ハンドルネームへの誹謗中傷を法的手段で対応する場合についての検討

ハンドルネームへの誹謗中傷を法的手段で対応する場合についての検討
刑事罰を科すことが可能なのであれば、当然のこととして民事で犯人を訴えることができるはずであるから、
まず民法 709 条による民事の場合について考えてみる。
民法 709 条
故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を
賠償する責任を負う。
この条文からするところの『権利または法律上保護される利益』に HN が該当するか否かについて、
HN という概念はデジタルチックなので、すこしアナログな類似例を考えてみた。
芸能人がよく使う『芸名』みたいなものであるということを一言、ここに書いておく。
『権利または法律上保護される利益』の説明は、
(http://minnpou.blog81.fc2.com/?tag=%E6%B3%95%E5%BE%8B%E4%B8%8A%E4%BF%9D%E8%AD%B7
%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%88%A9%E7%9B%8A)
他人の権利には,大きく分けて,財産権,人格権及び身分権があります。
財産権とは,その名のとおり,財産に関する権利です。 財産権は多種多様ですが,さらに分類すれば,
物権と債権とに分かれます。
人格権とは,例えば,身体,自由に関する権利や名誉権などを挙げることができます。 名誉棄損などの
場合が典型的です。
身分権とは,身分に関する権利,例えば,代表者としての身分とか,親権者としての身分とか,配偶者と
しての身分などが挙げられます。 他の権利に比べれば,身分権侵害が不法行為として問題となる事例
は少ないでしょう。
法律上保護される利益とは,上記の権利そのものよりは広い概念となります。 つまり,厳密に言うと権利
として認められないものではあっても,何らかの法律上の保護が必要と考えられる利益については,この
法律上保護される利益に含まれることになります
他に、
佃克彦『名誉毀損の法律実務
2 版』弘文堂〔2008 年 10 月〕117-119 頁
仮名(HN)を用いたとしても、当該ホームページの一般の読者を規準としてある人物を特定できる場合には、当該特
定人に対する名誉毀損が成立する。このことに問題はない。問題となるのは、当該仮名から現実の具体的人物を特定
できない場合である(http://aoigyousei.sakura.ne.jp/aoi007/nb004.html)※1
本人が特定できなくても、いわばヴァーチャルな世界での社会的評価が低下したと言える場面もあるでしょうが、そ
の場合でも、その人のネットの外の現実世界での社会的評価は低下しません。そのような場合まで法律で保護する必
要があるのかということが問題になるのですが、名誉毀損の成立を広く認めれば、一方で表現の自由は狭くなるとい
う緊張関係にあることも考慮しなければなりません。(http://j-net21.smrj.go.jp/well/law/column/3_8.html)※2
といった、参考になるものを添えたうえで、話を戻す。
HN という話だとデジタルチックになるので、芸名という点で考えてみたいと思う。
芸名だと芸名を誹謗中傷したら名誉毀損成立する、だって和田アキ子って言えば、
「その人」が誰か、あの鐘を鳴らす
のはあなたって歌ってる人だと解る。この場合、名誉棄損は成立するが芸能人の場合は公人と同じようなものである
という説が長く使われてきたので、名誉棄損の不法行為の度合いは低く見積もられる。
では、これが※1にあるような架空の人物であった場合どうであろうか?たとえば、和田アキ子ではなく、仮面ライ
ダーを誹謗中傷した場合、名誉棄損は成立するであろうか?当然成立しない。
ここで、※2の点について着目する、名誉棄損と表現の自由との緊張関係についてである。
私たちは、HN を自分の名前のように使っているので、あたかもそれが自分自身への被害のように錯覚するが、
誹謗中傷を受けたことがある人からしてみれば、
街中で公然と実名を罵られるのと、ネット上で HN へ誹謗中傷されるのとでは、
「嫌な思い」の感じが少し違うということは実感していると思う。
人格権に起因する人の名誉を侵害する行為である名誉棄損と、ネットで受ける HN への誹謗中傷には違いがある。
「嫌な思い」の感じ方が違う。
表現の自由についてさらに注目してみたいと思う。ここからは、名誉棄損の話からは外れる。
仮面ライダーが、ショッカーにボコボコにやられて、アルコール中毒になって、、
、というような、
作品を書いた場合、これは表現の自由の侵害にあたる。これは、民法第 709 条の不法行為にあたるだろう。
つまり、HN(仮面ライダー)を誹謗中傷(ボコボコにされて、アル中になって、、という作品を書く)という、
行為がネット上で起きている現象になり第 709 条の不法行為になる。という仮定を立てるとしっくりとくる。
仮面ライダーであろうが、四朗であろうが、花子であろうが、普遍的に対応できる。流動的ではない。
利用するネット掲示板や、SNS 等のインターネット媒体において、そのサービスの利用規約を工夫することで、
お互いの表現物である HN への誹謗中傷を民法上の不法行為として扱うことは可能であると考える。
(表現の自由の衝突が正当なものか不当な行為かという判断基準として SNS 等の利用規約は重要である)
この際においての、刑事的な側面については、また後日検討することとする。