 b3 ] ∈ R 3×1 のベクトル積とは
T
30
現代線形代数入門―分解定理を主軸に整理整頓
レッスン 8 シュール分解と QR 分解 Part II
⎡i a1 b1 ⎤
a × b ≡ det ⎢⎢ j a2 b2 ⎥⎥ = (a2b3 − a3b2 )i + (a3b1 − a1b3 ) j + (a1b2 − a2b1 )k
⎢⎣k a3 b3 ⎥⎦
[
をいう。ここに、 i = 1 0 0
]
T
, j = [ 0 1 0] , k = [ 0 0 1] であり、 a × b は、大きさが a, b に
T
T
よって決定される平行四辺形の面積に等しく、方向が a, b によって決定される平面に垂直、向
きが a を b に向かって回転するとき右ネジの進む向きであるようなベクトルを表す(レッスン
7)。次の問(I)(II)(III)を示せ:
(I)
L = [a b c] (a, b, c ∈ R 3×1 ) を det L = 1 を満たす任意の直交行列とすれば、
a × b = c, b × c = a, c × a = b が成り立つことを示せ。
[
(II) 任意の x = x1 x2 x3
]
T
, y = [ y1 y2 y3 ] ∈ R 3×1 に対して
T
L ( x × y ) = Lx × Ly が成立することを示せ。
[
(III) 任意の x = x1 x2 x3
]
T
∈ R 3×1 に対して
⎡ x1 ⎤ ⎡ 0 − x3 x2 ⎤
f (x) = f ( ⎢⎢ x2 ⎥⎥ ) ≡ ⎢⎢ x3 0 − x1 ⎥⎥ = −( f (x))T
⎢⎣ x3 ⎥⎦ ⎢⎣ − x2 x1 0 ⎥⎦
とすれば、 f ( x) y = x × y ( y ∈ R
3×1
)および f (Lx) = Lf ( x)L が成立することを示せ。逆
T
に、 f ( y ) = Lf ( x)L なら、 y = Lx であることを示せ。
T
(略証:この式が成立するための必要十分条件はすべての z ∈ R
3×1
に対して
f (Lx)z = Lf (x)L z 、すなわち Lx × z = L(x × L z ) が成立することである。この右辺は
T
T
(3)により Lx × LL z に等しい。
)
T
det L = 1 ゆえ、LT = L−1 = (1/ det L) AdjL = AdjL が成り立つ。左辺と最終辺の対
応する成分を等置し、定義(1)を参照すれば(2)が出る。ここに、AdjL は L の余因子行列を表す。
(略証 (I)
(II) (I)の結果と a × a = b × b = c × c = 0 および行列式の多重線形性を用いると
Lx × Ly = (ax1 + bx2 + cx3 ) × (ay1 + by2 + cy3 ) = ax1 × ay1 + ax1 × by2 +
= L(x × y )
= 0 + cx1 y2 +
(III) 前半はこれまでの結果から出る。逆に、 f ( y ) = Lf ( x)L が真なら、直前の計算により、
T
すべての z ∈ R
3×1
に対して y × z = Lx × z が成り立つ。 z = i, j, k とすれば y = Lx が従う。■)
(参考)テンソルとは同じ物理量の異なる座標系から観測した表現間に存在する変換法則をい
う。実際には、特定の型の変換法則に従う物理量をテンソルといういい方をする。点、速度、
加速度は 1 階デカルトテンソル Cartesian tensor of order 1 または物理ベクトル physical vector
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31
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の例であり、上で定義した f ( x) は 2 階デカルトテンソル Cartesian tensor of order 2 の例であ
る。
問題 8.13
n 次(実)直交行列 L のシュール分解は次形で与えられることを示せ:
⎡ D1
Q LQ = ⎢⎢
⎢⎣0
0 ⎤
⎥ ≡ D 、ここに、 QT Q = I, Q ∈ R n×n 、 D = 1 , −1 または
[] [ ]
i
⎥
Dk ⎥⎦
T
⎡cos θ − sin θ ⎤
⎢sin θ cos θ ⎥ である。
⎣
⎦
(略証
実行列のシュール分解(7.5 節)により、適当な実直交行列 Q をとれば
⎡T11 T12
⎢
T22
QT LQ = ⎢
⎢
⎢
⎣0
T1k ⎤
⎥
⎥≡T
⎥
⎥
Tkk ⎦
となる。ここに、対角ブロック T11 ,
, Tkk は 1× 1 または 2 × 2
実行列であり、後者の場合、その固有値は一対の共役複素数 α ± i β ( α , β は実数、 β ≠ 0 )で
ある。 L は直交行列だから、 T も同じく直交行列である。
Tij = 0 (i ≠ j ), TiiT Tii = I (i = 1,
TT T = I を 書 き 下 す と 、
, k ) が得られる。 Tii が 1 次の場合は明らかに [ ±1] 、2 次の
⎡cos θ − sin θ ⎤
⎥ ( sin θ ≠ 0 )の形で
⎣sin θ cos θ ⎦
場合はその固有値は実数でないから、8.9 節の結果により ⎢
なければならない。■)
問題 8.14 3 次直交行列 L の標準形 Part(II): det L = −1 の場合。以下を示せ:
(A) L の固有値は −1, cos θ
[
± i sin θ の形に表現できる。
(B) Ln = −n ≡ − n1 n2 n3
]
T
(nT n = 1) とすれば、 L は次の形に表現できる:
L = (I − 2nnT ){nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ } = −nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ
⎡ −n12 + (1 − n12 ) cos θ
− n1n2 (1 + cos θ ) − n3 sin θ − n1n3 (1 + cos θ ) + n2 sin θ ⎤
⎢
⎥
= ⎢ −n1n2 (1 + cos θ ) + n3 sin θ
− n2 2 + (1 − n2 2 ) cos θ
− n2 n3 (1 + cos θ ) − n1 sin θ ⎥
⎢ −n n (1 + cos θ ) − n sin θ − n n (1 + cos θ ) + n sin θ
− n32 + (1 − n32 ) cos θ ⎥⎦
2
3 2
1
⎣ 3 1
⎡ 0 − n3 n2 ⎤
T
⎢
⎥
ここに、N = n3 0 − n1 であり、任意の x = [ x1 x2 x3 ] に対して、Nx はベクトル積 n × x
⎢
⎥
⎢⎣ −n2 n1 0 ⎥⎦
を表し、 x
T
Nx = 0 、 Nn = 0 、 NT = −N 、 NT N = −N 2 = I − nnT が成り立つ。
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(C)
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n, cos θ , sin θ の計算 まず、
⎡1 − l11 + l22 + l33 ⎤
⎡ −l12 − l21
⎤
⎢
⎥
⎢
⎥
d1 ≡ ⎢ −l12 − l21
⎥ = 2(1 + cos θ )n1n 、 d 2 ≡ ⎢1 + l11 − l22 + l33 ⎥ = 2(1 + cos θ )n2n
⎢⎣ −l13 − l31
⎥⎦
⎢⎣ −l23 − l32
⎥⎦
⎡ −l13 − l31
⎤
⎢
⎥ = 2(1 + cos θ )n n
d3 ≡ ⎢ −l23 − l32
3
⎥
⎢⎣1 + l11 + l22 − l33 ⎥⎦
ゆえに、 n は任意の d i
≠ 0 を一つとり、 n = ±di / diT di によって定める。ここに、 d1 , d 2 , d 3
は同時には 0 とならない (∵ n ≠ 0, L ≠ I ) 。 cos θ , sin θ は次式から定まる:
2 cos θ = l11 + l22 + l33 − 1
2n1 sin θ = l32 − l23 , 2n2 sin θ = l13 − l31 , 2n3 sin θ = l21 − l12
(D) 幾何学的解釈
任意の x ∈ R
3×1
に対して
Lx = (I − 2nn ) ⋅{n(n x) + (I − nnT )x cos θ + Nx sin θ }
ここに、右辺の積の第 2 因子は det L = 1 の場合の Lx と全く同一の形をもち、 x を n のまわり
T
T
に角 θ だけ回転して得られるベクトルを表し、第 1 因子はこの回転結果を、原点を通り n に垂
直な平面に関して反射して得られるベクトルを表す。
(E) 逆
[
任意の n = n1 n2 n3
]
T
(nT n = 1) 、任意の θ に対して
L = −nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ = (I − 2nnT ){nnT + (I − nnT ) cos θ + N sin θ }
は det L = −1 を満たす直交行列を表す。ここに N は以前と同じ意味をもつ。
det L = 1 の場合と同様の論法を使う。
T
T
(A) det(L + I ) = det(L + LL ) = det L det(I + L ) = (−1) det(I + L) 。ゆえに、det(L + I ) = 0 。
これは −1 が L の固有値であることを示す。他固有値は 3.10 と同様じ手続きをとれば、
cos θ ± i sin θ の形に表現できることがわかる。
T
(B) 3.10 節と同じ手続きを繰り返してもよいが、ここでは別法を示す。 (I − 2nn )L ≡ M と
T
T
おけば、 M も直交行列を表し、しかも、 Mn = (I − 2nn )Ln = (I − 2nn )( −n) = n 、そして
det M = det(I − 2nnT ) det L = (−1)(−1) = 1 であるから、3.10 の結果により、M は n を軸とす
T
T
T
る回転を表し、M = nn + (I − nn ) cos θ + N sin θ と書ける。M の左から I − 2nn を乗じれ
ば、証明すべき L の表現が得られる。(C)以下省略。■)
(略証
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