ベクトル解析 演習問題 11 2014 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ※レポートを提出したい人は、以下の注意点を守って提出して下さい。 (ⅰ) 必ず分かるところに学籍番号、学科、氏名を書いて下さい。 (ⅱ) A4 の紙を用いて、複数枚になる場合はホチキスや針無しステープラーで綴じて下さい。 (ⅲ) 提出期限は 次回の講義の開始前迄 とします。 問題 11-1. 以下の面積分を計算しなさい。ガウスの発散定理を用いた場合には、何処で用いたのかが分かる様 に答案に明記すること。 (1) xyz 空間内で不等式 −1 ≤ x ≤ 1, −1 ≤ y ≤ 1, −1 ≤ z ≤ 1 で定まる立方体領域V の境界面 xz 2 x ∂V を外向きの単位法ベクトル場で向き付けたときの、ベクトル場 A(x, y, z) = ye xy 2 cos z ∫ の面積分 I1 = A · dS 。 ∂V (2) 円柱面 S1 : x2 + y 2 = R2 , 0 ≤ z ≤ 1 に 2 つの円盤 S2 : x2 + y 2 ≤ R2 , z = 0 及び S3 : x2 + y 2 ≤ R2 , ∫z = 1 を貼付けて出来る閉曲面 ∫ S を、外向き単位法ベクトルで向き付けた ときの面積分 I2 = x dydz 及び面積分 I3 = (x3 z 3 dydz + 2x2 yz 3 dzdx − x2 z 4 dxdy)。 S S 【I3 の計算のヒント】 置換積分及び半角の公式 sin2 t = 1 − cos(2t) 1 + cos 2t , cos2 t = 。 2 2 問題 11-2. A : R3 → R3 を 2 階微分可能なベクトル場とし、さらにその 2 階偏導関数は連続であると仮定す る。このとき以下の設問に答えなさい。 (1) div(rot A) = 0 となることを証明しなさい。 (この性質は良く「回転は湧き出しなし」等と言われる) (2) ∫ xyz 空間内の 任意の 向き付け可能 (かつ区分的に滑らか) な閉曲面 S に対し、面積分 rot A · dS が常に 0 となることを証明しなさい。 S 1 【略解】 問題 11-1. (1) ベクトル場 A(x, y, z) の発散スカラー場を計算すると div A(x, y, z) = ∂ ∂ ∂ (xz 2 ) + (yex ) + (xy 2 cos z) = z 2 + ex − xy 2 sin z ∂x ∂y ∂z だから、ガウスの発散定理に拠り ∫ ∫∫∫ A · dS = I1 = div A(x, y, z) dxdydz (∫ x=1 ) ) ∫ 2 x 2 = (z + e − xy sin z) dx dy dz z=−1 y=−1 x=−1 ) ]x=1 ∫ z=1 (∫ y=1 [ 1 2 2 2 x dy dz = xz + e − x y sin z 2 z=−1 y=−1 x=−1 ) ∫ z=1 (∫ y=1 2 −1 = (2z + e − e ) dy dz ∂V V z=1 (∫ y=1 ∫ z=−1 z=1 [2yz + ey − e 2 = [ = y=−1 z=−1 4 3 z + 2(e − e−1 )z 3 −1 ∫ y]y=1 y=−1 dz = (4z 2 + 2(e − e−1 )) dz z=−1 ]z=1 = z=−1 z=1 8 + 4(e − e−1 ). 3 【別解】 S1 : − 1 ≤ x ≤ 1, −1 ≤ y ≤ 1, z = 1 S2 : − 1 ≤ x ≤ 1, −1 ≤ y ≤ 1, z = −1 S3 : − 1 ≤ x ≤ 1, y = 1, −1 ≤ z ≤ 1 S4 : − 1 ≤ x ≤ 1, y = −1, −1 ≤ z ≤ 1 S5 : x = 1, −1 ≤ y ≤ 1, −1 ≤ z ≤ 1 S6 : x = −1, −1 ≤ y ≤ 1, −1 ≤ z ≤ 1 とおくと、I1 = 6 ∫ ∑ i=1 A · dS となる。各 Si のパラメータ表示としては、例えば Si u S1 : r 1 (u, v) = v , 1 u S2 : r 2 (u, v) = v , −1 u S3 : r 3 (u, v) = 1 , v u S4 : r 4 (u, v) = −1 , v 1 S5 : r 5 (u, v) = u , v −1 S6 : r 6 (u, v) = u v 2 が取れる (但し各パラメータ表示においてパラメータ u, v は −1 ≤ u ≤ 1, −1 ≤ v ≤ 1 の範 囲を動くものとする)。各 r i,u (u, v) × r i,v (u, v) を計算してみると 0 r 1,u (u, v) × r 1,v (u, v) = r 2,u (u, v) × r 2,v (u, v) = 0 , 1 0 r 3,u (u, v) × r 3,v (u, v) = r 4,u (u, v) × r 4,v (u, v) = −1 , 0 1 r 5,u (u, v) × r 5,v (u, v) = r 6,u (u, v) × r 6,v (u, v) = 0 , 0 となる (各自確認せよ )。その一方で境界面 ∂V 上の外向き単位法ベクトル場は 0 S1 の上で 0 , 1 0 S4 の上で −1 , 0 0 S2 の上で 0 , −1 1 S5 の上で 0 , 0 0 S3 の上で +1 , 0 −1 S6 の上で 0 0 となることが容易に確認出来るので、結局 n と r i,u (u, v) × r i,v (u, v) が逆向きとなるのは S2 , S3 , S6 においてのみとなる。以上より各面積分は ∫ ∫ v=1 ∫ u=1 0 u · 12 veu · 0 du dv A · dS = u=−1 S1 v=−1 1 uv 2 cos 1 ( ) ]u=1 ∫ v=1 ∫ u=1 ∫ v=1 [ 1 2 2 2 = uv cos 1 du dv = dv = 0. u v cos 1 v=−1 u=−1 v=−1 2 u=−1 ∫ ∫ v=1 ∫ u=1 u · (−1)2 0 · − 0 du dv veu A · dS = S2 v=−1 u=−1 uv 2 cos(−1) 1 = 0 (S1 と同様の計算なので略), ∫ ∫ v=1 ∫ u=1 0 uv 2 1 · eu · − −1 du dv A · dS = S3 v=−1 u=−1 u12 cos v 0 ) ∫ u=1 (∫ v=1 ∫ u=1 = eu du dv = 2eu du = 2(e − e−1 ), u=−1 v=−1 u=−1 ∫ v=1 ∫ u=1 ∫ uv 2 0 (−1) · eu · −1 du dv A · dS = u=−1 v=−1 S4 u(−1)2 cos v 0 ) ∫ u=1 (∫ v=1 = eu du dv = 2(e − e−1 ), u=−1 v=−1 ∫ ∫ v=1 ∫ u=1 1 · v2 1 · 0 du dv ue A · dS = u=−1 S5 v=−1 1 · u2 cos v 0 ) ∫ u=1 (∫ v=1 = v 2 dv du u=−1 v=−1 3 ]v=1 ∫ u=1 1 3 2 4 v du = du = , 3 3 3 u=−1 u=−1 v=−1 ∫ ∫ v=1 ∫ u=1 1 (−1) · v 2 · − 0 du dv ue−1 A · dS = S6 v=−1 u=−1 (−1) · u2 cos v 0 ) ∫ u=1 (∫ v=1 4 v 2 dv du = , = 3 u=−1 v=−1 ∫ u=1 [ = と計算出来る。したがって I1 = i=6 ∫ ∑ i=1 A·r = Si 8 + 2(e − e−1 ). 3 (2) 面積分 I2 , I3 は ∫ ∫ I2 = x dydz (x3 z 3 dydz + 2x2 yz 3 dzdx − x2 z 4 dxdy) I3 = S S x3 z 3 2x2 yz 3 · dS = S −x2 z 4 ∫ x 0 · dS, = S 0 ∫ と同じものであることに注意しよう。それぞれのベクトル場の発散スカラー場を計算すると x ∂ ∂ ∂ div 0 = (x) + (0) + (0) = 1 ∂x ∂y ∂z 0 x3 z 3 ∂ 3 3 ∂ ∂ div 2x2 yz 3 = (x z ) + (2x2 yz 3 ) + (−x2 z 4 ) ∂x ∂y ∂z −x2 z 4 = 3x2 z 3 + 2x2 z 3 − 4x2 z 3 = x2 z 3 となるので、円柱の内部を V とすると、ガウスの発散定理に拠り ∫∫∫ x x 0 · dS = I2 = div 0 dxdydz S V 0 0 ∫ ∫∫∫ 1 dxdydz = (V の体積) = πR2 · 1 = πR2 , = V 4 3 3 ∫∫∫ ∫∫∫ x3 z 3 x z 2 3 2 3 2x yz 2x yz · dS = div dxdydz = x2 z 3 dxdydz I3 = S V V −x2 z 4 −x2 z 4 ∫ ∫ = (∫ x=R √ y= R2 −x2 √ y=− R2 −x2 (∫ √ 2 2 x=R y= R −x x=−R ∫ = √ y=− R2 −x2 (∫ √ 2 2 x=R y= R −x (∫ x2 z 3 dz [ x=−R ∫ = √ y=− R2 −x2 x=−R = ( ここで x = R sin t 1 2 ∫ x=R x2 ) ) z=1 dy dx z=0 ]z=1 ) 1 2 4 x z dy dx 4 z=0 ) 1 2 x dy 4 dx √ R2 − x2 dx. x=−R 1 1 − π≤t≤ π 2 2 ) と置換すると、 dx = R cos t dt, √ √ 1 1 R2 − x2 = R2 − R2 sin2 t = R cos t, x = −R のとき t = − π, x = R のとき t = π 2 2 となるので、置換積分法により 1 I3 = 2 ∫ t= π 2 1 R sin t · R cos t · R cos t dt = R4 2 t=− π 2 1 = R4 2 1 = R4 8 ∫ t= π 2 ∫ t=− π 2 t= π 2 t=− π 2 t= π 2 ∫ 2 2 1 + cos 2t 1 − cos 2t · , dt 2 2 t= π 2 cos2 t sin2 t dt t=− π 2 (半角の公式) (1 − cos2 2t) dt ( ) 1 + cos 4t 1− dt (半角の公式) 2 t=− π 2 [ ]t= π2 1 4 1 1 1 = R t − t − sin 4t = πR4 . 8 2 8 16 t=− π 1 = R4 8 ∫ 2 ※ 最後の三角関数の積分は、 1 I3 = R 4 2 = ∫ t= π 2 t=− π 2 1 cos t sin t dt = R4 2 2 2 ∫ π 1 4 t= 2 R (cos2 t − cos4 t) dt π 2 t=− (∫ π2 ∫ π =R 4 t= 2 t= 2 cos t dt − 2 t=0 ∫ t= π 2 t=− π 2 cos2 t(1 − cos2 t) dt ) 4 cos t dt t=0 と式変形をしておいて、ウォリスの公式 Wallis’ formula ∫ t= π 2 cos2n t dt = t=0 5 (2n − 1)!! π (2n)!! 2 を用いて ( I3 = R 4 1 π 3 1 π · − · · 2 2 4 2 2 ) = 1 πR4 16 と求めることも出来ます。 【別解】 曲面 S1 , S2 , S3 のパラメータ表示として例えば R cos θ S1 : r 1 (u, θ) = R sin θ (0 ≤ u ≤ 1, 0 ≤ θ ≤ 2π), u u cos θ S2 : r 2 (u, θ) = u sin θ (0 ≤ u ≤ R, 0 ≤ θ ≤ 2π), 0 u cos θ S2 : r 2 (u, θ) = u sin θ (0 ≤ u ≤ R, 0 ≤ θ ≤ 2π) 1 が取れる。それぞれ r i,u (u, θ) × r i,θ (u, θ) を計算してみると −R cos θ r 1,u (u, θ) × r 1,θ (u, θ) = −R sin θ , 0 0 r 2,u (u, θ) × r 2,θ (u, θ) = r 3,u (u, θ) × r 3,θ (u, θ) = 0 u となる (各自確認せよ)。一方で S を向き付ける単位法ベクトル場は 外向き であるため、結 局 S1 と S2 の上で n と r i,u × r i,θが逆向きとなることが分かる。以上のことを鑑みて各面 x 積分を計算する。先ずはベクトル場 0 について 0 ∫ ∫ u=1 ∫ θ=2π R cos θ x −R cos θ 0 · dS = 0 · − −R sin θ dθ du S1 u=0 θ=0 0 0 0 ∫ u=1 (∫ ) θ=2π R2 cos2 θ dθ = u=0 du θ=0 (∫ ) 1 + cos 2θ = R2 dθ du (半角の公式) 2 u=0 θ=0 ]θ=2π ∫ u=1 [ ∫ u=1 1 1 2 2 =R π du θ + sin 2θ du = R 2 4 u=0 u=0 θ=0 ∫ u=1 θ=2π u=1 = R2 [πu]u=0 = πR2 , ∫ ∫ u=R ∫ θ=2π u cos θ x 0 0 · dS = 0 · − 0 dθ du = 0, θ=0 S2 u=0 0 0 u 6 ∫ u=R ∫ θ=2π u cos θ x 0 0 · 0 dθ du = 0 0 · dS = S3 u=0 θ=0 0 u 0 x3 z 3 ∫ ∫ 2 3 x dydz = πR2 となる。続いてベクトル場 ゆえ結局 x dydz = 2x yz について、 S S1 −x2 z 4 3 3 ∫ x z 2x2 yz 3 · dS S1 −x2 z 4 ∫ ∫ u=1 = u=0 ∫ u=1 (∫ (R cos θ)3 u3 −R cos θ 2(R cos θ)2 (R sin θ)u3 · − −R sin θ dθ du −(R cos θ)2 u4 0 ) ∫ θ=2π θ=0 θ=2π (R4 u3 cos4 θ + 2R4 u3 cos2 θ sin2 θ) dθ = ∫ u=0 ∫ u=1 θ=2π cos2 θ(cos2 θ + 2 sin2 θ) dθdu 4 3 = R u u=0 ∫ u=1 θ=0 ∫ θ=2π cos2 θ(1 + sin2 θ) dθdu R4 u3 = du θ=0 u=0 ∫ u=1 (cos2 θ + sin2 θ = 1 より) θ=0 ∫ θ=2π ( ) 1 + cos 2θ 1 − cos 2θ = R u 1+ dθdu (半角の公式) 2 2 u=0 θ=0 ) ∫ u=1 ∫ θ=2π ( 3 1 1 4 3 2 = R u + cos 2θ − cos 2θ dθdu 4 2 4 u=0 θ=0 ) ∫ u=1 ∫ θ=2π ( 3 1 1 1 + cos 4θ 4 3 = R u + cos 2θ − · dθdu (半角の公式) 4 2 4 2 u=0 θ=0 [ ]θ=2π ∫ u=1 1 1 1 4 3 3 = R u θ + sin 2θ − θ − sin 4θ du 4 4 8 32 u=0 θ=0 [ ]u=1 ∫ u=1 5 4 3 5 5 = πR u du = πR4 u4 = πR4 , 4 16 16 u=0 u=0 3 3 ∫ x z 2x2 yz 3 · dS S2 −x2 z 4 4 3 ∫ u=R = ∫ u=0 ∫ θ=2π θ=0 0 (u cos θ)3 03 2(u cos θ)2 (u sin θ)03 · − 0 dθ du = 0, −(u cos θ)2 04 u x3 z 3 2x2 yz 3 · dS S3 −x2 z 4 ∫ u=R = u=0 ∫ ∫ u=R (∫ θ=2π θ=0 θ=2π (u cos θ)3 13 0 2(u cos θ)2 (u sin θ)13 · 0 dθ du −(u cos θ)2 14 u ) −u3 cos2 θ dθ = u=0 du θ=0 7 ∫ ∫ u=R θ=2π 1 + cos 2θ dθdu (半角の公式) 2 u=0 θ=0 [ ]θ=2π ∫ u=R 1 3 1 = −u θ + sin 2θ du 2 4 u=0 θ=0 [ ]u=R ∫ u=R 1 4 1 3 = −πu du = −π u = − πR4 4 4 u=0 u=0 = −u3 となるから、結局 ∫ (x3 z 3 dydz + 2x2 yz 3 dzdx − x2 z 4 dxdy) S = 3 ∫ ∑ i=1 = (x3 z 3 dydz + 2x2 yz 3 dzdx − x2 z 4 dxdy) Si 5 1 1 πR4 − πR4 = πR4 16 4 16 と求まる。 【解説】 ガウスの発散定理を用いた閉曲面の面積分の計算問題。ガウスの発散定理 ∫ ∫ A · dS = ∂V div A dxdydz V より (向き付け可能な) 閉曲面上のベクトル場の面積分は、ベクトル場の発散スカラー場 div A の三 重積分 として計算出来ますが、ベクトル場の微分演算の回でも見た様に元のベクトル場が多少複雑 な形をしていても 発散スカラー場は簡単な関数になる場合が多い ので、閉曲面上でのベクトル場の 面積分の計算に於いては ガウスの発散定理は非常に強力な道具となります。勿論閉曲面 S をパラ メータ表示して面積分しても全く同じ値が得られる筈ですので、今回も (グリーンの定理のときと同 様に) 面積分を直接計算した【別解】 を用意しましたが、比較してみればガウスの積分定理を用いる と飛躍的に計算量が減ることが実感出来るでしょう。ガウスの発散定理を用いる際の最大の注意点は 三重積分を行う領域 V を正確に把握して、積分範囲を正確に求めること にあります。 (1) はガウスの発散定理の最も簡単な適用例である y 立方体領域 の境界面上での面積分についての問題で す。この場合は V が非常にシンプルな形をしています ので、div A を x, y, z それぞれの変数について −1 か √ − R2 − x2 x2 + y 2 = R 2 ら 1 まで積分すれば簡単に積分出来ます (0 から 1 ま で積分している人もいましたが、問題文を良く読みま しょう)。 O (2) は 円柱領域 V : x2 + y 2 ≤ R2 , 0 ≤ z ≤ 1 の 境界面上での面積分についての問題です。この問題に 関しては、面積分を直接計算しようとしている人が多 かったですが、おそらく円柱領域での三重積分のやり 8 x 《底面》 √ R 2 − x2 x 方がよく分からなかったことが要因だと思います*1 。条件から変数 z がとりうる値は 0 ≤ z ≤ 1 の 範囲であることは簡単に分かりますので、変数 z に関しては単に 0 から 1 まで積分するだけです。 問題は 変数 x, y に関する積分 ですが、重積分の計算のポイントは 先ず 一方の変数を固定して もう片方の変数を動かし、引き続いて固定していた変数を動 かす ことでした。今回の「円 x2 + y 2 ≤ R2 」の場合には、例えば先ず 変数 x を (−R ≤ x ≤ R の範囲 で ) 固定すると、円周の方程式が x2 + y 2 = R2 であることも考慮すると √ 変数 y は − R2 − x2 ≤ y ≤ √ R2 − x2 の範囲を動く ことが分かります (図も参照して下さい)。したがって、例えば I2 の計算では ∫ ∫∫∫ x=R (∫ 1 dxdydz = I2 = V ∫ x=R = ∫ x=−R x=R = (∫ x=−R √ y= R2 −x2 √ y=− R2 −x2 ) 1 dy √ y= R2 −x2 √ y=− R2 −x2 (∫ ) ) z=1 1 dz dy dx z=0 dx √ 2 R2 − x2 dx x=−R ( ) 1 1 と計算出来、最後の積分は x = R sin t − π ≤ t ≤ とでも置換して置換積分を実行すれば 2 2 πR2 と求まります (各自確認しなさい)。I3 の計算についても同様です。重積分や三重積分を実行す るに当たって最も気をつけるべきは 積分範囲のチェック です。(2) の問題に手がつかなかった人は、 もう一度良く復習して三重積分を行う際の積分範囲の確認方法に慣れて行きましょう*2 。 問題 11-2. (1) 回転ベクトル場及び発散スカラー場の定義より、 div(rot A) = ∇ · (∇ × A) ∂ A1 (x, y, z) ∂ = ∇ · ∂y × A2 (x, y, z) A3 (x, y, z) ∂ ∂x ∂z A3,y (x, y, z) − A2,z (x, y, z) ∂ = ∂y · A1,z (x, y, z) − A3,x (x, y, z) A (x, y, z) − A (x, y, z) ∂ ∂x ∂ ∂z 2,x *1 1,y 面積分を実行している人でも、S1 上の面積分だけを計算している人が殆どでした。問題文を良く読めば、S2 , S3 上で の面積分も計算しなければならないことは分かると思うのですが……… *2 本来この様な円柱形の図形を考察する際には円柱座標 に座標変換して計算する方がやり易いのですが、本講義では複 雑になりすぎるのを避けるために座標変換に関しては一切触れていません。色々な座標変換 (極座標、円柱座標、……) に興味がある方は、例えば東京大学出版社の小林・高橋の本などを参照してみて下さい。 9 = (A3,yx (x, y, z) − A2,zx (x, y, z)) + (A1,zy (x, y, z) − A3,xy (x, y, z)) + (A2,xz (x, y, z) − A1,yz (x, y, z)) = 0. ※ 2 階導関数が全て連続なので、A3,yx = A3,xy 等が成り立つことに注意しよう。 (2) 向き付け可能な閉曲面 S で囲まれる領域を V とおくと、ガウスの発散定理に拠り ∫ ∫∫∫ rot A · dS = ± div(rot A) dxdydz S V であるが、右辺の被積分関数 div(rot A) は (1) より 0 であるので、右辺の積分の値も 0 と なる。 ※ 細かいことを言えば、右辺の積分の ± は、S の向きを定める単位法ベクトル場 n が V に 関して外向きのときに +, 内向きのときに − となります。 【解説】 ガウスの発散定理を用いた簡単な論述問題。かなり誘導を丁寧に付けたので、正解に辿り着 けていた人も多かったです。頼もしい限りです。 次回のストークスの定理の解説の際にも述べますが、ここで 0 となることを示した面積分 ∫ rot A · dS S は 各点の周りでの、法線方向を回転軸とした微小な渦の閉曲面 S 全体での総和 を意味しており、こ の面積分が 0 となることは 全ての微小な渦が隣り合うもの同士キャンセルしあって、全体としては渦を巻かない ことを表しています。このように表現すると、この積分が 0 となることは割合納得し易いのではな いでしょうか? この事実を、境界を持つ曲面 の場合に拡張したものが次回扱うストークスの定理と なっています。 ∫ rot A · dS が閉曲面 S に対しては 0 となるという結 このように、「物理的な意味」を考えると S 果は大変興味深いものですが、証明自体はガウスの発散定理さえ知っていれば (1) で証明した div (rot A) = 0 という簡単な関係式*3 から容易に導かれてしまいます。このように、ベクトル解析の積分定理は或る 種の「物理的直観に基づく結果」を数学的に証明する際にも非常に重要な役割を演じるのです。 *3 この関係式は実は微分形式の言葉では「外微分を 2 回行うと 0 になる」という非常に簡単な形で表されることを、微分 形式の回に扱います。 10
© Copyright 2025 ExpyDoc