対面決済における決済サービスの方向性

第 106 号(2014017)
2014 年 5 月 7 日
みずほ銀行 産業調査部
Mizuho Short Industry Focus
対面決済における決済サービスの方向性~新たなインターフェイスのモバイル決済への応用~
【要旨】

現金からクレジットカードなどへの決済手段のシフトや電子マネーの普及、EC 市場の拡大などに伴って、
電子決済市場がますます広がりを見せる中で、Google Wallet や PayPal といった Wallet サービスをはじめと
した多くの決済サービスが展開されており、電子決済市場は過渡期を迎えている

非接触型のモバイル決済の普及やモバイル端末の高機能化を背景として、インターフェイスの面で多様
なサービスが登場しているが、店舗運営事業者は導入の目的と各々のサービスの特徴を踏まえて適切な
サービスを選択する必要がある

店舗運営事業者は、新たな決済サービスのメリットを享受するための仕組みの整備や、自社の提供する
商品・サービスの質向上などに活かすことを見据えながら、事業戦略全体を展望して新たな決済サービ
スの導入を検討すべきである
電子決済市場は
成長過程
現金からクレジットカードなどへの決済手段のシフトや電子マネーの普及、EC 市場の拡
大などを背景として、非現金決済の領域がますます拡大している。しかし、依然として日本
国内の個人消費の約 56%は現金決済であり、電子決済が広がる余地は大きいことから、電
子決済市場は引き続き成長過程にあると言えよう。
対面決済におけ
る非現金決済の
歴史・トレンド
リアル店舗における非現金決済では、媒体としてはこれまでクレジットカードや電子マネ
ー(特に IC 乗車券一体型)といったプラスチックカードが一般的であった。当初は磁気を読
み取る形式であったが、セキュリティの問題もあり、IC チップを活用した形態が広がっていっ
た。その後、FeliCa1の登場や、携帯端末を使ったおサイフケータイの普及等により、従来の
磁気や IC チップによる接触型決済から、非接触型のモバイル決済の比率が高まっていっ
た。モバイル決済においては、昨今は米 Google 社や米 PayPal 社をはじめとした Wallet サ
ービス2への参入企業が相次いでいる。それに合わせて、決済を行う際の通信方法・データ
読取方法といったインターフェイス面での多様なサービスが登場している(【図表 1】)。
NFC の普及のた
めには、 サービ
スの付加価値向
上に向けた工夫
が必要
日本においては、磁気カードを経て IC カードが普及したのと並行して、IC 乗車券一体型
の電子マネーをはじめとする FeliCa を採用した決済サービスが登場し、非接触型の決済サ
ービスが普及している。FeliCa は通信速度が速く、駅の改札や混雑している店舗などにお
ける短時間での小額決済に向いている。一方、海外では FeliCa とは互換性のない NFC
Type-A・B (以下「NFC」と表記)3の方式が主流となりつつあり、日本においても NFC 対応
の決済サービスの普及に向けた動きがある。NFC 対応の決済サービスは、非接触決済に
慣れた日本の消費者にとっては抵抗感が少ないことから、NFC 対応の店舗が増えれば
FeliCa の延長線上で利用される可能性がある。しかし NFC については、決済端末の導入を
検討する店舗にとって、NFC 対応の決済端末の導入コストに見合うメリットを考える際、既に
普及している FeliCa 対応の決済端末を置き換えるほどのインセンティブが働きにくいことも
想定される。よって、自然体での NFC 対応端末の拡大には相応に時間がかかるものと思わ
1
非接触 IC カードの通信技術の一種で、日本国内では鉄道系電子マネーなどに採用され、広く普及している。
2
モバイル端末のアプリ上で、決済、ポイント、クーポンなどの複数の機能を集約して利用できるようにするサービス。
3
Near Field Communication の略で、非接触 IC カードの近距離無線通信技術のこと。日本国内では FeliCa が普及しているが、日本以外の市場では国際
標準である Type-A・B の NFC が普及しつつある。
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れるが、足許では国際ブランドを中心に加盟店端末の設置強化が行われており、今後の動
向が注目されている。これに加えて NFC が今後より一層普及していくためには、サービスの
付加価値向上に向けた工夫を行い、消費者と店舗運営事業者の双方にとってよりメリットの
あるサービスとすることが肝要となろう。
【図表1】新たなインターフェイスの代表例
インターフェイス
代表的な
サービス名
特徴
NFC Type-A・B
QRコード
ビーコン
(Bluetooth Low Energy)
J/Speedy, ExpressPay,
PayPass, payWave
znap
PayPalビーコン
(リリース未済)
 通信距離は比較的狭い
(10cm程度)
 通信速度は比較的早い
 プル型(かざす動作が必要)
 国際規格
 FeliCaとの互換性なし
 QRコードスキャンで認証
 プル型(QRコードスキャンが
必要)
 通信距離は比較的広い(50m
程度)
 通信速度は比較的遅い
 プッシュ型(かざす・読取等の
動作が不要)
 位置情報の把握が可能
販売店
メリット
 短時間に多くの処理が可能
 コストが低い
 導入が簡易(販売店はQR
コードを貼付、販売端末にア
プリをダウンロード)
 コストが低い
 導入が簡易(販売店は店内
にビーコンを設置、販売店端
末にアプリをダウンロード)
 顧客動線把握に利用可能
 プッシュ通知で商品・サービ
スの情報提供やクーポン配
布、ポイント付与が可能
顧客
メリット
 素早い決済が可能
 ポイントカードや利用店舗の
クーポンの登録による一元化
が可能
 提携するポイントカードや利
用店舗のクーポンの登録に
よる一元化が可能
 非対面決済にも利用可能(対
面・非対面決済手段の一元
化)
 提携するポイントカードや利
用店舗のクーポンの登録に
よる一元化が可能
 リアルタイムで商品・サービ
スの情報やクーポン、ポイン
トの受け取りが可能
(出所)各種公開情報よりみずほ銀行産業調査部作成
ポイント・クーポ
ンとの連携によ
る消費者の利便
性向上
香港 MpayMe 社からリリースされた「znap」は、インターフェイスに QR コード4を採用してい
る。znap は、QR コードをスキャンすることで認証が可能なことから、利用者の裾野は広いと
言えよう。消費者は、提携するポイントカードや利用店舗のクーポンを登録することで、モバ
イル端末内にそれらを一元化することが可能となるほか、対面決済のみならず、オンライン
ショッピングなどでの非対面決済にも利用できる。販売店舗にとっては、販売端末にアプリ
をダウンロードし、店内に QR コードを掲示することなどによって利用可能となるため導入が
簡易である。また、QR コードの掲示にかかるコストが低いことから、販売事業者は低価格の
商品・サービスのクーポン等に活用しやすい。今後は、QR コード決済を使えるシーンの拡
大と、利用者の認知度の向上、魅力的な提携ポイントカードやクーポンラインアップの拡充
などによるほかの決済サービスとの差別化を図る必要があろう。
位置情報等のビ
ッグデータ活用
2013 年 9 月に米 PayPal 社より発表され、近々サービスインが予定されている「PayPal ビ
ーコン」には、インターフェイスとして Bluetooth5の拡張仕様の一つである Bluetooth Low
Energy(BLE)を活用した「ビーコン」が採用された。ビーコンでは、比較的広い範囲の通信
も可能なことから、プッシュ通知で商品・サービスの情報提供や、クーポンの配布などが可
能となる。また、位置情報の把握ができ、顧客動線把握が可能となることから、ビーコンは決
済のみならず、店舗データのマーケティング面での活用やコンサルティング、顧客属性デ
ータを合わせたビッグデータ分析などに応用することができる(【図表 2】)。
4
小さな正方形の点をモザイク状に組み合わせて作られたマトリクス型二次元コード。
5
モバイル端末やワイヤレス PC 周辺機器をはじめとしたデジタル機器用の近距離無線通信規格の一つ。
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インターフェイス
の違いによる活
用シーンの違い
これらの特徴からビーコンは、付加価値の高い商品・サービスを提供する店舗や、ホテル、
テーマパーク、大型のショッピング施設等の時間消費型施設などにおける、比較的大きい
金額の決済に適していると考えられる。一方で、実際の決済時には購入商品・サービスと本
人の紐付け(認証)が必要となることを勘案すれば、短時間で多くの処理が必要となるシー
ンでは活用が難しいと想定される。
【図表2】ビーコンの活用イメージ
顧客動線の把握
非接触決済
商品情報提供
チェックイン
クーポン
セール、キャン
ペーン情報
(出所)Estimote Beacons Retail Applications よりみずほ銀行産業調査部作成
NFC を活用した非接触決済の足許の普及に時間がかかっていることや、米 Apple 社が
iPhone 5S への NFC 搭載を見送った一方でビーコン(iBeacon)を採用したことなどから、一
部ではビーコンは NFC に代わる非接触決済普及におけるインターフェイスの本命であると
いう見方もあるが、それぞれの特徴を勘案すれば、ビーコンは NFC や FeliCa と代替関係と
いうより、むしろ相互補完的に異なるシーンでの活用が進むのではないかと筆者は考える。
店舗運営事業者
は事業戦略全体
の観点から決済
サービスの導入
検討を行うべき
ビーコンの機能を活用することで、ホテルやテーマパークなどで顧客のチェックインやチ
ェックアウトの自動化が可能となれば、業務負担が軽減され、スタッフは顧客とのコミュニケ
ーションやホスピタリティの向上に集中できる。また、顧客動線の把握によって得られた情
報を、新たなサービスの開発やスムーズな送客に活かすこともできよう。ショッピング施設で
は、商品・サービスの提供エリアに近づいた顧客に一般的な情報を提供することができ、ス
タッフはそれぞれの顧客の嗜好やニーズをより深掘りして商品・サービスの説明に注力でき
る。このようなメリットを最大限に享受するためには、得られた情報の分析や、商品・サービ
スを企画する人材開発をはじめとしたソフト面の投資の必要もあろう。また、商品・サービス
の付加価値を高めるための接客スタッフの教育も重要であることにも留意しなければならな
い。これらを踏まえながら、店舗運営事業者は、決済という面だけでなく広く事業戦略全体
を見据えて新たなインターフェイス導入を検討すべきであろう。
みずほ銀行 産業調査部
メディア・サービスチーム 西田 優介
TEL: 03-6736-0125
E-mail: [email protected]
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