アプリケーションノート 遺伝毒性の検出:小核スクリーニング ハイスループットスクリーニングによる小核誘導の定量 Steven Bryce1, Feffrey Bemis1, Zhaoping Liu2, Kim Luu2 1Litron Laboratories, Rochester, NY, 2IntelliCyt Corporation, Albuquerque, NM 緒言 遺伝毒性の評価は、創薬において重要、必須の工程 HCF 小核誘導アッセイ原理 である。In vitro 小核(MN)試験は、2011 年に定め HCF ベースでの in vitro MN アッセイのプロトコ られた ICH S2(R1)ガイドラインで、遺伝毒性化合物 ルは、Litron Laboratories が IntelliCyt HTFC スク による哺乳類細胞系の適切な染色体ダメージ測定法 リーニングシステム用に開発したプロトコルが基と として示されている。遺伝毒性試験を開発工程の初期 なっている。染色した細胞を溶解し、個々の物質とし 段階で実施できれば、早い段階での化合物の選定が可 て分析できるようにフリーな状態にするやり方によ 能となり、開発する分子の品質を劇的に高めることが り、画像ベースのものに比べ、より効率的な解析を行 できる。しかし、初期段階での遺伝毒性試験は、小核 うことができ、明確なアッセイシグナルを得ることが 誘導アッセイ同様、マニュアル作業の性質上広く採用 できる。 されていない。 従来のアッセイでは、遺伝毒性化合物により誘導さ 簡単に言うと、対数増殖期の CHO-K1 細胞を れる小核の測定に顕微鏡を用いる。手動での顕微鏡観 384-well プレートに 1well あたり 3000 細胞で播種す 察は手間がかかり、主観的な作業になる場合がある。 る。24 時間培養後、テスト化合物を加え、1.5-2 回分 High-content imaging ツールを用いた自動アッセイ 裂するよう、さらに 24 時間培養する。化合物処理後 (1)はある程度の労力を軽減することができるが、統計 に培養上清を除去し、Nucleic Acid Dye A(EMA, 赤色 的に有意なイベント数を取得するための時間が依然 蛍光)で死細胞を染色する。その後、核と単核にするた としてネックとなっている。さらに、このアッセイの めに細胞を溶解し、Nucleic Acid Dye 解析工程は時間、データ蓄積どちらの面でも大きな負 B(SYTOX®Green, Life Technologies)により全ての核 担となる。Litron Laboratories は、浮遊細胞、接着細 由来物質を染色する。相対生存率(RS)の算出のため、 胞どちらでも、遺伝毒性を持つ化合物による小核を高 Counting beads を添加した後に、IntelliCyt HTFC ス 精度で検出できるフローサイトメトリーベースの in クリーニングシステムによりサンプルを測定する。 vitro MN アッセイ「In Vitro MicroFlow®」を開発し EMA シグナル(ダブルポジティブシグナルを含む) た(2)。Litron のキットを使用した研究者はフローサイ は死細胞を解析から除くために用い、SYTOX シグナ トメトリーベースの結果はイメージベースの技術と ルは、正常核、小核、低二倍体を、シグナル強度をも よく一致するだけでなく、いくつかの独自の利点があ とに定量化するために使用する。解析概略を Figure 1. ると述べている(3)。Litron により開発された特許を有 に示す。 する解析方法を 利用して、IntteliCyt は小核誘導アッセイの為の high capacity flow(HCF)ベースのスクリーニングを開発し た。 出力データ:小核検出、作用機序、相対生存率 IntelliCyt ForeCyt スクリーニングソフトウェアで はデータ取り込みと解析のテンプレートが用意され DNA 量の少ない核が形成される。HTFC スクリーニ ングシステムでは、異数性誘発活性の指標としてこの 「低二倍体核」を測定することができる。 ており、合理化されたデータ解析を実施できる。解析 テンプレートにより、ユーザーは解析を自動で実施す フローサイトメトリーベースアッセイの重要な点 ることができ、また関連したスクリーニングデータを は、相対生存率(RS)の測定が可能な点である。RS は 即時に得ることができる。また自動ゲーティングによ アッセイに蛍光ビーズを組み込み、サンプルごとに正 り、正常核、小核、低二倍体の相対比率、及び/又は発 常核の数をビーズ数で正規化することで得られる。RS 光量比を適切に計算することが可能である(Figure 2.)。 は化合物の細胞毒性について重要な情報であり、遺伝 vialbility dye を加えることで、核と、ネクローシス、 毒性についてポジティブな結果が得られた際、強い細 アポトーシスを起こした細胞に起因する EMA ポジテ 部毒性により得られた偽陽性であるかどうかを判断 ィブなイベントを定量化し、最終段階の解析工程から するためにも利用できる。 除外することが可能である。化合物の遺伝毒性の同定 は、作用機序(MOA)判定によりさらに精度を増す。 染色体異常誘発性の化合物では、DNA 二重らせんの 破壊と動原体を欠く断片を生じ、分裂により小核を形 成する。異数性誘発性の化合物は分裂時の染色体の動 きを阻害し、1 つの染色体全体が核から失われること で、小核を生じる。この染色体の欠失では染色体異常 によるものよりも大きな小核が形成され、娘細胞には コントロール化合物の変異原性、作用機序の検出 Figure 3.に示すように、HTFC スクリーニングシス MN 誘導の検出、定量についての HCF アッセイの テムにより、MN 形成は誘導されるが低二倍体は形成 信頼性を示すため、いくつかの既知の変異原性化合物 されないことから MMC が染色体異常誘発性であるこ の用量反応試験を、HTFC スクリーニングシステムを と、MN と低二倍体の両方が有意に誘導されることか 用いて 384-well プレート上で行った。1化合物あた ら VB は異数性誘発性であることが、明確に同定され り濃度を 12 点振り、それぞれ 3 well を測定した。溶 た。DEX と SDS はどちらも、MN を誘導しない細胞 媒コントロール(0.1% DMSO)の測定も同様に行った。 毒性を示した。これらの結果は、これらの化合物につ いての過去のデータと一致している。 ・染色体異常誘発コントロール:Mitomycin C(MMC) 最大濃度 10 ug/mL ・異数性誘発コントロール:Vinblastine(VB) 最大濃度 0.5 ug/mL ・陰性コントロール:Dexamethasome(DEX) 最大濃度 100 ug/mL 低毒性化合物での変異原性、作用機序の検出 標準的な遺伝毒性化合物に加え、毒性の低い化合物 についても、HTFC スクリーニングシステムの検出能 力を評価した。本解析では、遺伝毒性を示すがポジテ ィブコントロール化合物よりは毒性が低いと思われ ・化合物なし(一般毒性) :Sodium dodecyl る化合物として、Cytosine β-D-arabinofuranoside sulfate(SDS) HCl(AraC)、Carbendazim、Methyl 500 ug/mL methanesulfonate(MMS)、 Bis(2-ethylhexyl)phthalate(DehP)を選定した。HCF 技術の感度、安定性を示すために、MN を低レベルで 誘導する生物製剤および化合物の検出は重要で あり、これらのタイプの化合物でのテストは必要 である。 4 化合物のうち 3 つでは低レベルの MN、 低二倍体の誘導が示され、既報の通り、DehP だ けは遺伝毒性を示さなかった(Figure 4.)。 画像的手法の欠点を克服 手動、自動のいずれも、通常は細胞分裂の阻害 により生じる 2 核細胞で小核を測定する顕微鏡検 査で、小核とアポトーシスに伴うブレッビングと を区別することは非常に難しい。Cytochalasin B のような細胞分裂阻害化合物は、分裂した細胞に 焦点を合わせた MN 解析のために使用され、副次 的に細胞毒性指標の作成にも利用される。この細 胞分裂阻害ステップはアッセイ準備の複雑さと 操作時間を増加させ、解析においてもアルゴリズ ムの複雑さとデータ取得時間を増加させる。画像 ベースの手法でのアーティファクトとして、小核 が元の核の前もしくは後ろに隠れ、小核の実際の 数よりも少なく測定されてしまう点があり、統計 的な妥当性を得るために多くのサンプル数、ひい ては多大な時間が必要となる恐れがある。 、アッ セイの簡略化、正確性の向上、そして測定および 解析時間の劇的な短縮が可能な HCF 手法であれ ばこれらの欠点は低減される。 MN アッセイ法の比較 IntelliCyt HTFC スクリーニングシステムで実行 されている Litron Laboratory の In Vitro MicroFlow Micronucleus Assay は、スクリーニ ングレベルのスループットが可能で、一般的な High-Content Imaging にはない機能が備わって いる。HCF システムでは、384 well プレートの 測定が、1 サンプルあたり 3,000 イベントの場合 で、約 30 分で完了する。Table 1 に High Content Imaging と HCF システムの比較をしめす。効率 的なスクリーニングを実施するためには、検出感 度と高取得率でのサンプリングのスピードだけ でなく、解析の簡便さと自動化、そしてラージデ ータの効率的な取り扱いも重要である。IntelliCyt ForeCyt スクリーニングソフトウェアによりユーザ ーはいくつかの優れた解析機能を利用できる。 測定、解析設定のプレセットの標準化により、プレ ートレベルでの定量データ解析、プッシュボタン操 作が可能 ・Link gate、Copy gate により、ポピュレーション 間の比率の保持が容易に可能 プレートの標準化を行いながら、プレート間での解 析コピーや実験テンプレート作成を行える柔軟性 ・ラージスケールの遺伝毒性化合物の同定を迅速に 視覚化できるヒートマップ。 要旨 膨大な数のサンプルや状態が検査される創薬工程 の初期段階において解析を容易に行えることで、この HCF ベースの小核アッセイは遺伝毒性のスクリーニ ングと解析の効率をを前例のないレベルまで高めま した。IntelliCyt HTFC スクリーニングシステムは創 薬の遺伝毒性化合物スクリーニングに於いて信頼性 のある、優れた手法である。 ・384 well プレートでの簡素化したワークフローと測 定、解析の自動化により、従来の小核誘導アッセイで の欠点を克服し、スクリーニングレベルのスループッ トを実現。 ・HCF による小核の検出は統計的、生物学的に高精 度なスクリーニング結果、作用機序の情報を、従来の イメージング手法でみられるアーティファクトなし で、少ないデータ容量で得ることができる。 ・遺伝毒性スクリーニングを創薬の前段階で実施でき るため、重要な判断をより早い段階で下せる。結果と して候補分子の総合的な品質を向上させることがで きる。 参考文献 1. Mondal MS., et al. Toxicol. Sci. 2010, 118(1): 71-85. 2. Bryce SM., et al. Enviromental and Molecular Mutagenesis. 2011, 52: 280-286. 3. Lukamowicz M., et al. Enviromental and Molecular Mutagenesis. 2011, 52(5): 363-372.
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