知的障害児とクラスメートをつなぐショートムービーの作成

分科会G1
知的障害児とク
クラスメートをつなぐショートムービーの
の制作
鈴鹿市立鼓ヶ浦小学校 教諭 勝井まどか
キーワード
ド:特別支援学級,知的障害,交流,ショートムービー,iPad,小学校教育
1.はじめに
ショートムービーは、2本制作
作した。Aさんの休日の様
インクルーシブ教育の推進に伴い、特別
別支援学校の就学
子をテーマとした『ぼくの休日』と特別支援学級での学習
基準に相当する障害があっても、特別支援
援学校ではなく、
の様子をテーマとした『たんぽぽ
ぽの勉強』である。撮影対
地元小学校の特別支援学級を選択する保護
護者が年々増加し
象物や録音・書字する言葉を筆者
者が決め、撮影・発語・書
1)
ている 。保護者が地元の小学校を選択す
する理由として、
字はAさんが行う。また、完成し
した作品は、電子黒板に投
「地域の友だちと共に学んでほしい」とい
いう願いが挙げら
影して、Aさんと交流学級児童が
が共に視聴した。
れる。しかし、特別支援学級の児童の中に
には、言葉の発信
3.3 実践の様子
や受信が困難な児童も多く、交流学級(同
同学年の健常児の
(1)ショートムービーの制作
学級)の中でうまく意思疎通が図れない場
場合、教員や周り
ショートムービーの制作におい
いて、画像選択・録音作業・
の児童が意思を汲み取ったり、代弁をした
たりすることがよ
手書きによる書字を自分でアイコンをタップしながらス
くみられる。また、学校生活全般を交流学
学級で共に過ごし
ムーズに行えた(写真1・2)
。制
制作中は、途中立歩き等の
ていても、発信が難しい児童について、周
周りの児童がどの
行動はみられず、最後まで集中し
して作業に取り組めた。入
程度理解しているのかは定かでない。
力する言葉は、筆者が提示したも
ものを見ながら録音・書字
特別支援学校では、情報機器は支援ツー
ールとして有効で
をした。作業手順に慣れてくると
と、筆者が言葉を提示する
あることから、タブレット端末の活用例も
もみられる。これ
前に、Aさんが自発的に録音をす
する姿が何度かみられた。
は、小学校の特別支援学級に通う児童にお
おいても同様の効
果を期待できるが、特別支援学級児童を対
対象とした実践研
究はまだ少ない。
分科会G1
2.実践の目的
障害のある児童がタブレット端末を活用
用して、ショート
写真1 録音する様子
ムービー制作による表現活動を行い、制作
作した作品を交流
写
写真2 書字する様子
(2)交流学級での作品視聴
学級の児童と共に視聴をする。これらの制
制作・視聴活動を
流れる自分の音声に合わせ
視聴中のAさんは、作品から流
通して、障害のある児童には、
「発信する楽
楽しさ・伝わる喜
て声をあげたり、視聴後には挙手
手をして話そうとしたりす
び」を実感させる。また、交流学級の児童
童には、特別支援
る姿がみられ、終始ご機嫌な表情
情であった(写真3)。ま
学級の児童についての理解を深めさせる。
た、2本目の作品視聴日の朝、特
特別支援教室の予定ホワイ
トボードに、自分から「Aちゃん
ん」という字を書いたこと
3.実践内容
からも、Aさんが視聴時間を楽し
しみにしていることがうか
3.1 対象児
がえた。
対象児は、小学校の特別支援学級に在籍
籍している重度知
交流学級の児童は、最後までA
Aさんの作品に見入ってい
的障害のある小学5年生の男児である(以
以下Aさん)
。発語
た。書かれてあるAさんの字をつ
つぶやきながら見る児童も
は不明瞭で、書字はバランスがとれず読み
み取りにくい。主
いた。また、「もう一度見たい」という要望も出された。
なコミュニケーション手段は、動作やしぐ
ぐさである。Aさ
んは、
学校生活全般を交流学級で過ごして
ている。
Aさんは、
思いがうまく伝わらず、授業中に教室を出
出る等の行動もし
ばしばみられる。
3.2 実践方法
ショートムービー制作に使用するアプリ
リは、
「ロイロノー
ト」である。
「ロイロノート」は、iPad
dのカメラ・録音
機能を使い、画像に音声を入れて、それら
らの画像をつなげ
写真3 交流学級での
の作品視聴の様子
てショートムービーを簡単に制作できる。画像には手書き
文字を直接入力できる。
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JAPET&CEC成果発表会
4.成果
自由記述には、初めて知ったことについて、具体的に次
のようなものがあった。
4.1 ショートムービーの制作
(1本目の視聴後)
制作過程において、Aさん本人の力で制作活動を進める
・本が好き、電車で出かける、切符を自分で買える、漢
ことができたのは、以下のタブレット端末の特性があった
からだといえる。
字が書ける、本屋で立ち読みをする、休日の過ごし方
(1)
「音声」
「文字」
「画像」の組合せによる効果
がわかった etc
書く字や発する言葉が未発達なAさんの現状であっても、
(2本目の視聴後)
「Aさんらしさ」をありのまま伝えるために、Aさんの字
・トマトがきらい、引き算でブロックを使う、
(支援学級
や言葉をそのまま活用したいと考えた(写真4・5)
。伝わ
で)野菜を育てている、和太鼓を運んでくれていた(手
りにくさを補うために「画像」を組み合わせることで、受
伝いをしてくれていた)
、発音がよく聞こえた、前より
け手にもAさんが何を伝えようとしているのかを想像でき
も字が上手くなっている、Aくんもがんばっている、
る材料となった。
言葉が聞き取りやすくなってきた etc
*( )は、筆者による補足
このように、入学当初から同じ学級で過ごしていても、
周りの児童からAさんについてこれまで知らなかったこと
が多数あげられたことは、学校生活を共に過ごすだけでは
十分な理解につながっていないことのあらわれである。そ
のため、今回の実践のように何らかの伝える手段を講じる
写真4 ショートムービー『ぼくの休日』の一部
ことが、お互いの理解を深めることに寄与するといえる。
また、視聴した児童たちは、Aさんの書字や音声につい
ても質問紙に書いていた。
例えば、
発音がきれいになった、
字が上手になった等の気づきである。さらに「Aさんもが
すごい」といったようなAさんを承認する内容を書く児童
もいた。
写真5 ショートムービー『たんぽぽの勉強』の一部
5.今後に向けて
(2)即時フィードバックで「やる気」が持続
ショートムービーの制作中、録音音声の再生や、やり直
2回のショートムービー制作・視聴後、Aさんは書いて
しがタップ1つですぐにできた。この即時フィードバック
伝えようとする姿が多くみられるようになった。その書字
の良さが、対象児の制作意欲を途切れさせることなく最後
は、読み取りにくいものがまだまだある。しかし、その字
まで取り組めたことにつながった。
を友達に見せ、その字を読み取ろうとする周りの仲間の様
(3)1タップ1動作の了解性
子から、Aさんは「伝わる」楽しさを感じ始めていると思
われる。今後も引き続きショートムービーの制作・視聴を
タブレット端末の画面上にあるアイコンを理解するのに
通して子ども同士の関わり方をみていきたい。
時間はかからなかった。
「決定」
「戻る」アイコンによって、
画像や音声の選択・取り消しができるので、知的障害のあ
また、完成した作品は、学習成果として保存することに
る児童にも操作が容易にできた。
また、
書字を間違えた時、
より、Aさんの発語や書字の評価や指導の手立てとして活
消しゴムではきれいに消せなくてストレスになることがあ
用することも可能である。
る。
「消す」アイコンで即時に消せたことは、書き直す作業
をスムーズにストレスなく行えることにつながった。
付記:本実践は、日本学術振興会科学研究費補助金奨励研
4.2 交流学級での作品視聴
究(課題番号:26910006)の助成を受けて行われました。
視聴後の質問紙調査結果を表1に示す。多くの児童がA
謝辞:ご協力いただいたAさんと保護者様、また、ご助言
さんについて初めて知ったことがあったと回答した。
表1 「作品を見て、Aさんのことで初めて知ったこと
をくださった三重大学教育学部附属教育実践総合センター
(n=33)
はありますか」の回答結果
の下村勉教授に深く御礼を申し上げます。
作品のテーマ
はい
いいえ
無回答
ぼくの休日
31 人
1人
1人
参考文献
たんぽぽの勉強
30 人
3人
0人
1)文部科学省(2014)特別支援教育の現状
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分科会G1
んばっていることがわかった」
「一人で切符を買えるなんて