技術力の向上にむけた取組み 設計VE活動による技術力の継承 かわ の まさる 河 野 勝* 1.はじめに 能力を活用した改善が必要となる。 大分県では、長期総合計画である「安心・活力・ しかし、行財政改革や団塊の世代の熟練技術職員 発展プラン2005」の着実な実行及び「大分県行財政 の退職などにより事業量や職員数が減少し、「技術 高度化指針」に掲げる行政の質の向上と行革実践力 力」の継承が課題となっている。 の発揮を目標として、政策県庁の実現に向けて取り 組んでいる。 そこで、本県では、公共事業の改善手法として、 VE(バリュー・エンジニアリング)を適用し、設 中でも、土木建築部では、長期総合計画を補完す る「土木未来(ときめき)プラン」を着実に推進す 計VE活動を通じて「技術力」や「知識」の継承に 取り組んでいるので、今回その内容を紹介する。 るため、職員の「共通の価値観」と「行動指針」を 『土木未来(ときめき)宣言』と称して規定し、県 2.VEとは 民が主役の、県民とともに進める土木建築行政に取 VEは、1947年に米国で誕生した管理技術で、「最 り組み、そして「職員の使命」 、 「心得3原則」を心 低のライフサイクル・コストで、必要な機能を確実 に刻み、 「3つの行動指針」に基づき、職員の自由 に達成するために、製品やサービスの機能的研究に な発想と仕事への熱意、県民への想いを育て、これ 注ぐ組織的努力である。」と定義され、日本では価 を最大限に活用できる活力ある組織づくり「活性化 値工学と呼ばれている。 その特徴は、使用者が製品やサービスに求める「機 スパイラル」を進めている。 心 得 3 原 則 能」とそれを達成するための「コスト」の関係を分 析し、「価値」を創造していくところにある。 ①県民優先の原則 ②地域密着の原則 ③価値向上の原則 ⑴ 設計VEの特徴 VEには、価値の高い製品やサービスを生み出す 行 動 指 針 1.私たちは、すぐに駆けつけます ための活動を正しい方向に導く指針として、次の5 つの原則がある。 2.私たちは、よく見、よく聞きます 1.使用者優先の原則 3.私たちは、常に改善していきます 2.機能本位の原則 図−1 職員の共通の価値感と行動指針 3.創造による変更の原則 4.チームデザインの原則 土木建築部は、社会資本の整備や管理を通して、 地域の生活文化を支え、県民の生命財産を守ってお り、多様化・高度化する県民ニーズに的確に対応す 5.価値向上の原則 中でも、公共事業へのVE適用においては、次の 3つが最も際立っている。 るためには、既存の枠組にとらわれない発想・意欲・ *大分県 土木建築部 建設政策課 技術・情報システム班 097-506-4559 月刊建設14−06 49 ①使用者優先の原則(使用者本位) を確保しつつコストの最適化を目指し、価値の高い 公共事業の価値は使用者(利用者や住民)が決 めるものであり、作り手が決めるものではない。 このため、常に、使用者の立場で考え、使用者 が必要としている機能とその最適なコストを追求 計画や設計を目指すものである。 本県の導入目的は、次の3つとなる。 ①職員の意識改革・技術力向上 人は一般的に経験や習慣を重視する傾向にあり、 する基本姿勢が必要となる。 現状維持の姿勢になりがちである。しかし、使用 ②機能本位の原則(機能的アプローチ) 者が望む公共事業をより最適なコストで提供し、 私たちが問題解決に取り組む時、その本質(機 能)を捉えないまま検討していることがある。そ の結果、潜在化していた問題が顕在化するなど、 問題が一層悪化することもある。 県民の満足度を上げるためには、現状維持の姿勢 から改善意識の徹底が必要不可欠である。 また、設計VE活動のプロジェクトチームは、 熟練職員と若年職員を融合した10名程度で結成し このため、問題解決に取り組むには、まず本質 ている。その実践活動は、現地踏査などの事前活 (機能)を捉え、本質(機能)本位をもとにした 動に1日、実施活動に2日×2回の計5日が必要 アイデア発想が必要となってくる。 従来の改善方法 となる。ただし、事前準備やメンバーの自主的な VEによる改善方法 情報収集などの期間を途中で設けるため、開始か ら完了まで約2ヵ月を要している。 現状のモノ 改善後のモノ 現状のモノ 改善後のモノ 活動においては、常に使用者(地域住民)の立 モノ本位の改善 機能本位の アイデア発想 機能分析 機能 図−2 改善方法の比較 ③チームデザインの原則 個人による改善には限界がある。このため、設 計VE活動は、さまざまな分野の専門知識や技術 場で、使用者が要求する機能とそれに費やすべき 最適なコストの関係を分析し、公共事業の価値向 上を目指している。 こうした設計VEの実践活動を通して、職員の 意識改革を促し、土木等の専門技術の継承や研鑽 に繋げている。 を持った職員を集めたプロジェクトチームを結成 して行っている。そのメンバー全員が、必要な情 報を共有して共通の基盤に立ち、目標に向かって 一丸となって改善案を検討することにより、個人 のレベルをはるかに超えるアイデアの創造につな がる。 ⑵ 設計VE導入の目的 本県では、平成16年度から公共事業の設計VEに 取り組んでいる。設計VEとは、これまでに行って きた手法や既往の設計を否定するものではなく、改 善余地が、まだあることを前提として、必要な機能 50 月刊建設14−06 写真−1 設計VE活動状況 技術力の向上にむけた取組み ②コスト縮減 公共事業のライフサイクル・コストは、計画・ ゼンテーション能力の向上を目的に設計VE活動の 報告会も兼ねて実施している。 設計の段階で約8割が決まると言われ、プロジェ さらに、多くの職員がVEスキルを高めるため、 クトの早い段階で改善することにより、コスト縮 資格取得に励んでおり、平成25年度末現在、172名 減効果が大きくなる。 のVEリーダー(※VEL)と6名のVEスペシャリス このため、設計段階にVEを適用し、公共事業 のコスト削減を図っている。 本県では、平成16年度から25年度までの10年間 に29件の設計VE活動を実践し、約130億円のコス ト(※VES)を輩出している。 現在、VEスペシャリスト資格を取得した職員が VE基礎講座の講師を務めており、VEスキルの相互 の継承も行っている。 ト縮減提案を行った。 また、昨年度からさらなるコスト改善効果を図 るため、設計段階よりも上流域である企画・構想 段階へのVE適用に取り組んでいる。 ③コスト以外の問題解決 公共事業を実施するうえでは、コスト以外にも さまざまな問題を解決していかなければならない。 そこで、VEの「思想」と「テクニック」を正し 図−3 VE基礎講座受講者とVEL合格者数 く理解し実践することにより、使用者ニーズの反 映や環境負荷の軽減など個々の事業に潜在してい 4.おわりに る問題を洗い出し、改善することも可能となる。 公共事業における設計VEの導入と活用に取り組 また、平成25年度から日常業務における課題に む発注機関が連携した任意組織として「全国設計 も着目し、業務の効率性・確実性等の向上を図る VE推進研究会」を平成19年度に設立し、VEの有効 ためのVE(ソフトVE)にも取り組んでいる。 活用に関する情報交換や研究を行うとともに、設計 VEの普及・推進を通じて公共事業の価値向上を推 3.人材の育成 本県では、土木や建築等の公共事業に携わる職員 などを対象にVEスキルを習得とするための研修 (VE基礎講座)を平成16年度から毎年実施している。 平成25年度末現在、503名が受講した。 また、設計VE活動への理解と支援を目的とした 進している。 平成25年度は、愛知県において19の発注機関が参 加し2日間の活動を行った。 平成26年度は「青森県」で開催を予定しているの で、設計VEに関心をお持ちの発注機関の方がおら れましたら、参加をお待ちしています。 管理・監督者研修や設計VE活動のチームリーダー を育成するスキルアップ研修など、さまざまな研修 会を実施している。 このうち、管理・監督者研修は、若手職員のプレ ※VEL:VE活動の基礎知識をもっている人材であることを 日本VE協会が認定する資格 VES:組織としてVEを推進し、VE専門家として備える べき諸知識や技術、経験を持っている人材である ことを日本VE協会が認定する資格 月刊建設14−06 51
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