情報通信 超小型一心双方向デバイスの開発 * 木 原 利 彰・鈴 木 三千男・塩 崎 学 吉 田 享 広・松 村 豊・中 西 裕 美 Development of 1.3/1.49µm One-Package Bidirectional Device ─ by Toshiaki Kihara, Michio Suzuki, Manabu Shiozaki, Kyohiro Yoshida, Yutaka Matumura and Hiromi Nakanishi ─ Optical access services are expanding quickly in Japan and North America. Passive optical network (PON) systems that allow one optical fiber to be shared between two or more users at low service prices have been adopted in optical access services. Sumitomo Electric is one of the manufacturers of Bi-directional transceiver devices used in PON systems. On the other hand, in the case of systems for supporting point-to-point communication schemes such as Ethernet where two optical fibers are generally used for transmission and reception, there is rising demand for transceivers that use one fiber in different wavelengths. In order to satisfy this market demand, Sumitomo Electric has developed a new transceiver device design. Compared to the conventional transceiver design composed of separate packages, the new “one package” design realizes a capacity reduction of about 30%. This paper reports on Sumitomo Electric’s development of optical network unit (ONU) and optical line terminal (OLT) products for gigabit Ethernet communication systems using the new transceiver design. 1. 緒 言 ブロードバンドサービスが世界的に普及する中、光アク デバイスの実装構造図を図 1 に示す。送受信デバイス、 セスサービスの普及も国内を中心に急速に拡大してきてい WDM フィルタ、CUT フィルタなど全て小型のφ5.6mm の る。光アクセスサービスでは、サービス料金の低価格化を パッケージに搭載し、光学系では、一つの球レンズで送受 行ない、加入者の増加を促すために、一本の光ファイバを 複数のユーザで共有する PON(Passive Optical Networks) システムが採用されてきている。当社でも、このシステム 表1 に適合した一心双方向デバイスを製品化してきた(1)∼(7)。 目標仕様 ONU/OLT 一方、イーサネットに代表される送受信 2 本の光ファイ バを用いた一対一通信、いわゆる P-to-P(Point to Point) 伝送レート 送 信 1.25Gbps 受 信 1.25Gbps を用いたシステムにおいても、送受信 2 つの異なる波長を -3dBm @Ith+20mA ファイバ出力 用いた一芯化の要求が高まってきている。 当社では、こうした市場要求に対応し、従来製品のよう -23dBm 受信感度 に送受信デバイスを別々のパッケージに搭載するのでな く、一つのパッケージに送受信デバイスを搭載する独自の 1 パッケージ技術を開発し、従来の製品に比べ約 30 %の容 積削減を実現した。この技術をベースとして、下り 1.25Gbps /上り 1.25Gbps の Gigabit Ethernet 通信方式に対 開発品 応した ONU(Optical Network Unit)及び OLT(Optical Line Terminal)用の一心双方向デバイスを開発したので報 告する。 2. 一心双方向デバイスの基本構造 従来製品 表 1 に目標仕様を示す。写真 1 に従来製品と今回開発し た製品の外観写真を示す。また、パッケージに搭載された 写真 1 従来製品及び開発品 2 0 0 8 年 7 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 173 号 −( 79 )− WDM Filter LD Monitor PD ず、パッケージ内に WDM フィルタを搭載するための空間 を確保するためにレンズと LD 間距離 L1 は、比較的大きな CUT Filter 値に設計した。図 3(1)から L1 = 1.2mm に設計され、要求 TIA 性能を実現するために光結合効率は-9dB、光学倍率 m = 2 に設計された。この時の受信側のシミュレーション結果を 図 3(2)に示す。L1 = 1.2mm の時の感度は、SMF とレンズ Heatsink Package 間距離 L2 のばらつき 3.3 ∼ 3.7mm(L1 のばらつき 1.15 ∼ 1.25mm)に対して、0.8A/W 以上と要求性能を満足する結 Detector PD Submount 果となっている。 このように、LD と DPD の相対位置を制御することで、 図1 送信光結合効率と受信感度の両方の特性を満足できる設計 1 パッケージ基本構造 が可能となった。 Fiber Coupling efficiency(db) バ(SMF : Single Mode Fiber)と光結合されている。こう した構成にすることで、超小型化と部品点数の削減をおこ なった。構成されている部品は、従来製品と同様な構成に 設計され、低コスト化を実現している。 ONU では、送信デバイスにファブリ・ペロ型レーザダイ オード(FP-LD : Fabry Perot Laser Diode)が用いられ、発 振波長は 1310nm、受信信号は 1490nm である。OLT は、送 信デバイスが分布帰還型レーザダイオード(DFB-LD : Distributed Feedback Laser Diode)が用いられ、発振波長は -7.5 -8.0 -8.5 m -9.0 -9.5 -10.0 0.90 1490nm、受信信号は 1310nm である。 L2 1.00 1.10 1.20 1.30 1.40 1.50 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 m, L2(mm) 2 つの光学系を構成し、送受信光がシングルモードファイ L1(mm) (1)Fiber Coupling efficiency 3. 光学設計 1.2 図 2 に光学系の概念図を示す。LD から出射された光は DC Sensitivity(A/W) WDM フィルタに 45 度で入射し、光軸方向に反射され、レ ンズでスポット変換され SMF へ結合される。一方、SMF から入射された受信光は、同様にレンズで集光されて、 WDM フィルタ及び CUT フィルタを通過し受信フォトダイ オード(DPD : Detector Photo Diode)で受信される。送受 信光は、SMF から球レンズを通り WDM フィルタに到達す る位置までが同一の光学系となっており、こうした設計で 1.1 1.0 0.9 0.8 L1=1.15 0.7 L1=1.2 0.6 L1=1.25 0.5 0.4 2.6 2.8 3.0 3.2 3.4 3.6 3.8 4.0 4.2 4.4 4.6 光学調整の簡略化を実現した。 図 3 に送受信光学系のシミュレーション結果を示す。ま L2(mm) (2)DPD Sensitivity 図3 光学シミュレーション LD Lens L1 Detector CUT PD Filter 4. L2 SMF WDM Filter 低クロストーク設計 一心双方向デバイスの性能を特徴的に表す特性はクロス トークである。クロストークは、送受信を同時に行なうう えで、受信特性に大きな影響を及ぼす。クロストークの原 Package 因は大別して光と電気のクロストークがあり、双方を抑制 図2 光学系概念図 −( 80 )− 超小型一心双方向デバイスの開発 する必要がある。 一つのパッケージに送受信デバイスを近接させて搭載す DPD から 1kΩの抵抗を介し TIA から出力される信号の電 ることで、従来の製品とは桁違いに送受信デバイス間の距 力の計算結果から、GND リードの配置、本数によって- 離が短くなり、クロストーク特性の劣化が懸念される。本 27.3dB の低減が得られた。 開発では、超小型化の実現と、光と電気のクロストーク低 4−1 電気クロストーク この結果をもとに、GND リードの配置による電気クロス トークの影響を実験した結果が図 5 である。横軸に周波数、 減のために独自の構造を開発し目標性能を達成した。 電気クロストークは、LD 縦軸にノイズを表しており、LD に一定の変調信号を印加 への送信変調信号が、受信信号のノイズとなり受信感度の し、DPD からの信号を近接してパッケージに搭載されてい 劣化となる。一般的にノイズは、受信感度の 12dB 以下で る増幅器(TIA : Transimpedance Amplifier)の出力をモニ ある必要が計算結果から得られている。今回の開発の中で、 ターしている。この結果から、GND リードが LD から離れ 電気クロストークが低減できるパッケージ構造、デバイス ている場合で 1 本の場合は、ノイズが最大で-75dB に対し、 配置をシミュレーションによって計算した。図 4 に結果を GND リードを LD に近接させ 2 本にすることでノイズが 示す。図中での濃淡は、電磁界の大きさを示している。 -90dB の低減が確認された。このことは、LD の変調信号が パッケージを介して DPD や TIA 電源のノイズ源になってい ることを意味し、GND リードを付加することで LD の電磁 GNDリード 電界分布 界分布が変化し、ノイズ低減に効果的であったと考えられ 磁界分布 る。 LD 4−2 送信部 構 造 A 光クロストーク LD 光は、WDM フィルタで 反射されるがこの際 LD の FFP(Far Field Pattern)は 30 ∼ 受信部 35 °と大きいため一部 WDM フィルタで反射されない光が Detector PD LD ON(GND1本) パッケージ内で迷光となり、DPD で受光される。これらを 低減するために、WDM フィルタおよび CUT フィルタを保 構 造 B 持するフィルタキャリアの導入とキャップ内部に光吸収膜 を付加することによって、光クロストークを-30dB から40dB に低減できた。図 6 に光クロストークの評価結果を LD ON(GND2本) 示す。平均-39dB、σ= 2.6dB の分布が得られており、フィ 図4 電磁界シミュレーション ルタキャリアと光吸収膜の効果が確認された。 パッケージ内の構造は、光学系との関係から固定として、 裏面のグランドリード(GND リード)の配置による電磁界 12 リードを 1 本配置した構造 A では、LD に印加される変調信 10 号による電磁界が DPD にもれていることが分かる。一方送 8 信部と受信部をそれぞれ構成したリード間に GND リード 6 Count の影響を計算した。受信部を構成するリード間に GND を 2 本配置した構造 B では、LD の電磁界が閉じ込められ、 DPD への影響が低減されていることが確認される。 n = 36 Avg. -39.1dB Stdev. 2.6dB 4 Intensity(dB) -75 -80 LD ON (GND1本) -29.0 -31.0 -33.0 -35.0 -37.0 -39.0 -41.0 -43.0 -70 -45.0 0 -47.0 2 LD ON(GND2本) Internal Optical Crosstalk(dBm) LD ON (GND2本) 図6 クロストーク特性 -85 -90 5. -95 -100 -105 0.0 0.5 LD OFF 1.0 1.5 2.0 2.5 LD ON(GND1本) 3.0 Frequency(GHz) 図5 クロストーク特性 デバイスの製作 はじめにパッケージ上に、Heatsink を介して LD、更に Submount を介して DPD が AuSn 半田で実装される。この時 LD と DPD はパッケージ外径を基準に高精度に実装される ため、LD と DPD の相対位置も高精度に管理できる。その 後 Monitor PD、TIA が樹脂で実装される。Au ワイヤで配線 2 0 0 8 年 7 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 173 号 −( 81 )− ルタキャリアが樹脂で実装され、UV 固定される。その後、 レンズ付キャップでハーメチックシールされ、キャップに 対してレセプタクルが 3 軸調芯されて UV 樹脂で固定され る。調芯の際は、LD を発光させて、所望の光出力にレセ プタクルが調芯される。 6. Central wavelength(nm) した後に、WDM フィルタと CUT フィルタを搭載したフィ 1340 1330 1320 1310 1300 1290 1280 TIA OFF TIA ON 1270 -50 送受信特性 -25 0 図 7 は、ONU の光出力分布を示す。駆動電流がしきい値 電流+ 20mA の時、目標の光出力が-3dBm に対し、平均で 25 50 75 100 Temperature(deg.C) 図 9 -40 ℃∼ 85 ℃における TIA 駆動電源 OFF/ON の時の LD 発振中心波長特性 -2.9dBm、σ= 0.12dBm の分布が得られている。 一方、図 8 は、感度の分布を示す。平均 0.85A/W、σ= 0.08A/W の分布が得られており、この結果から LD と DPD 1.0 の相対位置実装が設計値となる± 20μm 以下であることが 0.9 Fiber Output Power(mW) 確認された。 一つのパッケージに送受信デバイスと TIA が加わること によって、発生する熱量が大きくなることが予想される。 そのことで LD の温度が上昇し温度特性を劣化させること が懸念される。図 9 は、横軸に環境温度と縦軸に LD の発 振中心波長を測定した結果である。TIA の off と on で約 4 ℃ の温度上昇が確認された。図 10 は TIA が on の時の LD の温 12 10 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 n = 30 Avg. -2.9dBm Stdev. 0.1dBm 0 20 40 60 Operating Current(mA) 8 Count 0.8 6 図 10.-40 ∼ 85 ℃における電流−光出力特性 4 2 -2.4 -2.6 -2.8 -3.0 -3.2 -3.4 度特性を示す。-40 ∼ 85 ℃の温度範囲でも光出力は 0.5mW -3.6 0 (-3dBm)以上得られており、実用レベルの特性が得られて おり、TIA の熱の影響は小さいことが確認された。 Fiber Output Power(dBm) 図 11 は、光軸ずれを評価するためにトラッキングエ 図7 光出力分布 ラーを評価した結果である。-40 ∼ 85 ℃の広い温度範囲に 光軸固定が従来の YAG レーザ溶接による方法と同程度の 固定精度であることが確認された。また、パッケージ内に n = 28 Avg. 0.85A/W Stdev. 0.08A/W 固定されたフィルタやフィルタキャリアの樹脂固定に対し ても、広い温度範囲で光軸ずれの影響が少ないことが確認 された。 図 12 にベッセル・トムソンフィルタ通過後の、1.25Gbps、 27-1、PRBS 信号における光出力波形を示しており、良好な 1.100 1.000 0.900 0.800 アイ開口が得られた。 0.700 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0.600 Count わたって、± 1dB 以内と良好な結果が得られ、樹脂による 図 13 に、DC 感度が 0.8A/W の時、LD が OFF の時と、 ON(Full Duplex)の時の受信感度特性(動特性)を示す。 DC Sensitivity(A/W) LD が OFF のとき、BER = 10 -10 で最小受信感度は-30.4dBm、 図8 LD が ON の場合では、最小受信感度は-30dBm であり、LD DC 感度 −( 82 )− 超小型一心双方向デバイスの開発 が ON と OFF の時の受信感度差で表されるクロストークペ ナルティは 0.4dB と良好な特性が得られた。この結果から クロストークが十分に低減されていることが確認された。 7. 結 言 デジタルの送受信を行う LD、DPD を同一パッケージ内 に実装する 1 パッケージ技術を開発し、超小型で安価な一 心双方向デバイスを開発した。伝送特性に影響を与える電 気、光クロストークを低減し、要求性能を満たすことを確 認した。 2.0 1.0 0.0 ・ Ethernet /イーサネットは、富士ゼロックス株式会社の登録商標です。 -1.0 -2.0 -3.0 -50 -25 0 25 50 75 100 Temperature(deg.C) 図 11 参 考 文 献 (1)ITU-T Recommendation G983.1,“ Broadband optical access systems based on passive optical networks (PON)” (1998) トラッキングエラー特性 (2)T. Kurosaki et al.,“Full duplex 1300/1550-nm-WDM optical transceiver modules for ATM-PON systems using PLC-hybrid-integration and CMOS IC technologies” , ECOC’ 98, Technical Digests vol. 1, pp. 631-632(1998) GbEレート/PRBS27-1 (3)H. Nakanishi et al.,“A 1.3/1.55μm bi-directional optical transceiver module using a simple straight optical waveguide structure” , ECOC’99, pp. 312-313(1999) (4)中西裕美他、「ATM-PON 用 1.3/1.55μm 光送受信モジュールの 開発」、SEI テクニカルレビュー、Vol.157、 p. 55(2000) (5)中西裕美他、「直線型光導波路とフィルタ付 PD を用いた 1.3/1.55 μm 光送受信モジュールの開発」、電子情報通信学会論文誌 C、 Vol.J84-C、No.9、p.831-838 (6)Y. Kuhara, et al,“Design and Analysis of A Novel BiDirectional Transceiver with -40dBm Full-Duplex Sensitivity for ATM-PON ONU” , OHAN/FSAN2001, April(2001) 図 12 (7)中西裕美他、 「イーサネットに適合した一芯双方向 1.3/1.55μm 光 送受信モジュールの開発」、SEI テクニカルレビュー、No.160、 March(2002) 光出力波形 10-2 執 筆 者 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------木 原 利 彰*:伝送デバイス研究所 光通信デバイス研究部 鈴 木 三 千 男 :伝送デバイス研究所 光通信デバイス研究部 Full Duplex Pf= -6dBmm, Er = 10dB @BER 10-10 10-3 塩 崎 学 :解析技術研究センター 主席 吉 田 享 広 :光伝送デバイス事業部 光デバイス技術部 主席 松 村 豊 :光伝送デバイス事業部 光デバイス技術部 グループ長 Bit error ratio Tracking Error(dB) 3.0 中 西 裕 美 :伝送デバイス研究所 光通信デバイス研究部 グループ長 部門スペシャリスト --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 10-4 10-5 10 *主執筆者 -6 10-7 10-8 LD OFF 10-9 10-10 10-11 10-12 10-13 -36 -34 -32 -30 -28 -26 -24 -22 Optical Input Power(dBm) 図 13 最小受信感度 2 0 0 8 年 7 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 173 号 −( 83 )−
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