平成25年度ハラスメント研修会報告書

ハラスメント研修会報告
日時 : 平成 26 年 2 月 12 日(木)16:15~17:15
場所 : 病院 病棟・中央診療棟 3 階 大ホール
出席者: 65 名
1 副理事長挨拶
副理事長より、
「教職員および学生のひとりひとりが、ハラスメントの問題についてしっかりと考えて
今後に繋げていただきたいと思います。
」と今回の研修に対して期待が述べられた。
2 講演 演題:
「DV とストーカー問題について、アカデミック・ハラスメントと研究倫理の問題について」
講師:北仲 千里先生(広島大学ハラスメント相談室 准教授)
(1)DV とストーカー問題
ア ドメスティック・バイオレンス(Domestic violence, DV)とは
「ドメスティック・バイオレンス」
(以下、DV という。
)とは、夫婦や恋人、好意を寄せた相手など、
親密な関係にある人(あった人)から脅迫、侮辱、非難、抑圧、殴るなどさまざまな方法で自由を奪
われ、人間としての尊厳を否定され、支配されることをいう。
○具体例 ・身体的暴力(殴る、蹴る、壁にものをぶつける)
・行動の監視・コントロール・束縛(携帯メールなどで行動を報告させる、外出制限)
・精神的ないじめ(ひどい言葉で相手をバカにする、車から突然降ろす)
・経済的な搾取(借金をさせる、携帯代は全部払わせる)
・性的な暴力 (避妊に協力しない、妊娠しているのに大切にしない)
イ DV の特徴
○被害者のおちいる特有の逃れ難さ
DV の被害者にキャラクター的な特徴があるわけではないが、似たような発想をし、恐怖や離婚後
の生活に対する不安、加害者に対する愛情、世間体などから周りには中々打ち明けないという特徴が
ある。また、怖くて家を出ても何度も戻ってしまう性質がある。
○加害者の特有さ
DV 加害者は、特定の年齢や社会的地位は関係な
く、男性が加害者である場合が多い。誰に対しても
暴れたり、攻撃したりする人だとは言えず、親密な
相手にだけはそういう態度をとると指摘されている。
また、DV 加害者は、人を操り、惑わすことが得
意で取り調べや離婚の話し合いの中でも全く違うス
トーリーを言い、自分は立ててもらって、当たり前
だと思っている「器の小さい」タイプである。
北仲 千里 講師
○周囲の人・世間の容認、介入、誤解
1999 年に名古屋市が行った意識調査の中で「妻が病床についているときでも家事はせず妻にさせ
ること」について、
「してもよいと思う」
「どちらかといえばしてもよいと思う」のどちらかに○をつ
けた男性は47.6%であった。これは DV 的な考えであり、調査結果からも DV を許す土壌は一
般市民の中にあると言える。
1
ウ 学生の間にも DV はある
英語で「Dating Violence」や「Date rape」というが、最近の日本では「デート DV」という
言葉で広まりつつある。具体例としては大学のゼミ合宿なのに「彼氏が怒るからいけません」とい
った嫉妬や束縛がある。
エ DV 事例対応の道筋
① 被害者本人の決断
DV 被害については、医療機関や気付いた人等は児童虐待と同じように警察への通報義務がある
が、本人の意思を確認して通報する必要がある。DV の場合は、本人が決断して離れようと決めな
い限り何回引き離しても怖くて加害者のところへ戻ってしまう可能性があるからである。
② 支配から逃れる初期的支援
・相談先:県や市の「配偶者暴力相談支援センター」
「警察(生活安全課)
」
・地方裁判所による「保護命令」
(近づくな、自宅から退去せよ、等)
③生活の自立支援
④離婚裁判などの支援
○ デート DV への対応について
これまで日本の DV 法は、
法律上の夫婦か内縁の夫婦しか、
裁判所の保護命令は使えなかった。
しかし、2014 年 1 月から施行される DV 防止法により、
「生活の本拠を共にする交際相手」につ
いても対象になったため、住民票が一つでなくても同棲しているカップルであれば法律で守れる
ようになった。
(2) ストーカー・ケースについて
ア 「ストーカー」
「ストーキング」とは
ストーカーとは、ストーキングを行う人のことで
ストーキングとは、特定の相手に一方的に尋常でな
い執着をよせて追いかけ回す行動、相手が嫌がって
いるにもかかわらず、その気持ちを無視して監視・
追跡を繰り返す行動のことである。
イ 関係性でみるストーキング行為のタイプ
・スター・ストーカー :タレント、大統領のように有名人が対象
・エグゼクティブ・ストーカー:医者、看護師、教師等、人々のお世話をする職業の人々が対象
○関係によって様々ストーカーがあるが、実際よくみるのは次の 3 タイプである。
・イノセントタイプ: 一方的に片思い。ふられても受け入れない。勝手にたまたま興味をもった。
・挫折愛タイプ:いったん恋人関係だった。
・破婚タイプ:もともと夫婦だった。
ウ ストーカー・ケースへの支援・対応
第一の課題は「ストーカーを止めさせる」ことである。そのために、誰が警告すれば(上司・警察・
弁護士等)効果があるのかを工夫し、DV 的な危険性が高い場合は、避難させる必要がある。
教員や学生から「気持ち悪いメールが来る」
、
「家の前に立っている」といった相談があった場合は、
最初に加害者に対して、拒絶の意志を明確に伝えるための相談に乗る。そこから、被害者には加害者
に対して、2 度と返事や約束をしないようにさせ、それでもストーカーが止まらない場合は、警察や
上司などから、警告をさせる。その際、加害者は自分よりも権力の弱い男性から介入されるとジェラ
シーの対象となって非常に危険なため注意する。また、メール等は消去せず、記録として残すよう指
示する。
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(3)アカデミック・ハラスメントと研究倫理
ア 教育指導への期待に対する裏切り
大学の場合アカデミック・ハラスメント(以下、アカハラという)で、1番被害が多いのは「ネグ
レクト」である。これは、
「指導してもらえない」とか「先生の指導内容が変わるので信頼できない」
といった「よき師弟関係は何か」という深い問題に繋がっている。
また、アカハラの被害者予備軍たちが生まれるのは、全部の研究室ではなく、「言葉が通じにくい
留学生」や「異常なルールが支配している研究室」である。
イ 研究分野のサブカルチャーの違い
○ 文系領域
教員や学生の思想・信条や人間観と学問が
絡まってくるので、精神的に支配されてマイン
ドコントロールのような師弟関係の中で深いセ
クハラ関係になりやすい。
○ 理系領域
アカハラが起きてしまう基盤として、①研究費
の規模が大きく、
「チーム」での研究スタイル、
産業界との結びつきといった研究者や学生の研究活動の特質、②グローバルな競争の中で、誰よりも
早く研究成果を出すことに対する強いストレス・プレッシャー、③運営の実情としての教授に奉仕す
る小講座制がある。
・上記①②から生まれるハラスメントの典型例
典型 1:研究活動の一員としての下働きではなく、ただ単に下働きをさせられて切り捨てられる。
典型 2:不必要に長い時間研究室にいることが良いことだという風潮。
典型 3:先生の研究費で買った高価な装置や薬品をミスによって無駄にすることで叱責される。
・上記③から生まれるハラスメントの典型例
典型 :教授が講座予算を独占し、違うテーマで研究することを禁止する。本来であれば、誰もが
研究に対して対等にディスカッションできる必要があるが、それができない関係が生まれ
ており、日本は若手研究者が育たない土壌だと批判されている。
ウ 共著論文のオーサーシップをめぐるハラスメント
理系では、チームとして研究成果が生み出されるため、一つの論文が生み出されるまでに多くの人
が関わることが多い。そこでは文系のような「著作権」の枠組を適用することが難しく、「著者とは
誰のことか」
「その研究に貢献したのは誰か」
「内容に責任を持つのは誰か」といった問題が生起する。
・
「ゴースト・オーサー」
:自分は研究活動に関わったのに著者に入れてもらえなかった。
・
「ギフト・オーサー(名誉オーサー)
」
:教授だからという理由で著者に入れなければならない。
・
「著者順位の不満」
:自分が中心となった研究だか、ファーストオーサーは教授にされた。
○ 国際的なオーサーシップ 統一基準の動き
国際的には「著者を誰にすべきか」という議論が 1970 年代から医学雑誌を中心に行われ、現在
では「ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)
」の投稿規定にある程度
準じようという流れになっている。
「①構想およびデザイン、データ取得、データ分析および解釈において貢献した、
②論文作成 または重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した、
③出版原稿の最終承認を行った、以上 3 点すべてを満たさなくてはならない。
」
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○日本の研究者への調査(北仲・湯川・横山)
2011 年実施。論文生産性が高いとされる 15 大学の自然科学系(医学系除く)教員 3000 名に送付
・回収率:32.9%(回答者数 988 名)
・質問:過去 5 年間で一つ、自分の代表的な業績の著者は誰か?何をした人か?
・結果:総計 3499 人の著者のうち、14.9%、499 人が厳密に ICMJE の基準を満たした人だった。
英米では、8 割が基準を満たしている人であるため、比較すると日本はかなり低い割合である。
「ラストオーサー」である1番最後の著者は単に研究室の長、学部長だからという理由で入ってい
る割合が高かった。これは、日本の典型的な研究室の体制や小講座制といった様々な特徴が反映さ
れている可能性がある。
エ まとめ
・アカハラの問題は、研究倫理の問題と不可分であり、相談や訴訟も多いため「どのようにして研究者
が育っていくか」
(研究倫理の学びも含め)を問い直さなければならない。
・ある種のアカデミック・ハラスメントは、研究組織の構造をも背景として起こっている。そのことに
ついての検討も始める必要がある。
・
「ネグレクト」
「教育の質への不満」は、学問分野を問わずに存在する、様々な論点を内包する、深い
問題である。
3
質疑応答
Q.共著論文のオーサーシップをめぐるハラスメントについて解決方法を教えて欲しい。
A.研究不正だとはっきり言えるような「オーサーシップ」であれば、被害者から「止めてく
ださい」といった要望があれば、研究科長に相談するなどして介入する。被害者が「辛か
ったけれども大事にはしないで欲しい。」という要望がある場合は、「愚痴を聞く」こと、
「証拠の保存」や「次回は反論してくださいね」といったアドバイスをする。
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アンケート結果
①今回の研修は、今後の職業生活に役立つと思いますか。
4
②
新しく知ったこと、学んだこと
・DV は精神的な自由を奪うことも含む点。
・DV の概念が広がった。学生間の DV・ストーカーの問題はキャンパス・ハラスメントで、大
学が対応すべきことと改めて認識できた。メール等での束縛もあると思うし、今後も増えそ
う。ストーカーについても現在もあると思うし、今後増えそうと感じた。
・アカハラの詳しい内容について。
・ICMJE の基準の認知度はあまり高くないこと。
・DV について発見した時の対応について
・ハラスメント全体として解決策の難しさを実感した。
・DV について初めてゆっくり考えることができた。
・DV の考え方、法の改正、ネグレクト、共著論文の「オーサー・シップ」の考え方。
・ハラスメントと研究倫理との関連が新鮮だった。
・アカハラについては、文系と理系で特徴があり、特に理系にて根深い問題が潜んでいること
を知った。
・DV の話、ストーカー問題について。
・理系、特に医系のハラスメントの現状、DV での初期の対処方法について。
・DV・ストーカー・アカハラ全てにおいて、これまで以上に詳しく知ることができた。現在の
情勢もわかってよかった。
・ICMJE の投稿規定を知らなかった。
・アカハラの理系職場の状況について興味深い話が聞けた。
③
ハラスメント研修会で取り上げてほしいこと
・逆ハラスメント(部下が上司に、女が男に)について。
・アカハラへの対処方法、職場でのハラスメントについての対処方法、難しいだけに実例をも
っと知りたかった。
・加害者と被害者の定義について。
・休日や夜間の勤務とハラスメント、研究とハラスメントについて。
・パワハラの上司の対応について。
・職場のハラスメントとメンタルの問題の対処・対応、上司の立場での対応について。
・事例を踏まえた対応を勉強する研修会があると助かる。
・アカハラの事例について。
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