沖縄産植物から化粧品、農薬、医薬の開発をめざす 琉球大学農学部 亜熱帯生物資源科学科 生物機能開発学教授 多和田 真吉 (shinkichi TAWATA) 古くから琉球諸島の住民は長寿であることが知られている。その謎を解き、その秘密をできる限り日本全体、さらには世界 中に還元することが研究の目的である。最近、発がん・老化酵素であるPAKを抑え、癌や認知症などの多くの難病を予防・治 療しうるハーブ類がいくつかの沖縄特産物から見つかった。ギンネム、ゲットウなどである。これらのハーブ類の有効成分か ら、抗がん剤などの医薬品や美白作用のある化粧品、健康長寿をもたらす食品、あるいは農薬を開発しうる可能性がある。 ミモシンの生理活性 ギンネム (Leucaena leucocephala) 中央アメリカ原産のマメ科植物。日本本土では沖縄及び小笠原諸 島にのみ自生。 • 脱毛現象、 Crounse et al. 1962. • 植物生長抑制、 Smith and Fowden. 1966. ギンネムの茎葉部は、乾燥重量で25%ものタンパク質を含み、ビタ ミンKやカロチン含有も豊富で、家畜の嗜好性も高いため、東南ア ジアでは飼料として用いられている。 • チロシナーゼ阻害、 Thompson et al. 1969 生育も非常に早く、根、茎、葉、種子その他すべての部位を利用 することができるため、単位面積当たりのバイオマス生産高は植 物界最大である。 • 細胞周期のReversible late-G1 blocker 、 Lalande. 1990. ギンネムから発見されたミモシン(非タンパク性アミノ酸)は高付加 価値生理活性物質として利用でき、医薬・農薬や高価な化学薬品 の合成原料として利用できる可能性を持つ。 • ヒト肺がん細胞増殖抑制、 Chang et al. 1999 • タンパク合成阻害、 Serrano et al. 1983. • DNA 合成阻害、 Gilbert et al. 1995. ギンネム(Leucaena leucocephala) 植物成分由来の新規誘導体における殺虫活性 PAK1に対する新規誘導体の阻害効果 120 IC50 = 36.64 μM 120 Compound A 100 % Enzyme Activity 80 60 40 20 0 60 40 20 20 1 tr ol 10 Compound D 100 80 60 40 20 60 40 20 100 20 10 1 Co n tr ol 20 10 Compound E 80 Concentration (μM) IC50 = 6.99 μM Compound F 80 60 40 20 Concentration (μM) Compound G 100 80 60 40 20 0 120 % Enzyme Activity IC50 = 15.15 μM 20 10 1 tr ol Co n 20 10 1 Co n tr ol 0 Concentration (μM) IC50 = 339.70 μM Compound H 100 80 60 40 20 Concentration (μM) Concentration (μM) 50 20 10 tr ol 20 10 1 0 tr ol (i) AChE inhibition, (ii) Tyrosinase inhibition Concentration (μM) IC50 = 10.28 μM 120 % Enzyme Activity 100 Co n ac id A Ko jic I3 I2 I1 I B3 B2 B1 200 0 % Enzyme Activity 600 400 B 1 tr ol IC50 = 5.65 μM 120 1000 800 Concentration (μM) 0 1400 1200 20 0 Co n % Enzyme Activity Fe I3 ni t ro th io n I2 I1 I B3 B2 B1 B IC50 (μM) Fig & Table. 各種誘導体の殺虫・ 殺線虫活性: (A)殺虫活性,(B)殺線虫活性,(C) 殺虫機構に関係する各要素の阻 害活性[(i) AChE阻害,(ii) チロシ ナーゼ阻害]. IC50 (μM) (jj) 40 Co n 80 120 400 350 300 250 200 150 100 50 0 60 20 100 (j) 80 120 Compound C IC50 = 17.10 μM % Enzyme Activity % Enzyme Activity 10 1 tr ol Co n Concentration (μM) 0 (C) 100 0 120 (B) Compound B IC50 = 29.82 μM Co n % Enzyme Activity (A) ゲットウ(Alpinia Zerumbet) ゲットウの生理活性 熱帯、亜熱帯地域に広く分布する多年性植物。 成長が早く病害虫に抵抗性を持つ ・アレロパシー作用 ・血圧低下作用 ・利尿作用 ・リラックス効果(筋肉など) ・抗菌、抗カビ作用 ・コラーゲン合成促進作用 ・皮膚の炎症を抑える作用 ・アトピーを抑える作用 ・抗酸化作用 ・健胃、鎮吐作用 ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍、血栓 性疾患の予防効果 サトウキビの結束縄、沖縄伝統食品のムーチ- 等に古くから用いられてきた。 水蒸気蒸留により精油成分を生成する方法が 確立されており、化粧品等に広く利用されている。 ゲットウは生産性の高いバイ オマス資源であり、その総合 利用研究の成果は医薬、農 薬、防腐・防虫、香料、色素、 紙・パルプ、機能性食品、飼 料、肥料と多岐にわたる事 業展開につながり、新しい地 場産業の創出をもたらすも のと期待される。 DKおよびDDKの抽出 Fresh rhizomes of Alpinia Extracted with boiling water for 20 min Extracted solution ゲットウ精油成分の老化防止効果 Filtrated using Whatman filter paper c 40 30 IC50 (µg/mL) IC50 (µg/mL) 50 (A) b 20 a 10 0 35 30 25 20 15 10 5 0 Tairin Shima (C) c b IC50 (µg/mL) IC50 (µg/mL) Oleanolic acid 350 300 250 200 150 100 50 0 a 160 140 120 100 80 60 40 20 0 c (B) Separated with hexane (1:1,v/v) b Hexane fraction a Evaporated Oleanolic acid (D) Tairin Crude extracts Shima Boiled with water until 100 oC c Aqueous solution Filtered b Water residues DK a Tairin Incubated at 4 oC for 24 h and filtered Shima Tairin and Shima EOs Hyaluronidase Tyrosinase Oxidative stress Tyrosinase UV light ROS Melanocytes Skin health Skinwhitening DNA damage Melanin Free radial Cell viability (% of control) Collagenase Elastase B) 120.0 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 a a Fig. ゲットウ根茎からのDKおよびDDKの抽出法 d 100 80 c c b 60 a c b a 40 20 0 Tairin (µg/mL) Shima (µg/mL) Kojic acid (µM) 100 µM IBMX Tyrosinase activity (% of control) Melanin content (% of control) 120 b • 酵素活性阻害剤 特願2013-6143 多和田真吉、ジャムニアン チョンプー • 抗老化組成物 特願2013-87375 多和田真吉、アツール ウパダヤ D) 120 100 80 60 40 20 0 a a b Tairin (µg/mL) C) 新技術に関する知的財産権 a a Solution DDK ゲットウ精油成分のメラニン生成阻害活性 A) Water solution Residues Oleanolic Tairin Shima acid Fig. 皮膚老化関連酵素群におけるタイリンゲットウ・シマゲットウ精油の酵素阻害活性: (A)コラゲナーゼ阻害活性,(B)エラスターゼ阻害活性,(C)チロシナーゼ阻害活性,(D)ヒ アルロニダーゼ阻害活性.タイリンゲットウ精油とシマゲットウ精油ともに,各酵素に対して 強い阻害活性を示した. Kojic acid Water fraction ゲットウ(Alpinia zerumbet) には、5,5-dehydrokawain (DK),およびdihydro-5,6dehydrokawain (DDK)が豊 富に含まれている。 これらの化合物は、抗酸 化活性や抗菌活性をはじ めとする様々な生理活性を 有することが報告されてい る。 当研究室では、DK、 DDKおよびDK誘導体であ るHispidinの精製法を確立 した。 e Shima(µg/mL) Kojic acid (µM) • 抗肥満剤 特願2014-125508 多和田真吉、アツール ウパダヤ d d c b b a a Tairin (µg/mL) • 新規化合物 特願2014-123177 多和田真吉、ジャムニアン チョンプー Shima (µg/mL) Kojic acid (µM) 100 µM IBMX • ミモシン誘導体並びにこれを含有する殺 虫剤、抗線虫剤および日焼け防止剤 特願2014-125504 多和田真吉、ウォン ガオ クェン ビン、 平良望 Fig. B16F10メラノーマ細胞におけるタイリンゲットウ・シマゲットウ精油のメラニン生成阻害作用: (A)抗老化・メラニン生成阻害に係るゲットウ精油の作用メカニズム,(B)B16F10メラノーマ細胞におけるタイリンゲット ウ・シマゲットウ精油の細胞毒性,(C)メラニン生成阻害活性,(D)細胞内チロシナーゼ活性阻害.タイリンゲットウ・シ マゲットウ精油は、細胞毒性が低く、細胞内チロシナーゼ活性やメラニン生合成に対して強い阻害活性を示した。この ことから、これらゲットウ精油は強力なメラニン生成阻害剤として利用できる可能性があるといえる。 国立大学法人琉球大学 農学部 亜熱帯生物資源科学科 生物機能開発学 教授 多和田 眞吉 (Shinkichi TAWATA) E-mail: [email protected]
© Copyright 2024 ExpyDoc