因子と可逆層

因子と可逆層
@waheyhey
2014 年 5 月 1 日
概要
晴れて学部 3 年生になりましたが気分は全く晴れ晴れしくなく,普段の勉強不足ゆえになかなか多様体
上の因子の理論に慣れないというか,因子に関する話題に鈍いので,今度という今度はよくよく因子を理解
したいと思ってこのノートを書きました.因子の理論は古典的な代数幾何の問題から最先端の高次元代数
幾何学にまで幅広く活躍していて,なんか凄いです(小学生並みの感想).このノートの内容は主に,普段
代数幾何の基本事項の復習をする際に愛読している,Hartshorne 先生,G¨
ortz 先生や川又先生の本の内容
を,数ヶ月後の自分が読んでよく分かるようにまとめています.下書き無しに適当に考えながら書いている
ので文章はくどいでしょうし,僕は頭が悪いので間違いが沢山あるかもしれませんし,普段から注意力散漫
なので誤植も多いかと思います.悪しからず.
[2014/5/20] ある程度書いたので(お出掛けした先で自分が読むために...)公開しましたが,まだまだ書
き途中です.
目次
スキーム上の因子
2
1.1
Cartier 因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.2
Weil 因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
1.3
特に代数多様体上で成り立つ諸結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
豊富因子と線型系
8
2.1
線型系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2
様々な豊富性判定法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2.1 点と接ベクトルの分離 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2.2 Serre の消滅定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2.3 コホモロジー的交叉理論と中井 - Moishezon の判定法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
11
1
2
3
代数曲線上の因子
11
1
1 スキーム上の因子
1.1 Cartier 因子
定義 1(全商環の層) X をスキームとする.前層
U 7−→ Frac Γ(U, OX )
に付随する層 KX を OX の全商環の層という.ここで環 A に対し Frac A は,A の非冪零元全体がなす積閉
集合による A の局所化を表す.
定義 2(Cartier 因子) X をスキームとする.
×
×
(1) Div X := Γ(X, KX
/OX
) の元を Cartier 因子という.Cartier 因子の演算は加法的に書く.
×
(2) Cartier 因子 D は D ∈ Im(Γ(X, KX
) → Div X) となるとき,主 Cartier 因子(または単に主因子)で
あるという.
(3) Cartier 因子 D1 , D2 ∈ Div X は,D1 − D2 が主 Cartier 因子になるとき,線型同値であるという.
D1 , D2 が線型同値であることを D1 ∼ D2 で表す.
×
×
(4) Cartier 因子 D ∈ Div X は,D ∈ Div+ X := Γ(X, (KX
∩ OX )/OX
) となるとき,有効 Cartier 因子
(または単に有効因子)という.
X 上の Cartier 因子は局所的には次のように表示できる.すなわち X 上の Cartier 因子は,X の開被覆
∪
×
×
) の組 (Ui , fi )i で,任意の i, j に対し fi fj−1 ∈ Γ(Ui ∩ Uj , OX
X = i Ui と単元 fi ∈ Γ(Ui , KX
) となるも
のと考えられる.これに対し Cartier 因子の各性質は次のように与えられる:D, E をそれぞれ (Ui , fi )i と
(Vj , gj )j で代表される Cartier 因子とする.
×
(1) D = E となるための必要十分条件は,任意の i, j に対して fi gj−1 ∈ Γ(Ui ∩ Vj , OX
) となることである.
(2) D + E は (Ui ∩ Vj , fi gj )i,j で定義される.
(3) D が主因子であるための必要十分条件は,D が (X, f ) で代表されることである.
(4) D が有効因子であるための必要十分条件は任意の i で fi ∈ Γ(Ui , OX ) となることである.
(5) −D は (Ui , fi−1 )i で定義される.
主因子全体からなる部分群を Divprinc X で表し,剰余群
DivCl X := Div X/Divprinc X
を因子類群という.このとき完全列
×
×
1 −→ Γ(X, OX
) −→ Γ(X, KX
) −→ Div X −→ DivCl X −→ 0
を得る.
定義 3(可逆商イデアル) KX の OX 部分加群で可逆 OX 加群であるものを,OX の可逆商イデアルという.
可逆商イデアルの積を I1 I2 ⊂ KX で定める.
×
D を Cartier 因子,(Ui , fi )i を D の代表元とすると,fi fj−1 ∈ Γ(Ui ∩ Uj , OX
) より,IX (D)|Ui := fi OUi
なる可逆商イデアル IX (D) が定まる.
2
命題 4
スキーム X に対し,群の同型
}
∼ {
Div X −
→ OX の可逆商イデアル
D 7−→ IX (D)
が存在する.
証明
逆対応を作る.I ⊂ KX を可逆商イデアルとすると,可逆層であることから開被覆 X =
∪
∼
i
Ui が存在
して任意の i に対し同型 ηi : OX |Ui −
→ I|Ui が定まる.この同型に対し
ηi (Ui ) : OUi (Ui ) −→ I(Ui )
1 7−→ fi
×
とすると,fi ∈ Γ(Ui , KX
) となる.実際,fi が単元でないとすると,層化の構成からある開集合 W ⊂ Ui
が存在して f|W = g/h ∈ Frac Γ(W, OX )(g は零因子,h は非零因子)の形で書ける.このとき,ηi (W ) :
OUi (W ) → I(W ) は同型ではないので矛盾する.I に対しこれにより得られる (Ui , fi )i を対応させればよい.
注意 5
D を Cartier 因子,(Ui , fi )i を代表元とすると,D が有効 Cartier 因子となるための必要十分条件は
対応する可逆商イデアル IX (D) が OX のイデアルとなることである.このイデアル層 I(D) ⊂ OX に対応
する X の閉部分スキームを再び D で表し元の有効 Cartier 因子と同一視する.このとき,開部分スキーム
U := X \ D は X でスキーム的稠密となる.逆に,Y を X の閉部分スキームで,ある X のアフィン開被覆
{Ui }i と各開集合上での切断 fi ∈ Γ(Ui , OX ) が存在して,Ui ∩ Y = V (fi ) と書けるようなものに対し,この
(Ui , fi ) は Cartier 因子となる.
定義 6(Cartier 因子に伴う可逆層) Cartier 因子 D に伴う可逆層 OX (D) を,
OX (D) := I(D)−1
で定める.すなわち,開集合 U ⊂ X に対し切断を
Γ(U, OX (D)) := {f ∈ K(U ) | f I(D)(U ) ⊂ O(U )}
で定める.これが層になることは容易に確かめられる.
命題 7
次が成り立つ.
(i) D1 , D2 を Cartier 因子としたとき,D1 ≤ D2 となるための必要十分条件は OX (D1 ) ⊂ OX (D2 ) とな
ることである.
(ii) D を Cartier 因子とする.f ∈ Γ(X, KX ) に対し,f ∈ Γ(X, OX (D) となるための必要十分条件は
−D ≤ div(f ) となることである.
(iii) 対応 D 7→ OX (D) は群準同型を与える.すなわち,
OX (0) = OX , OX (D1 + D2 ) = OX (D1 )OX (D2 ) ≃ OX (D1 ) ⊗OX OX (D2 )
が成り立つ.
3
(i) D1 , D2 の局所方程式をそれぞれ (Ui , fi )i , (Ui , gi )i としたときに,D1 ≤ D2 となるための必要
証明
十分条件は fi gi−1 ∈ Γ(Ui , OX ) であること,および OX (Di ) の定義より従う.
(ii) 定義より直ちに従う.
(iii) これも定義から明らかである.
D を有効 Cartier 因子に対応する X の閉部分スキームとする.I(D) ≃ OX (−D) および OD ≃
注意 8
OX /I(D) より,単完全列
0 −→ OX (−D) −→ OX −→ OD −→ 0
が存在する.
命題 9
Cartier 因子 D1 , D2 が線型同値となるための必要十分条件は,伴う可逆層が同型になることである.
証明
主因子 D = (X, f ) に対し,O(D) = f −1 OX である.局所的に fi = gi /hi (g, h ∈ Γ(Ui , OX ),g, h は
零因子ではない.) と書けば,各開集合上で gi 倍する写像は局所的に O(D) と stshX の同型を定め,この写
像は貼り合って全体の同型を定める.
逆に,Cartier 因子 D に対し同型 O(D) ≃ OX が存在したとする.この同型が誘導する大域切断の同型に
おいて,1 ∈ Γ(X, OX ) に対応する元を f ∈ Γ(X, O(D)) ⊂ Γ(X, K) とすると,O(D) = f OX である.f 倍
写像は局所的な切断の同型も定めることから,局所的に f = g/h と書いたときに g は零因子ではない,すな
わち f ∈ Γ(X, K)× であることがわかる.これより D = div(−f ) である.
以上より次の完全列の存在が分かった.
0 −→ Γ(X, OX )× −→ Γ(X, K)× −→ Div X −→ Pic X
最後の射は一般には全射ではないが,次の事実がある.
命題 10
X をスキームとする.ここで,
(i) X は整スキームである,または
(ii) X は局所 Noether スキームで,スキーム的稠密なアフィン開集合 U ⊂ X を含む
とする.このとき,準同型 Div X → Pic X, D 7→ O(D) は全射である.すなわち,同型
DivCl X ≃ Pic X
が存在する.
証明
系 11 スキーム X が次の条件の一方を満たすとする.
(i) X は Noether かつ被約なスキームである.
(ii) X が Noether 環 R 上の相対次元 n の射影空間 PnR の閉部分スキームとなっている.
∼
このとき,対応 D 7→ O(D) は群の同型 DivCl (X) −
→ Pic X を与える.
4
定義 12(Cartier 因子の台) スキーム X 上の Cartier 因子 D の台を
Supp(D) := {x ∈ X | Dx ̸= 1}
で定める.
■因子の引き戻し
補題 13
φ : A → B を平坦な環準同型(すなわち B は φ による作用によって平坦 A 代数になる)とする.
このとき,φ は A の非零因子を B の非零因子にうつす.
証明
a ∈ A を非零因子とすれば,a 倍によって与えられる A 加群の準同型 a : A → A は単射である.
A ⊗A B ≃ B に注意すれば B は A 上平坦なので,φ(a) : B → B も単射である.従って φ(a) は B の非零因
子である.
命題 14
f : X → Y を平坦射とする.このとき,層の準同型 OY → f∗ OX は,全商環の層の準同型
f : KY → f∗ KX に延長できる.
♯
証明
KX は前層 U 7→ Frac Γ(U, OX ) に付随する層であること,およびアフィン開集合たちがスキームの開
基をなすことより,アフィン開集合 V = Spec A ⊂ Y に対し環準同型
φ : Γ(V, OY ) −→ Γ(f −1 (V ), OX )
が非零因子を非零因子にうつすことを確かめればよい(そうすれば局所化の普遍性より求めている準同型を
得る)
.
f −1 (V ) =
∪
i
Ui (各 i に対し Ui = Spec Bi )をアフィン開被覆とする.これにより各 i に定まる環準同型
φi : A → Bi
は仮定より平坦であるから,直前の補題により非零因子を非零因子にうつす.
非零因子 a ∈ A に対して,Γ(f −1 (V ), OX ) において φ(a) · b = 0 とする.これを開集合 Ui に制限すると,
0 = (φ(a) · b)|Ui = φi (a) · b|Ui となり,φi (a) は非零因子であるから b|Ui = 0 である.i は任意なので層の性
質から b = 0.すなわち φ(a) は非零因子である.
以上によりスキームの平坦射 f : X → Y に対し,次のように Cartier 因子の引き戻しを定めるこ
とができる.まず,この命題により f ♯ : KY → f∗ KX が定まる.環準同型は単元を単元にうつすの
で,f ♯ : KY× → (f∗ KX )× を得る.ここで開集合 V ⊂ Y に対して Γ(V, (f∗ KX )× ) = Γ(V, f∗ KX )× =
×
×
×
Γ(f −1 (V ), OX )× = Γ(f −1 (V ), OX
) = Γ(V, f∗ (KX
)) となるので,結局この準同型は f ♯ : KY× → f∗ (KX
)で
×
×
×
ある.この部分層間の準同型 OY× → f∗ (OX
) も定まるから,KY× /OY× → f∗ (KX
)/f∗ (OX
) を得る.ここで,
完全列
×
×
×
×
0 −→ OX
−→ KX
−→ KX
/OX
−→ 0
に対して,f∗ は左完全関手より
( × ×)
×
×
0 −→ f∗ (OX
) −→ f∗ (KX
) −→ f∗ KX
/OX
×
×
×
×
は完全列.よって f∗ (OX
) −→ f∗ (KX
) の余核 f∗ (KX
)/f∗ (OX
) の普遍性より
( × ×)
×
×
f∗ (KX
)/f∗ (OX
) −→ f∗ KX
/OX
5
が定まる.以上の写像を合成することで,
( × ×)
/OX
KY× /OY× −→ f∗ KX
が定まり,これによって
( × × ))
(
( ( × × ))
f ∗ : Div Y = Γ(Y, KY× /OY× ) −→ Γ Y, f∗ KX
/OX = Γ X, KX
/OX = Div X
を得る.
定義 15(引き戻し) この f ∗ : Div Y → Div X を Cartier 因子の引き戻し写像という.
系 16 f : X → Y をスキームの平坦射とする.Y の有効 Cartier 因子 Z ⊂ Y に対して,f −1 (Z) は X の有
効 Cartier 因子であり,因子として Z の引き戻し f ∗ (Z) と一致する.
証明
局所的に確かめられるので X = Spec B ,Y = Spec A,非零因子 t ∈ A に対し Z = V (t) とし
てよい.対応する環準同型を φ : A → B とするとこれは平坦射であるから φ(t) は非零因子であり,
f −1 (Z) = V (φ(t)) = f ∗ (Z) となる.
1.2 Weil 因子
定義 17(Weil 因子) X を Noether スキームとする.V ⊂ X を既約な閉部分集合とし,その生成点を ξ と
する.このとき,C の余次元は,
codimX C := dimOX,ξ
で定義される.一般の閉部分集合に関しては,各既約成分の余次元の下限にて余次元を定義する.このとき,
閉部分集合 Z の余次元が 0 になるのは,Z が X の既約成分を含んでいるとき,かつそのときに限る.
非負整数 k ≥ 0 に対して X k で,X の余次元 k の整な閉部分スキームの集合を表すことにする.自由 Abel
群 Z(X
k
)
を Z k (X) で表し,余次元 k のサイクルという.閉部分スキーム C をサイクルの元として表示する
ときは [C] と書くことにする.つまり,一般の余次元 r のサイクルの元は
∑
C
nC [C] (nC ∈ Z) の形の有限
和で表される.
余次元 1 のサイクル,Z 1 (X) の元を X 上の Weil 因子という.特に X 1 の元のことを X 上の素 Weil 因子
という.
∑
C
nC [C] で任意の C について nC ≥ 0 であるものを有効 Weil 因子という.
Noether スキーム X 上で,Cartier 因子と Weil 因子の間の関係を考える.一般に,Cartier 因子から Weil
因子を構成する方法があり,これにより準同型
cyc : Div X −→ Z 1 (X)
が定まることを以下で示す.
素な Weil 因子 C に対し,有理型関数 f ∈ Γ(U, KX ) の C に沿った位数を定義したい.ここで,U は C の
生成点を含むものとする.
例えば,X が正規スキームのときのように,C の生成点 ξ ∈ C における茎,OX,ξ が離散付置環になってい
るとしたときは,芽 fC := fξ は K := Frac(OX,ξ ) において非零元であり,位数を
ordC (f ) := vC (fC )
6
と定めることができる.
一般の場合には,OX,C := OX,ξ は次元が 1 の Noether 局所環でしかない.このときは,次の補題を用い
て f ∈ Frac(OX,C )× に対し位数を定義することができる.
補題 18
A を次元が 1 の Noether 局所環とする.f ∈ Frac(A)× を非零因子 a, b ∈ A に対し f = ab−1 と表
したとき,
ordA (f ) := lengthA (A/(a)) − lengthA (A/(b))
で定める.これは well-defined な準同型
ord : Frac(A)× −→ Z
を定め,A× ⊂ Ker(ord) となる.
証明
a ∈ A を非零因子とする.このとき,dim(A/(a)) = 0 であり,よって A/(a) は Artin 環であり長さが
有限である.b ∈ A を非零因子とすると,b 倍する加群の準同型 A/(a) → bA/(ab) は同型を与える.短完全列
0 −→ bA/(ab) −→ A/(ab) −→ A/(b) −→ 0
より lengthA A/(ab) = lengthA (A/(a)) + lengthA (A/(b)) となる.以上より ord は well-defined な群の準同
型になる.A× ⊂ Ker(ord) はここまでの議論から明らかである.
D ∈ Div (X) を局所表示 (Ui , fi ) をもつ Cartier 因子とする.素 Weil 因子 C ∈ X 1 に対して,C の生成点
を含むような i を選び,f ∈ KX,C = Frac(OX,C ) を fi の C の生成点における茎とする.この f の定義は局
所表示 (Ui , fi ) の選び方によらない.つまり,
ordC (D) := ordOX,C (f ) ∈ Z
は D と C のみによって決まる.整数 ordC (D) を D の C における消滅位数という.
C が D の台に含まれていない場合は,定義より ordC (D) = 0 である.前にみたように codimX (D) ≥ 1 で
あるから,C ∈ X 1 で C ⊂ supp(D) なる C は必然的に D の既約成分になる.X と D は Noether 空間で,
従って高々有限個の既約成分をもつから,ordC (D) ̸= 0 なる C ∈ X 1 も高々有限個である.よって,次の群
準同型,
cyc : Div X −→ Z 1 (X)
∑
ordC (D)[C]
D 7−→
C∈X 1
が定まる.
7
1.3 特に代数多様体上で成り立つ諸結果
2 豊富因子と線型系
2.1 線型系
2.2 様々な豊富性判定法
2.2.1 点と接ベクトルの分離
2.2.2 Serre の消滅定理
命題 19
A をネーター環,S = A[x0 , . . . , xr ],X = PrA = Proj S とする.このとき,H0 (X, O(−r − 1)) ≃ A
であり,かつ自然な双 1 次形式,
H0 (X, O(n)) × Hr (X, O(−n − r − 1)) → H0 (X, O(−r − 1)) ≃ A
は非退化である.
証明
F=
⊕
n∈Z
ˇ
O(n) と置く.X = PrA は分離的かつネーターなので,Cech
Cohomology を用いて計算で
きる.U = {Ui = D(xi )}i=0,...r 上のコホモロジーを用いて計算する.
O(n)(Ui0 ...ip ) = S(n)(xi0 ...xip )
だから,
F(Ui0 ...ip ) = Sxi0 ...xip
ˇ
となる.ゆえにCech
複体は,
∏
S xi →
i
である.まず,
∏
Sxi xj → · · · →
i<j

S = Ker 
∏
i
∏
Sx0 ...xck ...xr → Sxo ...xr
k
S xi →
∏

Sxi xj  = H0 (X, F) =
i<j
である.また,Hr (X, F) は,
dr−1 :
∏
⊕
H0 (X, O(n))
n∈Z
Sx0 ...xck ...xr −→ Sxo ...xr
k
mr
mr
0
0
の余核で,Sx0 ...xr を xm
たちを基底とする自由 A 加群,Imdr−1 を xm
で少なくとも
o · · · xr
0 · · · xr
一 つ mi ≥ 0 な る i が 存 在 す る よ う な も の た ち を 基 底 と す る 自 由 A 加 群 と 見 な せ ば ,Hr (X, F) =
⊕
n∈Z
Hr (X, O(n)) は {xl00 · · · xlrr | li < 0, ∀i} たちを基底とする自由 A 加群で,その次数づけは自然な
−1
次数づけに対応する.よって,特に Hr (X, O(−r − 1)) は x−1
0 · · · xr を基底とする階数 1 の自由 A 加群より,
Hr (X, O(−r − 1)) ≃ A
が成り立つ.これで主張の前半が示された.
8
次に主張の後半を示す.n < 0 のときはこれまでの計算から双方 0 であるから明らか.n ≥ 0 とのきは双一
次形式
H0 (X, O(n)) × Hr (X, O(−n − r − 1)) → H0 (X, O(−r − 1)) ≃ A
を,
m0 +l0
l0
lr
mr
0
· · · xrmr +lr
(xm
0 · · · xr , x0 · · · xr ) 7→ x0
(ただし,
∑
∑
mi = n,mi ≥ 0, li = −n − r − 1,li < 0 で,ある i について mi + li ≥ 0 のときは 0 にし
0 −1
r −1
ておく.
)とすれば,(−, x−m
· · · x−m
) たちを双対基底にもつので,非退化である.
r
0
命題 20
A をネーター環,S = A[x0 , . . . , xr ],X = PrA = Proj S とする.このとき,任意の整数 n ∈ Z と
0 < i < r に対し,Hi (X, OX (n)) = 0 となる.
証明
命題 21(Serre) X をネーター環 A 上の射影スキームで,OX (1) が A 上非常に豊富であるとする.F を X
上の連接層とする.このとき,
(i) 各 i ≤ 0 に対して Hi (X, F) は有限生成 A 加群である.
(ii) ある整数 n0 が存在して,任意の n ≤ n0 と i > 0 に対して,Hi (X, F(n)) = 0 である.
注意 22
これにより,特に X が k 上の射影代数多様体のとき,任意の連接層 F に対して Hi (X, F) は k ベ
クトル空間として有限次元である.
証明
X = PN
A の場合に帰着できる.命題 19 の証明における計算より任意の i ≥ 0 と q ∈ Z に対して
Hi (X, OX (q)) は有限生成 A 加群である.よって,OX (q) たちの有限直和に対しても成り立つ.一般の連接
層 F に対しては全射 OX (−q)⊕n F の核を K として短完全列
0 −→ K −→ OX (−q)⊕n −→ F −→ 0
のコホモロジー長完全列をとれば,i ≫ 0 に対しては Hi (X, F) = 0 であることから,コホモロジーの次数に
関する降下帰納法により主張の (i) を得る.
また,前命題の途中計算から OX (n) たち,よって OX (q) たちの有限直和に関しても (b) が成立することが
分かる.上の完全列
0 −→ K −→ OX (−q)⊕n −→ F −→ 0
に O(n) をテンソルしてコホモロジーの次数についての降下帰納法を用いることで,任意の i > 0 に対してあ
る ni > 0 が存在して n ≥ ni に対し
Hi (X, F(n)) = 0
となることが分かる.n1 , . . . , nN の最大値を,主張の n0 とすればよい.
定理 23(Serre の消滅定理 / Serre の豊富性判定法) A を Noether 環とし,X を A 上固有なスキームとす
る.このとき,X の可逆層 L に対し次が同値である.
(i) L が豊富.
(ii) 任意の X 上の連接層 F に対し,ある整数 n0 が存在して,任意の i > 0 と任意の n ≥ n0 に対し,
Hi (X, F ⊗ L) = 0 となる.
9
証明
(i) ⇒ (ii) を示す.L が豊富であるとする.このとき,ある正整数 m > 0 が存在して Lm は非常に豊
富になり,X は A 上射影的になる.前命題より,各 r = 0, . . . , m − 1 に対し,ある正整数 nr > 0 が存在し
て任意の n ≥ nr と i > 0 に対し,
Hi (X, F × Lr (n)) = 0
が成り立つ.
Hi (X, F × Lr (n)) = Hi (X, F ⊗ Lr ⊗ OX (1)n )
= Hi ((X, F ⊗ Lr ⊗ (Lm )n )
= Hi (X, F ⊗ Lr+nm ) = 0
となるから,n0 , . . . , nm−1 の中で最大のものをとれば良い.
(ii) ⇒ (i) を示す.F を連接層,p ∈ X を閉点,Ip を {p} ⊂ Y のイデアル層とする.このとき,短完全列
0 −→ Ip F −→ F −→ F ⊗ k(p) −→ 0
に対し Ln をテンソルして,
0 −→ Ip F ⊗ Ln −→ F ⊗ Ln −→ F ⊗ Ln ⊗ k(p) −→ 0
を得る.仮定より,ある n0 が存在して,任意の n ≥ n0 に対して
H1 (X, Ip F ⊗ Ln ) = 0
となる.すなわち,n ≥ n0 に対し,
0 −→ Γ(X, Ip F ⊗ Ln ) −→ Γ(X, F ⊗ Ln ) −→ Γ(X, F ⊗ Ln ⊗ k(p)) −→ 0
は完全列になる.可換図式
0
/ Γ(X, Ip F ⊗ Ln )
0
/ mp (F ⊗ Ln )p
f
/ Γ(X, F ⊗ Ln )
g
/ Γ(X, F ⊗ Ln ⊗ k(p))
ρ′
ρ
fp
/0
/ (F ⊗ Ln )p
gp
/ (F ⊗ Ln )p ⊗ OX,p /mp
/0
において,F ⊗ Ln ⊗ k(p) は p 上の摩天楼層であるから,ρ′ は同型になる.簡単な計算により,
(F ⊗ Ln )p = mp (F ⊗ Ln )p + Im(ρ)
を得る.中山の補題より,
Im(ρ) = (F ⊗ Ln )p
となる.よって,ρ は全射となり,F ⊗ Ln は p 上で大域切断で生成される.F は連接層ゆえ,n に依存した
ある p の開近傍 U が存在し,F ⊗ Ln は U 上大域切断で生成される.
F = OX とすると,ある n1 > 0 と p の開近傍 V が存在して Ln1 は大域切断で生成される.また,各
r = 0, . . . , n1 −1 に対し,F ⊗Ln0 +r は Ur 上大域切断で生成されているとする.Up = V ∩U0 ∩U1 ∩. . . Un1 −1
とおくと,任意の n ≥ n0 は n = n0 + r + mn1 と表せて,
F ⊗ Ln = (F ⊗ Ln0 +r ) ⊗ (Ln1 )m
より F ⊗ Ln は Up 上大域切断で生成される.X は準コンパクトなので有限個の閉点に対しての Up で X を
被覆できるから,ここで各 p に対する np の中で最大のものをとればよい.
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2.2.3 コホモロジー的交叉理論と中井 - Moishezon の判定法
3 代数曲線上の因子
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参考文献
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[2] U.G¨ortz, T.Wedhorn, Algebraic Geometry I, Vieweg+Teubner, 2010.
[3] R.Hartshorne, Algebraic Geometry, GTM 52, Springer.
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[5] 石井志保子, 特異点論, シュプリンガー現代数学シリーズ 8, 丸善出版.
[6] 川又雄二郎, 代数多様体論, 共立講座 21 世紀の数学 19, 共立出版.
[7] 川又雄二郎, 高次元代数多様体論.
[8] 斎藤秀司, 佐藤周友, 代数的サイクルとエタールコホモロジー, シュプリンガー現代数学シリーズ 17, 丸
善出版.
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