ウェブハンドリング計算用ソフト WEBMASTER(ウェブマスター) 概要版 東海大学 教授 工学部 橋本 1 巨 は じ め に 学術的な観点からウェブハンドリング技術の研究に取り組み始めてから、既に四半世紀 が過ぎようとしている。研究開始当初はこのようなテーマに関心の深い企業は、写真用フ ィルム、印刷、製紙などのごく一部に限られていた。もちろん、ウェブハンドリング技術 そのものは多くの生産現場において当時から用いられていたが、それらは経験に基づく技 術やノウハウであり、学術的な意味では皆無に近い状況であった。 昨今、液晶ディスプレイやリチウム二次電池、有機薄膜太陽電池などへの関心が急速に 高まってきており、その製造のキーとなるウェブハンドリング技術の修得は必須のことと なってきている。 本ソフトはこのような社会状況の変化に対応して作成されたものであり、マニュアルと 計算ソフトより構成されている。さらにマニュアルは、 Ⅰ ソフトウェア使用マニュアル Ⅱ ウェブハンドリング用計算ソフト“WEBMASTER(ウェブマスター)”の内容と解説 の 2 部構成となっている。ソフトウェアを実行するにあたっては、是非ともこれらのマニ ュアルを熟読し、かつ活用して欲しい。なお、本マニュアルのみでウェブハンドリングの 概略は十分理解できるようになっているが、拙書「ウェブハンドリングの基礎理論と応用」 、 「入門ウェブハンドリング」 (いずれも㈱加工技術研究会)と合わせて利用すると、一層効 果的であると思う。 本ソフトは、ウェブハンドリングに経験の浅い技術者からベテラン技術者に至るまでの 広い層を対象とし、基礎的事項から極めて実践的な応用的事項までを含んでいる。本ソフ トが少しでも当該分野の諸氏の技術力向上に貢献し得るならば、これに勝る喜びはない。 2011 年 盛夏 橋本 巨 2 Ⅱ ウェブハンドリング用計算ソフト WEBMASTER(ウェブマスター)の 内容と解説 はじめに マニュアルⅠに従って「ウェブマスター」を使用する準備が整ったら、まず例題のデー タを入力して、解説に示してあるような結果が実際に得られるかどうかを確認してみよう。 その際、例題ごとの解説を熟読し、ソフトウェアの内容の理解や組み込まれている公式の 意味などを十分に咀嚼することが、本ソフトを実務において活用していく上で、肝要であ る。 なお、解説に示されている公式はいずれも SI 単位系(m,s,kg)に基づいているが、実 際現場では mm,μm など接頭語の付いた単位を用いることが多い。したがって、データを 入力する際の単位はこのような現場感覚に合ったものを使用しているので注意すること (例題を通して訓練を積んでいけばこのような扱いに十分慣れてくると思う)。 本ソフトは 29 の例題により構成されており、例題 1 から例題 11 はウェブハンドリング の基本的事項に関連した計算ソフトである。ウェブハンドリング技術について経験のない、 あるいは経験の少ない技術者は是非これらの例題から始めて欲しい。また、経験の豊富な 技術者も知識の補充や現象のより深い理解にこれらを利用して欲しい。 例題 12 から例題 29 は応用的事項に関係した実戦的計算ソフトであり、最新の研究成果 がふんだんに盛り込まれている。特にスリップの開始予測に関わる内容、マイクログルー ブローラの設計、ウェブの安全搬送領域の作図、修正 Hakiel モデルに基づく巻取ロール内 部の状態予測などは他に類を見ないものであり、実用上極めて価値の高いものであると自 負している。 例題の確認が終わったなら、入力データを個々の要求に応じて与え、直ちに実際業務に 活用するとよい。 29 の例題の内容は以下のとおりである。 例題 1 張力とひずみの関係のグラフ化 例題 2 曲げ剛性とウェブ幅の関係のグラフ化 例題 3 ウェブ張力と平均接触圧力の関係のグラフ化 3 例題 4 ウェブおよびローラ表面の rms 合成粗さの計算 例題 5 巻き角と張力の入・出力比の関係のグラフ化 例題 6 ウェブ進入角度とウェブ横方向速度の関係のグラフ化 例題 7 ウェブ速度とウェブ浮上量の関係のグラフ化(1) 例題 8 ウェブ速度とウェブ浮上量の関係のグラフ化(2) 例題 9 有効摩擦係数、浮上量とウェブ速度の関係のグラフ化(1) 例題 10 有効摩擦係数、浮上量とウェブ速度の関係のグラフ化(2) 例題 11 有効摩擦係数、浮上量とウェブ速度の関係のグラフ化(3) 例題 12 グルーブ無しのローラでベアリングトルクが無視できる場合のスリップ開 始速度のグラフ化 例題 13 グルーブ無しのローラでベアリングトルクが無視できる場合のスリップ限 界張力のグラフ化 例題 14 グルーブ無しのローラでベアリングトルクが無視できない場合のスリップ 開始速度のグラフ化 例題 15 グルーブ無しのローラでベアリングトルクが無視できない場合のスリップ 限界張力のグラフ化 例題 16 マイクログルーブローラでベアリングトルクが無視できる場合のスリップ 開始速度のグラフ化 例題 17 マイクログルーブローラでベアリングトルクが無視できる場合のスリップ 限界張力のグラフ化 例題 18 マイクログルーブローラでベアリングトルクが無視できない場合のスリッ プ開始速度のグラフ化 4 例題 19 マイクログルーブローラでベアリングトルクが無視できない場合のスリッ プ限界張力のグラフ化 例題 20 マイクログルーブローラを用いた場合の折れしわ臨界張力の計算 例題 21 ウェブを搬送したときの臨界ミスアラインメント角度のグラフ化 例題 22 折れしわ発生領域のグラフ化 例題 23 マイクログルーブ無しでベアリング抵抗が無視できる場合の安全搬送領 域(折れしわもスリップも生じない領域)のグラフ化 例題 24 マイクログルーブ無しでベアリング抵抗が無視できない場合の安全搬送 領域(折れしわもスリップも生じない領域)のグラフ化 例題 25 マイクログルーブローラでベアリング抵抗が無視できる場合の安全搬送 領域(折れしわもスリップも生じない領域)のグラフ化 例題 26 マイクログルーブローラでベアリング抵抗が無視できない場合の安全搬 送領域(折れしわもスリップも生じない領域)のグラフ化 例題 27 Altmann の公式による巻取ロール内部応力状態のグラフ化 例題 28 Hakiel の巻取理論を用いた巻取ロール内部応力状態のグラフ化 例題 29 修正 Hakiel モデルを用いた巻取ロール内部応力状態のグラフ化 5 例題 9 有効摩擦係数、浮上量とウェブ速度の関係のグラフ化(1) ローラ半径を 50[mm],ウェブとローラ表面の rms 合成粗さを 3[μm]としたとき の、非透気性ウェブとローラ間の有効摩擦係数および浮上量と、ウェブ速度の関 係を、ウェブ張力をパラメータとして図示せよ。なお、有効摩擦係数については 静摩擦係数との比の形で表せ。ただし、ウェブとローラはマイクロスリップ状態 にあり、W/(2R)>1 の条件を満たしているものとする。 【解説】 ウェブ浮上量とウェブ速度の関係につては例題 8 と同じである。有効摩擦係数とは、ウェ ブとローラ間に巻き込まれる空気膜の影響を考慮した摩擦係数のことで、 ウェブとローラ間 のスリップや折れしわの発生などを予測する上で極めて重要な概念である。橋本によれば、 有効摩擦係数 μeff は、実用上十分な精度で SI 単位系に基づく次式により得られる。 eff s 1 1 h 3 2 Rq 0 h Rq Rq h 3Rq h 3Rq (9-1) ただし、μs はウェブとローラ間の静摩擦係数、h[m]はウェブ浮上量で前述の式(7-1)(ただ し Uw=Ur とする)により、また、Rq[m]はウェブとローラ表面の合成 rms 粗さで前述の式(4-3) により与えられる。 入力データとしてウェブ速度 Uw [m/s],ローラ直径 2R[mm],rms 合成粗さ Rq[μm]を与え てウェブマスター例題 9 により、ウェブ浮上量 h[μm],有効摩擦係数比 μeff /μs とウェブ速度 Uw[m/s]の関係を、 ウェブ張力 T [N/m]をパラメータとしてグラフ化すると図 9-1 が得られる。 同図から、ウェブ速度が増すにつれてウェブ浮上量が増加することが分かる。また、これに 伴って、有効摩擦係数の値は一定値(静摩擦係数 μs の値)から低下し始め、ついにはゼロ となって、マイクロスリップ状態からマクロスリップ状態へと移行し、ローラが空転するこ とが予想される。張力の値が低下するほどこの傾向が著しい。これは、ウェブ張力が低下す るにつれて、ウェブとローラ間の平均接触圧力が低下するためである。なお、ウェブとロー ラ間の静止摩擦係数 μs の値は一定 (プラスチックフィルムと鋼ローラ間の値は概ね 0.3 程度) であるから、図より有効摩擦係数 μeff それ自身の値も容易に求められる。 なお、本プログラムで入力パラメータの値は任意に設定できるようになっている。 6 図 9-1 ウェブ張力をパラメータとしたときの 有効摩擦係数、浮上量とウェブ速度の関係 7 例題 14 グルーブ無しのローラでベアリングトルクが無視できない場合の スリップ開始速度のグラフ化 (i) ローラ半径を 50[mm],rms 合成粗さを 1[μm],流体(空気)の粘度を 1.822x10-5 [Pa・s],ウェブ巻き角を 60°,静摩擦係数を 0.3,単位幅当たりのブレーキトルク(=fr) が駆動トルク(=TR)の 5%であるとして、ウェブ張力が T=100[N/m]のときのスリッ プ開始速度を求めよ。 (ii) 上の条件下で、ウェブ張力を 20[N/m]から 300[N/m]まで変化させたときのスリ ップ開始速度をブレーキトルク(=fr)と駆動トルク(=TR)の比率が 1%,2%,3%, 4%,5%の各場合について計算し、グラフ化せよ。 【解説】 例題 14 は例題 12 をより一般化したもので、ローラ支持軸受のベアリングトルク(軸受 抵抗)が無視できない場合を扱ったものである。 例題 12 と同じローラであるが、ベアリング抵抗が無視できない場合のスリップ開始速度 Usp[m/s]は、橋本により SI 単位系に基づく次式によって与えられている。 U sp 3 2 3 1 3.396 fr T Rq 2 5.093 1 12 s TR R [m/s] (14-1) ここに、μs はウェブとローラ間の静摩擦係数、Θ[rad]はウェブ巻き角、fr[N]は単位幅当た りのベアリングトルク、TR [N]は駆動トルク(ここでは張力 T [N/m]とローラ半径 R [m]の積 TR [N]を単位幅当たりの駆動トルクと定義している)、T [N/m]はウェブ張力、η [Pa・s]は気 体の粘度、Rq[m]は rms 合成粗さ、R[m]はローラ半径である。 入力データとしてローラ直径 2R[mm],rms 合成粗さ Rq[μm],気体の粘度 η[Pa・s],ウェ ブ巻き角 Θ[deg],静摩擦係数 μs,単位幅当たりのブレーキトルクと駆動トルクの比 fr/TR[%], ウェブ張力 T [N/m]を与えて、ウェブマスター例題 14 により、スリップ開始速度 Usp[m/s] とウェブ張力 T [N/m]の関係を求めて, fr/TR をパラメータとしてグラフ化すると図 14-1 が得られる。問(i)の解は図 14-1 に含まれる ので、省略する。同図において直線より上がスリップの発生する領域であり、直線より下 がスリップの発生しない領域(安全搬送領域)である。ブレーキトルク(ベアリングトル ク)が大きいほどスリップ開始速度が低下し、安全搬送領域が狭まる傾向にある。したが ってローラの支持軸受はできるだけ滑らかなものを使用することが重要である。 なお、本プログラムで入力データは任意に設定できる。 8 スリップの発生する領域 スリップの発生しない領域 図 14-1 ブレーキトルクと駆動トルクの比率をパラメータとしたときの スリップ開始速度とウェブ張力の関係 9 例題 16 マイクログルーブローラでベアリングトルクが無視できる場合の スリップ開始速度のグラフ化 (i) ローラ半径を 50[mm],rms 合成粗さを 1[μm],流体(空気)の粘度を 1.822x10-5 [Pa・s],グルーブ断面積を 104[μm2],グルーブピッチを 2[mm]として、ウェブ張力が 100[N/m]のときのスリップ開始速度を求めよ。 (ii) 上の条件下で、張力を T=20[N/m]から 300[N/m]まで変化させたときのスリップ 開始速度をグルーブピッチが 1[mm],2[mm],3[mm],4[mm]の各場合について計算し、 グラフ化せよ。 【解説】 例題 16 は、例題 12 をローラ表面に図 16-1 に示すようなマイクログルーブを有するロー ラ(以降、マイクログルーブローラ(MGR)と称する)の場合へと拡張したものである。 なお、マイクログルーブローラの原理は橋本によって発見されたもので、マクロスリップ 防止に極めて効果の高いローラである。 図 16-1 マイクログルーブローラ(MGR) 10 図 16-1 においてグルーブの断面形状は任意で、加工がしやすければ特に三角形でなくて もよい。グルーブローラそれ自身は従来から経験的によく知られているが、従来のグルー ブのサイズはミリ単位かそれ以上である。これに対して、橋本が提案しているグルーブの サイズは文字通りミクロン単位であり、従来のものとは全く作動原理が異なる。前者では グルーブ内の流れがポテンシャル流れとなって加速されるためにグルーブ内の圧力が低下 し、ウェブがグルーブの方向にたわんでかき傷(スクラッチ)を作りやすい。また、浮上 量 h の低減効果もマイクログルーブの場合ほど大きくない。これに対して、マイクログル ーブ内の流れは、ポテンシャル流れではなく粘性によって支配される境界層流れとなるた め、グルーブ内の圧力が低下を生じることなくウェブ浮上量を効果的に低減させることが できる。したがって、低張力・高速搬送下でもスリップは殆ど発生しない。なお、マイク ログルーブローラの概念および設計方法については、拙書「ウェブハンドリングの基礎理 論と応用(㈱加工技術研究会) 」に紹介してあるので参考にして欲しい。 マイクログルーブローラで、ローラの支持軸受の回転が極めて滑らかで、ベアリングト ルク(軸受抵抗)が無視できるほどに小さい場合のスリップ開始速度 Usp[m/s]は、橋本によ り SI 単位系に基づいた次式によって与えられている。 U sp 3 2 3 Sg Rq 2 T 3 12 Rq bg 0.589 R [m/s] (16-1) ここに T[N/m]はウェブ張力、η[Pa・s]は気体の粘度、Sg[m2]はグルーブ断面積、bg[m]はグ ルーブピッチ、Rq[m]はウェブとローラ間の rms 合成粗さ、R[m]はローラの半径である。式 (16-1)は実験データと極めて良い一致を示すことが検証されている。 入力データとして、ローラ直径 2R[mm],rms 合成粗さ Rq[μm],気体の粘度 η[Pa・s],グル ーブピッチ bg[mm],グルーブ断面積 Sg[μm2],ウェブ張力 T[N/m]を与えて、ウェブマスター 例題 16 により、スリップ開始速度とウェブ張力の関係を求めて、グルーブピッチをパラメ ータとしてグラフ化すると図 16-2 が得られる。問(i)の解は図 16-2 に含まれるので省略する。 同図において、各直線より上がスリップの発生する領域であり、直線より下がスリップの 発生しない領域(安全搬送領域)である。図からわかるように、グルーブのピッチ(グル ーブの間隔)を狭めていくとスリップ開始速度が大幅に上昇し、スリップの発生しない安 全搬送領域が拡大する。しかしながら、グルーブピッチが狭まると、ウェブとローラ間の 面圧が上昇するために、グルーブのエッジ部分などでスクラッチが発生しやすくなる。し たがって、グルーブのエッジ部分にスクラッチ防止の面取りなどを施す必要があるので注 意すること。 図 16-2 を、マイクログルーブを設けない通常のローラにおける同一運転条件での結果の 図 12-1 と比較すると、マイクログルーブローラのスリップ防止効果が極めて高いことがわ かる。例えばウェブ張力を約 170[N/m]としたとき、グルーブピッチが 1[mm]のマイクログ 11 ルーブローラのスリップ開始速度は、グルーブを設けないローラのそれの約 9 倍となり、 その効果が極立っていることがわかる。なお、グルーブの形状は任意であるので、加工の 容易な形状を選択するのが良いであろう。 本プログラムで入力データは任意に設定できる。 スリップの発生する領域 スリップの発生しない領域 図 16-2 グルーブピッチをパラメータとしたときの スリップ開始速度とウェブ張力の関係 12 例題 22 折れしわ発生領域のグラフ化 (i) ウェブのヤング率 Ex=Ez=4[GPa],ウェブのポアソン比 νx=νz=0.3,ウェブ厚さ 50[μm],ウェブ幅 0.3[m],ウェブスパン 0.8[m],ローラ半径 50[mm],rms 合成粗さ 0.3[μm],静摩擦係数 0.3,流体(空気)の粘度 1.822x10-5[Pa・s]とし、さらにローラに はグルーブが無い(Sg=0,bg=104 と入力せよ)としたとき、ウェブ搬送速度 Uw=0.3[m/s], 0.5[m/s],0.7[m/s],1.0[m/s]に対して折れしわ発生領域を特定し、これをグラフ化せよ。 ただし、張力の範囲を 0[N/m]から 300[N/m]とする。 (ii) 上と同一条件下で、マイクログルーブローラ(Sg=104[μm2],bg=3[mm]とせよ) を用いた場合の折れしわ発生領域を特定し、グラフ化せよ。ただし、Uw=0.5[m/s], 1.0[m/s],2.0[m/s],3.0[m/s]とする。 また、bg=2[mm],1[mm]の場合についても同様の計算を実施せよ。 【解説】 例題 20 および例題 21 によって、ウェブが折れしわを発生する臨界張力 Tcr[N/m]とトラフ を発生する臨界ミスアライメント角度 θcr[deg]をそれぞれ予測できるが、確実に折れしわが 発生するのは次の条件を満たす場合である。 θ≧θcr かつ T≧Tcr (22-1) 入力データとして、ローラ直径 2R[mm],rms 合成粗さ Rq[μm],気体の粘度 η[Pa・s],ウェ ブ厚さ tw[μm],MD 方向ヤング率 Ex [GPa],CD 方向ヤング率 Ez [GPa],MD 方向ポアソン比 νx, CD 方向ポアソン比 νz, ウェブ幅 W [m],グルーブピッチ bg [mm],グルーブ断面積 Sg [μm2], 静摩擦係数 μs,ウェブスパン a[m],ウェブ搬送速度 Uw[m/s],ウェブ張力 T[N/m]を与えて、 ウェブマスター例題 22 により、折れしわ発生領域を求めてグラフ化すると問(i)については 図 22-1 が、問(ii)については図 22-2 から図 22-4 が得られる。これらの結果から、マイクロ グルーブローラでは折れしわ発生領域が拡大することがわかる。 なお、本プログラムで入力データは任意に設定できる。 13 問(i)の解・・・グルーブを設けていない通常のローラ 折れしわ発生領域 (a)Uw=0.3[m/s] 折れしわ発生領域 (b)Uw=0.5[m/s] 14 この場合は解が収束していない。反復誤差が収束範囲を超えたと思われる。このようなことは計算上た まにあるが、実用上特に問題はない。計算条件を変えて再度試みるとよい。 (a)Uw=0.7[m/s] この場合は解が収束していない。反復誤差が収束範囲を超えたと思われる。このようなことは計算上た まにあるが、実用上特に問題はない。計算条件を変えて再度試みるとよい。 (b)Uw=1.0[m/s] 図 22-1 グルーブを設けていない通常のローラを使用した時の 折れしわ発生領域 15 問(ii)の解・・・マイクログルーブローラ グルーブピッチ bg=3[mm]の場合 折れしわ発生領域 (a)Uw=0.5[m/s] 折れしわ発生領域 (b)Uw=1.0[m/s] 16 折れしわ発生領域 (c)Uw=2.0[m/s] 折れしわ発生領域 (d)Uw=3.0[m/s] 図 22-2 グルーブピッチ bg=3[mm]のマイクログルーブローラを使用したときの 折れしわ発生領域 17 グルーブピッチ bg=2[mm]の場合 折れしわ発生領域 (a)Uw=0.5[m/s] 折れしわ発生領域 (b)Uw=1.0[m/s] 18 折れしわ発生領域 (c)Uw=2.0[m/s] 折れしわ発生領域 (d)Uw=3.0[m/s] 図 22-3 グルーブピッチ bg=2[mm]のマイクログルーブローラを使用したときの 折れしわ発生領域 19 グルーブピッチ bg=1[mm]の場合 折れしわ発生領域 (a)Uw=0.5[m/s] 折れしわ発生領域 (b)Uw=1.0[m/s] 20 折れしわ発生領域 (c)Uw=2.0[m/s] 折れしわ発生領域 (d)Uw=3.0[m/s] 図 22-4 グルーブピッチ bg=1[mm]のマイクログルーブローラを使用したときの 折れしわ発生領域 21 例題 24 マイクログルーブ無しでベアリング抵抗が無視できない場合の 安全搬送領域(折れしわもスリップも生じない領域)のグラフ化 ウェブのヤング率 Ex=Ez=4[GPa], ウェブのポアソン比 νx=νz=0.3, ウェブ厚さ 50[μm], ウェブ幅 0.3[m],ウェブスパン 0.8[m],ローラ半径 50[mm],rms 合成粗さ 0.3[μm], 流体(空気)の粘度 1.822x10-5[Pa・s],ウェブ巻き角を 60°,静摩擦係数を 0.3,単位幅 当たりのブレーキトルク(=fr)が駆動トルク(=TR)の 5%であるとして、ローラに はグルーブが無いとき(Sg=0,bg=104 と入力せよ) 、ウェブ搬送速度 Uw=0.3[m/s],0.5[m/s], 0.7[m/s],1.0[m/s]に対して、安全搬送領域を描け。ただし、張力の範囲を 0[N/m]から 300[N/m]とする。 【解説】 例題 24 は例題 23 の拡張で、マイクログルーブを設けていないローラでかつローラ支持 軸受によるベアリングトルクが無視できない場合を扱ったものである。例題 23 と同様にウ ェブの安全搬送領域は次式によって決定される。 Tsp < T < Tcr かつ θ < θcr (24-1) ただし、Tcr の値はベアリングトルクの影響を直接受けないが、Tsp はその影響を受けるこ とに注意する必要がある。 入力データとして、ローラ直径 2R[mm],rms 合成粗さ Rq[μm],気体の粘度 η[Pa・s],ウェ ブ厚さ tw[μm],MD 方向ヤング率 Ex[GPa],CD 方向ヤング率 Ez[GPa],MD 方向ポアソン比 νx, CD 方向ポアソン比 νz, ウェブ幅 W[m],グルーブピッチ bg[mm],グルーブ断面積 Sg[μm2], ウェブとローラ間の静摩擦係数 μs,ウェブスパン a[m],ウェブ搬送速度 Uw[m/s],単位幅当 たりのブレーキトルクと駆動トルクの比率 fr/TR[%],ウェブ巻き角 Θ[deg],ウェブ張力 T[N/m]を与えて、ウェブマスター例題 24 により、ウェブの安全搬送領域を求めてグラフ化 すると図 24-1 が得られる。同図よりブレーキトルクにより安全搬送領域は縮小することが わかる。したがってウェブの安全搬送領域を確保するためには、できるだけ滑らかなロー ラ支持軸受を用いるのが望ましい。 22 安全搬送領域 (a)Uw=0.3[m/s] 安全搬送領域 (b)Uw=0.5[m/s] 23 図 22-1(a)と同じ理由により収束せず。 (a)Uw=0.7[m/s] 図 22-1(a)と同じ理由により収束せず。 (b)Uw=1.0[m/s] 図 24-1 グルーブを設けないローラで ベアリングトルクが無視できない場合の 安全搬送領域 24 例題 29 修正 Hakiel モデルを用いた巻取ロール内部の応力分布のグラフ化 空気巻き込みを考慮する場合の巻取ロール内の(i)半径方向応力分布と(ii)円周方向 応力分布、(iii)ロール層間摩擦力、(iv)初期空気膜厚さ、(v)巻き取り終了後の層間空気 膜厚さを、下記に示す条件下でニップローラを用いない場合とニップローラを用いる 場合(ニップ荷重 100[N/m])について計算し、グラフ化せよ。 <ウェブパラメータ> ウェブ厚さ 50[μm],幅 0.5[m],円周方向ヤング率 5[GPa],半径方向ヤング率の公 式中の係数 C1=1000000,C2=0.5,静摩擦係数(ウェブ-ウェブ)0.3,rms 合成粗さ(ウ ェブ-ウェブ)0.1[μm],ポアソン比 0.001 <コアパラメータ> 外径 0.1[m],内径 0.08[m],コアのヤング率 200[GPa],コアのポアソン比 0.3 <ニップパラメータ> ヤング率 4[GPa],半径 0.1[m],ポアソン比 0.5 <巻取り条件> 層数 2000,巻取張力 200[N/m],巻取速度 1.0[m/s],ニップ荷重 100[N/m], テーパ率 0.2 【解説】 例題 28 で扱った Hakiel の巻取理論では、周囲の空気の巻き込みは考慮されていない。し たがって、Hakiel 理論は厳密には周囲に空気がない状態、すなわち真空状態で巻き取る場合 にのみ適用可能なモデルである。通常の巻取作業は大気中で行われるので、ロール内部に は図 29-1(a)に示すように空気が巻き込まれ、それによって内部応力状態が大きく変化する。 一般には空気を巻き込むことによってロールは軟巻状態になるので、スリップ(テレスコ ープ)が生じやすい。これを防ぐために、同図(b)に示すようなニップローラを用いて空気 の流入量を制御することが行われている。Hakiel の巻取理論では、これらの現象を考慮して いないので、現実の巻取問題に適用するためには理論の大幅な修正が必要である。例題 29 は実用上極めて価値の高い修正 Hakiel モデルを扱っている。 25 ウェブ ウェブ ウェブ 巻取ロール 巻取ロール 巻取ロール ニア ローラ ニップ ローラ 空気 押付力 駆動軸 駆動軸 駆動軸 空気 (b) ニップのある 中心駆動巻取り (a) ニップなしの 中心駆動巻取り 空気 (c) 中心駆動ニア 巻取り 図 29-1 中心駆動巻取方式 修正 Hakiel モデルで用いる巻取方程式は、例題 28 の式(28-2)と同形の次式である。ただ し、方程式は SI 単位系に基づいている。 E d 2 r d r r 3 r 1 r 0 dr Ereq dr 2 2 (29-1) ここに、σr[Pa]は半径方向応力、r[m]はロールの半径方向座標、ν はポアソン比、Eθ[Pa]は 円周方向のヤング率、Ereq[Pa]は巻込み空気の影響を含んだ半径方向ヤング率であり、一般 に SI 単位系に基づく次式によって表される。 Ereq t w0 ha 0 Erw E ra r t w0 ha 0 (29-2) ここに、tw0[m]はウェブの初期の厚さ(圧縮応力 σr を受ける前のウェブの厚さ) 、ha0[m] は初期空気膜厚さ、Erw[Pa]は空気層を含まないロールの半径方向ヤング率、Era[Pa]は空気層 のヤング率であり、 ニップロールを用いない場合の初期空気膜厚さ ha0 並びにヤング率 Erw, Era は具体的に SI 単位系に基づく次式によって与えられる。 2 ha 0 12U w 3 0.589 R Tw Erw C r Era (29-3) C2 (29-4) r pa p0 p a (29-5) ここに、s[m]は巻取過程でのロール最外層、η[Pa・s]は気体の粘度、Uw[m/s]はウェブの巻 取速度、Tw[N/m]は巻取張力、C1,C2 は実験定数、pa[Pa]は大気圧、p0[Pa]は次式で与えられ 26 る巻取過程でのロールの最外層における層間圧力である。 p0 Tw s (29-6) 以上の物理量を用いれば、 SI 単位系に基づく等価ヤング率 Ereq[Pa]は次のように表される。 ha0 Rqw Rqw ha 0 3Rqw Ereq Erw Ereq t w0 ha 0 t w0 ha 0 Era Era (29-7) ha0 3Rqw Ereq Era ただし、rms 合成粗さ Rqw は、ウェブの表面と裏面の rms 粗さ Rqw1,Rqw2 を用いて次式に より定義される。 Rqw 2 Rqw 1 1 2 Rqw2 2 (29-8) 巻取方程式(29-1)に、式(29-7)で与えられる空気層の影響を考慮した等価半径方向ヤング 率 Ereq を適用して数値解析することにより、修正 Hakiel モデルに基づく半径方向 σr を求め ることができる。さらに、このようにして得られる σr を用いて次式により円周方向応力 σθ を求めることができる。 r r d r dr (29-9) ところで、ウェブを巻き取る際に、これまで述べてきたニップローラを用いない中心駆 動巻取方程式で巻き取ると、巻込空気の影響が現れてウェブ層間に空気膜が形成され、テ レスコープなどのディフェクトが生じやすくなる。これを防ぐ最も効果的な方法は、ウェ ブの巻取口近傍で、ニップローラを利用して線荷重を加え、巻込空気量を低減させること である。ニップを有する中心駆動巻取方式は経験的に古くから用いられてきたが、その理 論モデルが提示されたのは最近のことである。 図 29-2 に示すニップローラと巻取ロール間の初期空気膜厚さ ha0 は、SI 単位系に基づく 次式で与えられる。 ha 0 U w 7.43Req E R eq eq 0.65 N E R2 eq eq 0.23 (29-10) ここに、N [N]はニップ荷重(= Lw[N],L[N/m]:ニップ線荷重)である。また、Req[m], Eeq[Pa]はそれぞれ巻取ロールとニップロールの等価半径および等価ヤング率で次のように 定義されている。 27 1 1 1 Req Rnip Rw (29-11) 2 1 nip 1 w2 1 Eeq E nip E rw r s (29-12) ただし、添字 nip および w は、それぞれニップローラおよび巻取ロールに関する量を、添 字 r は半径方向を示す。 図 29-2 ニップのある中心駆動巻取のモデル ニップローラを用いた場合には、ニップ部において摩擦力により巻取張力が増加するの で、この影響を考慮する必要がある。 以上に示した考え方の下に、例題 28 で述べたロールの最内径および最外径での半径方向 応力 σr に関する境界条件を適用して、巻取方程式を数値解析することによりロールの内部 応力状態を予測することができる。 入力データとして、まず、巻込空気を考慮するか否かを「あり」「なし」で、また、ニッ プ荷重を考慮するかを同じく「あり」「なし」で入力する。次に、ウェブパラメータ:ウェ ブ厚さ tw[μm],ウェブ幅 W[m],円周方向ヤング率 Eθ [GPa],半径方向ヤング率の公式中の 係数 C1,C2,ウェブ間の静摩擦係数 μs,ウェブ間の rms 合成粗さ Rqw[μm],ポアソン比 ν, コアパラメータ:外径 rcmax[mm],内径 rcmin[mm],コアのヤング率 Ec[GPa],コアのポアソン 比 νc,ニップパラメータ:ローラのヤング率 Enip[GPa],ローラの直径 2Rnip[mm],ポアソン 比 νnip,巻取パラメータ:巻取層の数 n,巻取張力 Tw[N/m],巻取速度 Uw[m/s],ニップ線荷 28 重 L[N/m],テーパ率を与えて、ウェブマスター例題 29 により、(i)半径方向応力分布、(ii) 円周方向応力分布、(iii)ロール層間摩擦力、(iv)初期空気膜厚さ、(v)巻取終了後の層間空気 膜厚さをそれぞれ求めてグラフ化すると、ニップロールを用いない場合については図 29-3 が、ニップロールを用いる場合には図 29-4 が得られる。 なお、本プログラムで入力データは任意に設定可能である。 ニップロールを用いない場合 (a) 半径方向応力分布 (b) 円周方向応力分布 29 (c) ロール層間摩擦力 (d) 初期空気膜厚さ (e) 巻取終了後の層間空気膜厚さ 図 29-3 ニップローラを用いない場合の内部応力状態など ニップロールを用いる場合 30 (a)半径方向応力分布 (b)円周方向応力分布 (c)ロール層間摩擦力 31 (d)初期空気膜厚さ (e)巻取終了後の層間空気膜厚さ 図 29-4 ニップローラを用いる場合の内部応力状態など C HASHIMOTO Hiromu ○ 32
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