アレルギー性鼻炎の新しい治療法について

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アレルギー性鼻炎の新しい治療法について
アレルギー性鼻炎の舌下免疫療法の特徴と実際について教えてください。
(S生)
アレルギー性鼻炎の治療法には、大
ラセボ投与群に対して有意に低下し、スギ花粉症
きく分けて症状を軽減する対症療法と
症状の軽減が確認されました。また、安全性、忍
根本的に改善させる根治療法がありま
容性に関して特に問題は認められませんでした。
す。舌下免疫療法が含まれるアレルゲ
この結果に基づき2014年秋に保険収載となり、舌
ン特異的免疫療法は、現在アレルギー性鼻炎治療
下免疫療法講習会と e-learning を両方受講した者
における唯一の根治療法として認識されています。
が処方を行えるようになりました。
アレルゲン特異的免疫療法は単に症状の改善を
免疫療法は、アドヒアランスが非常に重要であ
図り薬剤の使用量を減らすだけではなく、効果が
り、決められたスケジュールに従って継続的に行
持続して自然経過の改善が期待できること1)、喘
う必要があります。アドヒアランスを向上させる
息など他のアレルギー疾患の発症
や新たなア
ためには、免疫療法の効果や特徴について患者を
レルゲンに対する感作を予防する可能性があるこ
十分に教育することが最も重要です。治療効果発
と が明らかになっています。
現が遅いことは、他の治療、特に薬物療法や手術
アレルゲン特異的免疫療法は長い歴史があり、
療法に比べて明らかであり、このことを患者に十
Noon が1911年に花粉抽出エキスを皮下注射する
分説明し理解させてから免疫療法を開始すること
方法(Subcutaneus allergen specific immunotherapy:
が大切です。免疫療法は通常、開始後数か月から
SCIT)として報告してから100年以上の臨床実績
半年経過して、臨床的効果が発揮されることが多
のある治療法です 。日本では1963年から抗原エ
く、1年目よりも2年目、3年目と継続すること
キスが市販されるようになり、アレルギー性鼻炎
によって効果は向上し、有効性も安定します。こ
に対して皮下免疫療法が行われるようになりまし
のような治療経過をたどることが、他の治療法と
た。有効性が確認されつつも皮下免疫療法が一般
は全く異なる点であり、治療終了後にも効果が持
的な治療にならない原因として、頻回な通院を要
続する(長期寛解)ことが、
免疫療法の特徴です。
し、注射による疼痛を伴うこと、
また稀にアナフィ
舌下免疫療法を開始するにあたっては、スギ花
ラキシーなどの重篤な副作用を生じうること、な
粉症といえども花粉の飛散期間のみではなく非飛
どの欠点がありました。これらの欠点を補うため
散期も含めての連日投与が必要となります。投与
に開発されたアレルゲン特異的免疫療法が舌下免
には高濃度なアレルゲンエキスが必要なため治療
疫療法(Sublingual immunotherapy: SLIT)です。
費も安価ではありません。さらに、長い治療期間
SLIT は皮下免疫療法に比べ、投与に際して痛み
行っても効果がみられないいわゆるnon-responder
がなく、致死的副作用の頻度が少ないことや初回
といった患者も存在し、治療効果の有無を予測す
投与以外は医師の指導の下に自宅での投与が可能
るのは今のところ困難です。医師も患者もこのよ
であること、などの特徴があります。
うな舌下免疫療法の特徴を十分に理解しないで治
SLIT は、2010年より製薬会社による臨床開発
療を開始してしまうと、治療の継続は困難となり
治験第3相が実施され、治療2シーズン目である
ます。副反応も重篤なものは少ないとはいえ皆無
2012年の報告では、有効性の主要評価項目である
ではなく、不適切な投与により発生する危険性も
「総合鼻症状スコア」が、実薬投与群においてプ
危惧されています。このため、医師がアレルギー
2)、3)
4)
5)
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性鼻炎と舌下免疫療法に対する正しい知識を持つ
処方医師だけでなく、他の医師やコメディカルを
ことが不可欠であり、処方に際しては、厚生労働
含めたスタッフの教育が重要となります。スタッ
省から教育講習会の必要性を求められ、舌下免疫
フ教育においては、舌下免疫療法の特徴、実際の
療法講習会と e-learning を両方受講した者のみが
治療法、副作用への対応を十分に理解する必要が
処方を行えるようになりました。
あります。問診や手技だけでなく、アナフィラキ
舌下免疫療法を実際に開始するにあたっては、
シー発生に早い段階で気づくよう、アレルゲン投
処方する医療機関の登録が必要であり、アナフィ
与後の厳重な観察が大切です。当院ではアナフィ
ラキシー等の発生に対して、患者の状態確認、バ
ラキシーに関しては院内マニュアルがあり、マ
イタルサインの測定、アドレナリンの筋肉内注射
ニュアルに従って対応することになっておりま
及び酸素吸入等の迅速な初期対応が可能であり、
す。口腔内の副反応を含めた軽微な副反応に関し
医療機関内で対応が困難な状態になった場合で
ては、
服用を継続するか中止するかの目安はなく、
も、緊急搬送先医療機関に協力要請が可能である
軽微な副反応への対応も明確な基準はないため、
という条件を満たす必要があります。重篤化した
それぞれの医療機関で、電話での対応の可否を含
際の対応が自施設で困難と想定される場合は、あ
めたマニュアル作成とスタッフ教育が必要である
らかじめ協力を依頼した上で、緊急搬送が可能な
と考えられます。
施設を登録する必要があります。
国際的ガイドラインにも舌下免疫療法の記載が
実際の治療に関しては、下記のステップで行っ
登場し、現在では舌下免疫療法はアレルギー治療
ていきます6)。
になくてはならないツールになっています。我が
ステップ 1 ~診断・治療提案~
国では、スギのエキスに引き続いてダニのタブ
①アレルギー性鼻炎を正しく診断する(問診、
レットによる舌下免疫療法の治験(アレルギー性
検査)
鼻炎と気管支喘息)が現在進行中であるとのこと
②アレルゲン免疫療法について説明する(提案)
です。将来、アレルギー性鼻炎に対する治療も薬
ステップ 2 ~治療説明~
物療法を主体とした対症療法に並び、免疫療法が
①治療の詳細を説明する
大きな役割を占める可能性も充分にあります。舌
②患者の意思を確認する
下免疫療法を多くの医師が適切かつ安全に施行し
ステップ 3 ~投与開始~
ていくことで、多くの患者さんがその恩恵に浴す
①患者の状態を確認する
るものと思われます。
(
②増量時の服用方法、服用上の注意を説明する
③初回投与を行い、投与後の症状を確認する
新潟大学大学院医歯学総合研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野
ステップ 4 ~用量漸増~
①アドヒアランスを確認する
奥村 仁
)
②治療継続可能か判断する
参考資料
③維持期の服用方法を説明する
1)Durham SR, Emminger W, Kapp A, et al:
ステップ 5 ~治療継続~
SQ-standardized sublingual grass immuno-
①アドヒアランスを維持する
therapy: Confirmation of disease modifi-
②治療継続を検討する
cation 2 years after 3 years of treatment in
舌下免疫療法の初回投与は医療機関内で医師の
a ran-domized trial. J Allergy Clin Immunol
監督のもと行われ、少なくとも30分間は観察する
2012; 129: 717-725.
ことが必要です。また、2回目投与以降は、皮下
2)Novembre E, Galli E, Landi F, et al: Cosea-
注射法と異なり舌下投与法は医療機関内で行われ
sonal sub-lingual immunotherapy reduces
るのではなく各家庭で施行されるため、副反応が
the development of asthma in children with
起こった時の初期対応は各個人や電話対応にゆだ
allergic rhinoconjunctivitis. J Allergy Clin
ねられることが多いと考えられます。そのため、
Immunol 2004; 114: 851-857.
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3)Marogna M, Tomassetti D, Bernasconi A, et
al: Preventive effects of sublingual immunotherapy in childhood: an open randomized
controlled study. Ann Allergy Asthma
Immunol 2008; 101: 206-211.
4)Marogna M, Spadolini I, Massolo A, et al:
Long-lasting effects of sublingual immuno-
prospective study. J Allergy Clin Immunol
2010; 126: 969-975.
5)N oon L: Prophylactic inoculation against
hay fever. Lancet 1911; 1: 1572-1574.
6)アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の実
際と対応 . 日本鼻科学会誌 2013; 52:435488.
therapy according to its duration: A 15-year
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