専門家活動報告 (1) 派遣期間:平成 23 (2) 活動内容、成果: 年 3 月~平成 25 年 12 月 ●ベトナム国の観光開発戦略及びマスタープランの実施促進のための協力 ①農村観光開発にかかるパイロット事業の実施 ベトナム国では、2030 年を目標とした 2020 年までの国家観光開発戦略(No:2473/QD-TT)及びマスター プラン(No:201/QD-TTg)を策定。中央省庁及び地方省観光行政がこの実施に取り組んでいる。同戦略では、 地方部・農村地域への観光を通じた社会経済開発が重要視されており、これは我が国の対ベトナム国への 国別援助方針とも重なる内容である。他方で、中央政府及び地方省観光行政では、これまで農村地域を観 光地として開発した経験が浅いため、計画策定や実施過程での助言が求められた。そのため、観光開発専 門家の活動として、ベトナム国文化スポーツ観光省観光総局、観光開発研究所、地方省文化スポーツ観光 局等と協力して、農村観光開発のパイロット地域を5つ選定し、実務を通じて戦略及びマスタープランの 実施に協力した(表-1) 。なお、表-1 の備考のとおり、パイロット事業地の実施においては、草の根技術 協力やボランティア事業とも協力した。 ②「農村観光開発のための実践的ガイドブック」の作成 パイロット事業は、各事業地において成果が生まれ、観光客訪問が開始、住民への利益配分等が行われ るようになってきた。パイロット事業では、それぞれの地域の状況や観光資源の特質に合わせて様々な取 り組みや投入を行った。 これらの農村地域での開発手法を全国的に普及することを目的として、観光総局、観光開発研究所とと もに「農村観光開発のための実践的ガイドブック」を作成した。同ガイドブックは、農村観光の概念及び 6 つのステップの開発手法の解説、各地での開発の参考となるようにベトナムでの実践例の紹介、また今 後の農村観光開発の対象地の概要、関連機関に求められる役割や今後に向けた提言を含めている。 表-1:パイロット事業の対象地 No 1 名称 パイロット事業の概要 備考 タイ郡ドンラ ・文化遺産及び他業種(地場産業等)の観 ム村 2 3 4 ヘリテージツーリズムに よる持続的な地域振興プロジェクト」実施 ・ボランティア派遣(建築、村落開発普及員) ハノイ市ソン ・伝統的な集落の価値を活かした観光開発 ・草の根技術協力「 ズオン省 ニンザン郡ホ ンフォン村 ハイ 商品づくりの導入 ・無形文化財(水上人形劇)の価値を高め 光 る観光開発 衛 レ 設 ・農村観光地開発にかかる 生トイ の 置のモデル事業 トゥアティエ ・地場産業(伝統窯業)をもつ村の観光開 ンフエ省フォ 発 ンディエン郡 ・観光による雇用促進や過疎化への対応等 フクティック ・観光情報センターや衛生トイレ設置に係 村 るモデル事業 トゥアティエ ・行政、コミュニティ、旅行会社による観 ンフエ省フォ 光開発 ントゥイ郡タ ・一般的な農村での観光管理委員会の役割 イントアン や住民への利益配分等を 検証するモデ ル事業 ヘリテージツーリズムに よる持続的な地域振興プロジェクト」実施 ・ボランティア派遣(村落開発普及員) ・草の根技術協力「 員 ・ボランティア派遣(村落開発普及 ) 5 ティ エンザン ・メコンデルタの自然環境を活かした観光 カイベイ郡 ドンホアヒエ 省 開発 ップ村 ●観光分 修 フ 整 ・観光イン ラの 備による観光動 証 線拡大 ヘリテージツーリズムに よる持続的な地域振興プロジェクト」実施 ・草の根技術協力「 の実 事業 野人材育成にかかる調査・研修実施 ①研 事業 大学等の観光学の歴史も浅く、十分な知見を持つ人材が少ないため、研修による能力強化 が求められた。既存の JICA の研修プログラムの活用、また新規研修を立案し、観光行政職員の能力強化に 努めた。新規研修としては、2011 年 7 月に JICA ベトナム事務所が実施した国別研修「沖縄における産業 振興」(官僚クラス対象)に同行し、その結果を踏まえて、国別研修「ベトナム国 熱帯・亜熱帯における エコツーリズム企画・運営」を形成した。中央・地方観光行政が、6 名(2012 年)、8 名(2013 年)参加し、 沖縄でのエコツーリズムのノウハウやアイデアを学んだ。なお、同研修の一部の講義を担当し、ベトナム ベトナムでは での観光協力の概要や農村部での観光開発の方法について解説した。 既存の研修では、集団研修「自然・文化資源の持続可能な利用(エコツーリズム)」、「観光振 興とマーケティング」、「歴史都市の保全・防災と文化観光への活用」、地域別研修「メコン地域観光振興」 等への人選及び、研修中の報告会でのコメントや、帰国研修員へのフォローを行った。 ②観光地調査を通じた調査能力向上 ベトナムでは研究機関においても実務経験が不足していた。研究機関への実地調査の機会提供として、 観光開発研究所に、キエンザン省フーコック島の観光開発計画づくりのための委託調査を実施した。フー コック島は、2007 年に 2020 年までの観光開発マスタープランが策定されたが、その後国際空港の整備等 で急速な変化が起こり、現行のマスタープランでは対応ができなくなり、情報取集をし、新たな計画づく りを検討する必要が生じていた。 ●観光セクターの援助調整 ①他ドナーとの援助協調 ベトナムの観光セクターでは、2000 年以降に援助機関の協力が開始された。しかしながら、援助機関や NGO によるこれまでの協力の業績等が整理されておらず、今後の方針を検討するのに困難があり、また援 助効果の効果的な発現にも課題があった。そこで、観光総局国際協力部と協力し、2001 年~2011 年に実施 された援助機関や NGO による観光分野及び観光関連分野の実施済みプロジェクトの概要整理、成果や教訓、 今後の課題点の抽出等の作業を行った。調査結果は、観光総局国際協力部より関連援助機関に発信され、 今後観光セクターのドナー会合でも共有される予定である。 また、 「 (1)①農村観光開発にかかるパイロット事業の実施」のパイロット事業の実施においては、SNV (オランダ開発機構)が農村での住民向けの観光技術向上にかかる研修教材とカリキュラムを作成してい たため、JICA のパイロット事業において SNV による研修を実施し、ドナー間の成果を共有した援助成果発 現に努めた。 ②JICA スキーム間の援助効果発現にかかる協力 ベトナムの観光セクターでは、観光分野に関連する投入として、ボランティア派遣(ハノイ市ドンラム 村管理事務所(建築、村落開発普及員) 、トゥアティエンフエ省文化スポーツ観光局(村落開発普及員) 、 クアンナム省ホイアン市関連部局(建築(派遣終了) 、観光(派遣終了)、環境教育等)) 、草の根技術協力 (ヘリテージツーリズムによる持続的な地域振興プロジェクト) 、技術協力(ハロン湾環境保全プロジェク ト、ビズップヌイバ国立公園管理能力強化計画)等がある。 この他、 ボランティア及び草の根技術協力については、 「 (1)①農村観光開発にかかるパイロット事業の実施」 示 直接的な関わりが強かったため、連絡調整を行いながら事業を実施した。技術協力 については、JCC や報告会等へ参加し、観光分野にかかる助言等を行った。 新規案件形成として、ボランティアでは、パイロット事業のフォローとしての後任要請(ティエンザン 省文化スポーツ観光局)や、観光地形成への期待が高いニンビン省等への案件形成に助言を行った。また 観光地での環境管理として、JICA が 1997 年から協力し、観光地としての発展が著しい世界遺産ホイアン での環境管理(下水処理案件)にかかる案件形成に協力した。 ●日本旅行市場へのベトナム観光の促進 ベトナムを訪問する外国人観光客は、2012 年に 600 万人を超え、日本人観光客は、中国、韓国に次ぐ第 3 位(58 万人)であった。ベトナム観光総局では、2013 年の日越友好年を契機に、日本人観光客の誘致に 力を入れ、2015 年までの 100 万人誘致を目標とした。この目標を達成するために、観光総局と共に日本へ のプロモーション活動を行った。具体的には、JATA(日本旅行業協会)との協力による日系旅行会社を対 象にしたセミナー開催、北部ベトナム(ハノイ、ハロン湾、ニンビン省)への日系旅行会社を対象とした FAM ツアー実施、JATA 旅博への出展、日本語の旅行ガイドブック作成等である。また、「(1)①農村観光 開発にかかるパイロット事業の実施」で紹介した農村観光地は、日系旅行会社と協力し、日本旅行市場向 けに新たなベトナムの観光商品として販売が開始されるようになった。 で した事業について ●その他 主催する観光に関連する会議に多数出席し、プレゼンテーションを行い、 JICA 事業の広報に努めるとともに、JICA の観光分野で実施する知識や経験を共有した。またベトナム観光 雑誌や関連誌への寄稿、テレビの取材、新聞取材等に対応し、援助の取り組みがより広く一般にも浸透す るように努めた。なお、テレビや新聞等での観光開発の取り組みを紹介することは、農村部等への観光誘 致にも繋がり、相乗効果があった。 ●成果達成状況(具体的に解決できた問題点とその結果があればそれを含む) ①成果1:観光を通じた地域開発にかかる観光行政機関の能力強化 ベトナムでは観光開発戦略及びマスタープランが策定されていたが、戦略での目標設定と実際の観光行 政機関の実施能力には乖離があった。農村観光開発のパイロット事業の実施を通じて、観光総局、観光開発 研究所、地方省文化スポーツ観光局の計画策定や実施にかかる経験が蓄積され、実践を通じて実施能力が 向上された。パイロット事業の対象地では、地方省文化スポーツ観光局を中心に継続的に観光開発の取り組 みが実施される体制となった。また、経験や手法を全国各地に展開するための「ベトナム農村観光開発のた めのガイドブック」を観光総局、観光開発研究所と協働で作成し、今後観光総局の公式文書として活用されて いく見込みである。また、観光総局、観光開発研究所において、農村観光開発を推奨していくためのプログラ ムの立案も検討されている。 ②成果2:観光セクターに係る横断的な関係機関の連携強化、援助協調の促進 地方部・農村地域の観光開発は、文化スポーツ観光省関連のみだけではなく、農業農村開発省や商工省 等の複数の省庁をまたがる課題であり、また他ドナーとの援助協調も不可欠である。業務を通じて、文化スポ ーツ観光省と農業農村開発省等の関連部局での対話が開始され、各種セミナーやワークショプにおいて、複 数省跨る議論が行われる等の体制になってきている。ドナー間では情報共有が進み、連携が促進される状況 となってきている。 ベトナム観光総局や地方省が 3 ( ) 成果 品 No 名称 概要 1 ベトナム農村観光開発のためのガ ベトナムでの農村観光の開発手法を解説する 最終成果品 イドブック 品 ガイドブック パイロット事業成果 2 ドンラム村観光マップ ハノイ市ドンラム村の伝統家 屋や地場産業等 の観光資源を紹介するマップ 3 4 タイントアン観光マップ フクティック村紹介冊子 5 フクティック村観光マップ 6 カイベイ観光マップ タイントアンの 歴史や地場産業等の観光資源 を紹介するマップ フクティック村の観光の魅力を紹介する冊子 (草の根技協「ヘリテージツーリズムによる持 続的な地域振興プロジェ クト」と連携して作 成) フクティック村の観光客向けのマップ (草の根技協「ヘリテージツーリズムによる持 続的な地域振興プロジェ クト」と連携して作 成) カイベイの観光客向けのマップ (草の根技協「ヘリテージツーリズムによる持続 的な地域振興プロジェクト」と連携して作成)
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