進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成 ── “拡大ネットワーク” に向けて── 淀 川 里 美 1.はじめに ライヤを「系列」や「協働」といった視点で捉 えることが多かった.しかし,サプライヤは, 1―1.本研究の問題意識と主旨 今や世界の様々な国に拠点を持つ多国籍企業で 自動車産業は,世界の主要な市場に多くの海 あり,サプライヤの競争優位の考察には,多国 外拠点を持ち,新興国市場に競争フィールドを 籍企業としての視点が欠かせなくなっている. 移して,拡大を続けている.完成車メーカーは, 産業 の グ ローバ ル 化 の 進展 に 伴 い,“組織, 市場シェア獲得のために,新しい技術や製品開 国境を越えた提携の管理,そして外部ネット 発を巡って,競合する完成車メーカーとの業務 ワークに関する最近の研究の傾向” について, 提携や共同開発などの形での連携を模索し,ま Westney & Zaheer(2009)は,“平衡的 か,統 た,サプライヤも完成車メーカーの動向に合わ 合した方法かは別として,MNE 研究は企業の せて,自社の技術力,競争力を高めるため,必 内部ネットワークと外部ネットワークの両方を 要なリソースを持つ企業との国境を越えた提携 視野に入れるようになってきている” と述べて や買収などを,より活発に行っている1).しか いる. し,完成車メーカーを主な顧客とするサプライ また,Birkinshaw(2009)も,グローバル顧 ヤは,急速に拡大する多様な市場への対応と環 客の台頭により,子会社の市場志向には制約が 境負荷を減らす次世代車に向けた新技術の開 多くなり,どの製品市場に供するのか,どの競 発,海外シェア拡大に向けた自社の競争力の強 合ポジションを採用するかという選択は,中央 化など,多くの課題にも直面している. による調整ベースで行われるようになってきて 本稿は,世界各地に複数の拠点をもつ多国籍 いることを指摘し,研究対象ユニットを(海外 企業(MNE)として成長してきた自動車サプ 子会社へのフォーカスから)MNE 全体へ移す ライヤが,グローバル化の進展に伴い,自社の ことが重要であることを示唆している. 拠点を結ぶネットワークをいかに変化させてき このように,現在の MNE の競争優位の考察 たのか,そして,今後,自社のグローバル・ネッ には,本社と海外子会社を含めた MNE 全体を トワークをどのように構築・管理しようとして 捉える視点が必要と考えられており,MNE を いるのかを考察するものである. トータルに捉える研究の一つ,多国籍企業の共 進化理論(Madhok & Liu,2006)に つ い て 考 1―2.分析のフレームワーク・研究対象・アプ ローチ これまで,自動車サプライヤの研究は,サプ 察する. 共進化理論は,多国籍企業を外部環境と内部 環境の共進化としてとらえたものであるが,そ 96 (566) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) こでは,外部環境と内部環境の両方に接してい るのは,基本的に現地子会社であると想定して 2.グローバル競争の様相の変化と サプライヤの課題の変化 いる.しかし,グローバル顧客の台頭につれ, 実際には,本社も外部環境に晒されており,本 企業の外部環境が変化するとき,企業は,そ 社と現地子会社が一体となって共に外部環境に の変化に対応するために経営の重点をシフトさ 対応しなければならない状況を捉えきれていな せる.サプライヤにとって大きな環境変化を, い. 本稿では便宜上,2000 年前後と見なし,それ そこで, 本稿では, まず最初に完成車メーカー 以前とそれ以降のサプライヤの課題について整 およびサプライヤが置かれている現状を分析し 理する. て,その課題を整理し,次に,MNE ネットワー ク理論に関する先行研究を踏まえて,従来の共 2―1.2000 年以前の競争の様相 進化理論について考察する. 日本の完成車メーカーが世界の自動車産業に 次に,内部ネットワークと外部ネットワーク おいて確かなプレゼンスを示すようになった に関する共進化理論の不十分な点を指摘し,求 の は,日本 の 生産台数 が 約 530 万台 と 世界 の められるネットワーク・モデルとして,“拡大 総生産台数の 18% を占めるに至った 1970 年ご ネットワーク” を提案する. ろである.第 1 次オイルショックやニクソン・ そして,この “拡大ネットワーク” を検証す ショックによる米国経済を背景にして,燃費の るために,日系サプライヤである A 社の事例 良い日本車の輸出が増加し,その後,欧米,特 を考察し,その志向する方向性が “拡大ネット に米国市場に脅威を与えるまでになる.日米貿 ワーク” であることを指摘する. 易摩擦を回避するため,日本の完成車メーカー A 社 の 事例 を 取 り 上 げ る 理由 は,A 社 が は輸出の自主規制を行い,米国での現地生産へ MNE サプライヤの要件を備えていること,ま とシフトさせるようになる.80 年代に入ると た,主要顧客であるトヨタ自動車との関係重視 日本の完成車メーカーは,海外の主要な市場に のネットワーク形成から,新規顧客を含めた, より近い場所で生産を行うため,海外拠点を より複層的で拡大するネットワーク形成への課 次々に 開設 し て いった.90 年代日本 の 生産台 題に取り組んでおり,従来の論を検証するのに 数は世界の 28% を占め,その後も 20% を上回 相応しい企業であると考えられるからである. るシェアを維持してきた. 事例研究については,主に,A 社の公表デー 総 じ て 90 年代 ま で は,最大 の 市場 は 先進 タ(有価証券報告書,ホームページ,プレス・ 国市場 で あ り,主要 な プ レ イ ヤーも,米国 の リ リース な ど) ,そ し て,JAMA や JAPIA な “ビッグ・ス リー”,欧州 の ダ イ ム ラー,VW, ど 自動車業界団体,FOURIN や 日経 オート モ BMW,SPA,フィアット,ルノー,そして日 ティブなどのメディア・調査会社の資料・デー 系のトヨタ,日産,ホンダなど日米欧の完成車 タを活用している.また,A 社を含むサプラ メーカーであり,サプライヤもデルファイや イヤ企業の海外事業担当の役員クラスの方々へ ヴィステオン,ボッシュ,ヴァレオ,デンソー の非公式なインタビュー(2003 年~ 2013 年現 やアイシンなど,日米欧の部品メーカーであっ 在まで約 20 社に 1 回,そのうち,数社に対し た.市場シェアの獲得競争は,日米欧の先進国 ては複数回〔1 社平均 20 時間程度・1 社で 1~ メーカー間で展開した. 5 名〕 )の内容を参考に考察している. 90 年代半 ば ま で は,自動車産業 が 国内市場 を中心に拡大し,その後,成長する海外市場を 狙って,生産拠点の海外移転が開始され,産業 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (567) 97 のグローバル化時代へと突入した. 2―3.2010 年以後の競争の様相 2000 年以前 は,サ プ ラ イ ヤ は,顧客完成車 2010 年の時点では,業界の様相が,さらに メーカーと安定した協働の関係のもとに,生産 変化している.世界の主要な完成車メーカーは, 能力・技術・製品の開発,海外拠点の開設や海 それまでの資本提携戦略を見直し,資本を伴わ 外拠点の能力の向上を図ってきた時期といえる. ない業務提携や,共同開発,特定技術や製品の 供給,生産委託など,さまざまな組織間協力関 2―2.2000 年から 2010 年の競争の様相 係を複層的に結ぶ方向に向かう. 自動車産業に大きな業界再編が見られたのは トヨタは,ドイツの BMW からディーゼル・ 90 年代後半から 2000 年代初頭にかけてであっ エンジンの供給を受け,次世代リチウムイオン・ た.“世紀の合併” と言われた独ダイムラーと バッテリーの共同開発や研究での協力関係を結 米クライスラーの合併をはじめとする国境を超 ぶ 一方 で,イ ギ リ ス の Aston Martin に 完成車 えた完成車メーカー同士の資本提携(ヘラー& を供給するというように,資本提携以外の協力 藤本,2007)が相次ぎ,トヨタとホンダを除く の形を採用している.また,PSA と 50% ずつ 日本の完成車メーカーのほとんどが欧米の完成 の出資でチェコに合弁企業を設立している2). 車メーカーと資本提携を結んだ. 富士重工は,独ポルシェに対して日本市場で その背景には,先進諸国の内需の伸びが頭打 販売協力 を 行 い,い すゞは,欧州 GM へ ポー ちとなり,海外市場でのシェアをいかに拡大で ランドからディーゼル・エンジンを供給してい きるかが完成車メーカーの生き残りを左右する る.スズキは,仏ルノーからディーゼル・エン という深刻な認識が共有されていたことが挙げ ジンの供給を受け,独オペルに対しては欧州に られる.完成車メーカーが熾烈な競争に生き残 て完成車を供給している.また,スズキは,伊 るためには,年間生産台数 400 万台程度の規模 フィアットからはディーゼル・エンジンの供給 が必要であるという危機感から,“規模の経済” を受け,フィアットに対しては欧州で共同開発 を求めて,そうした資本提携があったと言われ した完成車の供給を行っている3). ている.米国では,日本メーカーによる欧米市 このように,日本の完成車メーカーと欧米完 場での追い上げに対する強い危惧があり,ま 成車メーカーは,かつて多く見られた資本提携 た,日本の完成車メーカーの多くが,日本経済 ではなく,互いが業務に必要とする技術や市場 の長い低迷により財務的に問題を抱えていたこ での資源を求めて協力関係を結ぶ方向に向かっ とも,資本提携を選択させた背景の一つと分析 ており,しかも 1 社が複数のメーカーと連携を されている. 結ぶ傾向が強く見られる. この再編がサプライヤに与えたインパクトは その背景として,技術的には,それまで主流 大きく,競合完成車メーカーと資本提携を結ん であったガソリン・エンジン車から環境負荷の だ完成車メーカーは,提携相手の持つサプライ 軽減を目指したエコカーへのシフトがある.究 ヤの導入により,それまで長期安定契約を結ん 極的には燃料電池車(FCV)がドミナントと でいた系列サプライヤの多くとの契約を解除 なると見られているが,開発コストや燃料の補 し(“系列解体” と呼ばれた) ,契約を解除され 給インフラの整備の問題などから,現在では, たサプライヤは,自社のコア技術を磨き,新た さらなるコストダウンや性能向上に向けて,燃 な顧客を自力で開拓しなければならなくなっ 費向上のガソリン車,ハイブリッド車(HV), た.また,系列を強化したトヨタやホンダなど 電気自動車(EV),プラグイン・ハイブリッド も,自社のサプライヤに新規顧客の開拓を奨励 車(PHV)と いった 多様 な ク ル マ の 技術開発 した. が行われている.このような多様な技術開発の 98 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) (568) ための投資は大きな負担となるが,二酸化炭素 2―4―1.調達政策 による大気汚染が特に深刻な巨大な中国市場で 完成車メーカーにおいてコストの大部分を占 のシェア獲得には,エコカー分野が重要なバト める部品の調達コストの削減は,何よりも重要 ルフィールドと考えられるため,回避できない である.90 年代後半には,完成車メーカーは, とい う 事情 も あ る.みずほコーポ―レート銀 世界のどこからでも低コストの部品をまとめて 行の調査部によれば,エコカーの市場規模は, 調達するという世界一括調達や,グループ企業 2020 年に新車販売台数全体の 3 割に達すると 全体での調達(グローバル調達)を実施したが, 予測されている . 2000 年以降 で は,複数 の 完成車 メーカーが ま 成長市場の変化も顕著である.世界の国・地 とめて調達を図るなど,調達コストの低減を一 域別の販売台数では,中国での販売が 1800 万 層推し進める政策を取っている9). 台を超え,世界市場の 20% 以上を占めるよう 2―4―2.モジュール化の促進 になり,成長市場が中国をトップに新興国市場 組立コスト削減の有力な方法としてモジュー にシフトしていることは明らかである5). ル化や,なるべく大きな塊として部品を納入す 生産台数のトッププレーヤーの顔ぶれも,従 るシステム化の導入は 90 年代から採用されて 来のトヨタ,GM,VW などに加えて,中国の きたが,2000 年以降においては,モジュール 長安汽車,第一汽車,吉利汽車,奇端汽車やイ 納入が一般的となってきている. ンドのタタといった新興国の完成車メーカーが 2―4―3.部品の共通化 4) 6) 見られるようになってきている .特に中国市 90 年代 で は,プ ラット フォーム の 共通化 場では,VW,GM などの欧米系メーカーや日 (車のベースとなる車台を開発して,それを複 産,トヨタ,ホンダの日系メーカーに対して上 数の車種に展開するという手法)が推進され 海汽車,長安汽車,奇端汽車,第一汽車など現 たが,2000 年以降では,さらなるコスト削減 地メーカーがシェアを大きく伸ばしている7). と 開発効率 を 高 め る た め,アーキ テ ク チャの 同様に,サプライヤも,ボッシュ,デンソー, 共通化(ク ル マ を 運転席周辺,エ ン ジ ン と 周 アイシン,マグナなどの欧米日サプライヤに加 辺部分など,いくつかのブロック単位で開発 えて,灘柴控股集団,万向集団などの中国系サ し,そのブロックをあらゆる車種に適応させ プライヤが,世界自動車部品メーカーの売上高 る)へと転換している.たとえば,トヨタは, ランキングで 50 位以内に加わっている . TNGA( Toyota New Global Architecture) ,日 このように,2000 年前後を境に自動車産業 産は CMF(Common Module Family),VW は の市場は,まさに新興諸国を含めて地球規模で MQB(Modular Transverse Matrix)と,それ 拡大し,技術の多様化による製品や技術のセグ ぞれ部品のモジュール化やアーキテクチャ共通 メントが増加し,自動車産業は全体として成長 化のための計画を持っている10). 拡大へと向かっている一方で,新興国の完成車 2―4―4.サプライヤの選定 メーカーやサプライヤの参入と成長も目覚まし 90 年代 ま で は,完成車 メーカーは,コ ス ト く,競争はますます激化している. 削減のため,部品の共通化,モジュール化,一 8) 括調達に応えるシステム・サプライヤと同時 2―4.部品調達政策における変化 に,独自技術を持つ専門サプライヤとも直接取 こうした自動車産業の様相の変化につれて, 引をおこなっていたが,2000 年以降では,さ 完成車メーカーの部品調達政策が大きく変化し らにより大きな塊での部品納入が可能なシステ てきている. ム・サプライヤやモジュール納入サプライヤ を,しかも,さらなるコストダウンを達成する 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (569) 99 ため,安定的で長期的契約を結べる財務基盤の がら,技術・ノウハウを提供することを新事業 堅固なサプライヤを求める傾向が強まってい として確立し,シェアの拡大を図っている12). る. このようにサプライヤは,自社のコア技術の 2―4―5.競合メーカーとの提携 強化と,周辺部品の技術やノウハウ,生産設備 完成車メーカーは,開発コストを減らし多様 などを持つ他のサプライヤとの連携や事業部門 な市場へスピーディに製品を投入するため,利 の買収を行っている. 用可能な資源を持っている競合メーカーと共同 2―5―2. 技術・部品開発への投資能力 開発や製品・技術供与,あるいは受注生産など 完成車メーカーは,コスト削減とリードタイ のため複数のメーカーと提携するようになって ム短縮のため,設計・開発段階からサプライヤ いる. との共同開発を求め,さらには,サプライヤが このように,90 年代に顕著になったグロー 丸ごと設計・開発した部品をシステムとして納 バル競争の環境下で完成車メーカーが採用した 入することを求める.そのためサプライヤは研 コストダウンを図る調達や生産方式は,2000 究・開発への投資を覚悟しなければならず,研 年代に入ってさらに進展している. 究・開発拠点をグローバルな視点から効率よく 配置することが重要となる. 2―5.サプライヤに求められるグローバルな対 応能力 2―5―3.世界同時供給能力 一つのユニバーサル・モデルを世界の異なる 上記 の 完成車 メーカーの 主要 な 政策変化 か 市場でほぼ同時期に生産できる能力が求められ ら,サプライヤに求められる能力は次のような る.これは,海外の拠点が生産・技術について ものと考えられる. 同じレベルの能力を持つことが前提となる.そ 2―5―1.より大きな塊での部品供給能力 のため,海外拠点を結ぶネットワークの視点で EV,HV や 燃料電池車 な ど の 技術革新 に よ の調整が重要になる. り,新しい部品や素材が開発され,部品産業の 2―5―4.堅調な財務基盤 市場は拡大していると部品業界団体は捉えてお 例えば,いち早くモジュール化を採用し,徹 り ,技術開発や拠点拡大に必要な膨大なコス 底してモジュール納入を求める VW 社は,一 トを低減し,必要とするものをより迅速に獲得 つのモジュールを長期間の契約で納入すること するために,ターゲットとする拠点に既にある によるコストダウンを図っている.契約期間中 現地資本の部品企業や,現地に拠点をもつ先進 に財務状態に問題が生じてモジュールの納入が 国部品メーカーの特定部門の買収などがこれま 滞るというような事態を避けるため,サプライ で以上に活発に行われている.たとえば,曙ブ ヤには財務基盤の強さを選定の条件として重視 レーキがボッシュの米国ブレーキ事業を買収, している.また,米系サプライヤでは,特に トヨタ紡織はオーストラリアの Polytec の内装 フォード社において顕著である13). 11) 事業を買収,矢崎総業はイタリアでワイヤー ハーネス事業を買収したように,自社のコア事 2―6.2010 年代の自動車サプライヤの課題 業強化のための同一部品分野での買収が目立っ 2000 年を中心とする完成車メーカーの再編 ている.一方,欧米一次サプライヤは, モジュー や,完成車メーカーの求める “世界調達”,“グ ル戦略の一環としての周辺部品メーカーの買収 ローバルなモジュール生産” などに対応するた を活発に行っている.また,大手のマグナ・イ め,ボッシュをはじめとする欧米の大規模サプ ン ターナ ショナ ル は 新興国完成車 メーカーに ライヤは,自社の専門技術の深化,弱い部品分 OEM で供給したり,主要部品を共同開発しな 野の強化,アジアでの拠点確保のために,日本 100 (570) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) の独立系の専門部品メーカーへの出資や合弁企 車産業の再編は,サプライヤにグローバル体制 業の設立を積極的に行った. を整備させる強い誘因となった.グローバル対 そうした中で,代表的な日本の系列サプライ 応能力を高めるため,各海外子会社の能力の向 ヤ は,完成車 メーカーを 中心 と し た,他 の グ 上,現地化(経営 ス タッフ,調達率 な ど),海 ループ内サプライヤと企業共同体を形成し,部 外子会社の自由裁量の拡大,異なる海外子会社 品の数を減らして,性能を向上させるような付 からの学習を目的としたベスト・プラクティス 加価値創出を重ねてきた結果,デンソーやアイ の共有などを実施するようになった.拠点の増 シンを筆頭に,日系サプライヤは,世界の部品 加に伴って,本社は,海外拠点がそれぞれ現地 市場の大きなシェアを獲得するまでに成長して での最適な事業活動を行うための支援を行う一 きた. 方で,世界一括購買やプラットフォームの共通 しかし,2008 年に端を発した世界金融危機 化など,グローバルなプランに沿って,重要な 以降,急速に新興国市場が拡大し,最も成長が 意思決定を行い,子会社をコントロールしてき 著しい新興市場と,生産・販売において縮小傾 た. 向にあるとはいえ,販売収益の半分以上を占め さらなるコスト競争とスピードが競争の鍵を る先進国市場の両方に力を注がなくてはならな 握る今,サプライヤは,自社の技術力や生産能 くなった. 力の向上のみでは,競争に勝つことはできな こうした環境がサプライヤにもたらす課題を い.サプライヤが世界各地の拠点をいかに合理 要約すると次のようになる. 的に管理するかが,競争を制する重要な要因と ・完成車メーカー同士の共同開発の促進は,新 なっており,改めて,自社のグローバル戦略に たな技術や素材を用いた製品種類を増加させ, 照らした,ネットワークのマネジメントが重要 部品市場は拡大するが,サプライヤは主要顧客 となってきている. 完成車メーカーがターゲットとする市場におい す な わ ち,内部 ネット ワーク と 外部 ネット て拠点を設置し,供給能力を高めることが,こ ワークの拠点間を同時に結んでサプライヤ企業 れまで以上に求められる. (拠点の確保と供給 のトータルな業績を高めるという “拡大ネット 能力の確保) ワーク” の視点が求められている. ・拡大する製品群のうち,受注することができ るサプライヤは,技術・設備,開発能力を持つ 3.分析のフレームワーク ものだけである. (技術力・設備レベル・開発 3―1.自動車産業の競争優位に関する先行研究 能力の向上) 自動車産業における企業の競争優位に関する ・完成車メーカーは価格競争力を高める部品を 研究には,主に,系列をベースに 80 年代まで 求めているため,サプライヤにより厳しいコス に構築されてきた “日本のサプライヤ・システ ト削減を求める.サプライヤは,自社の収益確 ム” 考察の流れがある.そうした研究は,完成 保のためには,よりコストのかからない方法 車メーカーとサプライヤとの生産に関わる取引 で,新素材や新技術の調達先,共同開発のパー 構造から形成された協働のシステムが,日本企 トナー,あるいはライセンス契約先との連携を 業の競争優位の源泉となっていることを明らか 模索する必要がある. にし た(浅沼萬里 1990;藤本隆宏,西口敏宏, 伊藤秀史 2001;藤本 2003).海外では,米国の 2―7.サ プライヤのグローバル・ネットワーク における管理のシフト 90 年代後期から 2000 年初頭にかけての自動 大量生産方式と多品種少量生産に対応できる日 本型の生産方式とを徹底的に比較研究し,日本 の生産方式をリーン生産方式として捉え,米国 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) 型のリーン生産方式の可能性を示唆した MIT (571) 101 3―2―1.“統合―反応フレームワーク” の研究の 展開 の IMVP 研究 チーム に よ る 大規模 な 研究成果 がよく知られている(Womack, J. P., Jones, D., 自動車サプライヤが直面している問題は,第 & Roos, D., 1990) .ま た,日本 の 完成車 メー 1 に,新興国市場を加えた世界市場の拡大によ カーとサプライヤとの関係は,米国においても り,企業が管理するサブ・ユニット(拠点)の アメリカ型ケイレツとして構築が可能であるこ 数の増加や活動の範囲が拡大し,グローバルな とをクライスラー社とマグナ・インターナショ 管理の必要性が高まっていること(“グローバ ナル社の事例で示した研究などもある(Dyer, ル統合への圧力” への対応)である. 1996;2000) . 第 2 に,世界の異なる市場ニーズに応えるこ こうした一連の研究は,20 世紀の自動車産 と(“ローカル反応への圧力” への対応)が求 業の競争優位の源泉が,日本型サプライヤ・シ め ら れ て い る.自動車産業 は,基本的 に は グ ステムが代表する “リーン生産システム” にあ ローバル業界とみなされ,世界共通製品を投入 り,それが,日本メーカーの高品質,価格競争 するというスタンスで捉えられてきたが,同時 力,多品種少量生産の強みを可能にしたことを に,市場の多様性が拡大するにつれ,ローカル 説明している.そして欧米メーカーは,それぞ なニーズを満たすことがより重要になってきて れの方法でリーン生産システムを追求し,競争 いる. 力を構築してきた. このような 2 つの環境要因に着目して “統合 ─反応 フ レーム ワーク” の 研究 が 行 わ れ た の 3―2.MNE のグローバル・ネットワークの視点 から は,自動車産業 を 含 む 多 く の 産業 の グ ローバ ル化が進展した 80 年代であった(Prahalad & 本稿 で は,こ う し た “生産 に 関 わ る 取引構 Doz,1987).この研究をベースに,Bartlett & 造における協働のシステム” というサプライ・ Ghoshal(1989)は,どの環境要因を重視して チェーンと企業間関係の視点を踏まえながら 組織がデザインされているかにより,MNE を も,近年,地理的にも製品ライン的にも急速に 4 つのタイプ(①マルチナショナル型,②イン 拡大している世界の自動車部品市場において多 タナショナル型,③グローバル型,④トランス 国籍企業に成長したサプライヤの競争優位の形 ナショナル型)に分類した. 成 を,多国籍企業(MNE)の ネット ワーク 研 この研究は,新しい “ネットワーク組織” と 究の視点からの考察を試みる. いう概念をもたらし,ネットワーク組織論の研 前章(2.グローバル競争の様相の変化とサ 究に大きく貢献したものとして位置づけられて プライヤの課題)で示したように,自動車産業 いる(Westney & Zaheer,2009). のグローバル化は急速に進み,競争の様相は, 90 年代の研究の主要なストリームの一つは, 90 年代末から大きく変容している.現在のサ MNE の 4 つのタイプのうち,4 番目のトラン プライヤの最大の課題は,“グローバル対応能 スナショナル・モデルの分析を拡大・深化させ 力” をいかに形成するかであり,増大した海外 たもので,MNE の管理的問題に組織理論を当 拠点を結ぶ自社のグローバル・ネットワークの てはめた研究である.トランスナショナル・モ より意識的な活用が問われているからである. デルは,役割や能力が差別化された子会社が相 産業のグローバル化ともに企業のネットワー 互に依存して,業績コントロール,ヒト,モノ, ク形成のプロセスと対応すべき課題の変化を先 情報が複雑にフローし,そして,各拠点でイノ 行研究から整理していく. ベーションを生じさせるようなタイプの MNE ネットワーク組織である.このタイプの主要な 102 (572) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) 要素である子会社の役割に焦点を当てた研究 率的なアウトプットをもたらすような圧力を受 は,MNE 研究の中でも,主要な研究分野とし けている.そのため,個々の R&D ユニットで て発展した(Birkinshaw など) . は,自分たちの時間の使い方を選択する自由度 しかし,Birkinshaw は,近年になって,MNE が減少する. の中心的存在であった子会社の変容ぶりを,次 4.電子商取引の導入によって,グローバル のように指摘している.“一方では,子会社は 市場ではかつてない高い透明性がつくりだされ MNE における行動の中心にあり,特に統合と ているため,顧客は,多くのサプライヤからの 反応,投入物の調達,ユニット間の調整,知識 製品や価格を比較することができるようになっ の創造と移転,戦略的なコントロールという問 た.このことが,グローバル活動の統合・合理 題に関して,その中心的存在であるが,他方で 化を促進させる要因になっている. は,MNE の国際業務におけるグローバル・ビジ 5.活動がローカルのために,ローカル・ベー ネスの変容にともない,もはや国レベルの子会 スで形成されるような事例においても,競争は 社というものは存在しない.代わりに各拠点は, グローバル化している.このような状況におい 販売,生産,R&D センターという一連の個別の て,MNE は,調整された方法で子会社のポー 付加価値活動を行っており,そのビジネス・ユ トフォリオを管理することができなければなら ニットあるいは機能ラインを通した報告を行っ ない(Prahalad & Hamel,1985). ている.実際,MNE は,子会社における異な Birkinshaw は,上記のようなトレンドが,顧 る活動をさらに細分化している(Birkinshaw, 客ベースに対して,MNE 子会社の自由度を減 2000) . ” 少させる効果を持っていて,子会社の市場志向 近年のこうした状況の背景として,Birkinshaw の視点は,より制約が多くなり,かなりの程度 は,次の点を挙げている. で子会社のマネジャーの手から失われていると 1.多くの業界で,世界ベースで一貫した製品・ 述べている. サービスを要求するグローバル顧客(GC)が台 どの製品を市場に供するのか,どの競合ポジ 頭している.そこで,MNE は,製品,価格, サー ションを採用するのかという選択は,ますます ビス条件を中央で交渉することを許す “global 調整ベースで決められるようになるため,地域 account” を設定することにより,グローバル顧 およびグローバル・ビジネス・ユニットのチー 客に対応している.伝統的に子会社が行ってい ム,役員会議,グローバル・アカウント・マネ たことの多くが中央で行われるようになった. ジャーを通して管理される子会社間の相互依存 2.グ ローバ ル 顧客 の 台頭 は,サ プ ラ イ・ は増加する. チェーンのグローバルな統合に反映されてい しかし,同時に,管理の実践における広範な る.つまり,ほとんどの巨大な MNE は,購買 エンパワメント(権限移譲)傾向が,子会社の や製造活動をより効率的に行う必要性を認識し マネジャーがより起業家的に行動することを促 ており,製造の主要な部分を独立した契約者に し て い る(Bartlett & Ghoshal,1997)と い う 外注,または製造プロセスを合理化し,グロー ことも見逃してはならない. バル・ベースで購買を合理化した.そのような こうした状況下にある MNE の課題を考察す 活動に関与する海外子会社にとっては,活動が る に は,研究対象 ユ ニット を(海外子会社 へ 本社や他の子会社によって統合されると,自由 のフォーカスから)MNE 全体へ移すことが重 度が減少する結果となる. 要であることを示唆している(Birkinshaw & 3.巨大 MNE の R&D 組織 は,社内 の ビ ジ Pedersen,2009). ネス・ユニットとの契約関係を使って,より効 したがって,現在の自動車サプライヤの競争 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) 図1 多国籍企業の共進化の概観 共進化ケイパビリティ 共進化プロセス 環境的 選択 管理的 適応 マクロ共進化 MNCの地理的 技術的範囲 ミクロ共進化 形態と範囲を 管理する能力 (573) 103 MNC*異質性 競争優位 因果曖昧性 吸収能力 知識の ストック・フローの 全般的な 管理の効率性 シェア 売上高成長率 利益率 *MNEと同義 出所:Anoop Madhok & Carl Liu, “A Co-evolutionary theory of the Multinational Firm” Journal of International Management 12(2006)P. 5 の図 図 1 多国籍企業の共進化の概観 優位の考察には,MNE 内部ネットワークと外 管理的遺産とルーチンに埋め込まれていると説 部ネットワークの両方を視野に入れる必要があ 明 し て い る(Bartlett & Ghoshal,1989).2 つ り,さ ら に,Westney & Zaheer(2009)が 指 の共進化プロセスの両方が MNE を変貌させ, 摘するように,“MNE 内のサブ・ユニットは, 企業の知識と能力の発展軌道を導く.具体的に MNE の公式な境界線の外にあるユニットと交 は,MNE の内部ネットワークを通行する重要 換可能になってきている. ” な資源は,情報である.この情報には,形式知 3―2―2.マクロ・ミクロ共進化理論の考察 と暗黙知の両方があり,このフレームワークで 以上のような理由から,本稿では,本社と海 は,知識のストックとフローに影響する要因と 外子会社を含めた MNE 全体を捉える視点をも して,知識移転プロセスを妨げる否定的な要因 つ研究と考えられる Madhok & Liu(2006)の として因果曖昧性,知識移転に肯定的に貢献す 多国籍企業の共進化理論をベースにサプライヤ る要因として吸収能力の 2 つを設定している. の競争優位を形成するネットワークのフレーム 因果曖昧性に関しては,Madhok & Liu(2006) ワークを考察する. は,“環境に埋め込まれた地域特殊的な暗黙知 まず,Madhok & Liu によれば,企業全体の である場合,知識移転において粘着性を示すも 競争優位の形成は,MNE の内部ネットワーク の” としている.Barney,J. (1991)は,“模倣し で生じる相互作用(ミクロ共進化)と,MNE ようとする企業の資源と競争優位の因果関係を の子会社とローカル環境との相互作用(マクロ 理解できないこと” と説明している. 共進化)との 2 つのレベルから捉えられる(図 そして,共進化理論のレンズを通してみる 1).通常,外部環境におけるマクロ共進化のス と,MNE は内部知識のフローや蓄積に強みを ピードは,ミクロ共進化のスピードよりも速い 持ち,それゆえ,市場よりもヒエラルキーに優 (非同期効果) .この 2 つのレベル間を管理する 位性があることを指摘している. 能力によって企業は差別化される.すなわち, この共進化理論は,国際経営に戦略経営,組 競争優位の源泉は,企業が共進化プロセスを管 織理論などの視野を持ちこみ,主流の戦略研究 理する方法に依存し,その管理能力は,企業の へと統合することを試みたものであり,マク 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) 104 (574) 外部環境 マクロ共進化 顧客 ・グローバル顧客・ ローカル顧客 へのサービス ・ 新規顧客の開拓 サプライヤ 環境要因 ・現地調達先の維持と 外部環境 開拓 ・技術・生産・開発 能力を高める ・現地の特殊性 ・政府規制 ・取引規模 ・取引慣習 ・インフラ ヴァーチャル・ カンパニー(VC) 子会社 競争優位 共進化 ケイパビリティ 企業固有の 組織能力 資源のストック・ フローの全般的 な管理の効率性 シェア 売上高成長率 利益率 子会社 内部環境 本社 子会社 子会社 ミクロ共進化 出所:Anoop Madhok & Carl Liu の共進化理論をベースに,筆者が作図 図 2 拡大ネットワーク ロとミクロ共進化を企業全体の競争優位に繋げ MNE の本社と海外拠点が果たす役割が明示さ るために,知識のストックとフローの全般的な れていない. 管理を効率よく行う能力,すなわち,企業固有 3―2―3.“拡大ネットワーク” の共進化ケイパビリティによって,MNE 間の そこで,本稿では,MNE の本社を含むあら 異質性を生じさせ,競争優位が導かれるという ゆるユニット間(内部ネットワーク)で生じる パースペクティブは,スタティックな図式化と して説得力を持つ. 相互作用(ミクロ共進化)と MNE と外部環境 (顧客・下位サプライヤなどを含めた外部組織) しかし,現在のサプライヤの最大の課題を考 との間で生じる相互作用(マクロ共進化)を, 察するには,このフレームワークでは不十分で 同時的に捉えるような組織モデルを想定した あると考える. ダイナミックなフレームワーク,“拡大ネット 第 1 に,この共進化理論では,外部環境と内 ワーク”(図 2)を提示する. 部環境の両方に接しているのは,基本的に現地 まず,図 2 に沿って,拡大ネットワークの概 子会社であると想定しているが,グローバル顧 要を説明する. 客の台頭につれ,実際には,本社も外部環境に “拡大ネットワーク” とは,“本社の意思決定 晒されており,本社と現地子会社が一体となっ 機能 と 現地市場 ニーズ に 精通 す る 子会社 の 機 て共に外部環境に対応しなければならない状況 能,そして,外部組織の専門知識などを組み合 を捉えきれていない.第 2 に,マクロ共進化と わせた活動の総体” と定義する. ミクロ共進化のプロセスのスピードを左右する この拡大ネットワークでは,現地ニーズを敏 要因と,それを形成する組織との関係,また, 感に捉える子会社のマネジャーと本社の決定権 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (575) 105 を持つ担当者とで編成する一つのユニット,い 組織能力に関しては,資源とそれを活用する企 わ ば,ヴァーチャル・カ ン パ ン ニー(VC)が 業の能力として,さまざまに定義されてきた. 外部環境 に 対応 し,案件 に 応 じ て,外部 の 専 Teece et al.(1997)は,“急速に変化する環境 門知識を持つメンバーなどが参加する.VC と に対応するために内的・外的なコンピタンスを いう概念は,当初は “異なる企業から組織資源 統合,構築,再構築する企業の能力” と定義し を選択し,それらを一つの電子的ビジネス主 ている. また “資源を組み合わせて,組織プ 体へと統合することで形成されたもの” (Nagel ロセスを用いて,望む目的を達成する企業の能 & Dove,1991)で あった が,そ の 後,さ ま ざ 力” という定義もある(Amit & Schoemaker, まな脈絡で使われるようになり,単一の定義は 2005).し か し,本稿 で は,藤本(2003)の 組 ない.たとえば,Business Week(Feb. 7, 1993) 織能力の定義を採用する.それは,“組織能力 のカバー・ストーリーでは,“変化の速い機会 とは,①ある経済主体が持つ経営資源・知識・ を活用 す る た め に,急遽集まった会社の一時 組織ルーチンなどの体系であり,②その企業独 的なネットワークであり,VC では,企業はそ 特のものであり,③他社がそう簡単には真似で れぞれが,得意とする分野に貢献することに きない(優位性が長もちする)ものであり,④ よって,スキルの共有とグローバル市場へのア 結果としてその組織の競争力・生存能力を高め クセスを可能にする” と説明した.この定義で るもの” である. は,電子的側面には触れられていない. また, そして,VC は,企業固有の組織能力の醸成 Child & Faulkner(1998)は,組織間関係 の タ にもプラスに作用する. イプの分類上,学習を目的とした戦略的提携と これまで,外部環境に直に晒されている現地 は異なり,VC は,参加する複数の企業が異な 子会社がマクロ共進化の主体と考えられてきた る機能を提供し,顧客に競争力を持つ製品を提 が,グローバル顧客の台頭や,グローバル調達 供するよう機能することを指摘している.さら の重要性が増している現在,もはやその主体は, に,Mowshowitz(1994)は,“VC の本質は,そ 現地子会社レベルだけではなく本社レベルの関 の実現のための手段のいかんを問わず,目的志 与が不可欠となっている.グローバル対応能力 向の活動の管理である” としている. の獲得には,本社・子会社が一体となって対応 本稿では,もの造りや調査研究などで召集さ する形が模索されている. れる一般的なプロジェクト・チームとは区別し 3―2―3―1.マクロとミクロの共進化を促進させる て,変化の速い環境において,外部との “交渉” VC を含めた意思決定が関与する状況への対応(特 VC は,現地 に 精通 し て い る 子会社 の マ ネ に新規顧客の獲得など)を目的として,異なる ジャーと本社の決定権を持つ担当者とにより構 機能(決定権をもつ本社の人間と海外子会社の 成されるチーム,すなわち,かなりの程度のオー マネ ジャー)に よって構成されるユニットを トノミをもち,起業家的思考・行動で活動する VC と呼ぶ. 小さなユニットであり,現地のニーズに対応し, この VC の活動により,意思決定のスピード 最適な動きをし,速い意思決定を可能にする. を速めることで,MNE のミクロとマクロの共 このような VC が,世界市場に多数生成され, 進化を促進させ,ネットワーク内における資源 必要に応じて再編される.言い換えれば,本社 のストックとフローの全般的な管理の効率を高 の意思決定部分が現地へ割り当てられ,現地で め,企業の競争優位を導く. 直接,ニーズを吸い上げ,判断し,決定を下す. この管理の効率とスピードを左右するのは企 もちろん,本社の別の部門との調整などが必要 業 の DNA と も い う べ き “組織能力” で あ る. な場合もあるが,こうした VC の存在は,マク 106 (576) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) ロ共進化を促進させる. 成は大きな貢献が期待される.この小さな VC また,VC は,現地子会社と本社とのコミュ ユニットの数が増大すれば,管理の煩雑さやコ ニケーションを短縮し,内部ネットワークをよ ストも生じるが,それでもメリットの方が大き り密に連携させる効果をもたらす.現地子会社 いと思われる. のメンバーは,本社の経営メンバーと直に一つ 海外子会社に本社の機能を恒常的に委譲する のプロジェクトを通して協働することで,本社 には,子会社への機能移転にともなう組織体制 サイドの情報と知見をダイレクトに得ることが の拡充が必要であり,組織間の経費の重複が生 できる.このように,VC はミクロ共進化を促 じ,また,現地に派遣された役員あるいは現地 進させる. で採用された役員は,現地志向が強くなり,グ 本社の決定権を持つ経営メンバーと子会社の ローバル統括の視点からの経営判断にバイアス マネジャーで構成されるこの VC は,MNE 内 が生まれるのは避けがたい.したがって,本社 部ネットワークにおいて,情報が直に交換され から,意思決定の機能を VC の形で割り当てる る連結点でもある. 直接の人的協働の場であり, ことは,コストや管理の面でもメリットがある. 働き方においてその企業の DNA を形成する問 そして,VC による本社・子会社メンバー間 題解決の思考と行動パターンが醸成される機会 の直接の協働は,問題解決のための思考・行動 となる.このように,VC は,マクロ,ミクロ パターンの醸成など,企業の組織能力を高める の 2 つのレベルの共進化を促進させる企業固有 メリットもある.すなわち,必要に応じて編 の共進化ケイパビリティを養うダイナミックな 成・解消される VC は,マクロとミクロの共進 ユニットと考えられる. 化を促進させる企業固有の共進化ケイパビリ VC のメンバーには,企業家的行動が求めら ティを養うダイナミックなユニットと考えら れるが,それには,ある程度の決定権と高い判 れ,MNE ネットワークの中心を本社に置きな 断の自由度が与えられることが前提となる. がら,MNE の通行スピードを加速させること 3―2―3―2.共進化における本社と子会社の役割 ができる. MNE の各拠点は情報の受け手にも送り手に VC の基本メンバーは,MNE の子会社マネ もなる.内部・外部のネットワーク内で獲得し ジャーと本社のシニア・マネジャーであるが, た競争優位を MNE 全体の競争優位に結びつけ 時に,MNE の他の子会社や本社の専門知識を るのは本社の管理能力であり,ユニットの評価 持つメンバーが加わったり,あるいは MNE の 能力,資源の投下,オートノミと権限の付与を 外部組織(時に,顧客完成車メーカーの担当者 行う役割を持つのも本社である. や,素材メーカーの担当者など)が加わること 本社がそのネットワークの中心から動かずに も想定できる.そうした場合には,MNE のネッ 巨大化するネットワークを管理することは,官 トワーク内の 1 つのユニットに外部組織との直 僚的で中央集権的な行動様式に陥りがちで,意 の連結が生まれることになる. 思決定のスピードを遅らせるネガティブな要因 MNE の子会社は,本社から割り当てられた となる.これに対して,本社機能を必要に応 機能を遂行するための資源と能力を高め,また, じて VC に割り当てて外部環境に対応すること 現地環境ニーズへの精通と起業家的行動が求め は,ネットワークの情報フローのスピード化に られる. つながる. 3―2―3―3.共進化ケイパビリティ 増加 し,複雑化 する拠点を抱える大規模な 次 に,Madhok & Liu の 共進化 パース ペ ク MNE にとって,自社のネットワークの管理と ティブでは,マクロとミクロの共進化を企業全 活用のケイパビリティを高めることに,VC 編 体の競争優位につなげるために,知識のストッ 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (577) 107 表 1 2 つのレベル分析における資源と能力の例 海外子会社レベル 全社レベル (本社を含む MNE 拠点全体) 資源 ●工場,設備などの物理的資源,現地調達 ●企業の借入能力などの財務資源 された原材料 ●中央でコントロールするサプライヤへの ●現地採用人材 アクセス ●現地顧客・サプライヤの評判 ●公式な報告システムなどの組織的資源 ●特許などの技術資源 能力 ●迅速な製品革新力 ●リーン生産システム ●効果的な流通 ●顧客中心のマーケティング ●データ処理技能など ●革新,品質などを高める企業文化などの 企業特殊能力 ●左欄の能力を企業全体のベースで引き上 げる能力 出所:Table 14.1, Birkinshaw & Pedersen, 2009, p. 379; Source: Grant 1997) ク・フローの全般的な管理を効率よく行う能力 の交流,人事異動など広範な交流によって培わ を共進化ケイパビリティと定義し,それを左右 れていく.その視点からも,本社・子会社のメ するのが因果曖昧性と吸収能力であると規定し ンバーで形成するユニット(VC)は,有益と ている. 考えられる. この概念的なフレームワークを,本稿では, “拡大 ネット ワーク” の フ レーム ワーク は, サプライヤ企業のネットトワークを形成する こうして,図 2 のように描きだされ,これを自 本社と子会社のケイパビリティの要件として, 動車サプライヤの場合に当てはめて要約すると Birkinshaw & Pedersen の「2 つのレベル分析 次のようになる. における資源と能力の例」 の分類で確認する (表 1.MNE の 本社 と 海外子会社 を 結 ぶ ネット 1). ワーク に,VC の 編成 を 加 え る こ と に よ り, この表では,“中央でコントロールするサプ MNE ネットワークのスピードを上げる.また, ライヤ” に対しては,本社・子会社の両方の資 それは,外部ネットワークの強化・拡大につな 源と能力を動員させる必要があると分類してい がる. るが,この,“中央でコントロールする” という 2.MNE のグローバル対応能力を高めるた 意味を,本稿のフレームワークでは,“本社と子 めの拡大ネットワークでは,本社が強いグロー 会社のチーム” という形に落とし込んでいる. バル調整力を持つことが必要であり,海外子会 本社・子会社が共にチームでグローバル顧客 社は賦与された現地での活動の能力と,現地 に対応するとき,そのチーム行動のスピードと ニーズや情報への感受性を高めることが求めら 効率をアップするドライバーは,企業固有の組 れる. 織能力であり,明示化できるものと,明示化で そのため,MNE の中心にある本社は,全社 きないものとがあるが,これをいかに高めるか 的業績を高めるために,グローバルな事業計画, が,ネットワーク管理のスピードを左右する. 各拠点に対する人・モノ・カネ・情報などの資 人材の新陳代謝が激しい拠点においては,で 源の配分と役割とその遂行に必要な権限の付与 きる だ け 明示化 す る作業(マニュアル化,訓 を行う.そして,各拠点がその役割を遂行する 練,学習)が必要となる.また,明示化できな 能力(ケイパビリティ)を高めるための支援を い部分については,企業の各部門のリーダーの 行う.また,グローバル顧客やグローバル・サ 思考・行動の仕方,会議や教育のプログラムで プライヤとのアクセスを維持・拡大するための 108 (578) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) 活動を行う. 3.MNE の 海外子会社 は,グ ローバ ル な 事 業計画により配分された役割を遂行するための ケイパビリティを高めると同時に,現地ニーズ 捉え方への転換に応えるものである. 4.事例:A 社のグローバル・ネットワークの 形成 や情報を把握し,新しい製品や事業のシーズを 自動車 サ プ ラ イ ヤ が,グ ローバ ル・シ ス テ 探索し,グローバル顧客やグローバル・サプラ ム・サプライヤとしてポジションの強化を図る イヤの獲得につなげる活動を行う. ため,これまでのプロセスと現在取り組んでい 4.MNE 企業全体の業績を高めるドライバー る課題への対応を考察し,その方向が “拡大ネッ は,企業固有の “組織能力” である.この組織 トワーク” であることを,A 社を例に考察する. 能力は,ハード面においては,事業活動を最適 化するための組織体制や生産方式や仕事のやり 4―1.現在のプロファイル 方や規則などであり,ソフト面においては,生 A 社 は,戦後 す ぐ に 創設 さ れ,自動車用 ゴ 産方式やルーチンに張り付いた企業文化やコ ム製品の製造から始まったが,64 年後の現在 ミュニケーションのパターンなど明文化できな では,トヨタ自動車のグループ企業の中堅メン いもので構成されている. バーであり,樹脂製内外装部品を供給する年間 5.MNE の 外部 ネット ワーク は,顧客完成 約 5000 億円以上(2013 年 3 月末連結)を売上 車メーカーや,素材や下位部品を納入するサプ げ,世界の自動車部品メーカーの売上高ランキ ライヤ,および研究機関などと形成されるリン ングでは,20~40 位(2010 年)のポジション ケージの束を指す. にある14). もともと完成車メーカーとサプライヤとで形 A 社は,2013 年 6 月現在で,世界で 20 近く 成する協働関係が主体であるが,近年,特に新 の国・地域(北米 10 カ所以上,豪亜 20 カ所以 素材の開発や新しい部品・モジュールの開発の 上,欧州・南アフリカ数カ所)に合計 40 以上 ため,そうした専門知識や技術を有する組織へ の拠点と,日本国内では,生産・開発・流通・ のアクセスが重要となっている.この領域にお 営業を合わせた自社拠点とグループ会社を合 けるリンケージの形成についても,本社および わせて約 40 拠点を持つ(A 社経歴書 2013 年 6 海外子会社の両方が関与する.ただし,サプラ 月).総従業員数約 3 万人(う ち 海外 2 万人以 イヤの場合,必要な素材や技術の獲得には,提 上),海外売上高比率 は 2013 年 3 月現在 47% 携,買収などのアプローチがあるが,その選択 強で,国内比率の 53% 弱に拮抗しており,さ は,それを持っている事業部門の買収や,ライ らに 2020 年までには海外売上高比率を 60% 程 センス契約の締結などで,短期に取得し,管理 度まで高める目標を掲げている. コストを省くようなケースの方が優勢となって このように,売上高,海外拠点数,総売上高 いる(Dyer,2004) . に占める海外売上高の比率などからみて,A 社 6.拡大ネットワークの VC は,マクロ共進 は世界の自動車部品産業において確かなプレゼ 化のスピードとミクロ共進化のスピードとの ンスを持つ多国籍企業である. ギャップを狭める作用をする. また,A 社の主力製品は,内外装部品,セー こ の よ う に,拡大 ネット ワーク の フ レーム フティ・システム製品,オートモティブ・シー ワーク は,こ れ ま で の 完成車 メーカー主導 の リングなどであり,これらは,クルマのエンジ MNE 拠点形成 と い う 外部 ネット ワーク か ら, ンが電気自動車や燃料電池車に移行しても,技 新規顧客 メーカーを 含 め た 拡大 す る 戦略的 グ 術的には比較的影響が少ない製品群である.ま ローバル・ネットワークの形成という積極的な た,青色 LED ランプなどオプトエレクトロニ 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (579) 109 クス製品を非自動車関連事業の柱として展開し ドと効率を左右する組織能力と組織体制を検証 ている. する. 4―2.新たなプロファイルに向けた課題 4―3.“拡大ネットワーク” への転換 近年,A 社が発表したビジョンでは,“樹脂 A 社は,トヨタの系列サプライヤであり,最 (高分子)と LED(光半導体)の分野のグロー 大顧客であるトヨタの海外進出に伴って自社の バル・システム・サプライヤ” となる目標を掲 海外拠点を開設してきたという経緯がある.し げ,コア事業のドメインを明確にし,事業の集 たがって,拠点の立地や規模なども,トヨタの 中化を表明している. ニーズに沿って選択され,拠点展開も日本,北 そして,このビジョンを達成するためのアプ 米,豪亜,欧州・アフリカの 4 極体制が取られ ローチとして,①グローバル競争を勝ち抜く強 ている. い現場づくり,②環境保全・省エネ・安全分野 しかし,90 年代後半から,業界の競争が激 のダントツ技術開発,③世界に伸びる市場・伸 しさを増すなかで,トヨタは自社の系列サプラ ばせる分野の事業基盤強化の活動を促進すると イヤに海外での新規顧客獲得を奨励するように している. なった.それは,A 社にとって,新規顧客獲得 具体的には,①のために,調達能力,生産, や新規事業を視野に入れた積極的なネットワー 開発 の た め の 設備,技術,生産能力 の 強化, ク管理を促す機会でもあった. ② は,次世代車へ向けた部品の技術開発の強 それまでは,顧客完成車メーカーと形成する 化,③は,新興市場でのシェア拡大と自動車お 企業間の協働の関係にトップ・プライオリティ よび新規事業における収益性の拡大である. が置かれており,顧客が必要とする海外拠点の 数値目標としては,強い財務基盤を作り,連 近くに自社の拠点を開設し,本社同士,子会社 結売上高 1 兆円,営業利益 8% を設定している. 同士が海外でも密な協働関係によって業績をあ また,現在 10% 強にとどまっている LED 製品 げることにまい進してきた.顧客メーカーと共 などの非自動車部品事業を拡大し,自動車部品 に現地市場向けの製品開発やイノベーションを 事業との比率を 8:2 に引き上げること.また, 生み出す主要なプレイヤーとして海外子会社が 自動車部品事業の海外売上高比率を 6 割強に引 重視され,現地化が促進されたといえる.つま き上げることを目標としている. り,サプライヤと完成車メーカーの協働関係と そして,そうした活動を支えるため,高い専 いう外部ネットワークの重視である(系列サプ 門性と広い視野を併せ持つプロフェッショナル ライヤの場合には,“中間市場” と見なす説も な人材を育成し,グローバルに多様な人材を登 あるが,系列サプライヤでも,法的には完全独 用して地域課題への対応を強化し,地域・事業 立した企業であると言えるので,外部ネット を越えた人的資源の相互補完とチームワークの ワークと見なす). 発揮を挙げている. しかし,市場が地理的にも製品セグメント的 このように,A 社は,描いたプロファイルに にも拡大している自動車産業の競争において, 到達するためには,世界各地に配置された拠点 たとえ系列サプライヤであっても,新規顧客, を結ぶ自社のグローバル・ネットワークの積極 それも海外顧客の開拓が迫られる状況で主体的 的な活用と管理の必要性を認識し,組織能力を に顧客開拓を行うためには,自社の持つグロー 高めるための組織変革を行っている.このネッ バルなネットワークの活用・管理が重要となっ トワーク内の本社を含む拠点の役割や機能,そ てきた.そして,その全社的ネットワーク管理 して,ネットワークをコントロールするスピー を行い,業績に結び付けるのが,サプライヤ本 110 (580) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) 社の機能である. 場である北米を中心に,海外拠点を 30 か所余 特定顧客の業績によって自社の業績が左右さ り開設し,海外の新規顧客のため,自社の生産 れるというリスクを低下させ,また,新規事業 能力,技術力,価格競争力の強化を図っている. の育成により自動車産業の不振による打撃をう 2002 年には,東洋ゴム工業からエアバッグ けるリスクを減少させるためには,事業のドメ 事業を譲り受け,防振ゴム事業を譲渡し,主力 インを絞り,かつ,その分野でグローバル・シ 事業の強化を図った. ステム・サプライヤになることを目指す選択を 技術的 に は,自動車部品 4 事業部 が 2003 年 している. に QS9000(米国ビッグ・スリーが制定した品 したがって,外部組織と形成する外部ネット 質システム保障)の認証を得て,米国完成車メー ワークと自社のグローバルなネットワークを効 カーからの受注体制を強化した. 率よく管理することができる “拡大ネットワー 4―3―3.2010 年以降のネットワーク(生産の海 ク” は,A 社の求めるネットワークと,概念的 外シフトに向けた生産・流通の合理化) には一致するはずである. 国内では,九州に 2 つの大規模工場を増設し, そこで,A 社の現在までのネットワーク形 生産のさらなる合理化を図り,また,物流費を 成の展開と組織上の変革を概観していきたい. 10~15% 削減するため,A 社の工場が集中す 4―3―1.2000 年以前のネットワーク(国内生産 る尾張地区とトヨタの工場が集中する三河地区 基盤と海外進出) との中継基地となる三好物流センターを 2010 A 社は 90 年代末までに,国内の 6 つの工場 年に稼働させた15).長期的に,国内の生産規模 と技術センターを中心として,生産拠点を整備 が減少することを想定して,設備更新時に海外 し,国内ネットワークの基盤を確立した.また, へ新しい設備や技能を順次,移転させることを 海外では,86 年に最初の海外拠点を北米に開 決定し,海外では戦略的な拠点づくりを加速し 設し,その後,豪亜,欧州の主要な拠点を開設 ている. し,4 極体制のネットワーク基盤を整備した. 北米ではカナダに生産拠点を増設,メキシコ この期間の拠点の開設の時期や立地は,A 社 の工場のための人材サービス会社とトヨタのブ の主要顧客であるトヨタおよびトヨタのグルー ラジル進出に歩調を合わせてブラジルに生産拠 プ企業である他のサプライヤの海外拠点の活動 点を開設,アジアでは台湾とインドに生産拠点 を重視して選択されている.基本的に国内のト を増強し,また,オプトエレ事業のための事務 ヨタとそのグループ・サプライヤとの協働関係 所を韓国に開設した. が海外に移転された. 特 に 最近 で は,A 社 の グ ローバ ル・ネット さらに,新事業として,1995 年に青色 LED ワークは,アジア拠点への生産や開発機能の移 の 生産・販売 を 開始 し,そ の 後,緑色 LED, 転,北米・欧州での設計・開発機能の強化の観 新色 LED などを開発・生産.また,97 年には, 点から拠点が見直されており,本社の組織体制 ゴムのリサイクル技術を開発した. も,2012 年末に事業部制から主力技術を核と 4―3―2.2000 年~ 2010 年のネットワーク(4 極 したセンター制へと再編された. 体制の拠点網の拡充) 国内では,岩手,神奈川,瀬戸,北九州に大 4―4.A 社のグローバル・ネットワーク 規模な生産拠点を開設し,生産の合理化と国内 実際の A 社のグローバル・ネットワークが 生産体制の強化と生産の増強を図ると共に,海 どのように連結されているのか.各拠点がどの 外生産の増加に備えて拠点網を増強した. ような役割を果たしているのか.A 社の 2013 急速に拡大するアジア市場と第二の大きな市 年 9 月の HP などのデータをもとに,それを単 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) 非トヨタ系完成車メーカー (581) 111 トヨタおよびトヨタ・グループ企業 本社 地域本部 子会社 販売 地域本部 地域本部 子会社 生産 ライセンス 契約社 ローカル サプライヤ ローカル 顧客 雇用・人事 サービス 子会社 R&D 法律 事務所 ライセンス 供与社 グローバル 顧客 グローバル サプライヤ 現地政府 経済組織 コミュニティ 出所:図は,A 社の HP データ(2013. 09)をもとに筆者作図 図 3 A 社のグローバル・ネットワーク 純化して図 3 に示した. ローバル・サプライヤに関しては,本社が欧州 A 社 の 主要 な グ ローバ ル 顧客 の トップ は, 統括を介して対応する. トヨタであり,また,デンソーやアイシンなど しかし,実際には,グローバル顧客や,潜在 のトヨタグループ企業でもある.A 社は,本 グローバル顧客への対応には,通常,本社の役 社の所在する日本,北米(最近はブラジルを加 員,あるいは欧州統括会社のマネジャーと現地 えているが,北米により統括されている) ,豪 子会社のマネジャーとがチームとして対応す 亜,欧州・アフリカの 4 つの地域の海外子会社 る. を結んだグローバル・ネットワークを形成して たとえば,A 社は,有力米完成車メーカー, いる. X 社に,ボディ・シーリング製品を納入してい A 社 と 海外子会社 と の 連結 と 各拠点 ユ ニッ たが,その製品の品質改善を行ったところ,改 トに与えられた役割を単純化するために,2013 善活動が認められ,次モデルの受注に繋がった. 年 9 月の A 社 HP を基に作図した海外拠点数の この時に関与したのは,A 社の本社役員と米 最も少ない欧州のネットワークを図 4 に示す. 国統括マネジャー,A 社のサプライヤ,そして, 2013 年 9 月の時点で,欧州の拠点は,5 カ所 X 社の品質担当役員によるチームであった. あり,欧州統括会社(ベルギー)と 4 つの生産 その後,X 社の欧州設計の小型車のボディ・ 拠点(英,独,チェコ,南 ア)で 構成される. シーリングを受注したが,この時に編成された 情報は,本社から統括事務所を通して,他の 4 チームは,先に米国で編成されたチーム・メン つの拠点に伝えられ,各拠点は,現地顧客,現 バーと欧州マネジャーとによるものであった. 地サプライヤに対応し,グローバル顧客やグ このようなケースは,拡大ネットワークの特 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) 112 (582) AS:オートモティブ・シーリング事業 SS:セーフティ・システム事業 IE:内外装部品事業 FC:機能部品事業 OE:オプトエレクトロニクス事業 本社 子会社B(ベルギー) 設計・技術開発・営業 子会社E(南ア) SS 統括 子会社A(独) 顧客への認知活動 情報収集 ) 現地の政府・ コミュニティ 子会社C 英) AS, IE ライセン ス契約 供与・ 受託) 子会社D (チェコ) AS, FC, SS グローバル 顧客 ローカル サプライヤ グローバル サプライヤ ローカル 顧客 ) 出所:図は,A 社の(2013.09) HP データ(2013. 09)をもとに筆者作図 図は A社のHPデータ をもとに筆者作図 図 4 A 社の欧州ネットワーク 徴である本社の意思決定機能と海外子会社の現 との連携の強化に繋げていくことができれば, 地ニーズの精通機能,そして,外部組織(顧客 それは,MNE の外の組織と自社とで形成する とサプライヤ)とで構成される VC が,別の地 外部ネットワークの拡充に繋がる. 域において新規の顧客獲得の機会を創出し,成 5.ディスカッション 功させた一例と考えられる. そして,この VC チームの存在は,海外マネ A 社がグローバル・サプライヤとしてさら ジャーが,本社の役員と一緒に問題解決を図る なる成長を図るための経営ビジョンのもとに, ための協働であり,企業文化や企業のルーチン ネットワークの変遷を見てきたが,拡大ネット に張り付いた企業特殊の思考プロセスや行動パ ワークの効率的な機能にとって不可欠な点を整 ターンを醸成する機会であり,マニュアル化さ 理する. れたトレーニングだけでは吸収しがたいものを 直に学ぶ機会として有効であると捉えている. VC は,また,部門間,企業間の境界を超えて, 5―1.ネットワークのスピードと効率を高める 本社の組織体制の改変 人的繋がりを強化し,人脈作りに大きく貢献す A 社は,海外活動の比重の拡大に伴い 98 年 る.このような VC は,今後,特に中国などの に事業部制を導入した(自動車関連の 4 つの製 新興市場で有効な成果をもたらすと期待される. 品領域と LED に関わる新規事業)が,2012 年 中央の本社がネットワーク全体を統括する上 1 月に,事業部制から,技術を核にしたセンター で,こうした柔軟なユニットをネットワーク上 制 へ と 組織改変 を 行った(2013 年 9 月 の 時点 で活用して内部ネットワークの強みを外部組織 の 組織図:図 5).事業部制 の 長所 は,技術・ 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) 図5 A 社の組織改 事業部制 センター制 開発本部 (583) 113 2013. 06. 19以降 品質保障本部 研究センター 開発本部 研究センター 技術管理部 商品企画センター 知的財産部 製品開発センター 材料技術部 品質保証部 生産本部 生産本部 生産管理部 生産技術開発センター 生産調査部 ゴム製品生産センター 内外装部品事業部 樹脂部品生産センター オートモティブシーリング事業部 機能部品事業部 オプトエレクトロニクス事業部 セーフティシステム事業部 金型機械センター事業部 オプトエレクトロニクス事業部 A 社 HP の組織図(2013.09)の一部を単純化して筆者作図 出所:A 社 HP の組織図(2013. 09)の一部を単純化して筆者作図 図 5 A 社の組織改定 3 生産・販売が一本化され,重要な決定が迅速に 素材・技術を 3 本柱としたのは,製品事業を横 行われ,売上・利益の極大化が図れるメリット 断したもの造りを展開するためであり,これに があるが,反面,全社的な視点では,事業部の よって社内での人材の流動性と育成を狙ってい 壁ができやすく,事業部間の意思疎通の齟齬が る.また,品質保証部を本部に格上げし,品質 うまれやすく,また,人材の流動化が難しいと 監査機能の充実とグローバルでの品質保証を強 いうマイナス面もある.そこで,MNE 全体の 化した. ネットワークのマネジメントの観点から,セン このような改定は,それぞれの素材・技術が ター制を導入したと考えられる. 用いられる製品すべてに,開発情報が速やか グローバルなシステム・サプライヤとなるた に,無駄なく活用されることを意図したもので めには,開発本部の役割が重要であり,開発・ ある. 設計機能 を 開発本部 に 集結 し て 技術力強化 を また,組織改定に伴う人事異動では,経営課 図るため,材料技術部へ材料開発テーマとメン 題に対する人材の適性配置,ローテーションに バーを集結させ,商品企画,製品企画,生産技 よる人材育成・活性化,海外・国内のグループ 術開発の 3 つのセクターを置いた.そして生産 体制強化が強調されている. 本部にはゴム製品製造と樹脂製品製造を新たな グループ経営のさらなる強化を図るととも センターとして配し,さらに半年後には,生産 に,意思決定と業務執行スピードアップを図る 技術開発センターを生産本部に移動し,技術開 ため,新制度では,取締役を 23 名から 7 名へ 発と生産の距離を近づけた. と減らしてスリム化を図るとともに,執行役員 ゴム,樹脂,オプトエレクトロニクスという 体制を新設し,担当組織の業務執行に専念でき 114 (584) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) る体制に変革した. りこみを図っている. こうした変革は,いずれも,MNE ネットワー 豪亜地域では,中国でトヨタ,インドでホン クの意思決定と業務執行のスピードを上げ,自 ダとスズキ,インドネシアでダイハツというよ 社のマクロとミクロのネットワークの共進化を うに地域・製品ごとに新規顧客を開拓してい 促進させる. る.自社の海外各地の拠点が現地のニーズや潜 在顧客の情報・人脈などを掘り起こし,それを 5―2.ネットワークのあらゆるノードを連結さ せる MNE ネットワーク内で迅速に流し,別の拠点 の顧客獲得に繋げたり,あるいは,1 カ所の受 サプライヤにとってもっとも重要な外部組織 注からグローバル受注へと繋げていくことが重 は,顧客である完成車メーカーであり,また, 要である. 自社の部品や部品システムを購入してくれる上 受注には,技術に裏付けられた製品の価値(価 位のシステム・サプライヤである. 格,品質,納入,革新)が基本だが,それだけ これまでは,系列グループの一員であるサプ では競争を制することはできない.製品が採用 ライヤにとって,その中核にある完成車メー されるように働きかける努力を統合できるのは カーが最大顧客であり,完成車メーカーが業績 MNE ネットワークの持つ強みである. を伸ばしている限り,サプライヤにとっても好 また,外部ネットワークは,規模および種類 ましい業績を期待できた. の上で増加することが想定され,これを強化す しかし,完成車メーカーは,激しい競争の環 るうえでも,“拡大ネットワーク” の観点から 境に置かれ,何よりも厳しいコストダウンを要 のグローバル・ネットワークの形成・管理が重 求し,また,部品もより大きなモジュールやシ 要となる. ステムで納入できるサプライヤとの取引を望ん でいる.このため,そうした条件を満たしてく 5―3.欧米系サプライヤとの比較 れるサプライヤを,グループの外からも選定す “拡大ネットワーク” のフレームワークに沿っ る傾向にある. て日系サプライヤ企業 A 社の事例を考察して また,サプライヤにとっても,1 社あるいは きたが,日系サプライヤのグローバル・ネット 数社への依存度が高すぎると,顧客の業績によ ワークは,主要顧客の要請によって発展・拡大 るリスクが大きくなる.また,契約条件や協働 してきた経緯がある.この主要顧客とサプライ から得られるメリットの大きい顧客を積極的に ヤとの協働のシステムによって,これまで日系 開拓すべきである. サプライヤが競争優位を形成してきたといえ 最近の A 社の大型受注に関しては,2011 年 る.だが,この協働のシステムの強みを裏返せ から世界各地で発売したトヨタの新型カムリに ば,日系 サ プ ラ イ ヤ は,顧客完成車 メーカー エアバッグ全量を納入したことが挙げられる. のパートナーであるという意識が強く,経営 こ れ は,A 社 が 全世界同時生産 の 能力 と,前 フォーカスは,主要顧客ネットワークの形成に モデルに比べて 3 割の軽量化を果たした技術力 置かれてきたといえる.また,組織体制もそれ を示した一例である. を支える形であった. また,2011 年には,フォード社の ABF(戦 サプライヤの海外拠点は,顧客メーカーの海 略サプライヤ・リスト)に選ばれた.フォード 外進出にともなって開設され,結果的に拠点数 へはボディ・シーリングを納入しているが,軽 は増加したが,基本的に顧客メーカーとの関係 量化によるコストダウンをしながら,機能は向 をそのまま移転することとほぼ同義語であり, 上している部品の開発によって,別の部品の売 “多国籍企業” であるという認識は,自国の市 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (585) 115 場規模が小さい欧州系の企業に比べて概して弱 米系自動車 サ プ ラ イ ヤ B 社 は,自動車事業 かった.しかし,新興市場への進出,新規顧客 部 だ け で,30 以上 の 国 に 約 200 カ 所 の 拠点, の獲得がサプライヤの生存と成長により大きな 約 7 万人の従業員を擁しており,その売上高は インパクトを持つ現在の競争環境においては, 全売上高の半分強にあたる 2 兆円超となってい サプライヤの経営フォーカスは,新規顧客との る.B 社の海外子会社は,フル機能装備の完全 関係を含めたより複層的な “拡大ネットワーク” 独立会社である.組織上の本社は,会長,社長 の形成・管理へシフトしている. を含め非常に少数の集団で,本社が行うことは, ちなみに,多国籍企業としてのデンソーの開 毎年,全体の事業計画と事業規模などの大枠を 発機能形成についての研究では,次の 2 点が抽 決めることであり,形式的には,本社,子会社 出 さ れ て い る(金熙珍,2010;2012) .①地場 はあるものの,実際には世界各地にある拠点が, メーカーを含めた新規顧客の存在が現地拠点の 示された事業計画の枠の中において自社が考え 開発機能形成を促進させる,②既存顧客である る最適なことを行うこととされている.大枠だ 日系部品メーカーの製品開発の国際化が行われ けを与えられた各拠点は,いわばアメーバであ ない限り,部品メーカーの国際化もおこなわれ り,新規顧客開拓や新規事業などを自ら提案・ ない. 実践することにより,自己増殖したり,自然淘 本研究においても,新規市場における顧客獲 汰されたりする.唯一あるのは,自己増殖のた 得のためには,戦略的な拠点展開が見られる. めのルールで,各拠点が提出するほとんどの決 たとえば, インド市場における新規顧客開拓や, 済は直近の上位のマネジャーによってスピー 優れた現地の素材メーカーへのアクセスのため ディに下される極めてフラットな組織となって に, 現地メーカーに資本参加を許し, パートナー いる. のコミットメントの強化を図るような合弁の形 このようなフル装備で完全独立の自己増殖を を取るようになった. するアメーバ組織としての海外拠点は,一つに 一方,これまでの拠点形成においては,主要 は事業毎に拠点が設立されたという経緯や,ま 顧客との協働のための拠点展開が主流であり, た,世界約 200 カ所の多様な人間を一つの基準 A社のグローバル戦略は,完成車メーカーの戦 (米国本社の基準)で管理するのは難しいとい 略に大きく準拠してきたと言える.本格的な独 う認識によるものと推察される. 自の “拡大ネットワーク” へのシフトは,A社 B 社の場合,本社の規模を最小化し,代りに, にとっても今後の大きな課題である. 海外子会社に権限を付与することにより,海外 そして,本社が強い統括力を持つ日系サプラ 子会社がその責任において迅速に現地で起業家 イヤが新規の現地顧客や非日系顧客を含めた 的に行動することを求めている.ただし,本社 “拡大ネットワーク” 形成において,VC の編成 が重要と判断し,本社の意向を反映させるよう は重要な仕組みと考えられる. な結果を期待する案件の場合には,本社の経営 一方,同じ市場シェア拡大のために競合する 陣が最適と見なす海外マネジャーを選んで,そ 欧米系のサプライヤの場合,どのように現在の の人物に特定のミッションと裁量を与える.こ 競争環境に対応しているのだろうか. の場合,本社の決定権機能と子会社の現地ニー ここに,A 社とは一見まったく異なる MNE ズへの精通機能とを組み合わせたチームと見な のネットワークの形からも “拡大ネットワーク” すことができる. の特徴である “本社の意思決定機能と子会社の こ の よ う な B 社 の “ア メーバ 組織” と 比 べ 現地ニーズの精通機能を組み合わせたチーム” て,A 社に見られる VC チームの利点は,一つ という共通性が確認される事例がある. には,各子会社がバリューチェーンのフル装備 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) 116 (586) の組織をもたなければならない B 社と異なり, しながらグローバル市場が拡大している 90 年 組織コストの重複を避けられることである.ま 代末からは,本社はグローバル統括力を高める た,本社の経営スタイルが海外子会社にそのま ために海外子会社と結ぶネットワークの最適管 ま移転されており,グローバルな統括が効率的 理が重要となっている. に行えることである. つまり,MNE グローバル・ネットワークに こ の 点 を 考 え る と,VC を 持 つ 拡大 ネット 外部 ネット ワーク を 取 り こ ん だ 統合的 ネット ワークとは,本社の権限が欧米企業より大きい ワークの管理が求められているのである.海外 日系企業,しかも,グループ企業との協働の経 拠点の数が増加し,活動の内容も複雑化する内 験が企業 DNA として埋め込まれている系列企 部ネットワークにおいて,権限はグローバル統 業においてその効果を大きく発揮できるモデル 括の中心である本社が持ちながら,意思決定の なのかもしれない. スピードと効率を上げる方法として,本社の意 6.結びにかえて 思決定機能と現地環境に精通する資源とを組み 合わせた VC の編成は,内部ネットワークと外 本稿で取り上げた “統合的ネットワーク” は, 部ネットワークを統合的に管理するための有効 急成長する新興国市場を含めた世界市場におけ な試みのひとつである.本稿では,このことを る競争が激化している自動車産業の環境下で, 示すことができたと考える. サプライヤの経営の重点が変化していることを 今後の研究課題としては,拡大ネットワーク 示すひとつの取り組みである. のスピードと効率を左右するような試みを欧米 従来, 日系サプライヤは, 顧客完成車メーカー 系サプライヤなどを含めた事例研究を行いた との関係を重視し,自社の海外子会社の拠点展 い.また,外部ネットワーク,企業の組織能力 開を行ってきたが,将来に向けて競争優位を構 に関する研究を深め,拡大ネットワークの理論 築するために,自社の拠点を結ぶグローバル・ 的フレームワークを進展させたいと考える. ネットワークをより積極的に活用することが重 要となっている.具体的には,新規顧客を開拓 し, 外部ネットワークを拡大するには, 内部ネッ トワークの活用がこれまで以上に必要となって いるということである. サプライヤは,グローバル対応能力を高め るために,本社は自社の拡大するグローバル・ ネットワークを最適で最速に形成・管理しなけ ればならない.そのため,本社はグローバル統 合のコントロールを強め,子会社は,グローバ ル戦略の下で配分された役割や機能を遂行する ことが要求される. グローバル化のプロセスにおいて,サプライ ヤの経営の重点は,シフトしている.初期に は,海外拠点の開設に伴う本社の能力を子会社 へ移転し,その後,子会社の能力構築のための 現地化や子会社のオートノミの拡大へとシフト した.そして,成長市場が新興諸国へとシフト 注 1)FOURIN 編『世界自動車部品産業年鑑 2012 』 pp. 5─15「世界自動車部品 メーカーの 動向 2007 ─2012 」 2)日本自動車工業会(JAMA) 「図 1:日本メー カーの主要な資本・業務提携関係」2012 http://jama.or.jp/world/tieup/tieup_1tl.html 3)上に同じ 4)みずほコーポレート銀行調査部資料 (2011) 「図 表 IV─5─7:グ ローバ ル 次世代自動車普及見通 し(販売台数) /普及比率」p. 164 http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/ bizinfo/industry/sangyou/pdf/1039_04_05_01. pdf 5)日本自動車工業会「日本 の 自動車工業 2012」 〔表 1:主要国の四輪自動車販売台数〕 http://jama.or.jp/world/world-1t2html 6) FOURIN 編『世界自動車部品産業年鑑 2012 』p. 17「世界自動車メーカー・ランキング 2010 年」 7)「中国 メーカー別上位 10 社 の 乗用車生産台数 進化する自動車サプライヤのグローバル・ネットワーク形成(淀川) (2010 年/2011 年)とシェア 2011 年)」 h t t p : / / w w w . f o u r i n . j p / r e p o r t / C H I N A _ INDUSTRY_2012.html. 8) FOURIN 編『世界自動車部品産業年 2012 』p. 47.「世界 の 部品 メーカーの 自動車売上高 ラ ン キング 2010 年度」 9) FOURIN 編『2002 日 本 自 動 車 産 業』pp. 15─ 17;同編『世界自動車部品産業年鑑 2012 』pp. 6─7. 10)トヨタ,日産,VW の HP. 11)日 経 Automotive Technology 編『自 動 車 部 品産業成長への進路』2012,pp. 9─11. 12)FOURIN 編『2002 日 本 自 動 車 産 業』pp. 8─ 15 および Magna International HP. 13)フォード社は,ABF(選別したサプライヤと 長期契約を結ぶ制度)を設けている .Ford 社 HP および FOURIN 編『世界自動車部品産業 2012 』 p. 57. 14)FOURIN 編『世界自動車部品産業 2012 』p. 47. 15)FOURIN 編『世界自動車部品産業 2012 』p. 279. 参考文献 Amit, R. & Schoemaker, P.(2005)“Strategic Assets and Organizational Rent)”, Strategic Management Journal, 14/1, 33─36. 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