超急性期脳梗塞の 画像診断支援に関する研究 群馬県立県民健康科学大学 診療放射線学部 長島宏幸 1 本日の内容 超急性期脳梗塞を画像診断する医師の支援のために 脳CT画像における超急性期脳梗塞識別 のためのウィンドウ幅の検討 脳CT画像における超急性期脳梗塞検出 のためのコンピュータ支援診断システム 超急性期脳梗塞を対象とした脳MR画像 における表示条件自動調節システム 2 脳CT画像における 超急性期脳梗塞識別のための ウィンドウ幅の検討 3 公表論文誌 長島宏幸,岩崎隆史,須永眞一,後閑隆之,藤井雅典,佐藤 慶,根岸 徹, 白石明久,小倉敏裕,土井邦雄:脳CT画像における低コントラスト検出能の定 量的評価:超急性期脳梗塞の識別に対するウィンドウ幅の影響に関する検討, 日本放射線技術学会雑誌,第67巻,第11号,1408-1414,(2011) (平成24年度日本放射線技術学会瀬木賞[最優秀論文賞]受賞) 4 背 景 CT検査の特徴 ・ 装置の普及 超急性期脳梗塞 ・ 稼働体制 の画像診断として ・ 検査時間が短いなど 第一に選択される CT検査の目的 ・ 脳内出血や脳腫瘍などの除外診断 ・ 早期虚血変化(early CT signとhyperdense MCA sign)の存在診断・範囲判定 5 背 景 CT検査の問題点 早期虚血変化は,脳実質部に低吸収域 として出現する非常に淡い陰影である. ・ 視覚的に識別しにくい. ・ 観察者間で認識に差が生じる. 6 背 景 脳CT画像の表示条件(WW) MELT Japan※では,WWを80 HU以下に するよう推奨している. Lev(レフ)らは,WWを1~30 HUまで変化 させて観察することで,読影精度が向上 したと報告している. ※ MELT Japan(MCA embolism local fibrinolytic intervention trial japan) 超急性期脳梗塞に対する局所線溶療法の効果に関する臨床研究 7 背 景 Levらの報告 シングルスライスCT装置で撮影された画像を 利用した結果である. 観察者実験における症例数や観察者数が 少ない. Lev MH, Farkas J, Gemmete JJ, Hossain ST, Hunter GJ, Koroshetz WJ, Gonzalez RG, “Acute stroke: improved nonenhanced CT detection – benefits of soft-copy interpretation by using variable window width and center level settings,” Radiology, vol.213, no.1, pp.150-155, 1999. 8 目 的 撮影線量を変化させたデジタルファントム 画像を作成して,WWの変化が低コントラスト 検出能に与える影響を定量的に評価した. 超急性期脳梗塞CT画像を用いた観察者 実験を実施して,WWの違いにおける読影 精度について検討した. 9 臨床画像を用いた実験 10 方 法 使用装置および画像データベース CT装置 : LightSpeed 16 (GE横河メディカルシステム社製) 臨床画像 :超急性期脳梗塞症例 30例※ 正常症例 30例 責任血管はすべて中大脳動脈(MCA)である. ・MCA領域全体に広がった症例が8例 ・MCA領域の一部に限局した症例が22例 11 方 法 撮影条件 管電圧 : 120 kV 管電流 : 200 mA 回転時間 : 2.0 s/rot 再構成スライス厚 : 5 mm (2.5 mm×8 DAS) 再構成関数 : Standard スキャンモード : コンベンショナル 12 方法(観察者実験) 画像評価(ROC解析) 1) WWを80 HUに設定して観察 2) WWを20 HUに設定して観察 3) WWを80と20 HUに設定した画像 を並べて観察 ・観察者 ・評価方法 ・観察環境 : 10名 : 連続確信度 : 暗室下 13 結 果 平均ROC曲線 14 結 果 観察方法 平均AUC 平均AUC の標準偏差 WW:80 HU 0.616 0.154 ※ WW:20 HU 0.677 WW:80 HU +20 HU 0.720 ※ 0.058 0.127 ※:p <.05 15 症 例 WW:80 HU WW:20 HU 16 症 例 WW:80 HU WW:20 HU 17 まとめ WWを20 HUに設定することで,観察者間 の読影能力の変動を低減できることが示唆 された. WWを80と20 HUに設定した画像を並べて 観察することで,早期虚血変化の更なる 読影精度の向上が図れることがわかった. 18 脳CT画像における 超急性期脳梗塞検出のための コンピュータ支援診断システム 19 背 景 画像データの解析結果を第2の意見として 医師が画像診断へ積極的に利用する,コン ピュータ支援診断(CAD)システムは,ディ ジタル画像の特徴を最大限に利用した技術 として開発が期待されている. 20 背 景 コンピュータ支援診断 (Computer-Aided Diagnosis:CAD)とは・・・ CAD とは,医用画像に対して,コンピュータで 定量的に解析された結果を「第2の意見」として 利用する「医師による診断」である. 最終診断は必ず医師が行うものであり,医師 をコンピュータによって置き換えようとする,自動 診断とはまったく異なる概念である点に注意が 必要である. 21 背 景 CADシステムの一般的役割は,主に 病巣部の見落としの減少,診断結果の ばらつきの減少,医師の負担軽減である. CADシステムの開発に関する研究は, 様々なモダリティや対象部位・疾病に 対して施行されている. 22 目 的 コンピュータにより脳梗塞の陰影を検出し, その情報を医師に提供することで注意を 喚起できるのではないかと考えた. 画像上の脳梗塞を見つけ出し,CT画像を 観察する医師を支援するためのコンピュータ システムを開発した. 23 方 法 検出アルゴリズム(対側性差分画像処理技術) 対側性差分画像処理技術は,左右反転させた 画像と元の画像との差を求めることで,片側だけ に存在する異常陰影を検出する技術である. 医師は,脳CT画像を観察する際に左右対称性 を確認しながら診断することから,この技術を 適用した. 24 提案手法 各症例のうち画像所見の最も顕著な1スライス像 から脳梗塞領域を自動検出する手法 上・下側のスライス像を利用する特徴量解析を 採用した手法 体位の傾きによって出現する偽陽性候補を除去 するため,等方性CT体積データを用いた3次元的 な回転補正をアルゴリズムに加えた手法 25 公表論文誌 Hiroyuki Nagashima, Tetsumi Harakawa:Computer-Aided Diagnostic Scheme for Detection of Acute Cerebral Infarctions on Brain CT Images. Journal of Signal Processing, vol.12, no.1, 73-80,(2008). 長島宏幸,原川哲美:コントララテラル差分技術を用いたコンピュータ支援診 断システム-脳CT画像における急性期脳梗塞検出への応用-, 電気学会論文誌C,第128巻,第11号,1687-1695,(2008). 長島宏幸,原川哲美,白石順二,土井邦雄,白石明久,須永眞一:脳CT画像 における急性期脳梗塞のコンピュータによる検出, MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY,第27巻,第1号,30-38,(2009). 26 方 法 画像データベース 学習用症例: 100症例 (異常症例60例と正常症例40例) テスト用症例: 60症例 (異常症例35例と正常症例25例) ※ 異常症例の包含基準は, - 発症後6時間以内に撮影された - MRI拡散強調画像で確定診断された 27 方 法 オリジナルCT体積データ 回転・移動補正後のCT体積データ 28 方 法 回転・移動補正後の CT体積データ 対側性体積差分データ 対側性 体積差分 29 方 法 対側性体積差分データ 多重しきい値処理後 体積データ 初期候補 30 方 法 幾何学的画像特徴量 1)体積,2)球形度,3)3次元重心からの距離・4)相対距離, 5)重心(x,y,z方向の座標) 画素値に基づく統計的特徴量 1)平均ボクセル値,2)平均ボクセル値の標準偏差・3)変動 係数,4)最大・最小ボクセル値,5)候補の最大ボクセル値と 候補周囲の平均ボクセル値とのコントラスト,6)候補の平均 ボクセル値と候補周囲の平均ボクセル値とのコントラスト 補正後のCT体積データと対側性体積差分データ から各特徴量を抽出 31 方 法 ルールベーステスト(第1ステップ) 各特徴量に対し,超急性期脳梗塞候補の最大値 と最小値を求めて独立にしきい値を設定 Acute Ischemic Stroke 100 False-Positive 80 60 40 20 from the 3D-centroid Distance 特徴量2 120 0 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 Relative Std.特徴量1 Dev. of voxel value 対側性差分像 32 方 法 ルールベーステスト(第2ステップ) 特徴量の各ペアに対してしきい値を設定 Dev. of voxel value Relative Std.特徴量2 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 Acute Ischemic Stroke False-Positive 0 0 10 20 Average特徴量1 of voxel value オリジナル画像 30 40 33 結 果 初期検出 検出感度 個/ 偽陽性率(症例 学習用 テスト用 症例 症例 学習用 テスト用 症例 症例 98.3% 100.0% 72.4 86.8 ) ルールベーステスト 第1ステップ 98.3% 91.4% 21.6 25.6 第2ステップ 95.0% 85.7% 3.1 3.4 34 結 果 異常症例 オリジナル画像 対側性体積差分画像 CAD出力画像 虚血領域 コンピュータ検出 35 結 果 異常症例 オリジナル画像 対側性体積差分画像 CAD出力画像 虚血領域 コンピュータ検出 36 まとめ 本システムは,初期に検出された偽陽性候補 を約96 %除去でき,テスト用症例における検出 感度は85.7 %,偽陽性率は3.4個/症例であった. 超急性期脳梗塞のCT画像診断において, 本CADシステムは,疑わしい画像所見を明らか にできることから,医師の意思決定において 有用である可能性が高いと考える. 37 超急性期脳梗塞を対象とした 脳MR画像における 表示条件自動調節システム 38 背 景 MRI検査の特徴 拡散強調画像(DWI) → 超急性期の虚血領域を高信号として 明瞭に描出できる. 見かけの拡散係数(ADC)map → 虚血領域における治療後の可逆性を 予測できると報告されている. 両画像は,存在診断や発症からの時期 判断に利用されている. 39 背 景 MRI検査の問題点 両画像上の虚血領域における信号強度の 程度や範囲などの画像情報は,画像表示 条件であるウィンドウ幅(WW)やウィンドウ レベル(WL)の調節により大きく変化する. 存在診断や範囲判定の精度低下に つながる可能性がある. 40 担当者ごとの表示条件 観察者1 WW=1621 WL=490 観察者2 WW=1472 WL=647 観察者4 WW=1937 WL=719 観察者5 WW=1210 WL=458 観察者3 WW=1211 WL=422 装置出力 WW=1597 WL=798 41 背 景 厚生労働省研究班 Acute Stroke Imaging Standardization Group-Japan(ASIST-Japan) は,DWIと同時に撮像されるb0画像の視床の 位置に円形のROIを目視にて手動で設定し, 平均画素値を計測して,その値をDWI表示の WWに,WWの中間値をWLに設定することで, DWIの表示条件を標準化する方法を考案した. 42 背 景 厚生労働省研究班 Acute Stroke Imaging Standardization Group-Japan(ASIST-Japan)の考案方法 ROI内の 平均画素値 をAとする時 ROI DWI のWW = A DWI のWL = A/2 視床 b0画像 DWI 43 背 景 この方法は,施設間や担当者間における DWIの表示輝度の変動を低減できると報告 されている. しかし,手動による視床へのROI設定が 必要となるため,再現性に劣り,作業時間 と労力を必要とする. 44 提案手法 ASIST-Japanにより考案された手法の自動化 システムの構築 脳血管疾患の好発部位である視床を利用せず 脳実質部の濃度ヒストグラム解析を利用して DWIの表示条件を自動調節するシステムの構築 b0画像を使用せずに直接DWIの表示条件を自動 調節するシステムの構築,およびADC mapの表示 条件の自動調節システムの構築 45 公表論文誌 長島宏幸,原川哲美,土井邦雄:急性期脳梗塞のMRI拡散強調画像における 表示階調調節システムの開発, 電気学会論文誌C,第130巻,第3号,450-457,(2010). 長島宏幸,原川哲美,土井邦雄:濃度ヒストグラム解析に基づく脳MRI拡散強調 画像における表示階調の自動調節, 映像情報メディア学会誌,第64巻,第6号,874-880,(2010). Hiroyuki Nagashima, Kunio Doi, Toshihiro Ogura, Hiroshi Fujita:Automated Adjustment of Display Conditions in Brain MR images: Diffusion-Weighted MRIs and Apparent Diffusion Coefficient Maps for Hyperacute Ischemic Stroke. Radiological Physics and Technology, vol.6, no.1, 202-209,(2013). 46 方 法 画像データベース 虚血後6時間以内に撮像された 超急性期脳梗塞症例44例のDWIとb0画像 装置:GE社製 GENESIS SIGNA,SIGNA EXCITE 撮像シーケンス:SE-EPI 撮像パラメータ :TR 5000-10000ms, TE 86-102ms, Flip Angle 90 ° , スライス厚 5mm, スライス間隔 1-2mm, MPG印加軸 3方向 47 方 法 DWIの入力 b0画像の入力 ADC ln 3次元画像の作成 脳実質部の抽出 ( S 1 / S 2) (b 2 b1) S1 : b0画像の信号値 S2 : DWIの信号値 b1 : 0 ,b2 : 1000 s/mm2 3次元ADC map の作成 濃度ヒストグラム解析 DWI ADC map DWIおよびADC mapの表示条件の調節 48 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 Threshold 0 Peak voxel value = 366 Voxel value Number of voxels Number of voxels 方 法 3095 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 Peak voxel value = 376 0 Voxel value 1)可変しきい値処理を用いて,3次元DWIの濃度ヒストグ ラム内の虚血領域に対するボクセル値を除外. 2)20区間移動平均処理を用いて,正常脳実質部の濃度 ヒストグラムを平滑化. 3)平滑化させた濃度ヒストグラムから最大頻度値に対 するボクセル値を決定. 3095 49 方 法 DWIおよびADC mapの表示条件の調節 3次元DWIの表示条件 決定されたボクセル値をWLに,ボクセル値を2倍 した値をWWに設定 3次元ADC map ボクセル値を3倍した値をWLに,WLを2倍した値 をWWに設定 50 方 法 2肢強制選択(2-AFC)法 左 右 ・20症例を用いた各組み合わせ(190のペア) ・輝度および画像コントラストの類似度を比較評価 51 結 果 2肢強制選択法による選択率を用いた評価(DWI) 観察者 ASISTJapan法 本手法 A B C D E 24.2% 29.5% 24.2% 25.8% 21.1% 75.8% 70.5% 75.8% 74.2% 78.9% 平均値 24.9% 75.1% 52 結 果 2肢強制選択法による選択率を用いた評価(ADC map) 観察者 医師による 手動調節 本手法 A B C D E 6.3% 8.4% 4.7% 11.6% 5.3% 93.7% 91.6% 95.3% 88.4% 94.7% 平均値 7.3% 92.7% 53 結 果 ASIST-Japanにより考案された手法 本手法 54 結 果 観察者による手動方法 本手法 55 考 察 ADC mapを用いた虚血領域の可逆性の判定 には,虚血領域と,正中矢状線を介して反対側 の脳実質部との信号強度の比率が適用されて いる. DWIおよびADC mapの画素値を統一化できる 本システムの利用によって,虚血領域の定量的 評価が可能となる. 56 まとめ b0画像を用いることなく,DWIおよびADC map の信号強度および画像コントラストを症例間で 迅速に統一化できる本システムは, (1) アーチファクトによる不正確な判断の防止, (2) 虚血領域の判定誤差の減少, (3) 治療法の適切な判断の達成, に寄与する可能性がある. 57
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